軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

616 ミスティパワー

六百十六

「つまり、あの魔王も惑わせるくらいだったって事よね。凄いじゃない!」

ミスティの霧のお陰で、魔王が相手でも身を隠す事が出来た。そしてそれこそが工作成功のカギとなった。

ミラが一通りの説明を終えたところで、最も驚きを露わにしたのはカグラだ。魔王の力を見ていたからこそ、その目を眩ませる事が出来たのがどれほどのものか明確に理解したのだろう。もう一人の功労者だとミスティを絶賛する。

「霧で、か。ただの霧じゃあないって事なんだろうけど、いまいちピンと来ないな」

「視界を遮るには有効そうですが、それだけでどうにかなりそうにありませんからね」

カグラの反応からして、余程なのだという事はわかる。けれどノインとヴァレンティンは、そう一番に浮かんだ印象を口にした。

何といっても、ここに揃う面々は数多くの状況下においても実力を発揮出来る強者揃いだ。当然濃霧中での戦闘にも心得があり、だからこそ魔王の力とミスティの力の両方を計りかねている様子であった。

「どんな感じの霧なのか見てみたいなぁ」

「そうだな。どの程度なら魔王に通用するのか、指標に出来そうだ」

魔王すらも惑わせた霧とはどれほどのものか。ハミィが是非とも体験してみたいと口にしたところ、ソウルハウルもこれに同意を示した。

すると更に同じような声が次々に上がっていく。

「わかりました、お見せしますよ!」

皆の期待に染まった視線が集まる中、ミスティは怯む事なく、むしろ嬉しそうに答え得意げに霧を広げ始めた。

するとどうだ。ミラ達がいた部屋は、一秒に満たない間に霧で埋め尽くされたではないか。

「おお、とんでもないね!」

「なるほど、思った以上だ」

霧の精霊というだけあって、その発生の早さは驚異的だ。ここまであっという間なのかと驚くノインと、感心気味なソウルハウル。

「凄い、まったく見えない。わかんない!」

「なにこれ、こんな感じになっちゃうの!?」

対して、楽しそうなハミィ。カグラはというと、これほどのものだったのかと困惑すらしていた。

「これは確かに、混乱しそうですね」

「そうじゃろう、そうじゃろう!」

濃霧に覆われる中、納得したようにヴァレンティンが呟けば、ミラは方々から上がる皆の反応を聞いて愉快そうに笑う。

ただの霧であったなら、ここまでの反応にはならなかっただろう。だがミスティが発生させた霧は、自然発生する普通のそれとはわけが違っていた。

そう、霊脈の影響を受けた地底の霧を、そっくりそのまま再現した霧であったのだ。視覚のみならず聴覚から嗅覚に至るまでことごとくを狂わせる、あの迷いの霧だ。

視界は真っ白。発した声は多方向から乱反射して返ってくる。更に匂いまで方々に分散し、あちらこちらから漂ってくるのだから余計に性質が悪い。

結果、立ち止まっているにもかかわらず、動いているような、いっそ振り回されているような錯覚に陥ってしまう事もある。

ミスティは、広範囲をそんな霧で覆い尽くす事が出来る。この事実を前に、全員が満場一致で霧の凄さに納得を示した。

「おっと! いたた……」

そんな中、これまでにない感覚とあってか、堪らずよろめいてしまったようだ。ヴァレンティンの声と共に、何かにぶつかったような音があちらこちらから反響する。

これは更に影響が出る前に、霧を晴らしてもらった方がよさそうだ。と、ミラがミスティに解除を頼もうとしたところ──。

まるでヴァレンティンのそれを合図にしたかのように、誰かが動き出したような足音が響いた。

今動くのは危険であるのだが、堪らず動いてしまったのか、それともわかって動いたのか。

その答えは、そう掛からずにはっきりした。

「うわっ、ぶつかっちゃった。てへへ」

「ちょっ、ま──!」

ハミィだ。それこそ何かを狙って確信的に動いたと思われる彼女は、ノインを巻き込んだようである。深い霧の奥から二人の声が木霊する。

「って、ちょっと!?」

その直後だった。声の様子からして、ふざけたハミィのそれが更に連鎖したのだろう。カグラの慌てたような声が上がった。

「ぬぐぉ!?」

霧のせいで距離感が掴めないが、どうやらそれはすぐ近くでの事だったようだ。突然何かにぶつかられたミラは、そのままひっくり返るように転倒し潰されたカエルのような声を上げた。

いったい深い霧の中で何が起きたというのか。これは大変かもと、ミスティは直ぐに霧を散らしていった。

発生も一瞬なら、晴れるのも一瞬だ。部屋の視界は一気に広がり、同時にそこで何が起きていたのかもまた露わになった。

「あん、もう……ノイン君たら、だ・い・た・ん」

「いやいやいや、そっちからぶつかってきてたよね!?」

ハミィとノインが床に倒れたまま折り重なった状態で見つかった。一見すると美少女を押し倒すイケメンといった絵面である。だが美少女の方は満更でもなさそうで、イケメンは不本意そうというのが、そこに秘められた真実だ。

そして誰もがその真実を把握しているからこそ、ノインの方に憐れみの目が向けられていた。

ただその一方で、皆が反応に困る状況も生じていた。

「わしは何もしておらんからな!?」

「私だって、何かに押されてこうなっただけだから!」

その傍で、ミラとカグラも床に倒れ折り重なった状態で見つかったのだ。

しかもこちらの方はというと、カグラがミラを押し倒したような形になっているため余計に厄介だった。

これが逆の形であったなら茶化して済ませる事も出来ただろう。なんならミラが一発二発ひっぱたかれれば、そのまま笑い話にでもなったはずだ。

けれど現状は、なかなかの惨状ぶりである。

「っていうか、何でこんなふうになってるのよ!?」

「わしも知らん」

ひっくり返り方があまりよくなかったのだろう。カグラの下敷きになっているミラのスカートは、これでもかというくらいに捲れあがってしまっていたのだ。

ただミラ自身は、これを気にした様子もない。だがその状態に気づいてしまったカグラの反応は違った。

このまま起き上がったら、パンツ丸出しのミラが大公開される事になるわけだが、カグラがそれを許すはずがなかったのだ。

そのためカグラは姿勢そのままに、がさごそとミラのスカートを整えていた。ただ理由はともあれ、ちょっともぞもぞしているその様が何となく怪しく見えるものだから不思議だ。

「とても素敵な百合だと思います」

手間取り時間がかかってしまったからこそ、皆の注目もまた十分に集まってしまう。特に一部には心に迫るものがあったようだ。

技術者組の誰かが、そんな素直な感想を口にする。だが直後、カグラの冷たい視線を受けて押し黙った。

「もう、気を付けてよね!」

ミラのスカートを整え終えたカグラは、勢いよく立ち上がりながらノインとハミィを睨みつけた。

状況から考えて、間違いなくハミィの悪ふざけが原因である。二人がカグラにぶつかって、次にミラを巻き込んだわけだ。

「僕もスカートにしておけばよかったかなぁ」

「とんだとばっちりだ……」

ハミィは、まったく反省した様子もない。どちらかと言わずとも被害者側のノインだが、カグラにしてみれば、盾役がそんなに簡単に体勢を崩されてどうするといった見解のようだ。まさかの巻き添えである。

「えっと、なんかごめんね。やり過ぎちゃったかな」

「いや、ふざけたあの小娘が全ての元凶じゃ。お主のせいなんて事はない」

ちょっとしたハプニングを前に、反省気味のミスティ。そんな彼女に対してきっぱりと罪はないと告げるミラは、何もかもハミィが悪いと断言するのだった。

とにもかくにも、ミスティの霧の凄さは証明された。

大規模な場所であっても、この早さで霧に覆えるとなれば十分な目晦ましにもなり得る。そして、この霧のお陰で工作がうまくいったとミラが話せば、役に立ててよかったとミスティも嬉しそうだ。

「それじゃあ次は、決戦魔王城ね!」

「いや、城かどうかは知らんが、まあその通りじゃな!」

「ああ、場所がわかるなら潰せる時に潰した方がいい」

霧に覆われた状況下での工作ならば、魔王も簡単には気づけないはずだ。となれば、このまま敵の拠点にまで運ばれる可能性は十分にある。そして拠点が判明したら、当然襲撃するしかないと意見を一致させるのは、カグラとミラにソウルハウルだ。

「そのためにも、しっかり準備を整えないとですね」

続き三人よりも、もう少しだけ慎重な意見を口にするのはヴァレンティンだ。襲撃の成功率を最大限に高めるために必要なものは何か洗い出そうと提案する。

「そういうの、嫌いじゃないよ!」

それは単純明快でいいと既に乗り気なハミィ。遠距離での制圧はお任せあれとやる気満々だ。

「……いきなり頭を狙おうとするとか、流石九賢者だな」

当たり前のように話し合い始めたミラ達を前に、ノインはどこか呆れたように笑う。

一番の目的は、魔物を統べる神の復活に備える事。現在はその一番有力な手段として、封印された骸の捜索と処理を行っている。

よって選択肢としては、魔王よりも先に次の骸を手に入れてしまうという策も残っていた。

また他にも敵拠点が判明するなら、相手側の動きを監視したり、戦力を分析したり、作戦を妨害したりと、やれそうな事は幾らでもある。それこそ、まず外堀から埋めていくのが堅実というものだ。

だがミラ達は、真っ先に魔王を討伐してしまおうと言い出した。骸を巡って競争するよりも、まずは対抗馬である敵を先に片付けてしまった方が早いという考えだ。

こういったところも、国の違い、国力の差による考え方の違いというものなのか。そんな事を考えながらノインもまた、その話に加わった。

「敵の拠点に乗り込むにしても、このままというわけにはいかないよね。まずは準備が必要だ。それで今以上の戦力が必要になりそうだけど、さてさて具体的にどのくらい必要だと思う?」

魔王城攻略作戦の計画をまとめていく中、いよいよといったタイミングでアンドロメダがそこに触れた。

カグラの追跡が成功し魔王の拠点が明らかになった後、これを監視するための方法については一通り固まった。

それで次は、魔王側にどの程度の戦力が揃っているのかといったところだ。

相手は、公爵級をも超える力を持つと想定される魔王である。だからこそ現在のメンバーだけで乗り込むのは無謀が過ぎるというもの。では、加えてどれだけの戦力が必要になってくるのか。アンドロメダは実際に戦ったミラに対して、どの程度かと意見を求めた。

「ふーむ……これまでに戦ってきた何よりも重圧感があったからのぅ。それでいてまだ、底の知れぬ感じじゃった──」

最終的にミラは、魔王の力は計り知れないものだったと率直な意見を述べた。何より、このくらいいれば勝てそうと断言出来るほどの情報を得られていなかったからだ。

ただ、倒す事は出来るはずだとも続けた。戦闘時間は僅かだったものの、魔王はこちらの攻撃に対して避ける動きを見せていた。ゆえに、攻撃が一切効かないというような事にはならないはずだと。

「ならもう、ありったけだな」

確実な魔王討伐を目指すのならば、それしかないとソウルハウルが結論を告げる。

強大で、しかも未知の敵を相手にするというのなら、政治だバランスだと考えている場合ではない。それこそ、国家級の戦力をつぎ込めるだけつぎ込むべきというわけだ。

「まあ、それが一番じゃろうな」

ミラもまた、可能であるならばそれが最も確実な方法だろうと頷く。

「いったん国政的なあれこれの問題を度外視するなら、それが確実ではあるか」

「うんうん。手続きとか大変そうだけど、それしかないよねぇ。あーあ、前みたいに出来たら楽なのになぁ」

それを実現するのは簡単な事ではないが、ノインも一先ずは同意する。そしてハミィも出来るならばそれに越した事はないと頷き答えた。

かつてのミラ達は、グランデ級の敵と初めて戦う際には各国の合同で挑んでいたものだ。敵の情報を得る目的もあるが、大暴れ出来る場でもあったため毎回お祭り騒ぎだ。

けれど今は昔と違って、何かと国際法に縛られる場面の多い時代になった。

今の時代に、そこまでの戦力を同時に動かし集結させようとしたら、大陸全土にどのような影響が出るかわかったものではない。また、それを実現するためには、どれほどの手回しが必要になるのか、もはや見当もつかないほどだ。

「それじゃあまあ、詳細については後で各国のお偉いさん方も加えて話し合うとして、この件については共有するまでに留めておこうか。今はまず、ちゃんと魔王の拠点をみつけて、詳細はそれからにしよう」

いざという時に動けるよう下準備は必要だ。けれど、まだ全てが確定しているわけではない。魔王の拠点に攻め込んで頭を潰すといっても、まだ向かう先が本拠点かどうかも定まっていないのだ。

よって情報収集が最優先だと話すミケは部屋の端にある通信装置を使い、研究所側にもここまでの情報を伝え、各国への報告も頼むのだった。