軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生態系の覇者 ⑯

「バカじゃないの?」

「・・・ホントにね」

魔獣のヤゴがどうやって獲物の存在を捕捉するのかは知らないけど、音なのか、臭いなのか、振動なのか、触角ヘビのように視覚的情報だけに頼らない他の知覚能力は持っていると思う。

確か、ヤゴの頃から触角は有ったな。

ナマズや鯉だってヒゲが触覚器官になっていて視覚以外の知覚器官を持っている。

そもそも野生動物というものは夜行性の種が多い。

それはつまり、彼らにとって夜の暗がりも捕食活動には何の障害にもならないということだ。

自分の目で確かめる機会はまだ無いけど、採掘場で囲いの上から眺めれば穏やかな草食動物にしか見えないバイコーンだって、活発になるのは夜だといわれている。

活発になった魔獣がいる夜の川に飛び込むなんて、よほどのバカか無知だ。

人間という陸上動物の身体は水中を泳ぐのに適した構造をしていない。

だから手足をバチャバチャと動かすわけだけど、その姿が水中に居る捕食者からどう見えるのかといえば、溺れている美味しそうなエサに見えるらしい。

地球の海で生態系の頂点に位置するシャチやホオジロザメなんかは、深い場所から浮力の力も借りて、獲物の真下からガブーッと食い付いてくるんだよ。

水面近くを泳いでいるアザラシやウミガメなんかが、その狩猟方法で食われていて、海洋探査ドローンやサーフボードに腹這いになっている茶髪の陽キャも同じようにガブーッと殺られている。

水に落ちた羽虫に似せた疑似餌を使うフライフィッシングなんて、もっと分かりやすい。

水に落ちた羽虫に似た敵兵は、「フィ―――ッシュ!」とばかりに入れ食いで食い付かれたのだろう。

ああ、そうそう。茶髪の陽キャに悪意の有る表現に聞こえるかも知れないけど、それは誤解だよ。

陰キャの喪女だった私にとって「うぇーい! うぇ~い!」と鳴く陽キャなんて生物は猿山の猿よりも縁遠いもので、私に害が及ばなければ、どこで生きていようが死んでいようが知ったこっちゃない異次元生物だったからね。

法律なんて面倒なものがなければスッキリと片付けられるのに、と何度考えたことか。

思い出すだけでもイラッとさせる前世の記憶はお母様の声にぶった切られる。

「おい。こっちだ」

「「あっ。はい」」

ルナリアと2人で崖下を覗き込んでいるお母様たちの下へ急げば、2メートルほど下の川の流れに突き出している岩と岩の隙間に革鎧らしきものの残骸が挟まっている。

革鎧の胴というか胸の部分だけだ。

岩の上部にある凹凸には、乾燥してヒビ割れた血溜まりの跡が貼り付いていて、命を落とすに十分な出血量だったことが窺える。

王国の気候は乾燥気味のカラッとした空気だし、波飛沫が飛び散るような激しい流れじゃないから血溜まりが洗い流されずに残っていたんだろうね。

「・・・あれかぁ」

ウォーレス領軍なら、兵士さんたちでも 鎖帷子(チェーンメイル) は身に付けているから、防具が革鎧だけなんてことはない。

冒険者の死体ってこともないよね?

噛み付かれたのは体の側面だったんだろうか?

鋭いもので抉り取られたように見える革鎧は表面と断面の色が違っている。

あれって、夜の闇に紛れるために革鎧の表面に黒く着色加工が施されているのかな?

地球の特殊部隊も黒い迷彩服を身に着けていることが有るけど、黒1色って夜間でも意外と目立つものらしくって、迷彩効果は高くないとミリオタのウンチクを聞いたことが有る。

それでも黒1色の迷彩服を着用している場合は、迷彩効果ではなく心理的イメージによる威圧効果を期待してのものだとか何とか。

「採掘場の手前でフィオレが焼いた敵兵も、革鎧を身に付けていたって聞いたわよ」

「ふむ。潜入部隊と同じ装備を身に付けているのならば、この場所で間違い無さそうだな」

ルナリアが披瀝した情報にドネルクさんが納得を示す。

そういや、 不死者(ゾンビ) 発生防止で死体の焼却処理に当たった兵士さんたちが、そんなことを言ってたね。

火が強すぎて焦げた焼き肉みたいに死体の表面は黒焦げに焼けていたけど、中身の焼き具合はレアで革鎧に守られている部分は衣服も焼け残っていたとか。

そんなことを思い出しながら革鎧の残骸を観察していて気付く。

「・・・んん? 中身が入ってる?」

「中身だと?」

バルトロイさんは気付いていなかったか。

バルトロイさんに頷き返しつつお母様に確認を取る。

「・・・アレ、引き揚げてみて良い?」

「構わんが。どうした?」

お母様も気付いていなかったっぽいね。

「・・・まだ中身が入ってるように見えて」

「傷口の検分か? ヨシ。やってみろ」

2メートル下に有るものを掴み取るぐらいのことなら、崖下へ下りる必要も無い。

魔力の手を伸ばしてヒョイと掴み上げる。

みんなにもよく見えるように、革鎧をひっくり返して私たちの足元に置く。

革鎧の中に詰まっているのは人間の胸の部分だけど、胸腔の中身はポッカリと口を開けているだけだった。

胸の部分と言っても脂肪の塊は付いていなさそうだから男性だろうね。

「中身が無いな?」

「・・・奥に気管の一部は残ってるから、囓り取られたときに引き抜かれたのかも」

空っぽの胸腔を覗き込めば、本来なら肺や心臓が詰まっているはずの胸腔上部に残ってるものは内壁に貼り付いた管のような器官―――、気管だけだ。

お母様は血痕やら何やらを指して「生々しい」と言ったのだろうけど、革鎧の中身はもっと生々しかった。