軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生態系の覇者 ㉚

「・・・負けるかあああっ!!」

両腕で蜻蛉の頭を抱え込んでいる状態から腕を伸ばして、むんずと羽根を掴む!

4枚全部を掴み取れれば良かったんだけど、重なって畳まれているものを上からまとめて掴もうとしたものだから、滑ってしまって外側の2枚しか掴み取れなかった!

“2号”の手のひらにゴムグリップでも付いていれば掴み取れたのかも!

それでも硬い膜状の羽根が“2号”の手の中でグシャリと潰れる!

前側の2枚を潰したから、残りの羽根は後ろ側の2枚だけだ!

「・・・ヨーシ! これで自由には飛べなくなっただろう!」

蜻蛉という生物は4枚の羽根を器用にコントロールして昆虫界の頂点に君臨している!

あの驚異の飛行性能は4枚の羽根が全て揃って居てこそ実現するものだ!

飛べなくなってしまえば、いくらデカかろうか脅威度は半減する!

“2号”が握った羽根からパラパラと透明の破片が零れ落ちるのを目にして、子供の頃の記憶を思い出す。

子供と言っても野生児だった頃のだよ。

昆虫の甲殻は硬いタンパク質を含んだ物質で出来てるんだっけ?

確か、“クチクラ”だったかな。

ナノメートル単位ですごく薄いけど、羽根も同じ物質で出来てると何かのスレッドで書き込みを読んだ記憶が有る。

実体験としては捕まえた蜻蛉の羽根を囓ってみたことが有るんだけど、味がしない上に干からびたセロファンを噛んでるみたいで食べられたものじゃなかった。

何でそんなものを囓ったのか?

お腹が空いてたからに決まってるじゃん!

「・・・くっ・・・!」

「むむっ!!」

羽根の半数を潰されても蜻蛉本体は全くの無傷!

痛覚がないのは向こうも同じだ!

私の隣まで出てきて唸っているルナリアが何をしているのかと思えば、魔力の手でペシペシと蜻蛉を叩いているらしい!

蜻蛉の体格が大きすぎて叩いても効いてる様子はないけどね!

再びグイッと押されて、“2号”の足が2歩3歩と後退する!

“2号”が後退した分だけ蜻蛉の体がズルリと穴から這い出してくる!

「・・・デカッ!?」

「今までの2倍は有るわよ!?」

コイツ、本当にデカい!

長い腹の一部はまだ穴の中に有るのに、蜻蛉の頭はすでに穴から10メートル以上も離れている!

半減したとはいえ、個体の体格が大きいということは、それだけでも脅威度が高い!

何より、“2号”が後退してしまったことで、残った羽根が半分ぐらい穴から出てしまってる!

これは拙い!

まだ2枚の羽根を残しているということは、自由では無くとも飛ぶことが出来る可能性も残っている!

飛べなくなっていたとしても、あんな大きさの羽根で引っ叩かれれば無事では済まないだろう!

結論、このまま自由を奪い続けるしかない!

重量物の“2号”が抱き付いているだけでも重石にはなる!

でも、ここからどうする!?

羽根で叩かれる危険を考えれば、みんなが攻撃のために近付けない!

「・・・何とか抑え込めてるけど、かと言って、このままじゃ決定打に欠ける!」

膠着状態が続けば思わぬ反撃を受ける恐れが有る!

そうなる前にキメ技をブチ込んで勝敗の大勢を決定づけてしまいたい!

ついでに言えば、いつ尿意がぶり返すか分かったもんじゃない!

尿意が襲ってこないうちにこの蜻蛉を倒しちゃわないと!

私の隣で拳を握って「ぐぬぬ」と歯噛みしていたルナリアが、ハッと目を見開く!

何!? 何か思い付いた!?

「フィオレ! 焼いちゃダメなの!?」

「・・・それ行こう! 焼いちゃって!」

良いね! 剣や槍だと接近しなきゃいけないけど、火魔法なら多少の射程距離は有る!

ガルダを呼び寄せる恐れから今回の遠征で“紅蓮”はNG扱いだけど、ラクネの群れを焼いたように爆発しない術式だって存在する!

「お母様! フィオレが焼いちゃえって!!」

「・・・そうじゃん! お母様たちが居るじゃん!!」

目の前のことに必死で途中から忘れてたよ!

ルナリアの高くて通る声は“2号”を挟んだ対角線上に位置するお母様たちまで届く!

そして、戦場の騒ぎの中でも、お母様の声も通る!

「おう! 分かった! ―――、総員、焼け―――ッ!!」

「し、しかし! このまま火を放っては、フィオレ様のゴーレムまで焼けるのでは!?」

「焼けたところでアレは命ある生き物ではない!」

感情移入でもしたのか、新人さんから“2号”を心配する声が上がってお母様が一喝する!

そうそう! 愛嬌は有っても“獰猛くん”たちは巨大な 土人形(フィギュア) で生物じゃない!

遠慮せず焼いちゃって良いんだよ!

“1号”はバンザイした状態で“白焔”に焼かれて両腕が下ろせなくなったけど、生物じゃないから挙げた両腕が疲れることもない!

「は、はっ! 申しわけございません!」

「構わんからゴーレムごと焼け!!」

「「「「「おうっ!!」」」」」

迷いの吹っ切れた新人さんたちがバラバラと個々の距離感に合わせて”標的”との間合いを計り始める!