軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

615 脱出

六百十五

「ふむ、間一髪じゃったな!」

「え、どこここ!? びっくり!」

危機的状況から一転。魔王が放った闇の球に呑み込まれる直前だった。ミラは空絶の指環を発動させる事でミスティと共に身を守った。

そして次は、今か今かと出番を待っていたリーズレインの出番である。彼が作ったものだけあって空絶の指環との相性は抜群。指環の力で空間ごと断絶していようとも、彼だけは干渉が可能なのだ。

ゆえにミラは、そのままリーズレインの力で緊急避難用の異空間へと逃げ込む事が出来た、という次第である。しかも今回は当然といえるか、あの場に残していくわけにもいかないためミスティも一緒だ。

「あんなギリギリの状況まで粘らないで欲しいのだがな。見ているこっちが落ち着かない」

そう苦言を呈するのは、魔王の前からミラ達を見事に救出したリーズレインだ。ミラが大人しく帰還を選ばず抵抗するものだから、出番を待っている間アナスタシアと一緒にずっとハラハラしていたらしい。

「いやはや、何ともすまんかった。あのままでは、魔王のために封印を解いただけになってしまうからのぅ。じゃが、ありがとう。あれは流石に大ピンチじゃったな」

リーズレインがいてくれたお陰で、安心して無茶をする事が出来た。そして、だからこそ次に繋げる細工を施す事が出来たと笑うミラ。

「まあ、世界のためだ。少しは目を瞑るとしよう」

始祖精霊の力は規格外だ。ゆえに過干渉になるのは、人のため人類のために好ましくない。だからこそリーズレインもそれをわかって距離をとっているのだが、ミラの事になると少し甘くなってしまうようだ。呆れたように告げるリーズレインの顔には、仄かな優しさが浮かぶ。

なお、精霊王の事を考えると今更であるが、それはそれこれはこれとミラは触れずに黙っていた。

「えっと、あのー……?」

わかり合っているかのように語り合うミラとリーズレイン。と、そんなやり取りをただ見せつけられたまま放置されていたミスティだが、そろそろ場の空気に耐えられなくなったようだ。こちらも気にしてはもらえないだろうかと、小さく主張する。

「なんだ?」

基本的には、愛想控えめなリーズレイン。だからだろう、初対面となるミスティにとっては少々圧が強めの対応だ。ミラと話していた時とは違って淡白な反応である。

対するミスティはというと、一目で上位の精霊とわかるためか、その反応におっかなびっくりしたもの。そして、どうしようとミラに幾度となく視線を送る。

「そうじゃったそうじゃった。急ですまんかったが紹介せねばな。えー、ミスティよ。こちらは、異空間の始祖精霊であるリーズレイン殿じゃ」

「え……始祖様!? えー!?」

ミラがさらりと紹介したところ、その言葉の意味を呑み込む時間が必要だったのか一瞬だけ呆けた後に、ミスティはこれでもかとわかりやすいほどの驚きを露わにしていた。

とはいえ、始祖精霊と言えば精霊王に次ぐ力を持つ存在だ。ゆえに上位精霊と比べても格が違う。気づけばそんな始祖精霊が目の前にいるなんて言われれば、驚くのも無理はないだろう。

ただミスティは、驚くばかりではなかった。そんな始祖精霊がいたからこそ現状を把握するのも早く、もう安全であるとも理解出来たようだ。

「ミラちゃんが無事でよかったよー!」

驚きも戸惑いもあるが、彼女にとって何よりも大事なのはそれだったようだ。飛びついてきたミスティが、これでもかと頬ずりしてくる。

ミスティにとって、ミラが初めて出来た友達だった。だからこそ余計に心配だったらしい。それこそ、あの魔王との間に飛び込んでくるくらいに。

「では、送るぞ」

二人の姿を一瞥して、どちらにもこれといった問題はなさそうだと判断したリーズレインは短くそう告げる。そしてミラとミスティを、この緊急避難用の空間から送り出した。

「今度は、どこ!?」

「お、ここは甲板じゃな」

目的地のあった山脈より、北へと進んだ先。そこにある運河の支流に、ミラ達の飛空船は停泊していた。

リーズレインが送り届けてくれたのは、その甲板だ。

岩だらけの荒野と、僅かな草。そこを貫く大きな河。山脈にあった、あの秘境のような森と比べたら、何もない事この上ない景色が広がっている。

「凄い、凄いね! 空が広い! 青い! 見えないくらい遠くが見えるよ! って、これも凄いね。これが家ってものなのかな? おっきい!」

ただ、あの森で暮らしてきたミスティにとっては、むしろこの景色の方が珍しかったようだ。果てしない空と、どこまでも続く大地を見晴らしながらはしゃぎ始めた。

きっと今のミスティには、全てが新鮮に映っているのだろう。この飛空船についても興味津々な様子である。

一先ず報告に行くのはミスティが満足してからにしようか。と、彼女の反応を前にそう思っていたところ──。

「って、え。いつの間に戻っていたんだ!?」

甲板に佇んでいたミラの姿をいち早く見つけたようだ。甲板の上の展望台から、ノインが慌てたように飛び降りてきた。

「それはもう、つい今しがたじゃよ」

ミスティを見守りつつ、そう受け答えをするミラ。なお、リーズレインの協力によって本来ではあり得ない早さで戻ったとあって、どことなく自慢げである。

「まったく、とにかく心配──カグラちゃんが心配してたぞ!」

ミラの態度はともかく、カグラの式神による連絡手段が途切れた事が幾らか影響していたようだ。ノインは心底安堵したといった顔を隠しつつ、「とにかく何があったか皆も気にしているから」と口にする。

それから続きノインは、ミスティの方に目を向けた。

ワクワクと目を輝かせながら甲板をあっちにいったりこっちにいったりしているミスティ。

「おーい、そこの君。えーっと、君はミスティオーネさん、で合っていたかな?」

そんな彼女については初対面となるノインだが、ピー助を介した情報については皆もある程度共有しているようだ。見た目から何となく予想出来たのだろう。ノインが、そう話しかける。

「うん、そうだよ。でもでも、ミスティって呼んでくれたら嬉しいな!」

名前を呼ばれたミスティは、ノインの姿を目に留めるなり好奇心をいっぱいに湛えながら駆け寄ってきた。そして快活に答えた彼女のテンションは、とても高い。どうやら初めてみるもの、初めてみる景色、何よりミラ以外の人に興奮しているようだ。

「わかった。そうしていいのならそうするよ、ミスティ。で、俺はノインだ。よろしく。それじゃあ、とりあえずは色々とどうなったのか聞きたいから、二人とも一緒に来てもらっていいかな。見学は話を聞かせてもらった後、好きなだけしてくれればいいから」

「うん、いいよノイン!」

二人目に出会った人間という事で、ミスティはノインにも興味を持ったようだ。案内する彼の後ろを素直についていく。

(何というか、なるべく早めに森に帰したい気持ちになってくるのぅ)

ミスティは直ぐ悪い人間に騙されそうな気がする。そんな懸念を抱きながら、ミラもまた二人の後に続くのだった。

ノインと共にやって来たのは、飛空船の作戦室だった。直ぐに連絡が届いていたようで、ミラ達が到着する時には既に技術者勢も含めて全員が集まっていた。

「うんうん、無事に戻れたようだね」

ミラが姿を見せたところで、これといって驚いた様子もなく迎えたのはアンドロメダだ。

今のミラには、リーズレインという非常に心強い味方がいる。だからこそ、どのような窮地にあっても逃げるだけならばどうとでもなると彼女はわかっていた。だからこその態度だ。

また、ソウルハウルにヴァレンティン、ハミィらもミラの実力をよく知っているからこそ、その態度にはあまり心配の色は浮かんでいなかった。むしろ、思ったよりも早い戻りだったという反応だ。

「なんで、あの時点で直ぐに帰ってこないのよ」

ただ、魔王の力を実際に確認していたのみならず、一瞬でピー助を貫かれたという事もあってか、より危機感に差があったのだろう。カグラは随分と心配していた様子であった。それはもう不貞腐れたようにミラを睨み、文句を吐き出してくる。

ピー助の消滅によって、ミラ側の状況を知る事が出来なくなったカグラ。しかもそこからミラは色々と画策し魔王に抵抗していたとあって、それなりの時間も経過している。

直ぐに逃げられるリーズレインの存在も知っているからこそ、直ぐに戻ってこないミラに余計やきもきさせられていたようだ。

「いやはや、すまんすまん。あのまま何もせず直ぐには帰れんと思うてな。ちょいとばかし工作しておったのじゃよ──」

不機嫌そうなカグラを宥めながら、ミラは現場にて行った工作についてを語っていった。

まず、ある程度の戦闘を経て魔王の強さの一端が知れた事。そして何よりも、回収失敗に終わってしまった骸についても幾らかの可能性を残せたはずだと。

「──というわけで、まだピー助が消されただけで式符自体が消えたわけではなかったのでな。半分ほど焼け焦げてしまっておったが、もう半分にはまだお主のマナが残っておった。そこで考えたわけじゃよ。再起までは出来ずとも、繋がり自体は追えるのではないかとな。それで、ちょちょいと仕掛けてきたという次第じゃ。どうじゃ、カグラよ。何とか感知は出来んかのぅ」

魔王の力は、公爵級のそれをも上回るものだった。よって一も二もなく逃げる事が、あの場での最善策だ。

その答えに至るのは実に簡単だったが即退避はせずに、ある程度粘り動き回っていたのには当然わけがあった。

それは、追跡の芽を繋ぐ事だったとミラは告げる。

魔物を統べる神の骸に施された封印だが、その仕組みを三神から教わったミラにとっては、これを多少弄る事も難しくはなかった。

だからこその工作活動だ。どうにかこうにか封印された胴体の傍にまで辿り着き、そこに僅かな隙間を作って、ピー助だった式符を詰め込んだのだ。

「なるほど、でかしたおじいちゃん!」

不機嫌そうだったのも束の間。理由と努力の結果を理解したカグラは、すぐに集中し始めた。

陰陽術に用いる式符だが、この扱いに至ってはカグラの右に出る者はいない。そしてカグラは、これを利用してそれこそ様々な術を行使する。中には式符をリサイクルするようなタイプのものもあった。

式符自体に損傷がなければ、これとの繋がりを結び直し、ピー助を再び顕現させる事も出来るのだ。

今回は、式符の半分が焼けてしまっているため再利用するのは不可能だろう。だが、まだ若干のマナが残っている今、式符のある場所を察知するくらいならば出来る。そして、こういった式符の使い方については、カグラの得意分野でもあった。

「──……うん、感じる。ここから、もっと南の方に移動しているみたい」

結果、カグラは見事にその位置を見つけ出した。加えて、どこかに向けて動いている事までわかったようだ。

「移動しているって事は、つまり……?」

「もしかしたら、魔王の拠点がわかるかもしれないって事ですね!」

どこに向かっているのか。ハミィがその可能性に気づいたところ、ヴァレンティンがそういう事かと声を上げる。

折角見つけ出した骸を逃さないためもあるが、何よりもこれを仕掛けたミラの狙いは、魔王がこれをどこへ持っていくのかを突き止める事にあった。

「うむ、そういう事じゃよ。あのまま逃げ帰っては、魔王の目論見通りに封印を解除してやっただけという汚点しか残らんかったからのぅ。ならばわしも利用させてもらおうと思ってのぅ。まぁ、これを実行出来たのは、何よりもこのミスティがいてくれたお陰でもあるのじゃがな」

作戦はうまくいったようだ。問題なく追跡出来ているというカグラの言葉に気をよくしたミラは、ミスティと肩を組みながらどんなもんだと胸を張って笑った。

すると同時に皆が、そういえばといった目でミスティに注目した。

「そうそう、それであの後何がどうなって彼女まで連れてきちゃったのよ」

もう当たり前のようにミラの隣にいるミスティだが、そもそも魔王と遭遇してから何があればこうなるのかと疑問を投げつけてくるカグラ。

途中まではピー助を通して情報が伝わっていたため、皆も把握している事だ。ただミスティとは一度、魔王と遭遇するよりも前に別れている。また何よりも彼女の住まいは、あの秘境だ。

だからこそ皆の心境は、勝手にこんなところに連れてきてよかったのか、というものだった。

「それがまた色々あってのぅ──」

これには、そうせざるを得なかった理由がある。そう前置きしてから、ミラはあの後の熾烈極まる戦いについて──何をどうして作戦を成功させたのかについてを語っていった。