軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

女神って

「まあ、せっかくだからお茶を飲もうか」

ショウはポーチから魔法のようにカップをもう二つ取り出した。ハルはショウのその気持ちの切り替えの早さも好きだし、こうやってすぐに動くのも好きだと思った。ハルは嬉しそうにショウを眺めた。初めて会った時も、こうやってポーチからカップを取り出していたのだと思いだしながら。

「馬は大丈夫なの?」

「ラクとハクは賢いから、放したままでも大丈夫だ。それより」

「ごめん、待ってね。私達のこともだけど、それは後回しにしよう」

ショウははやる少年をちょっと止めた。女神の部屋などと言って気持ちを引いたくせに申し訳ないのだが、ショウやハル、そしてこの少年が転生者で、こんなふうに会えるのが奇跡だとしても、ショウにはそれよりも気になることがあった。ファルコだ。

ショウはまっすぐにこちらを見ているもうひとりのほうを見た。

「あの、はじめまして。深森から来たショウと言います。こちらはハル」

「あ、ああ、突然話しかけてすまない。俺はサイラスという。もし、うちのリクと話があるのならそれを先にしてくれてかまわないが」

うちのリクと言うと同時に、男の手が少年の肩に回った。よかった。少なくとも、平原に落とされた彼は、ちゃんとした世話人のもとにたどりついたようだと、ショウは安心した。

「サイラスさん」

「サイラスと」

この世界の人はあまりかしこまられるのを好まないのだ。そしてショウはその名前を聞いて確信した。ファルコとそっくりの容姿、ファルコという言葉に反応したこと。

「ファルコという名に聞き覚えがあるということなんですよね」

「そうだ。深森ではファルコという名前はありふれているのかもしれないが、その、そのファルコは、深森では珍しい黒髪をしてはいないか」

ショウはやっぱりという顔をした。

「まず、ちょっと座ってお茶にしましょう」

そう言って皆を座らせ、お茶を配りポーチからおやつを出した。お茶もおやつも、なんとなくみんなの心を和ませてくれた。そこで初めてショウは話し出した。

「黒髪のファルコ。そうです。そのファルコは私の養い親なんです」

「養い親……。ファルコが、子を? 君が、ファルコの子?」

サイラスが何とも言えない顔をし、手を、誰かの頭に置くような仕草をした。何かを思い出すように。ショウは、そこにサイラスを見上げる小さい子どもの姿が見えたような気がした。

別れたのは三歳くらいだっただろうか。だとしたら、今のファルコのイメージができないのも仕方ないかもしれない。

「今回、ファルコは、教会の導師セイン様のカナンからの依頼に、護衛としてついて来ているんです」

「カナン! 俺たちはそのカナンから来たんだ」

少年がカナンという言葉に反応した。

「深森からカナンに来るのに、必ず国境の町を通るからって。治癒師一行を迎えに行けって。できるだけ早く来てもらうようにって」

「そんなに切羽詰まってるの?」

「俺も治癒見習いだから、いや、職業は農夫希望だけど、治癒の素質もあるからわかるけど、本当に手が足りないんだ。俺の手も借りたいほどに」

「そんな状況なんだ」

この町に何日かとどまるつもりだったが、それでは急がなければならないかもしれない。とにかくまず導師に相談しないとと、ショウは焦った。すぐに片付けて町に戻らないと。

「ショウ」

そわそわし始めたショウはハルに声をかけられて、ハッとした。

「焦る気持ちはわかるけど、一つ一つだよ。まずサイラスの話をちゃんと聞いて、それから町に一緒について行って、後は大人に任せよう」

そうだ。自分だけ焦っても何ができるわけでもない。

「それに、依頼を受けたとはいえ、この町の状況もそのままにしてはおけないでしょう。冷静になろうよ」

「ハル、ありがとう」

焦って何も見えなくなるところだった。ショウはサイラスのほうを向いた。

「そう。まずファルコの話からですよね。ファルコが平原生まれで、平原に父親がいるという話は聞いたことがあります。それに、サイラスとライラの子、ファルコ、と。私はまた聞きしていただけですが、教会にはそう届け出があると。ファルコに、導師が、セイン導師がそう教えていたのを聞いていたんです」

「ライラ。間違いない。ファルコが、この町にいるのか……」

サイラスは突然の情報に呆然としている。それをリクが心配そうに見ている。

「なあ、ショウ、それにあんた、サイラスだっけ」

すっかり存在を忘れていたロビンが、見かねて話しかけてきた。

「導師を迎えに来た他になんの事情があるのかわからないけど、ここでぼうっとしてても仕方ないだろ。ショウ、ここに薬草があるのはわかったし、明日ポーションを作る分は十分採れたし、今日は一度町に戻ろう。サイラス、俺はこの町の薬師のロビン。町に案内するよ」

「あ、ああ、ありがとう。リク?」

「わかった。俺はリク。よろしくな」

その声と共にみんな立ち上がった。ロビンはショウのほうを向いて小さい声でつぶやいた。

「言っとくけど、薬草採りが面倒になったからじゃないからな」

「言い訳しなくてもいいよ」

「い、言い訳じゃないし」

少なくとも、町に帰るいい言い訳になったことは確かだろうとショウは思う。サイラスとリクは、馬には乗らず手綱を持った。一緒に歩くつもりのようだ。サイラスという人は元々寡黙な人のようで、ファルコのことは本人に会うより他に話が進みようがないという感じだった。

ぶしつけだけれど、人見知りもしないロビンにサイラスのことは任せて、ショウとハルはなんとなくリクと一緒に歩き始めた。

「なあ、えと、ショウ、とハル?」

「うん。リク?」

「ああ」

そう言ったっきり三人とも黙り込んでしまった。いったい何から話し始めたらいいんだろう。そんな三人をちらりとサイラスが心配そうに眺めたが、そのまま前を向いてロビンと何か話し始めてしまった。

「ちぇ。気を遣うなんて、サイラスらしくないのに」

リクが苦笑した。それはちゃんと家族を見る目だった。

「リクはさ、ちゃんといい世話人のところに落としてもらえたんだね」

「それ! サイラスの近くに落としてくれたことは感謝するよ。けどさ、どうせ落とすなら家の前とかにしてくれよと思った。薄着で冬の草原に落とされたんだぜ!」

「やっぱり? 私も吹雪く森の中だよ! 倒れたところをファルコに拾われなかったら、転生即昇天だったし」

「ちょっとでもきれいとか思ったのを後悔したよな」

「しわができればいいのにって思わず呪っちゃったし」

「ひどくね?」

「ひどくないよ」

そう言ったショウはもう笑っていなかった。

「少なくとも私とリクは世話人のところに落とされたからましだよ。けど、ハルの落とされたところに世話人はいなかったんだから」

「え」

どちらかと言うと話しやすいショウと話していたリクは、そこで初めてもう一人の髪の長い女の子に目をやった。そうだ、転生の間でもそうだった。ショウが喋って、もう一人はおとなしくて……。

「誰かを守れる力が欲しいって言ってた、のに?」

ハルがハッとして顔を上げた。覚えていたことに、驚いたように。こんなかわいい子を、世話人なしであの寒い冬の日に放り出したのか。

「駄女神?」

「それな」

三人の心が一致した瞬間だった。