軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そろそろ帰ろう

それからひと月、一軒に一つずつではあるが、ポーションはだいたい行き渡った。子どもたちが無理のない程度に農場を巡回して回る仕組みができたので、その時に農家から薬草を受け取り、必要ならポーションを渡すことができている。

「治癒師のほうは、ショウの治癒のやり方ができるようになったのは二人だけだ。どうも、そもそも大きな怪我を治したことがないからか、治癒の仕組みについての理解が頭でっかちでな」

やられたとしてもせいぜいスライムにであって、強い魔物による怪我のない国と言うのはとても素晴らしい。しかし、実践が少なければ、力が上がらないのもまた事実なのである。

「ごく表面の傷跡なら、治せるようになったのが数人。そして、わずかながらも治癒の力が確認され、普段の体調管理に回せそうな人が数十人は見つかった」

これがこの二か月の、導師の成果である。人数だけ見れば十分なような気がするが、カナンの町の規模から考えるともう少し、人数を増やしておきたいところだった。

「薬草採取は、薬師と子どもたちと、それから農場の人たちとで、何とか必要分は維持できるようになったと思います」

これがショウとハルとリクの成果だ。

「薬師ギルドは、今まで他の領からの輸入に頼っていた薬草が自分たちで採取できるようになって、かなり盛り上がってる感じだ。もう、俺たちがはっぱをかけなくてもちゃんとうまく動いていくと思う。最初はあんなに抵抗していたのにな」

苦笑しながら報告したのはエドガーだ。最初の苦労は何だったのかという顔だ。

「本当にエドガーには苦労を掛けた。しかし、一番意外だったのは、ハルのあれだな」

「あれですね」

導師とショウは遠い目をし、エドガーはにやにやした。

「私だけじゃないです。ショウだってやったじゃない!」

「いや、私はあくまでお手伝いというかさ」

つまり、薬草採取が少し落ち着いた頃、魔法を見せてくれという子どもたちにせがまれて、つい調子に乗ってしまったショウとハルなのである。

「まあ、合わせ技とかやっちゃうよね。そもそもハルの炎の魔法がすごかったのが原因だけどね」

「ショウったら!」

ハルに怒られた。

もちろん、平原の子どもたちだって、もちろん大人もだが、基本の魔法は使える。魔力の強いものは、湖沼にだって留学に行く。でも、留学に行った人はたいていそのまま湖沼にとどまるので、平原の人たちは、基本以外の魔法を見たことがなく、魔術師だって狩人以上に見たことがないのだ。

本来なら授業の時間なのに、社会勉強だと称し、だれよりもわくわくしている治癒師の若い先生に連れられて、町はずれの何もない草原まで実習に出ることになった。

講師として前に立たされたハルは、派手でわかりやすい魔法として、炎の大きな玉を作って、荒れ地の地面にぶつけて見せた。

「こんなでかい炎の玉なんて見たことない!」

「熱いわ!」

湧き上がる歓声の中、炎でくすぶる草地にさあっと水で雨を降らせて見せる。

「アンファの町の時、ハルがしたのは、大きな炎を作って魔物を集めること、炎の壁を作って魔物を遠ざけることだった。でも、本来はこんな大きな炎で倒さなきゃいけない魔物がいるってことなんだな」

ショウの隣でリクが冷静にそう分析した。

「リクが見たのはハネオオトカゲまでだったもんね。アオハネトカゲはもっと大きいし、クロイワトカゲは大量にいて手ごわい。私は見たことないけど、アカバネトカゲと言うのがいて、それは家一軒分くらいの大きさがあるって言ってた」

「想像できない世界だ」

「でも、それがこの世界なんだよ、リク」

ハルの周りで一番興奮しているのは若い先生だ。

「もしかして、もっと大きいのもできるのかい」

「できますけど」

でも、必要がないことはしないほうがいいとハルが続けようとしたら、

「見たい!」

とみんなが目を輝かせた。ハルは困ってショウのほうを見た。

「じゃあ、炎の壁、一度だけ。でも、危ないからみんな下がって」

ショウの指示でみんなが安全なところまで下がる。

「念のため、私が風で壁を作るから。さ、絶対前に出てきちゃだめだよ!」

ショウの言葉に子どもたちは固唾をのんだ。

ショウとハルは並んで立つと、足を肩幅に開き、少し腰を落とす。

「炎よ!」

「風よ!」

ハルの声に一拍遅れてショウの声が飛ぶ。

ハルの炎は広く横に広がり、それをショウの風が高く舞い上げる。ほんの数秒続いただけのそれは、子どもたちからも、治癒師の先生からも言葉を奪った。

その間にショウとハルは手分けをして、水をまいて炎の後始末をしていく。

「すげえ」

誰かの一言で、わーっと子どもたちはハルとショウに群がった。

「うわっ、まだ熱いから、危ないよ!」

そこからである。薬草採取に加えて、魔法熱が盛り上がったのは。

「今年からはいつもより湖沼に留学に行く子どもが増えるかもしれないと言っていたな」

「ま、ショウが剣を振って見せたから、深森に行きたいという子どもも何人か出たらしいぞ」

導師とエドガーが頭の痛いことを言う。

留学したいということは、親元から離れるということでもある。ショウもハルも、そんな責任を負いたくはないのだった。

「まあ、旅人は思いもかけない影響を残すもの。スライムの害程度なら、この町で何とかなるだけの体制はできてきた。ファルコとレオンも戻ってこないようだし、そろそろ深森に戻るか。今からなら、星迎えの祭りに間に合いそうだぞ」

「ほんとですか!」

充実した日々だったが、さすがにそろそろ故郷が恋しかった。まだ子どものショウとハルには、やっぱり指導者でい続けるのはつらいものがあった。

「北の町に」

「帰ろうか」

言葉にすると、今すぐにでも帰りたくなる。

しかし、魔物の増加は平原だけではない。

そう簡単に帰れるわけがなかったのだ。