軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

619 黄金水を求めて

六百十九

三神との話を終えたミラは、いつものマジカルコーデに着替えてから暫しの間、倉庫室にて精霊王達と言葉を交わした。

その内容は、精霊王達も気になっている様子だったフォーセシアの真実についてだ。

『なるほど、あの後、そのような事になっていたのか……』

『知らない間に、そんな話をしていたなんて。でも、そうよね。私は絶対に反対しちゃっていたから、未来のためにはそうするしかなかったのよね……』

三神から教えて貰ったフォーセシアの最期。それを詳細に説明したところ、沈痛な雰囲気は変わらなかったものの、それでも幾らか気持ちの整理はついたようだ。精霊王とマーテルは寂しそうにしつつも、その決断を彼女らしいと納得したようであった。

精霊王とマーテルに十分な説明を終えたところで、ミラは皆のいる操舵室に戻る。

「──やはり、簡単にはいかないか」

「結構かかりますね」

「まあ、ある程度は予想出来ていたけどね」

ミラがいない間にも、随分と話し合いが進んでいた。今は魔王討伐のために必要な戦力を、どのように集結させるかについて議論しているようだ。

相手は魔王と、その配下。戦力は、現時点でも計り知れない状況だ。ゆえにこちら側も、考えうる全ての状況に対応出来るだけの戦力を調える必要がある。

そのために必要なのは、やはり元プレイヤー陣営のトップクラスの動員だ。

だが、それだけの力を有する者の多くは国の重役に就いている事が大半だ。だからこそ集結となると国政の壁というものが高く聳え立つ。

九賢者に十二使徒、そして名も無き四十八将軍。特に有名なのはこの辺りだが、他にも小さい国ながら、これらと肩を並べられるほどの猛者もいるところにはいるものだ。

また元プレイヤー陣営ばかりではない。この大陸には三神国を筆頭に、飛び抜けた実力者が多く存在している。

これから始まる戦いは、これら国家級戦力と呼ばれる者達の多くを動員しなければならないような規模になっていくはずだ。

実際には国防などの問題もあるため、全員が国から出払うなどという状態にはならないが、それでも相当数の戦力を集める必要がある。

そして、必要な戦力の規模といったら、それこそ三神国以外ならば制圧出来てしまえるのではと思えるほどのものになるだろう。

ゆえに各国への連絡に要請、動員の手順や手続きなど、多くの要件を満たして国際的な問題を解決していかなければいけない。

しかも、更に大きな問題までここに加わる。それは、この多くを魔王側に気づかれずに進めていかなければいけないという点だ。

魔王の拠点を見つけ出したので大陸全土から最大級の戦力を集めて、これを強襲しようという作戦だ。気づかれたら、もうその時点で作戦は失敗したようなものだ。

ゆえに、これらを秘密裏に進めていかなくてはいけないというのだから大変である。

そのためもあって、これほどの規模で戦力を動かすと、その準備だけで多くの時間がかかってしまうのは確実。

ミケが言うに、どれだけ順調に進めても二ヶ月はかかってしまう計算になるとの事だった。

「敵の拠点を見つけたのに、待っているしか出来ないなんてじれったいよねぇ」

もしかしたら二ヶ月後には拠点を変えているかもしれない。だからこそ迅速に攻め込む事が重要だが、なぜ政治とはこんなにややこしいのかと呆れ顔のハミィ。

その政治に深くかかわる立場だが、彼女にはあまり自覚がなさそうである。

(二ヶ月も経てば奪われた胴体の封印も解かれてしまいそうじゃからのぅ。そうなれば仕込んでおいた式符が見つかる恐れもある。追跡に気づかれたら、どの道、作戦は白紙じゃろうな)

出来る事なら今すぐにでも突入して、せめて胴体だけでも奪取してしまいたい。そう考えるミラだが、現時点で動ける戦力だけでは無謀が過ぎるというもの。たとえ奪えたとしても、誰かしらが犠牲になる恐れが強い。

ゆえに強行は出来ない。

「歯がゆいところだ。けど、それしかないのなら直ぐにでも動いておいた方がいいんじゃないか」

今は、その時間がかかる方法しかない。だからこそ一秒でも早く行動に起こすべきだと口にしたのはノインだ。

かの魔王を相手に極限まで確実な手段で対抗するには、その時間がかかる方法しかない。ならば今すぐにでも始めようというわけだ。

「まあ、そうだね。どちらにしろ戦うとなったら戦力は必須になるから、とにかくそこは先に進めておいてもよさそう」

結果どうなるにしても、戦力は必要だ。いつでも動けるための下準備は、しておくに越した事はない。

と、そうしてまず初めの動きが決まったところだ。

「時間がかかりそうというのなら、丁度よいのかもしれん。ちょいと行きたいところが出来てのぅ──」

ミラは頃合いを見計らって、そのように告げた。

魔王については、まだ気になるところがある。先ほど三神に聞かされた話を皆にも伝えた。

かつての大英雄フォーセシアは、魔物を統べる王の力に侵食されてしまったため、当時に身体ごと封印していた事。

そして今、その封印は未だ健在でありながら、見た目から秘めた力までフォーセシアと同一の存在が魔王として現れた。

これはいったいどういう事なのか。封印は、どうなっているのか。

「──というわけじゃ。直接頼まれたのもあるが、わしとしても気になるところじゃからな。先にこちらを調べてみようと思っておる」

そう説明したミラは、ここから出た方が位置的に近いため、このまま出発するつもりだと続けた。

「そうなの? 場所はどの辺り?」

大英雄フォーセシアの身体が封印されていた場所。三神しか知らない特別な場所という事で、やはり気になるようだ。一番にカグラがその問いを口にすると、皆の目もミラに集中した。

「オリアト砂漠じゃよ。聞いたところ噂にある黄金都市こそが、その封印場所でもあるそうじゃ」

さらりと黄金都市の名を挙げたミラは、それが実在しているものだったからこそ、ちょっと行くのが楽しみでもあると私情を垣間見せる。

「黄金都市は本当にあった!?」

「急なネタバレきた!」

やはりこういった噂の類には敏感なようだ。真っ先に反応したのは、ミケを含めた研究員兼船員の皆であった。まさか三神が封印しているような場所だったとはと大いに盛り上がる。

そんな中──。

「え、ちょっと私も行きたいんだけど!?」

そんな事をカグラが言い出したのだ。

「何じゃ急に。言うておくが宝探しに行くわけではないぞ?」

今は国に戻って来たとはいえ、五十鈴連盟の総帥を引き継いだ後も、カグラと組織の関係は続いている。

そして最近の五十鈴連盟は、何かと資金不足に悩んでいるという話だ。だからこそ運営資金調達のため、黄金都市という名に釣られたのではないだろうかと疑うミラ。

「違うから! そもそもそんな事言う場面じゃない事くらい、私でもわかるからね!? そうじゃなくて私はただ、そこにまつわるもう一つの噂の方を確かめたいの──」

カグラ曰く、噂が出回った後、最初に発見した者とはまた別の者が黄金都市に迷い込んだ事があったそうだ。そしてその者は、黄金都市を調査するための準備を整えていたため、幾らかの情報を持ち帰ったという。

そしてその情報の中に、カグラが興味を持つものが含まれていたそうだ。

それは、極めて強力な呪詛や呪いでも解く事が出来る、黄金の泉の存在だ。

その者は、黄金都市から脱出する前に幾つかのサンプルを採取していた。その内の一つが、黄金の泉で汲んだ黄金に輝く水だ。

それを専門機関で調べたところ、極めて強力な解呪の効果が確認出来たという。更に微弱ながらも祝福の影響まで与えられるため、呪詛や呪いに対しては聖術も含め、これに勝るものはないそうだ。

「あー、あれの出所って黄金都市だったんだ!」

と、一通りカグラが話したところだ。不意にミケがそんな言葉を口にした。そして何か知っているのかというカグラの視線が突き刺さると共に、ミケは以前の出来事について口にした。

とはいえ、それは単純な話。専門機関として小瓶に入った未知の水の分析を依頼されたというだけのものだ。そして様々な研究解析を経て、その驚くほどの解呪効果が認められたわけだ。

「研究所に持ち込まれたって事!? それじゃあもしかして、まだ残っていたりするの!?」

カグラは、その黄金の水を求めているらしい。それはもう期待と勢いのままミケに迫る。

「いや、預かったのは小瓶だったからね。分析に全部つかっちゃったから残ってはないなぁ」

流石に残ってはいないと答えたミケは、また残っていたとしても依頼者に返すものだからと続けた。するとカグラは「そう……」と、深く肩を落としながら残念そうに項垂れる。

「……というか、出所については一切明かしてくれなかったんだけど、よくそれが黄金都市だってわかったね」

「それはもう、ちょちょいと、ね」

非常に貴重なものならば、出所を秘匿するのはよくある事だ。そして実際に、あれほどの効果があるとなれば尚更である。ゆえに依頼者の口は極めて堅いはずだが、なぜカグラはそれについて知っていたのか。

疑問を浮かべたミケだが、目の奥を暗く光らせるカグラを前に、もうこれ以上追求するのは止めておこうと強く決断するのだった。

アーク大陸の南部上空。そこにはオリアト砂漠に向けて飛ぶガルーダワゴンがあった。

「──なるほどのぅ。まあそういう事ならば帰れとは言わん。わしも協力するとしよう」

「頼りにしてるからね、おじいちゃん!」

ワゴンの中にはミラの他にカグラも一緒だ。行くなら早く行こうとカグラにせっつかれ、慌ただしくワゴンで飛び立ったミラ。今はその道中で、色々と詳細を聞き終えたところだ。

話によると、カグラが話した黄金都市に迷い込んだ者というのは、いわゆる盗掘者の類だったそうだ。泥棒に窃盗、遺跡荒らしに墓荒らしなど。姑息に稼いでいる悪党である。

そんな悪党が五十鈴連盟の管理する森で悪さをしていた。ただ管理しているだけあって、悪党は直ぐに捕縛。その後、カグラが目的などを洗いざらい白状させていたところ、黄金の水についてと、黄金都市に関係する情報が出てきた、というわけだった。

「しかしまた、それほどの呪詛が広がっておったとはのぅ」

「早くどうにかしたいんだけど、こればっかりはね」

カグラが黄金の水を求める理由。それは、やはりというべきか五十鈴連盟の活動に関係したものだった。

何でも最近、死霊系の魔獣が増加しているという。しかも森のあちらこちらに呪詛を振りまくから性質が悪い。

現状、五十鈴連盟の森林保全部隊は、これの対応で手いっぱいになっているそうだ。ゆえにカグラは、解呪と共に祝福で森を保護出来る黄金の水を求めていたわけだ。

また、それを求めて五十鈴連盟のメンバーが黄金都市を探しているそうだが未だに辿り着けておらず、予算も嵩むばかりで結構大変との事だった。

オリアト砂漠の北東に存在する街、ニヴェゾロ。点在するオアシスの中で最も大きなここは、また砂漠にただ一つ存在する街でもある。

少しでも砂漠に対抗するためか街には人工的に植生された緑が多く、そこだけを切り取れば、ここが砂漠とは思えないような光景だ。

そして街の中央には、オアシスの象徴である湖が存在している。しかもその大きさといったら、直径にして一キロメートルにも及ぶほどに広大だ。緑の青さも加われば、リゾート地にすら見えてくる。

けれども、ここがリゾートではなく砂漠であると否応なしに思い知らせて来るものがある。それは、なんといっても気温だ。

「あっついのぅ……」

「暑いわね……」

そんな街に立ち寄ったミラとカグラは、真っ先に現環境への文句を口にした。

快適に保たれていたワゴン内とは違い、外はまさに熱砂地帯。からりと乾いた空気ながら、その暑さといったら流れ落ちる汗も直ぐに乾いてしまうほどだ。

「暑さ対策もしておるのに、ほとんど効果を実感出来んのじゃが」

ここから先は灼熱の砂漠地帯。そのためワゴンを降りる前にちゃんと着たはずだと服の襟を引っ張って確認したミラは、しっかり着用していた冷感肌着のクルクールを見ながら恨み言を呟く。

その効果はいま一つで、容赦のない暑さが全身に突き刺さる。

「それってあれでしょ、ディノワール商会のクルクール。私も持ってるけど、知ってる? あれって地域ごとに仕様が違うって」

「なん……じゃと?」

ミラの行動を前に、カグラはどこか『やっぱりね』とでもいった顔だ。

カグラが言うに、その原因は地域差らしい。特に砂漠地帯のような過酷な環境下にもなると、その過酷さに合わせて調整したものが新たに必要となるそうだ。

「少しでも快適にしたいなら、ここのディノワール商会で買うしかないわね」

「まさかそのような罠があったとはのぅ」

「ただ、仕様説明をちゃんと確認していなかっただけでしょ。でも専用の服は必要そうだから、ちょうどよかったのかもね」

照り付ける太陽の光は、眩しいどころか痛いほどだ。だからこそ道行く人々も、これだけ暑い中でも日差しを遮るために服装は厚めだった。

対策もなしに街を歩くのは避けた方がいい。これから砂漠に赴くのなら猶更だ。そう結論したミラ達は通行人にディノワール商会の場所を聞くと、直ぐに砂漠用装備を求めて駆け出した。