軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おぼっちゃま

何の権利があって、カナンの子どもにいろいろやらせようとしているのか。

ガーシュの言葉に、ショウはぐっと詰まった。いや、ぐっと言葉を飲み込んだ。

それは、決してガーシュの言葉に納得したからではない。自分が精神的には転生者で大人であるということを、自分に言い聞かせなければ、怒り出してしまいそうだったからだ。

深森の北の町では、最初にガツンとやって男の子にも女の子にも認められた。それは幼かったからできたことだ。ガーシュを見るに、リクと同じ年頃、つまり14歳間近の13歳ということになる。そんな子、しかもプライドの高そうなお坊ちゃまが、ショウのような女の子にガツンとやられたらどうなるか。

プライドをへし折られて、絶対協力してくれなくなる。だからこその我慢だった。

「わざわざ深森からカナンまでおせっかいに来るなんて、そこの薬師もだけど、深森はよほど暇なんだな」

「暇じゃないって言ってるだろ。何度言っても聞かないんだからな」

エドガーのボヤキはもはや当たり前であった。しかし、ガーシュの言葉は、今朝ファルコと別れたばかりのショウには腹立たしいものだった。ショウの頭の中で何かがプチっと切れた音がした。

ショウはガーシュのほうを見ると、ずんずんと歩いて目の前まで行った。ガーシュのほうが頭半分背が高いが、そんなことはかまわない。

「な、なんだよ」

ショウは何も言わず、右手でガーシュの肩をバンと叩いた。ガーシュは大きくたたらを踏んで後ろに下がった。

下がった分、ショウは前に出て、またガーシュの肩をバン、と叩いた。毎日剣の訓練をしているショウだ。力は強い。何度か叩いていると、ガーシュはしりもちをついた。

「し、ショウ」

ハルがおろおろと手を伸ばしているが、リクもエドガーもあっけにとられて何もできずに立ちすくんでいた。もちろん、町の子もだ。

何より、叩かれたガーシュ本人もあっけにとられていた。

実はショウはそんなに力を入れて叩いてはいない。ただ、右左交互に肩を叩いてバランスを崩しただけだ。だから、ガーシュは痛みを感じたわけではない。ただ、自分にこんなことをした人が今までいなかったので、どうしていいかわからなかったのだ。

「お、お前」

「親父にも殴られたことないのにって言いたいの?」

こんな時なのに、ハルとリクは思わずグフっと噴き出しそうになるのを必死でこらえた。こんな冗談が出てくるくらいには、ショウは冷静にはなっていた。

「まあ、そうでしょうよ。生まれ育った町を出ることもなく、三食お父さんとお母さんに用意してもらって、生きるための食べ物を自分で稼ぐ必要もない。大人になるまで甘えて生きているようなお坊ちゃまだものね」

「お、おぼっちゃま?」

ショウはわなわなと震える人を初めて見た。一方で、目の端にはショウの言葉を正確にとらえ、思わずと言ったように口元を押さえ、同情心に満ちた目で見ているデリラがいる。

ショウはそれにもちょっとイラっとした。おそらく、リクと同じような孤児で、食べるものにも困ってやっと養い親に保護されたというストーリーが出来上がっているのに違いないからだ。もっとも、ハルに関しては、それを否定できないのだから苛立っても意味がなかった。

「お坊ちゃま以外の何者だって言うの?」

ショウはずいとガーシュに近寄り、ガーシュはしりをついたまま思わずのけぞった。

「いい、私とハルはね、今朝、ついてきてくれた養い親と離れたばかりなの。なんでかって? 親にだってやるべき仕事があるからよ。それもね、深森の仕事じゃないよ」

ショウは腰に両手を当てて、ガーシュに言い聞かせた。

「岩洞の夏の狩りに行ったの。まだ夏じゃない、それは分かってる」

ショウは目を上げて、疑問に思っただろう町の子にも話しかけた。

「夏に行ったんじゃ間に合わないくらい、岩洞の国境の町では魔物が多いと聞いたから。そしてその魔物を倒しに行くのは、なんのためだと思う?」

ショウは再び目をガーシュに戻した。

「し、知るわけがない」

「ばかなの?」

なぜリクが胸を押さえているのだ。

「魔物があふれたら、その魔物は平原になだれ込む。それを防ぐために、わざわざ岩洞まで出かけたの。200年前の大災害を、平原はもう忘れたの?」

「そんな、大昔のおとぎ話のようなもの」

「おとぎ話じゃない」

ショウは静かに言い聞かせた。

「すでにアンファの町では、ハネオオトカゲの大発生が起きた。毎日深森で魔物を狩っている私達が、その仕事を休んでまで来たのは、暇だからでもおせっかいだからでもない」

カナンの町の子から、ごくりと何かを飲み込むような気配がした。

「危険だから。町の人を守りたいという、カナンの町の治癒師の依頼を受けたからだよ」

「そんなこと、俺たちには」

「関係なくないでしょ。確かに町の中にいれば安全かもしれない。でもね、畑に出るのは、誰かのお父さんやお母さんなんだよ」

ショウのこの言葉で身じろいだ子どもは、きっと親の仕事が農業なのだろう。

「少し道をはずれたところにもスライムはいる。そんなところを歩いて傷つくのは、誰かのお兄さんやお姉さんなんだよ」

ショウはガーシュから目を離して、町の子を見渡した。

「薬草採りやスライム狩りなんて、一日に一時間か二時間のお手伝いなのに。深森からその手伝いに来ている子に文句を言う暇があったら、自分でやれることをやろうとしたほうがいいんじゃないの? お小遣いにもなるし」

これは大事なことなので、ショウはちゃんと付け加えた。そのすきに、しりもちをついていたガーシュは立ち上がっていた。

「な、なんだよ、乱暴な女だな!」

「へえ。それで? 覚えてろよとでもいう気なの?」

「くっ、お、いや」

覚えてろよという気だったようだ。

「付き合ってられるか! みんな、帰るぞ!」

ガーシュはそれでもどうやらリーダーらしさを発揮して、どうしようか迷う子どもたちを連れて帰ってしまったのだった。

「お坊ちゃまめ」

「ショウ、大丈夫なの?」

ハルが心配そうだ。リクは何とも言えない目でショウを見ている。

「男の子は当分放置しよう。勝負は女の子からかけるよ」

「勝負?」

「ハルさ、アンファの町で置いてきた他に、まだ服や小物持ってるでしょ」

「うん。お店に納める分の他に、たくさん預かってきたから」

「よし!」

ショウは片手を握った。

「それを薬草と引き換えにしよう」

「薬草と引き換え?」

薬草を採ってきた人にだけ売る。服や小物の欲しい女の子は絶対乗ってくるはずだ。

「それに、おうちが貧しい子どもも」

お金が稼げるなら稼ぎたいと思っている子どもも、確かにあの中にいたと思うのだ。

「勝負は、明日から!」

ショウは去っていくガーシュをにらみつけた。