軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

導師の本気

サイラスとリクの家に泊まったファルコは、どこかすっきりした顔をしていた。

「結局何も思い出さなかったが、屋根裏部屋とリクはよかった。うちも屋根裏のある家を借りるか」

「屋根裏ってファルコがいなくなってからのものだよね」

「そうらしいが」

「それにリクがって何?」

ファルコがなんだかとぼけたことを言うのでショウは突っ込まざるを得なかった。

「リクはなんだかこう、レオンみたいな感じで」

「ほう」

「リクがいるならまあ、カナンもまた来てもいいかなって思えた」

なんと返事をしていいか微妙なショウは、ショックを受けているサイラスとおかしそうなリク、そしてファルコを順番に眺め、何があったのかとちょっと気になった。

しかし、サイラスはさすが年長者だった。

「今度はレオンもぜひ来てほしい。それに、ショウとハル、そして導師は遠慮なくいつでも泊まりに来てくれ」

「私もか。是非に」

導師も嬉しそうだし、ショウもハルももちろん泊まりに行くつもりである。ファルコに言われるまでもなく、屋根裏部屋には行ってみたいに決まっている。

「俺たち三人で並んで寝るのも」

「もちろん駄目だ」

リクの提案はファルコにすかさず却下され、あたりに笑いが満ちた。しかし、なごやかに話している場合ではない。ファルコが戻ってきたらその足で岩洞に出発ということで、もう馬車も用意されて、あとは出発するのみという状況なのである。

「決めたからには急ぎたい。護衛として来ていて申し訳ないが」

「いつものことだが、護衛は念のため。それにあくまで道中を安全にするためのものだ。カナンの町に落ち着いた以上、レオンとファルコは、必要とされているところへ行くべきだろう」

「ああ。毎年やっていることと違うことをするのはちょっと戸惑うが、やるべきことをやるしかないよな」

珍しくレオンがまじめな顔をして導師と話している。

ショウはハルと顔を見合わせて、苦笑した。

ファルコは泊まりに行く前日、レオンはファルコが泊まりにいった当日にやっと岩洞に行くことを話してくれた。つまり、一昨日と昨日である。自分たちの心の準備はどうなるのかと言いたいショウとハルである。

しかし、それからすぐにショウはファルコに抱き上げられた。ちなみにこのやり取りは、宿の前、大通りで行われている。

「ショウ。行きたくない」

「ファルコ」

行きたくないけれど、行かなくてはならない。今度はショウはついてきてはくれない。ファルコ53歳、初めての葛藤である。

「本当に辛かったら、戻ってきて。でもとりあえずは動き出さなきゃ」

「ショウ!」

結局、ファルコはレオンに引っ張られて振り返りながら旅立っていった。

「人生の先輩って感じが全然しない」

リクの言うことはもっともである。

「ショウのおかげだろう。やっと人間らしく喜びも悲しみも外に出せるようになったのだからな」

その導師の言葉に、サイラスとリクがどういうことかと振り向いたが、導師は静かに手をすり合わせると、すっと気持ちを切り替えたようだった。

「ショウ、ハル。早く仕事を終えて、迎えに来てもらう前にこちらから岩洞に行くくらいにしよう」

「「はい」」

じっと待つのは性に合わない。そうだ、ショウはもともと自分から動くほうが好きだ。

「ハル、やろう!」

「やろうね」

となった。

意気込んで町の教会に行った一行だったが、導師を招いた町の治癒師はとても喜び、歓迎の一環として、

「まあ、まずはカナンの町の観光でも」

と言い出した。やっぱりである。そこに、エドガーが薬師の人たちも連れてやってきた。

こちらも歓迎の気持ちが伝わってきた。もしかしたら、これでエドガーが来てから増えていた薬師の仕事が減ると思ったのかもしれない。

「さて、観光をということだったが、それは仕事が終わった後でも十分にできる」

導師は歓迎をあっさりと受け入れると、とりあえず挨拶もそこそこにこう言い出した。

アンファの町では、困っていた治癒師を助けるために自ら動いた導師だったが、ここではちょっと違うようだ。

「知っているとは思うが、深森でも岩洞でも魔物が増加し、薬師も治癒師も大忙しだ」

「エドガーからそうと聞いてはいましたが、やはり平原だけではないのですね」

薬師の一人がなるほどとうなずいた。

「平原に入ってくる肉が増えて、正直飽和状態だという声も、最近商人から聞きますな。ここらではスライムやトカゲくらいだが、他の三国ではそれだけ魔物が増えているということなんでしょうな」

そういったのは治癒師だ。しかし、それは導師に合わせた世間話に過ぎなかった。ショウは導師が苛立つのを感じた。わからないなら自分が言ってやる、心の中でショウが袖をまくると、導師は静かに言い切った。

「正直、深森や湖沼と違い、この、人が死ぬわけでもない平原に、私の役割があるかどうか疑問に思っているところだ」

「そ、それは」

「期限を区切る。今年の岩洞の夏の狩りが始まるのが星迎えの祭りの頃。そこまではここにいて治癒師の訓練と治癒師を増やす努力をしよう」

「一年でも二年でもと思っていましたが、それだけでもありがたい」

それを聞いて、やっぱり導師をそんな風に長い間滞在させようと考えていたんだとあきれるショウであった。しかし平原の人が安心するのは早いと思う。

「その間に、簡単な治癒をする治癒見習いを増やすため、町の全員に試しの儀を受け直してもらう。それから今いる治癒師には全員、新しい治癒の技と、魔力をうまく使う力の配分を覚えてもらう」

「え、ええと」

「そして薬師には」

導師は薬師の人たちのほうを見た。

「農地が広く点在している平原では、治癒師よりもむしろ、各家で使えるポーションのほうが重要であることはわかっていると思うが」

ポーションが重要だと言われた薬師たちは誇らしげではあったが、不安そうでもあった。それはそうだろう。導師の言葉はこう続くに決まっているのだから。

「各家に最低でも一つ。できれば家族分おいていけるように、ポーションを増産する必要がある」

「そんなばかな」

「それがスライムの害に対する、唯一かつ確実な対策だ」

そういうわけである。

「無、無理だ」

誰かがポツリと弱音を吐いた。

「その覚悟がないのであれば、三月どころか、何年たっても実現はせぬ。これが実行できぬのであれば、私は必要とされているところに戻る」

ショウも初めて見た、導師の本気モードである。

「めちゃくちゃかっこいい」

「ショウったら」

もっとも弟子には緊張感はないのであった。