軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

回り始める

午前中は農場の大人に、そして久しぶりに学校に行って、放課後は学校の子どもたちと薬草採取と、忙しく過ごしたショウとハルは心地よい疲れに身を任せ、そして少し熱に浮かされたように導師とエドガーに今日の出来事を話して聞かせた。

「やっぱり、よそ者の話は聞いてくれないんだよな。中に入ろうとして初めて聞いてくれるというか。今回、俺もそれがよく分かった」

エドガーが話に相槌をうちながらも、そう自分の考えを話してくれた。

「来てやったのに、という気持ちでいると、結局は敵対してしまうんだ。俺は若い薬師として、これからも他の町に派遣されることもあると思うから、これをよく覚えておかないといけないと思った」

ショウとハルは毎日のことで精一杯なのに、エドガーは、カナンの町で仕事を終わった後のことまで考えていてすごいのである。導師が感心したようにエドガーを見た。

「エドガー、成長したな」

「なんですか導師。子どもじゃないんですから、そんな」

エドガーが照れ、そのまま楽しく食事が終わろうとしていた。

その時、宿のドアをバーンと勢いよくあけて入ってきたのはデリラだ。お父さんらしき人があきれた顔でついてきている。

「ハル! ショウ! 早速来たわよ」

その勢いを、最初から薬草採取に生かしてほしかったとショウはげんなりした。でもとりあえず、担当はハルだ。しかし、ハルも少しげんなりしているようだった。というか、今日はいろいろありすぎて疲れたのだ。

「すまないねえ。深森から先に連絡は来ていたんだが、まあ、急ぐ話でもないかと思ってね」

デリラのお父さんが、苦笑しながら軽く頭を下げ、挨拶をしてくれた。

「一応、どんなものが来たのか、深森の人の解説付きで確認したいのよ。よかったら、部屋に上がらせてもらっていい?」

積極的である。導師に確認してから、ショウとハルは頷いた。

ポーチの中の衣類は、やはり女性もの中心で、そのほかに革細工などの小物もある。

「もともと、年に一度の取引はあるんだよ。お互いの町で流行している物や特産品の交換のような形でね。しかし今年のこれはまた、ずいぶんと流行が変わったようだね」

デリラのお父さんは顎に手を当ててうなった。

「基本的な型は変わっていないけれど、女子用のチュニックに丈の短いものがずいぶん増えたわ。それから今までとは刺繍の感じが違う。色も、少し落ち着いた感じのものが増えてる」

デリラは詳細に流行を分析していく。ハルがそれに対して、一つ一つ説明を返していく。

「深森でも魔物が増えてるの。その分、子どもたちもやっぱり余分にスライムを狩ったり薬草を採ったりしているのよ。だから、活動的な短い丈のチュニックが流行ってきたんだと思う。でも、ほら、ここにレースがついていたりするでしょ」

デリラはハルの話を聞きながら、ちらりとハルとショウに目線をやった。この二人が短い丈のチュニックを着てあちこちで動き回っていたら、それは流行るだろうとその目が言っていた。

「それから、ハルが湖沼から引っ越してきたとき、湖沼特有の色とデザインも入ってきたの」

ショウも一緒に説明していく。

「つまり、これが深森の今の流行ってことなのね。うーん」

持ってきた服は、それほど数が多くない。

アンファにも少し置いてきた。

「これをカナンで取り入れるには、もう少しチュニックの丈を長くして、むしろ短いワンピースとして扱うべきよね、お父さん」

「私もそう思うよ」

デリラのお父さんは優しく笑った。

「ハル、ショウ」

デリラはにやりとお嬢様らしからぬ笑い方をした。

「私ほんとはね、草むらに入るのも、スライムを倒すのもたぶん全然平気なの」

たぶん、と言うのはやったことがないからなのだろう。

「そんな気はしてたよ」

「やっぱりね」

アウラと同じ匂いがしたものとショウもハルも納得した。

「でも、町のおとなしい子はそんなことないの。手に砂が付くのだって嫌がるんだから。でも、そういう子たちって、たいていはいいところのお嬢さんだから、つまりね」

デリラのいたずらな様子に、二人は思わずごくりと唾をのんだ。

「つまり?」

「お得意さまってこと。薬草採取にはあまり期待しないでほしいけれど、新しいデザインの服を見せるためなら、外にも出てくるし、配達にも回るってわけ」

「デリラ、意外と腹黒い?」

「失礼ね。物事をよく考えているだけよ」

デリラは腹黒などと言う戯言はふんと言う鼻息一つで払いのけた。

「そのためにも、急いで新しい服を縫ってくれる人がもっと必要なのよ。お父さん」

「ふむ。町長の息子が動いたということは、町長も口を出す気になったということだろう。いよいよ同業の我らも動かなくてはならないな」

デリラとお父さんは、てきぱきと片付けて、ポーチごと回収して帰っていった。

「嵐みたいだったね」

「でも、いろいろいっぺんに動きそう。デリラのやろうとしていること、結局ショウが最初考えていた作戦に近いしね」

「ほんとだよ。助かるなあ」

いろいろな歯車が一度に回りだしたかのような一日だった。

次の日から、ショウとハル、それにリクはものすごく忙しくなった。数人ずつであっても、町の外からくる人が午前中から教えを請いにやってくる。教えてもらった人が、近所の人に町に行けと声をかけるから、人は途切れない。お昼を食べたら教会の学校に行き、学校からそのまま子どもたちと薬草採取に行く。

スライム狩りには来ないけれど、馬車を出すのはガーシュの家なので、ガーシュが責任をもってポーションを届ける計画を立てているらしい。それは午前中にやっているとのことで、学校が終わると、女の子たちと見習いに行くのが続いているようだった。

そんな慌ただしい日々を過ごしていたら、休み明けの午後、いつも見習いの仕事に行くはずの女の子たちとガーシュが薬草採取にやってきた。

「終わったのか」

「ああ」

リクがガーシュにかけた言葉はそれだけで、ガーシュがした返事もそれだけだった。

でも、お互い反発しあっていたころのわだかまりのある空気はどこにもなく、そこには同じ仕事に取り組む仲間意識が感じられた。それを見て、ショウはちょっとうらやましい気もした。

「殴りあって終わりかあ」

「殴りあってないよ。むしろ殴ったのショウだよね」

「そう言われたらそうなんだけどね、ハル」

鋭い突っ込みにショウは思わず噴き出した。

「いがみ合っていた二人が、こう、喧嘩をきっかけに仲直りするって、ロマンだなあと思って」

「それはそう。でもほらショウ、殴った相手がやってきたよ」

ハルがからかうように言った。ガーシュと女の子たちが明るい顔でショウとハルのほうへやってきたのだ。

「ショウ、俺、ほんとにいろいろなことが見えてなかった。君に転ばされた時も、怒りと恥ずかしさしか感じなくて。よく考えたら、そんなことを君にさせるほど、俺が怒らせてたんだよね」

「いやあ、単に私が短気だっただけで」

ショウは何となく照れてしまい、もじもじした。

「おかげで、学校の仲間のこと、前よりずっとわかった気がする。ごめんな。そしてありがとう」

「ガーシュ……」

ハルが隣でニコニコと頷いている。

「ショウ、ハル」

一緒についてきた女の子三人組もニコニコとショウとハルに声をかけてきた。

「ガーシュがずっと一緒に仕事をしてくれていたおかげで、見習いとしてお小遣いをもらうことができるようになったの。私たちだけでなく、ザーウィンさんのところに働いてた人たちみんなそう」

「でもね、ベルさんのところが急に忙しくなって、お裁縫できる人を募集するからって、今週からお父さん、そっちに移れるようになったの。もちろん、私たちも」

どうやらベルの商会で引き抜きをしたらしい。

「俺はお小遣いもくれない見習いがどういうものか知りたかっただけなんだ。けど、ザーウィン商会の衣料品が安いのは、新しく雇った人を安く使っているからだということが、俺が入ったことでわかってさ」

さすがにそれで利益を上げるのは不公平だということで、衣料品を扱う商会から一斉に文句が出たらしい。

「こういうのって、決まりがあるわけじゃないんだって。だから、働く人の環境は、各商会によって結構違うんだ。でも、不当に安かったり、見習いに小遣いを出さないのは、やっぱりだめなんだ」

「でも私たち、そんなこと知らないから、お父さんが仕事を辞めさせられたら困ると思って、何も言えなかったの」

ザーウィンは、ガーシュだけに小遣いを出せば、ばれないと思っていたらしい。

「俺、お坊ちゃまだからさ」

ガーシュは恥ずかしそうに頭をかいた。違うとは言えないショウとハルは、あいまいに微笑んだ。

「お坊ちゃまだから、気まぐれで仕事に来たんだろうって、どうせ飽きるし、大したことはわからないだろうって、見くびられてたんだよ」

「でも、ちゃんと見ててくれたし、確かに仕事はできなかったけれど」

女の子たちはくすくす笑った。一三歳といえば、もう何年も技術を磨いている年でもある。初心者のガーシュは、やっぱり駄目だったのだろう。

「仕事の合間に待遇の聞き込みをして、それをガーシュのお父さんに全部伝えてくれていたの。最終的に、町長とベルさんが親を説得してくれて、働く人からの告発という形で解決したのよ」

ベルさんのところで雇うからと保証したのだろう。

「で、私たち、午前中のお手伝いで、お小遣いがもらえそうだから、午後はこっちの手伝いに来たの。何しろ、経験者だもの」

そう言うと三人は軽やかに草原に向かった。

「ガーシュ! 来いよ! 俺がスライム狩りを教えてやるから!」

草原のほうから、ガーシュを呼ぶ声がする。

「ちぇ。遅れをとってしまったな。それじゃ、行くよ」

「うん。しっかりね」

「ああ」

片手をすっと上げて、草原のほうに歩いていくガーシュは、確かにちょっと変わったのかもしれない。

「ここまでほぼひと月。けっこうかかったなあ」

「まだまだ終わりじゃないよ。さあ、私たちも行こう」

ショウもハルも、少しだけ夏の気配がする草原に歩き出した。