軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子どもの目線という言い訳

がっしり手を握り合ったからと言って、ショウがこの若い薬師に感動したかというとそうではなかった。

同じ薬師でも、もし、アンファの町のナイジェルだったら? そもそも恥ずかしがって手を握らなかっただろうし、握ったとしても最終日に、お礼と親愛の意味を込めてそっとそうしただけに違いない。

つまり、感動のあまり手を握ったというよりは、そういう機会があればすかさずそうするタイプなのだとみた。

ショウもハルも、深森ではその平原らしい黒髪と茶色の瞳がまず目立ち、かわいいとかかわいくないとかで判断されたことがなかった。なかったと思う。だって、ファルコがショウのことを大切にしてくれる要素は顔や何かじゃないとショウは思うのだ。

しかし、平原ではショウもハルも良くも悪くも他の人と同じ顔立ちだ。逆に違いが目立つ。アンファの町での評価を見ると、ショウもハルもどうやらかわいい顔立ちに入るらしい。

ショウはエドガーのちょっと悔しそうなあきれた顔を横目で見て、この薬師がちょっと駄目なやつなんだなと判断を下した。

そして熱心に握っている手を控えめにそっと外した。手をズボンで拭かなかったのをほめてほしい。そしてファルコとレオンがいたことが実はちゃんとした牽制になっていたことに初めて気が付いたのだった。

ここでエドガーが、やっと自分も参加できそうだと前に出た。

「さ、俺が一応薬草の生えているところをチェックしてるからさ。まずそこに行って始めたらいいんじゃないか」

「エドガー、俺たちはこのお嬢さんたちと一緒に訓練に行くんだ。この二人に任せるって導師も言ってたじゃないか」

「そういうことじゃないだろ、チャーリー」

この会話からも、エドガーがカナンの町でどんなだったか想像がつくというものだ。

しかし、これに関しては導師が簡潔に終わらせた。

「もちろん、はじめから派遣していたエドガーはショウとハルと共に指導に当たらせる。そのほうが効率がいい」

正論である。

そうして一行は、エドガーに導かれて、町の西側を目指すことになった。

「あ、こっち俺の家の方だ」

「リクの?」

「うん。そうか、こっちのほうが荒れ地が多いからなあ。考えてもみなかったけど、俺の家の周りに薬草が生えてたってことか」

平原だからと言ってすべてのところが開拓されているわけではない。ないからサイラスのような、荒れ地をゆっくり農地に変えていくような仕事が成り立つのだ。そして、サイラスの家のほうは、放置されたままの荒れ地が多い、つまり木立などもあるということで、アンファの町の感じから言うと、木立の多いところにはいっそう薬草が生えやすい。

「前にも説明したが、町のはずれのここから、あの丘に行くまでの道沿いにはかなり薬草が生えている。そして持ち主がいなかったから放牧地には入れなかったが」

エドガーはちらりとサイラスのほうを見た。やはりサイラスの放牧場方面の話なのだ。

「少なくとも、放牧場の周りの手入れされてないところには、薬草はしっかり生えていた。各農地にもそういう場所はあると思うから、農場の持ち主に許可を得て薬草を採取するのもいいと思う」

「そこまでは聞いてねえよ」

エドガーの言葉をチャーリーがさえぎる。

エドガーは深森の仲間だ。仲間には冷たくしているのに、ショウやハルにだけやさしい、そんな状況で、チャーリーやほかの薬師のことを信用できると思っているのだろうか。ショウはそんなチャーリーについても、チャーリーをとがめもしない他の薬師についても、いやな気持になるのだった。

「はい! では聞いてください!」

ショウは手をぱん、と叩いた。

「皆さんはポーションを作るのに忙しくて、案外地面に生えている薬草をそのまま見たことが少ないかもしれません。だから、薬草を探してお小遣いにしている年少組の私がコツを教えます」

そしてにっこりすると、すっとしゃがみこんだ。なぜ採る前にしゃがむのかといういぶかしげな視線に内心いらいらしながらも、

「子どもでも、こうして薬草に近い目線で見ると、薬草を探しやすいんです。あ、結構ある」

大人だから気が付かないよねという言い訳をショウからもらった大人は、ショウの「結構ある」という言葉に興味を惹かれて次々としゃがみこんでみている。

「確かに大人になると、こんな目の高さで地面を見ることなんてないねえ。おや、ほんとだ。薬草があるよ」

ついてきていた中で、比較的年長の薬師が面白そうにそういうものだから、五人ほどいた残りの薬師も次々としゃがみこんでは、目を皿のようにして薬草を探して見ている。

「あった」

「あったよ」

しまいには全員が薬草を見つけ、中にはせっかちに採取を始めた者もいる。見つけてしまえば常に扱っている物だ。抵抗なく採取できるようだ。

「新鮮なものがこうしてすぐ採れるところにあるのは嬉しいなあ」

「自分たちで採ってもよし、子どもたちに頼んでもよしなんですよ」

「なるほど」

「あ、ちょっと待ってください」

ショウは夢中になっている薬師たちを止めた。

「あれ。スライムです」

「なんだと!」

大の大人たちが全員立ち上がってざわめいている。エドガーは後ろでため息だ。

「ハル!」

「うん」

ここでハルの登場だ。今までニコニコしながらショウについて歩いていたハルは、一見するとおとなしい子だ。そのおとなしい子が、腰のポーチから長い棒を取り出すと、ちゅうちょなくスライムに近寄っている。

「おい、危ないぞ!」

当然、止める人が出てくる。ハルはにこりと笑うと、棒でスライムをつつき、二回酸を吐かせると、平原の子どもも持っている小さいナイフでスライムをさっと切り裂いた。スライムは魔石を残して静かに消えていく。ハルはそれを水魔法で洗って、魔石を指で取り上げた。

「子どもに教えるときは、もっと丁寧に教えるんです。でも、皆さん薬師でしょ。薬師は魔力も多いから、水魔法も使えることを前提に、一番早く退治する方法をやってみました」

おとなしい少女が、なんの危険もなく、棒とナイフだけで淡々とスライムを退治して見せたその光景に、薬師たちは言葉もなく立ち尽くした。

「だから、俺もやって見せたんだって」

ショウは小さな声で嘆くエドガーに、同情を込めてこっそり頷いた。