軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

621 聖剣の使い道

六百二十一

ミラとカグラに加え、サソリとヘビの同行が決まった。

そして出発前の準備をしようと立ち上がり、会計を済ませて店を出ようとしたところだ。

「なあなあ、お嬢ちゃん達。黄金都市について、勝ったも同然な情報があるんだって? どうだい、俺達にもその情報を売ってくれたりしないかね?」

どうやらミラ達の話に聞き耳を立てていたようだ。男ばかりの六人グループが、黄金都市についてどれほどの有益な情報があるのかと迫ってきた。

「これは非売品でのぅ。残念じゃが教える事は出来んのじゃよ。じゃからまあ、諦めてくれるか」

行く手を塞ぐように並ぶ男達を前にして、ミラはきっぱりと言い切った。

これについては話すにしても最低限に留めておいてくれと三神から言われている。

また、何といってもミラが得た情報は黄金都市の真実に至るものだ。かの地は、魔王が封じられていた場所であると同時に、神々にとって思い出の残る場所。

だからこそ、しまい込んだ思い出はそっとしておくのが一番だ。ゆえにもう誰も近づけないようにするという事もミラの任務に含まれていた。

どれだけ対価を積まれようと教えられる事は一つもないのだ。

「そんな事言わずにさぁ。俺達もずっと探していんだよ。もう随分と経費もかさんで大変なんだ、わかるだろ? なんなら一緒にならどうだ? 見ての通り護衛としても役に立つぜ」

彼らも彼らなりに必死なのだろう。情報を売ってもらえないとわかったら、今度は同行する方へと切り替えたようだ。

とはいえ護衛として名乗りを上げるあたり、ミラ達を見た目通りに判断しているようだ。

「生憎じゃが、そちらも既に間に合っておってな」

いっそむさ苦しいだけだとミラが苦言を呈すると、「いやいや、そんな事はないだろう」と尚も喰い下がる男衆。

事実、その身体つきや佇まいからして、腕っぷし自体は相当なものであると窺える。

とはいえそれは、冒険者界隈における基準で見た場合だ。比べてしまうなら、五十鈴連盟の精鋭であるサソリとヘビの方がまだ幾らか上である。

「ふーむ。では、試してみるか?」

「そうこなくっちゃな!」

ミラが提案すれば、男衆は我先にと名乗りを上げた。

ただ、ミラとカグラは国家戦力級だ。試すためのそれは形だけで、合格者など出るはずもない。

勢いがあったのは最初だけ。数分後には、ミラ一人相手に転がされた男達の山が出来ていた。

「ほれ、言った通りじゃったろう?」

そう囁いたミラは最後に弱いわけではなかったぞと慰めを口にしてから、カグラ達と酒場を後にする。

「なんだ、これ……」

「見た目が当てにならない事もあるっちゃあ、あるがよ……」

「流石に程があるだろ……」

床に転がる男達は、世の中広いとは幾らか理解していた。だが広過ぎると思い知った彼らは、ミラ達の背を見送りながら無力を噛みしめ虚しく呟いた。

「さて、まずは荷物チェックじゃな」

酒場を出たミラ達は、砂漠をわたるための準備から始めた。

最初は二人で行くつもりだったが、急遽四人になったからこその確認だ。

「必要なものは多めに揃えてあるよ」

「抜かりなし」

ディノワール商会で買い物をしていたミラとカグラはもとより、サソリとヘビもまた既に準備は調っているそうだ。

それというのも、黄金都市調査の中断の連絡が入ったのが、次に向けて用意していた時だったからだという。

内容を聞いてみたところ、概ね問題はなさそうだった。むしろミラ達よりも、ずっと万全なくらいである。

(乾物や木の実が多いが、思えばわしらのアイテムボックスとは仕様が違うからのぅ。普通じゃとこうなるわけか)

決定的な違いは、食料の差だろうか。生鮮のみならず弁当まで入っているミラのアイテムボックスとは違い、サソリとヘビが持つ食料は保存性重視だった。

なお、道具の中にはディノワール商会製の魔導式浄水器もあった。そう、泥水から小水まで何でもろ過出来てしまうという優れものだ。

はたして、使用した事があるのかどうか。そこがちょっと気になるミラだった。

「荷物は問題なさそうじゃな。では次に、黄金都市がある方角を特定する方法についてじゃが──」

いつ砂漠に出ても問題ないだけの物資が揃っている。ならば次はと、ミラがちょっとだけ得意げに言いかけたところだ。

「──それってアレだよね。コレだよね!」

ミラの言葉から何かを察したのか、サソリまで得意げな顔で小箱を取り出してみせた。

蓋を開けてみると、そこに入っていたのは直径にして一センチメートルほどの水晶だった。しかも細長い形をしたその中央付近には糸が括りつけられている。

それは、磁宙水晶と呼ばれる道具だ。

「さあさ、ただの磁宙水晶と思うなかれ。これこそが、噂に聞く特殊なタイプの磁宙水晶だー!」

黄金都市を追い求める者達の間で、その場所を見つけるために必須だと言われている磁宙水晶。本来は幻の聖域、蜃気楼寺院を見つけるために利用されるものだが、サソリのそれは違うようだ。

数ある中から、これを見つけるのは本当に大変だったと語るサソリは、だからこそのどや顔で胸を張る。

磁宙水晶自体は、そこまで珍しいものではない。だが時に、正しく蜃気楼寺院を示さないハズレが交じっている事があった。

しかしそれは、正確に言うとハズレとはまた違う。磁宙水晶に霊脈のエネルギーを秘めた粒子が混じった事で感知周波が変化したために起きる特異な現象だったのだ。

そして感知周波が変化した事で、代わりに大地を流動するエネルギーの波を捉えるようになる。

黄金都市は、この流動するエネルギーに乗って移動している状態だ。ゆえに、この特殊な磁宙水晶が黄金都市の場所を見つける事に役立ったというわけである。

「ほほぅ、流石じゃな。もう手に入れておったか」

黄金都市を見つけるためには、まず流動するエネルギーの波を検知しなければいけない。

だが、三神ならば場所も直ぐにわかるのではないかと尋ねたのだが、遠く離れた神域からでは、地の底で流動するエネルギーを捉え切るのは難しいそうだ。

ただミラが現場近くにまでいければ、精霊王が正確に感知出来るという。その後、三神側の方でミラの位置を参照して空間を検知。黄金都市に送り込む、というのがこれからの作戦だ。

というわけで、まずは流動しているエネルギーを見つけるわけだが──。

「お任せあれだよ!」

サソリは特別な磁宙水晶の糸を抓んで少しだけ持ち上げた。するとどうだ。水晶がくるりと回り始めると、それこそ磁石が方位を示すかのように方向を指し示したではないか。

「このまま真っすぐだね」

磁宙水晶の動きが落ち着いたところで示す先を見据えたサソリは、自信満々に告げる。その方向に黄金都市があるはずだと。

「ふむ……」

ただ、その点においてミラは、彼女のそれよりもずっと正確に特定する手段を用意していた。

磁宙水晶をちらりと見た後、聖剣サンクティアを召喚すると、その切っ先を下にして地面に立てる。そして、そっと手を離せば完了だ。

「惜しいのぅ。真っすぐから、ちょいと左寄りじゃったな」

流動するエネルギーを遠くから捉えるのは難しい。けれど精霊達の力を合わせれば、やってやれない事はなかった。

三神の知恵と精霊王の力を合わせて、聖剣サンクティアにちょっとした細工を施したのだ。今は精霊王の力で地の精霊ノーミードとサンクティアを共鳴させている状態だ。

するとどうなるかというと、サンクティアの力でノーミードの感度を増幅。流動するエネルギーによって発生する地中の微細な影響を捉えるアンテナとなるのだ。

その結果、地面に立てたサンクティアが、その方向に倒れる仕組みである。

「えー……」

見た目だけなら実にふざけた方法だ。けれど精霊王協力の下で得られた答えであるため、その信頼性は抜群としか言いようがない。

だからこそぐうの音も出ないサソリ。特別な磁宙水晶を手に入れるため、相当に苦労したからだろう。ちょっと不満そうであった。

精霊王とサンクティア、そしてノーミードの協力によって正確な進路がわかった。

というわけで次に必要になるのは、そこへ向かうための足だ。

「ほぅ、これまた立派じゃのぅ!」

「そうでしょ、そうでしょ!」

場所はサソリとヘビが利用していた宿の一角。馬車などを留めておいたりするスペースにて、それを前にしたミラが感心したように称賛を口にすると、サソリは大いに胸を張って答えた。

用済みとなった磁宙水晶の事もなんのその。こっちはどうだと、自信満々なサソリである。

目的地は、地の底で流動するエネルギーの波間を漂う黄金都市。その方角については判明したが、距離については不明のままだ。ゆえに今回は空ではなく、砂漠を進みながら探っていく必要がある。

そして今、そのために必要な乗り物──砂ゾリがミラ達の目の前に、どんとあった。しかもただの砂ゾリではない、相当に立派な砂ゾリだ。

「このしっかりがっちりした見た目からわかる通り、凄いんだから!」

大きさもさることながら、その品質も極めて高いのだと己の目利きっぷりを自慢するサソリ。この砂ゾリで砂漠を縦横無尽に走り回っていたようだ。

これについては、ヘビもその通りといった顔である。

サソリいわく、過酷な環境に挑むからこそケチらずに奮発したという事だ。ゴーレムで牽引するタイプのもので一番乗り心地が良さそうなものを選んだと語る。

「これは確かに、見事なものじゃな」

どれどれと日除けを潜って中を覗いてみれば、よくわかる。大型の馬車のワゴンに似た造りの内装はコンパクトにまとまっていながら機能的に造られていた。通気性もよく、間接的に光を取り入れる構造のため、薄暗さも感じにくい仕様だ。

サソリが自慢げにいうだけはある。この砂ゾリには、卓越した職人の拘りと技術がふんだんにつぎ込まれていた。

「ほんとだ、凄い立派ね」

ミラの隣からひょっこり顔を覗かせたカグラもまた、それらを前にして納得したように呟く。

「これなら四人になっても、きっと大丈夫だよね!」

これまでは二人だったが、次はここに四人が乗る事になる。だがそれでも幾らか寛げるスペースは確保出来るくらいには、まだ余裕のあるサイズだ。

そしてこの砂ゾリをヘビのゴーレムで牽引すれば足の方は完璧であると、サソリは豪語する。

「ふむ、こっちの方が楽そうじゃのぅ」

当初はロッツエレファスの出番かと考えていたミラ。広大な砂漠を大きな象に乗って突き進もうとしていたわけだ。

だが、流石は砂漠の街か。こういった専用の乗り物があったのかと、ミラが感心していたところ──。

「これは、経費?」

「……経費、です……」

問い詰めるようなカグラの視線。これに対してサソリは、そっと視線を逸らしながら白状した。

そのやり取りからわかる通り、どうやらこの立派な砂ゾリはサソリがケチらず奮発したわけではなく、全てを経費で賄っていたようだ。

任務とはいえ予算にも限りがある。だがどうやら二人のやり取りを見た限り、この砂ゾリ一つで予算を大きく上回っていたらしい。

結果、使い終わったら出来るだけ綺麗に掃除して売却し、経費の補填に充てるようにという任務が追加される。

「……立派だなぁ」

サソリは大きな砂ゾリを見上げながら、これの掃除は大変そうだと心で嘆くのだった。