軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カナンの子どもたち

ハルが実際にスライム狩りをやって見せると、元来が学究肌の薬師たちである。ショウがスライム退治をするにあたって一番最初にしたことが、スライムの観察と安全な距離の研究であることを知ると、自分たちも一からやってみたいと言い始めた。

そうなると、納得できないのがエドガーである。エドガーが今までやった努力だけでなく、ショウやハルがやった努力も無駄になると感じたのだろう。

「だからあんたたちは俺たちの時間を何だと」

「エドガー」

あきれて怒り出しそうになるエドガーをショウは静かな声で止めた。

「わかってる。エドガーの気持ちはわかってるよ。でも少なくとも動き出したんだから。ちょっと余計に時間がかかるかもだけど、結果的には、自分たちが納得する形がいいと思う」

「わかってはいるんだが」

心情的には納得できないのだろう。

一度研究モードに入ると、かわいらしい女の子とチャラチャラしている気持ちは薄れるようで、あのチャーリーでさえまともにスライムを探して向き合っていたのには感心した。

しかしさっきからショウが気になっているのは、遠巻きにこっちを見ている町の子どもたちだ。遠巻きにしていたのに、どんどん近くに寄ってきた。

よそ者がいきなりやってきて、自分たちに仕事をしろとあれこれ指示を出す。今まで自由に遊んでいた子どもたちには、面倒なことだっただろうし、すぐに反発したのだろうなと想像はつく。

でも、今は大人、それも専門職の薬師たちが、自ら外に出て、薬草採りをしているようだと気が付いて、様子を見に来たのだろう。

「深森だとこの時間は、教会で勉強している時間だけれど」

朝から薬師を呼んで活動を始めたので、まだお昼前である。

「字の勉強と計算くらいなら、もう大きい子は大体できるからね。14歳になって見習いとして動き始めるまでは、結構みんなのんびりしてるよ。午前中から自分のうちの手伝いをする子もいるし」

「え? あれ、リクは?」

「俺は、もう勉強的には行く必要はないんだけど、子どもは子ども同士で遊ぶもんだと言われて、週何日かは強制で行かされてる」

本当は毎日サイラスと一緒に荒れ地を駆け巡りたいのだと、リクの顔は言っていた。

「そういえば、20歳まではその土地に定着できるように育てるもんだって、深森でも言われたなあ。サイラスは正しいよ、うん」

深森の北の町は狩人になる子が多く、厳しい訓練が遊びとして取り入れられているように、平原は平原で穏やかなやり方があるのだろう。

「さ、じゃあ俺はここにいるより、教会に行ったほうがよさそうだから、一度教会に戻るぞ。うちの敷地や、敷地の周りで薬草を採るのは全然かまわない。ただ、牛がいるから、それだけ注意してくれよ」

サイラスはショウとハルがうまく薬師たちを扱ったのを見て、安心したように戻っていった。ほんのちょっと癒しの力を発現させた大人として、皆の手本になることを期待されているらしい。

「薬師たちはさすがだね。やっぱり大人が本気になると違うなあ」

「当たり前だろう。そもそも大人の仕事だ」

ショウは驚いて振り返った。遠巻きにしていた子どもたちが、いつの間にかすぐそばに来ていたのだ。

「リク、しばらく見ないと思ったが、戻ってきてたのか」

「ああ。アンファの町で導師一行とうまいこと落ち会うことができたんだ」

「ふん。深森か」

リクと同じ年頃のその少年は、馬鹿にしたようにエドガーのほうを見た後、ショウとハルに目を向けた。

「君たち、見ない顔だけど。まさかエドガーの取り巻きかなにかか」

「はあ?」

アンファの町でも少年たちに薬草の採り方を教えていたので、黒髪の平原の少年にも慣れたつもりだったが、こういうたぐいの少年は初めて見た。きちんと折り目のついたズボンに、シャツとベスト。少し長めの髪の毛はきれいに整えられている。

まあ、整った顔立ちと言えなくもない。ひ弱そうだけど。これがショウの感想である。

よく見ると、その少年の周りには似たような少年が集まっていたが、同じくらい少女もいた。少女の半分はエドガーに目が向いていたが、半分はショウとハルを見ていた。正確には、ショウとハルの服をキラキラした目で見ていた。

町の子。

そんな言葉が思い浮かんで、ショウはクスッと笑ってしまった。都会で毎日電車で通勤していた自分は、今は自分のことを町の子だとは思っていないということになる。たくましくなったものだと思う。

その少年のことを笑ったわけではないのだが、その少年はむっとしたような顔をした。

「君、」

「ガーシュ、失礼だろ。初対面の子だぞ」

その少年が何か言いかけたのを、リクがさえぎった。

「リク、お前」

「ショウ、ハル。この子がガーシュ。今年少組では一番年が大きくて、まとめ役みたいなことをやってるんだ。それからこっちがデリラ。同じように、女の子のまとめ役みたいな感じ」

リクが面倒なことにならないよう、男女まとめて紹介してくれた。

「あとは人数が多いからそれぞれで知り合って。それから、この子たちが深森から来たショウとハル。ショウは治癒師で、剣士。ハルは学院を卒業した魔法師で、治癒師でもある。俺たちと同じ年少組だけど、導師に仕事を任されてるんだ。仲良くしてくれると嬉しい」

リクの言い方を聞いていると、リクがリーダーではないようだが、子どもたちの間で強い発言力を持っていることはうかがえた。

「深森から? だって君たち、髪の色、黒じゃないか」

「俺と!」

リクがまた割り込んだ。

「俺と、故郷が一緒なんだ。ただ、事情があって深森と湖沼に飛ばされた」

「リクと? じゃあもしかして、家族は」

デリラと紹介された子が、心配そうに聞いてきたので、ショウもハルも首を横に振った。

「家族はいなくなったけど、今は養い親のもとで、しっかり面倒を見てもらってるよ」

「私も」

「偉いのね」

デリラはにっこりと笑った。よかった。少なくとも女の子とは仲良くなれそうだ。デリラという子はすぐにわかってくれたけれど、リクの事情について何も知らない子も多いから、むしろリクの故郷の話を聞いたことで子どもたちがざわざわし始めた。

「リクが紹介してくれたんだけど、私とハルは、薬草採取とスライム狩りを教える担当なの。今、薬師の皆さんにも体験してもらってるんだけど、みんなもやらない?」

なるべくソフトに聞いてみた。しかし、子どもたちはそもそも自分たちがやるものだと思っていないので、戸惑いのほうが先に立っている。

「農地にトカゲやスライムが出るから、狩る方法教わって来いってお父さんとお母さんに言われなかった?」

みんな首を振る。まずそこから徹底してほしいものである。

「そんな、危険なことしちゃいけませんって言われてる。スライムを見たら近寄っちゃダメって」

年少組でも、比較的小さい子がそう言った。それはそれで正しいのだが。ショウは難しい顔をして腕を組んだ。この子たちに、今すぐスライムを狩れというのはハードルが高すぎるのだ。では別の角度から攻めよう。

「そうなの。じゃあ、この中に春の野草摘みが好きな子はいる?」

何人かが、おずおずと手を上げた。

「薬草はね、春の草と違って、いつでも摘めるし、それを薬師のところに持っていくととっても喜んでもらえるし、それにね、お小遣いにもなるんだよ」

お小遣いというところでぴくっと興味を示した子も何人かいる。これはいけるかもしれない。ショウがそう思ったところで、邪魔が入った。

「ちょっと待てよ、君。ショウだったか。何の権利があって、カナンの子どもにいろいろやらせようとしてるんだ?」

腕を組んでこちらを見下すように見ているのは、ガーシュだった。後ろでエドガーがやれやれと首を振り、リクがやっぱりなという顔をした。それなら、何とかしてくれたっていいじゃない、とショウが思ったとしても仕方のないことだと思う。