軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファルコの話

宿のほかの部屋に移るだけだったけれど、ファルコはショウの手をそっと握った。

ショウは少し驚いてファルコを見上げたが、そのまま握り返した。斜め向かいの部屋までほんの数歩だ。

ドアを開けて、ベッドに並んで腰かける。

「お茶でも入れる?」

「いい。さっき十分飲んだからな。ありがとう」

「確かにね。おなかタプタプだよ」

ショウはおなかを押さえてみた。こころなしかポッコリしている。乙女にあるまじきことではある。

そのまま何も言わずに、肩を寄せ合っていたが、ショウは次第に眠くなってきた。

本当はファルコが話し始めるのをいつまででも待つつもりだったのだが。

「ファルコ」

「うん」

うんじゃないよと思うショウである。

それでも返事をしたということは話す気があるのだろう。

「あのな、ショウ」

「うん」

「俺」

「うん」

「俺とレオンな」

「うん」

ぽつりぽつりとしゃべるファルコに一つ一つ返事をしていく。

「岩洞に向かおうと思う」

「そうなんだ」

本来なら、護衛の仕事は深森に帰るまで続く。でも、それはないだろうとショウは思っていた。なぜなら、平原に魔物が多すぎるからだ。

「アンファの町で予想はしていたが、カナンの町も思ったより時間がかかりそうだろ」

「うん」

町が大きいだけに、長期戦の気配がしている。本当は導師も早めに済ませて深森に帰りたいはずだ。それでも仕事をきちんと終わらせないと気が済まない人でもある。

「その間、俺たちがここにいてもあんまり意味がない。護衛のことだけじゃないんだ」

ファルコは珍しく丁寧に話をしようとしている。

「例えばまたハネオオトカゲが大発生したとする。本来は俺たちが戦ったとしても、あの数に対しては焼け石に水なんだ。ショウとハルがいてくれて初めて、町から注意をそらすくらいのことができるかどうか、というところだ」

アンファの町では何とかなったが、あれは小規模な大発生だったからだ。

ショウもわかっていた。

ファルコたちは、大きくて強い魔物を倒すハンターなのだ。

ファルコたちの倒すのは、一番小さくてクロイワトカゲ。それより小さいものは、見習いや初心者の狩る獲物。

そして小さい魔物であっても群れになってしまえばどんな強いハンターでもどうしようもないのだ。

「平原でこれだけ魔物が出ているということは、岩洞の国境の町はいつもよりひどいことになっているに違いない。あそこで抑えなければ、それこそ平原はハネオオトカゲどころでない被害を受けるだろう。だから」

「うん」

「レオンと相談して決めた」

「うん」

ショウはファルコが言いたいことは大体予想がついていた。

だけど本当にいつの間にか、ショウのことだけでなく、深森のことだけでもなく、みんなのことを考えて動けるようになっていたのだ。

それはとても素晴らしいことだけれど、でも。

「ちょっと寂しい」

「ショウ! 俺もだ」

ファルコはショウの肩を引き寄せた。ショウもファルコの腰に手を回す。

最初はファルコとは成人するまで、一九歳まで世話人として側にいてくれればいいと思っていたのだ。体は小さくても、心は大人だ。一人で何とでもなると思っていた。

でも実際どうだろう。一九歳まで一緒どころか、周りの情勢はすぐ二人を引き離そうとする。

せっかくファルコのことが大好きになって、一時でもファルコと一緒に過ごす、親子としての時間を無駄にはしたくないというのに。

そう思うと、ショウは腹が立ってきた。

「そもそも半端な気持ちで導師を呼び寄せたこの町が原因よね。私とファルコが離れ離れになるのは」

「お、おう。そうかもな」

突然怒り始めたショウにファルコはびくっとした。

「アンファの町ではだいぶ譲歩したけど、この町では容赦しないんだから!」

「譲歩してたんだな、あれで」

ファルコが隣で何か言っているが、ショウは気にしなかった。

「エドガーは子供たちが薬草を採ってくれなかったって言ってたけど、スライムも倒せないお子様が何言ってるのって感じ。トカゲだって、取れなかったら深森ではお嫁にも行けないんだってジーナが言ってたもん。まあ、そもそも大人がぼんやりしてるのが悪いんだけど」

「そうだな」

ファルコがショウの頭の上で手のひらをポンポンと弾ませた。

「それだけ元気なら、俺がいなくても何とかなるな」

何を言っているのだ。そもそもファルコがいなくても一人で何でもできるのがショウである。

それでも心はどうしようもない。

「何とかなんて、ならないよ。寂しくてしょうがないもん」

「ショウ……」

ファルコは我慢できなくなってショウを膝にのせて、ギュッと抱きしめた。

「だからね、ここで頑張るから、頑張って、また迎えに来て」

「もちろんだ」

「あんまり来るのが遅かったら、岩洞まで行っちゃうんだから」

「それもいいな」

フフッと笑いあう二人は、導師の護衛で来ているのだということをすっかり忘れているのだった。