軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハルの選択

次の日、ファルコはサイラスの家に泊まったが、宿に残ったショウと同じ部屋のはずのハルは遅くなってもなかなか部屋に戻ってこなかった。

「昨日はファルコの番、今日はレオンの番、か」

きっとハルは聞き分けがいいのに、レオンがいろいろ言い訳してるんだろうなとショウは想像しながら、ベッドにうつぶせになって足をぶらぶらしたりした。一人の夜は退屈なのだ。

やがて、小さなノックの音がして、ハルがそっと部屋に滑り込んできた。

「ハル、遅かったね。どうせレオンが、ええ?」

「ショウ!」

寝転がったまま振り向いたショウの目に映ったのは、ハルの泣き顔だった。

ハルはそのままショウのほうにふらふらとやってくると、ショウの隣にうつぶせで倒れこんだ。

「ハル……」

ショウはどうしていいかわからなくて、とりあえずハルの背中をポンポンと叩いた。

「レオンが、いなくなっちゃう……」

「うん。岩洞に行っちゃうんだよね」

レオンはハルのことを大事にしていたけれど、それはファルコのような重いものではなく、ハルに負担をかけないよう、軽やかな、大人の気遣いがあるものだったと思う。

ハルもレオンを頼りにしていたけれど、それはどこか距離があって、それは元大人だからそういうものなんだろうとショウは思っていた。仲良しの形は人それぞれであっても、仲良しには違いないのだから。

「でも、そうなりそうだなって感じ、してたじゃない?」

「あんまりそう思わなかったの。アンファの町を出るときも魔物が大発生してたし、むしろ岩洞に行っている場合じゃない、平原の人たちを守ることになるんだって気がしてたの」

「あー」

確かにそう言われればそうかもしれない。

「レオンに、弱い魔物がたくさんいるとき、自分たちは別に役に立たないんだって言われて。そういえば、だからスライムも年少が狩るんだなって思い出して。レオンは、自分の力が一番役に立つところに行くべきだと思うって言うんだ」

「ファルコと同じだ」

そしてショウはそのことを理解していたが、ハルはそうではなかったのだ。

「学院の卒業資格をもらって、一応魔術師見習いということになってるけど、魔術師でもない、狩人の心得も知らない、治癒師としても中途半端。ただのんきに物見遊山で来たからこうなんだよ」

ハルが自嘲するような言い方をした。

「ハル……」

確かにショウは最初から治癒師を選び、治癒師になるために勉強してきた。剣も魔法も、治癒師として生きていくのに役に立つから学んでいるに過ぎない。

一方で、ハルは「人を守る」というあいまいな目標で魔術師になった。しかし、狩りや治癒と違って、人を守るという仕事は実体がない。

悩んでしまっても仕方がない。

「もう、ハルったら。のんびり生きるためにこの世界に来たのに、自分を追い詰めてちゃだめだよ。こないだ私が言われたばかりじゃなかったっけ?」

ショウはアンファの町で自分がそう慰められたことを思い出した。

「うん。うん。でも、みんなが自分で自分のやることを決めてると、焦っちゃう」

「そうだよねえ」

でもそんなふうに思うのは、きっと心が弱くなっているからだ。

「あー、私も寂しいな。なんでファルコ行っちゃうんだろう」

「そうだよね! 導師の護衛なんだから、ここにいてくれたらいいのに!」

ハルも顔を上げた。

「こんなに寂しい思いをさせるくらいなら、普段からちゃんと離れてて!」

「普段は甘やかしすぎるくらいなのに、こんな時だけポイってするとか、最低!」

単なる八つ当たりである。ちゃんとやるべきことをやるレオンとファルコを、ショウもハルも本当は尊敬しているのだ。

「あー、ファルコ大好き!」

「ショウったら」

やっとハルがくすくす笑った。

ハルはちゃんとこの世界の年齢になじんでいて、大人になってから恋愛しようと思っているようだから、レオンについての気持ちはショウはあえて聞かないようにしている。

「ねえ、ハル」

「なあに?」

「ハルはね、レオンと一緒に岩洞に行ってもいいんだよ」

「え?」

ショウとハルはひとくくりにされることが多いけれど、もともと目指している仕事は違うのだ。

よく考えたら、今回のハルの仕事は護衛のお手伝いだったような気もする。

「そうか」

ハルは起き上がるとぺたりと膝を崩して座り込んだ。

「私、今何をやっても自由なんだ」

「自由って言うかさ、ハルさ」

ショウも起き上がってハルの向かいに座り込む。

「魔術師でもない、狩人の心得も知らない、治癒師としても中途半端ってさっき言ってたけど、違うよ」

「違う?」

ショウは首をかしげるハルがかわいいと思う。

「魔術師としては見習いレベルじゃなく優秀、狩人としてはちゃんと年相応、治癒師としても成人レベル。つまり、なにをやらせても優秀だから、どこに行っても役に立つってことなんだよ」

「そうかな」

「そうだよ。比べるのが導師とかレオンとかだからおかしいんだよ」

身近にそういう人がいると、自分をちゃんとは評価できないものだ。

「だから、岩洞に行くって言ったらレオンは大喜びだし、ここに残るって言ってくれたら私が大喜び。もちろん導師もエドガーもだよ」

「そうか。私寂しすぎて、なんだか自分がいらない子のような気がしてたんだ」

「そうかもね」

ハルが明るい顔になったので、ショウは満足した。

「私としては、レオンは放っておいてこっちで一緒に頑張ってほしいな。それで、私たちが来る原因になった町の人たちにガツンとこう」

そして何かと戦うかのようにこぶしを振り回した。

それを見てハルは噴き出した。

「戦っちゃだめだよ、ショウ。でも」

ハルもこぶしを握ってみている。

「こう、えいっ、えいっ」

「そうだ! こうだ!」

二人でベッドの上で架空の敵と戦い、やがて疲れて仰向けに寝転がった。

「で、どうする?」

「私、こっちでショウと頑張るよ」

「やった! ハルをゲット!」

明日から寂しくなるけど、頑張るぞと誓うショウとハルであった。