軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺も町の子

「なんていうか、俺、あの時毒気を抜かれた」

「エドガー、何言ってるの?」

夕食の席で導師に、ひととおり怒りをぶちまけたショウに、エドガーがそう言った。ファルコもレオンもいないし、サイラスとリクは自分の家に戻っているから、一行は導師とショウとハル、そしてエドガーだけになっていた。

ファルコは決しておしゃべりではなかったし、レオンだって陽気だけれどうるさくはなかった。でも、ショウとハルの言うことをいつも楽しそうに聞いてくれて、時には違う物の見方を教えてくれることもあった。

静かに聞いてくれる導師は、それはそれでありがたいのだが、何となく物足りない気もするショウである。

「そもそもショウが男の子を突き飛ばすとは思いもしなかったし、あんなに正論で打ち負かすとも思わなかった」

「突き飛ばしたことは反省してるよ」

ショウもやってはいけなかったと思ってはいるのだ。気に入らないからって、手を出してはいけない。

「俺は嘆いて愚痴を言うばかりで、真正面から当たっていなかったなって。明日から、大人の方、つまり気に入らないけど薬師のほうに行って、できることがないかもう一度やってみるよ」

「エドガー、すまないな。まさか薬師同士で話を聞かないとは思ってもみなかった」

そう言った導師は少し浮かない顔をしている。

「私自身、熱意を持った癒し手とばかり接していて、それが当たり前だと思いすぎていたんだ。誰もが自分と同じ熱量で動くわけがない。人の心の機微というものを見失っていたと、反省をしている」

「導師。導師のしていることは間違ってはいません。ただ、俺に覚悟が足りなかっただけです」

エドガーの声は落ち着いていた。

「それでもだ。エドガー、ショウ、ハル。辛かったら、無理をしないでおこう。この大きい町を救うには一体どうしたらいいかと悩んでいたが、そう悩むのは私はもうやめにしたよ」

微笑む導師は、今日、教会で厳しいことを言った人とは別人のようだった。

「導師……」

「ショウ、最初に言っていただろう。治癒に関するあれこれを、するもしないもこの町次第だって」

「そうでした。すぐ忘れて熱くなっちゃう」

ショウはふうっと息を吐いて力を抜いた。確かに、自分でそう言っていたではないか。

「私たちはつい、一番効率のいい治療や勉強を考えてしまいがちだが、この町の規模ではそれはかえってよくないのかもしれない。大きな町だ。いろいろな考え方の人もいて、いろいろな生活の人もいるだろう。今日一日で、期待しすぎてはいけないことはよくわかったよ」

導師はさっさと割り切ってしまったのか、明るい顔をしていた。

「一人。一人でもいいのではないか。薬師に一人、子どもの中に一人、治癒師の中に一人。おや、これだけで三人だ」

「導師ったら」

ショウもハルも思わずくすくすと笑った。

「そこから一人ずつでも余計に増えて、二人になり、三人になったなら上々ではないか。星迎えの日まで頑張って、あとはカナンの町の人に任せて帰ろう。深森へ」

深森の北の町に帰りたい。四人はそっと大きなため息をついた。19歳まで頑張らなくても、もう北の町はショウとハルの故郷なのだ。

次の日、エドガーは薬師たちにあきれたような視線を向けることもなく、皮肉を言うこともなく、もくもくと薬草採取に参加していた。昨日参加していなかった薬師も、まずショウとハルから、そしてその後は昨日先に学んでいた薬師から、興味深そうに学んでいた。昨日参加した薬師はきちんと学んだことを覚えていたし、戻った後、きちんと行動計画を立てていた。

「薬師からは、一人ではなくもう何人も役に立つ人が出てきたんだね」

「導師の目標は薬師に関しては達成されたというわけよね」

ショウとハルは、子どもたちが出てくる時間まで、エドガーと薬師に交じり、共に薬草を採取しスライムを狩った。

薬師たちはショウとハルに素直にお礼を言って、充実した顔で戻っていった。エドガーも、頑張れよと口だけ動かすと一緒に戻っていった。

「子どもたち、来るかなあ」

「うーん。ほら、でも少なくとも一人は来るよ!」

ハルはそう言うのだが、ショウは思いつかなかった。

「リクだよ」

「リク? だってリクは。そうか」

ショウははっと気が付いた。

「リクは、カナンの町の人か。じゃあ子ども一人はもう」

「クリアだよ! あとは増えたら増えた分だけおまけだね」

「おまけ! いいね!」

二人で明るい気分になっていたら、町のほうからリクがやってきた。

「あー、とりあえずおまけはないみたい」

「一人だね」

リクは一人だった。

「よう」

「やっぱり駄目だったかー」

「何が?」

「他の子どもたち。来ないなあって」

「ああ」

リクはにやりとした。

「来るよ。全員じゃないけどな」

「来るんだ!」

「うん。今ガーシュの妨害工作にあっているから、何人来られるかなあ」

「あいつめ!」

ショウは思わずこぶしを握った。

「ははは。ショウ、手加減してやれよ。お坊ちゃまなんだからさ」

「だってさ」

「うん。もしさ、他に子どもが来なかったとしても、俺がやるから」

「リク?」

リクは昨日まではまだ他人事のような顔をしていたように思う。

「正直、俺、子どもに転生したけど、自分が子どもって思ってなくてさ。サイラスとも気持ちは対等のつもりだった。だから、この町の子どもたちとはさ、知り合いは知り合いなんだけど、なんというか、あんまり関係なくて」

ショウは最初っから子どもとして町のコミュニティに溶け込んでいたから、大人としての自分なんてあまり考えたことはなかったので驚いた。

「でも、昨日のショウを見ててさ。他人事じゃないだろ、俺の町のことなんだよなって、やっと思えたというか」

何となく麦畑を見ながら話していたリクは、照れくさそうにショウと目を合わせた。

「俺がやる。俺がやるよ。だから、ショウとハルは無理すんな。あー、やっぱり、女の子についてはやってほしいかな」

困ったように頭をかくリクを、ショウは初めてちょっとだけかっこいいと思った。