軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

620 酒場の二人

六百二十

ニヴェゾロの街は植物の緑以外、建物も地面もほぼ砂色に覆われている。どこを見ても、だいたい同じような色合いだ。

だからこそというべきだろうか。道行く人々のみならず、小物から牛車といったものまでがカラフルな傾向にあり、砂漠でありながらも、この街には色彩豊かな光景が広がっていた。

そんな街の大通りを進んでいった先に、ディノワール商会の店舗はあった。周囲のホテルなどの建造物にも負けず劣らず立派な店である。

「しかしまあ、どこにでもあるのぅ」

だいたいどこの街にもあるディノワール商会。いったいどれだけ稼いでいるというのか。冒険者用品というのは、それほどまでに売れるのか。今更ながらではあるが、ミラはかつて出会ったセドリック・ディノワールを思い出し、知り合いになれたのは随分と幸運だったのだなと実感する。

「この辺りじゃな」

「何度来ても、種類豊富よねぇ」

場所は変われどディノワール商会の店舗は、どこでも似たような造りになっているのが特徴だ。

冒険者用品と一言でいっても、その種類は多岐に亘る。そしてこのニヴェゾロ支店においては、砂漠用のコーナーがしっかりと用意されていた。

そこには多種多様な道具の他、日中の防熱と夜の防寒に役立つ衣服なども揃っている。

「ほぅ、蜃気楼看破ゴーグルとは面白いのぅ。こっちはオアシスコンパスとな? オアシスの場所を指し示すとは、どんな仕組みなのか。してこっちは──」

「ちょっとちょっと、買いに来たのは服だけでしょ。余計なものばかり見てないで早くして」

と、ロマン溢れる冒険者用品に目移りしながら買い物かごに手を伸ばしたところだ。カグラにその手を掴まれたミラは、そのまま衣服が並ぶ方へと連れて行かれた。

「これで問題なさそうね。それにしても、ちょっと新鮮かも」

「ふむ、思えばこういうタイプは初めてじゃな」

流石はディノワール商会だ。熱砂地帯用の装備一式も、この一店舗で揃える事が出来た。そしてそれらを身に纏ったミラとカグラは今、まさにアラビアンという言葉がぴったりの恰好となっていた。

全身をすっぽりと包むのはロングコートに似た造りの外套だ。何層にも布を重ねて作られたそれは厚く、けれど見た目の割りに軽い。しかも内側にはゆとりがあって通気性もよい。そして何より、とてもカラフルな仕上がりとなっていた。

外套の中はというと、今度は随分と軽装だ。踊り子のドレスを彷彿とさせるデザインのそれは、動きやすさなども考慮して選んだものだ。なお二人とも、その内側にはしっかりと砂漠用のクルクールを着込んでいた。

(便利なのにのぅ……)

環境の暑さに変わりはないが、随分と感じ方は変わった。しかもクルクールのお陰で更に快適に近づいた。これで服について問題はなくなったが、ミラは未練がましくディノワール商会に振り返る。

買えたのは服だけだったからだ。あれも面白そう、これも面白そうと多くの冒険者用品に興味を惹かれたミラであったが、それら全ては「自分の力だけで解決出来るでしょ」と、カグラにばっさり切り捨てられた。

「それじゃあ早く行こうか」

便利道具に秘められたロマンというのは、そう簡単に割り切れるものではない。けれどカグラに、そんなロマンだなんだという思いは届かないようだ。

カグラに連れられてやってきたのは、街で一番大きな酒場であった。何でもここで五十鈴連盟のメンバーと待ち合わせをしているそうだ。

以前から黄金都市を探すために尽力しているその二人に諸々を説明し、労っておきたいという。

(まったく、ご苦労様な事じゃな)

五十鈴連盟の活動は、総じて精霊達のためでもある。ゆえにミラも、こんな過酷な場所で頑張っていたというその二人を労う事に賛成しカグラに続く。

「あ、いたいた」

どうやら見つけたようだ。店内を見回していたカグラは、そんな言葉と共に奥の方へと進む。その後を追っていくと、店の奥の片隅に二人の女性の姿が見えた。

テーブルを挟み座る二人の前には、空き瓶が並んでいる。随分と飲んでいるようだ。

「あ、ちょっと注文してくるから先に行ってて」

酒場に来て何も注文しないつもりかという店主の圧を察してか、素早く対応するカグラ。カウンターへと行先を変えつつ、店の奥を指し示す。

「うむ、わかった」

その点あまり気にしていないミラは、言われた通りに奥の片隅のテーブルに歩み寄っていった。

見れば二人の内の一人はメオウ族のようだ。そしてもう一人は長くて黒い髪が特徴的である。またどちらも、ミラ達と同じくディノワール商会で揃えたのだろう。その服装は踊り子のそれに近いものになっていた。

だが今の二人は、そんな華やかな衣装も霞むほどに、どんよりしていた。

「久しぶりじゃな。やはりお主達じゃったか。しかし前に見た時に比べて随分と暗いのぅ」

五十鈴連盟のメンバーという事で、その可能性は十分にあった。そして実際に二人を目にしたミラは、こんなところで再会出来るとはと喜び、同時に懐かしみながら声を掛ける。

「え……? あ、ミラちゃん!?」

「わ、久しぶり」

ぐったり項垂れていた二人だったが、ゆっくり顔を上げてミラの姿を目にすると、その顔に驚きと喜びを浮かべた。

「うむ、久しぶりじゃな。元気にしておったか……とは言えん感じじゃが、何かあったのか?」

オアシスの酒場で再会したのは、以前に知り合い共に戦った仲でもある二人。五十鈴連盟の精鋭部隊ヒドゥンのサソリとヘビだった。ただ喜ばしい再会ではあるものの、先ほどまでの二人の様子は実に鬱々としていた。

ゆえに何事かとミラは問いかける。

「えっと、それはね……──」

なぜあれほどまでに元気がなかったのか。その質問にサソリとヘビは、沈痛な面持ちで答えた。

現在サソリとヘビは、信憑性の高い噂となった黄金都市を見つけるために、二ヶ月ほど前から現地入りして調査を続けているそうだ。

けれど、未だ発見には至らず成果を出せない状態が続いていた。

「──それでついさっき、本部から調査打ち切りの通達が届いた。あと、今回の件について話があるから担当者と合流するようにって」

そのように説明を終えたヘビは、きっと私達が不甲斐なかったから代わりの者が派遣される事になったのだろうと続け、その顔を悲愴に染めた。

「え? 待って待って、違う違う。そういう意味じゃないから」

説明した事で余計に胸に刺さったのか、更に暗く沈み始めたサソリとヘビ。その直後、カグラはトレーに載せたグラスの一つをミラに渡しながら、何をどうしてそんな勘違いをしたのかと困惑しつつ、それは違うと否定する。

するとどうだ。

「ウズメ様!?」

「どうして、ここに……?」

五十鈴連盟の元総帥で、現在は陰の総帥という立場となったウズメことカグラ。そんな人物が直々に登場という事もあってかサソリとヘビは、いよいよこれはどういう事かと慌てふためく。

なお、この二人はウズメの正体が九賢者のカグラである事も知っているそうだ。

ただ、だからこそ余計に狼狽え始めた。あまりにも自分達が不甲斐なさ過ぎたため、遂に忙しいトップまで引っ張り出さなくてはいけない事態になっていたのかと思いを飛躍させたわけだ。

「ほら、まずは落ち着きましょうね」

トレーをテーブルに置いたカグラは、サソリとヘビに一杯飲んで酔いを醒ますようにと勧める。

どうやらカグラが注文したのはソフトドリンクのようだ。とはいえこれから黄金都市探しという重要な任務を始めるのだから、ここで酒など飲んではいられないというものだろう。

グラスを手に取った二人は、その中身をぐいっと飲み干す。そして覚悟でも決めたかのように、落ち着きましたと口にした。

「多分きっとあれね。本部からの連絡が、ちょっとわかりにくかったのかもしれないわね。私は裏役だから主語とか伏せて伝えられる事が多いし。だから今回、調査を止めさせたのは打ち切ったとか交代とか、そういうのじゃないの。ましてや二人がどうこうなんて事でもないからね。そもそも噂だけを頼りにした調査なんだから簡単にいくわけないし。だから二人は、よく頑張ってくれているくらいよ。でも中断させた上で私とミラちゃんが来たのには、わけがあるの──」

そこまで一気に説明したカグラは、二人に耳を寄せるように言ってから小声で一番の理由を話す。

「──それはね、これまでとは比べ物にならないくらい確実な情報を得たから」

そこまで告げたカグラはグラスを一つ手に取って飲み干すと、「もう勝ったも同然!」と言って高らかに笑った。

「ウズメ様とミラちゃんが一緒になんて、もうかなりの事だよね!」

「うん、これはきっと確信的」

黄金都市探しは打ち切りではない。むしろその発見が確実になったくらいに進展した。何よりも精霊女王と元総帥が直々に出張ってきた事がその証拠だと、サソリとヘビはその目に希望の光を灯す。

また同時に、結果を出せず不甲斐なかったせいではなかったとも判明したからか、二人の様子は一転。落ち込んだ空気などどこへやら、以前の活力を取り戻していった。

「とまあ、そういうわけでな。二人は──」

こんな過酷な環境で、よくぞ頑張ってきたものだ。だからこそ、もう後は任せてくれていい。と、ミラがそう続けようとしたところだ。

サソリとヘビの熱い視線が突き刺さった。元気を取り戻すと共に、更なるやる気に満ちた力強い眼差しだ。

二ヶ月間、どれだけ探しても見つけられなかった黄金都市。だからこそ、その全貌に近づく道が手の届きそうなところにまで迫ったと聞かされれば、これを前に背を向けられる者などいるだろうか。

二人の目は、遂にそれを目にする事が出来るという期待で満ちていた。

するとどうだ。そのような目で見つめられたら、後は任せて帰っていいだなんて言えやしないというもの。

「二人は……どうするのがよいじゃろうか!?」

サソリとヘビの気持ちも理解出来るミラはカグラに駆け寄ると、そう耳打ちして判断を預けた。

「向こうがどうなっているのかわからないから危ないんだけど……」

対するカグラもまた、やる気に満ちた二人を前にして任務の解除と帰還を告げにくいと思ったようだ。

けれどこれから向かう黄金都市という場所の印象は、当初から随分と変わってしまった。

今は魔王が封じられていた場所であるとも判明している。魔王自体は既にそこにはいないはずだが、不審な点が残っているため問題ないとは決して言い切れない状態だ。だからこそ、ここで解散と伝えるのが一番安全。だが二人の反応からして、それはきっと酷な命令になるだろう。

「今、私達が掴んでいる情報だと、かなりの危険が潜んでいるかもしれない。場合によっては、私達にも対処出来ない状況に陥る事もある。だからここで任務完了にしたいんだけど……二人はどうしたい?」

最終的にカグラは危険な可能性を示唆した上で、二人の判断に委ねる事にしたようだ。心の内では解散にしたいはずだが、それはそれ。何よりも立派な仲間として、二人の意志を尊重すると決めたのだ。

「私は、それでも行きたいです! 危険がある事は最初からわかっていましたし。それに、そんなところに二人で行くって言うのなら尚更ですよ! きっとお役に立ってみせます!」

「私も同意。この二ヶ月で砂漠にも詳しくなった。きっと役に立てるはず。あと、出来ればこの目で確かめたい」

やはりというべきか、二人の意志は固かった。同行したいと言ったその目には、強い覚悟が秘められている。

(まあ、そうじゃろうなぁ)

最初の反応から答えはわかりきっていた。けれどはっきり言葉にして答えた事で二人の心は固まり、またミラとカグラの腹も据わった。

「うん、わかったわ。ただし二人とも、いざという時は私とミラちゃんの指示にしっかり従うようにね」

「はい!」

「承知」

カグラはもとより、ミラの実力も十分に知るからこそ、サソリとヘビはそこに一切の異論はないと即答する。

と、こうして黄金都市調査隊は四人チームになったのだった。