軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

596 思わぬ移送

五百九十六

「ところでミラ様。こちらから運び出すとして、移送手段というのはどのような方法となっているのでしょうか?」

魔物を統べる神の骸について、これを持ち出す事をロア・ロガスティア大聖堂側は認めてくれた。ただ話はそこで終わらない。大司教の一人がそのような質問をしてきたのだ。

移送対象は極めて重要であり、同時に危険な代物だ。ゆえに、そこを気にするのもごもっともなところだろう。

「ふむ、今のところじゃと──」

それを受けて、ミラは予定していた移送方法を答える。

現状、移送対象が持つ不穏な力と影響を考慮して、異空間を経由する事は出来ない。よって転移で楽々という手は見送りだ。

そのため単純だが確実な、ガルーダワゴンによる空輸で目的地まで運ぶつもりであった。そしてその際には、精霊王の協力を得て特別な封印を施していく事になる。

と、ミラは移送手段について、そのように伝えた。

「ガルーダで運ぶワゴン……ですか」

「空からとなれば、速くて安心ですね」

悪くない方法であると二人が納得を示す中、思案顔だった一人が「それは、どのようなワゴンなのでしょうか」と口にした。

もしかしたら今後の未来に大きく影響してくる選択になるかもしれないため、念を入れて確認しておきたいと、そう言い始めたのだ。

「なかなか頑丈な造りじゃが……ふむ、ちょいとこの部屋では出せんのぅ」

ワゴンは、アイテムボックスに入れてある。だがここの会議室だと広さはあるが高さが足りないと答えたミラ。すると三人は、ならばこのまま封印の間にまで移動してしまおうと提案する。

どうやら封印の間という場所は、かなりの広さがあるようだ。

「それがよさそう。それじゃあ移動しましょ。ミラさん、ついてきて!」

言うが早いか、一番に動いたのは教皇だった。三人が次から次に話すため言葉を差し挟む余地もなかった彼女は、ここにいるぞと主張するように声を上げて歩き出した。

ロア・ロガスティア大聖堂の地下。中心部のあたりから随分と進んだ先に封印の間はあった。

「思った以上に広いところじゃな。それに、なるほど。あれがそうか」

四方八方を金属質の壁に囲まれたその部屋は、更に全体が封印の文様で埋め尽くされていた。

いったいどのような技術と術式が使われているのか、見ただけでは理解出来ないほどの封印技法がここには存在している。

そんな部屋の中央には、棺が置かれている。教皇が言うに魔物を統べる神の骸は、そこに封じられているそうだ。

「ふむ、どれどれ──」

ワゴンを見せる予定だったが、先に移送対象を確認しておこう。そう考えたミラは、教皇達の許可を得て棺に近づき、その中を覗き込んだ。

棺に蓋はなく、見ればすぐに中が確認出来る。そこにあったのは、正方体の白い石のようなものだった。様々な封印を重ねた事で、そのような形になったそうだ。

「結構、大きいのぅ」

「うん、重さもかなりあるからね」

随分と厳重に封印を施したらしく、大人一人では抱えきれないくらいの大きさがあった。

とはいえ、その封印自体は驚くほどに素晴らしい状態だった。このために用意されただけの事はあると、精霊王も感心気味である。

いっそ安全面や確実性などを考慮するのならば、ミラと精霊王とで応急的な封印を施すよりも、このまま運んだ方がいいかもしれないそうだ。

「一応、載せられはしそうじゃな」

このくらいの大きさでも、移送に問題はないだろう。ミラはそう確信しながらワゴンをその場に取り出してみせた。

「おお、これは立派な」

「なるほど、かなり頑丈そうですね」

「この大きさならどうにか……」

今の状態のままでも、十分に運ぶ事が出来そうだ。と、そう納得を示した三人なのだが、はてどうした事か三人はそれだけに留まらず、ワゴンの隅々まで確認し始めたではないか。

「なんじゃなんじゃ。何を企んでおる?」

その動きは、どうにも様子が違っていた。肝心の骸については、もう十分に問題はないと決着してもなお、ここまで隈なく調べるのはいったい何のためか。

どこか不穏な動きを始めた三人を訝しむミラだったが、その理由については直ぐに判明した。

「肝心の消滅までを見届ける事は難しいとの事ですが、せめて出来るだけ近くまで同行させてはいただけませんか!?」

と、ここにきてそんな事を言い出したのだ。

この封印の間と共に語り継がれてきた、終末戦争の未来。その秘密を代々引き継いできた守り人として、ここで引き渡して終わりでは呆気なく落ち着かないと、また言い始めたのだ。

(ふーむ……)

日之本委員会は、元プレイヤー達の秘密基地のような場所だ。しかも、オーバーテクノロジー気味なあれこれがわんさか存在する場所でもある。

そんな場所に教会のお偉方を連れていくのははたして、どうだろうかというのが悩みどころだ。

「難しいのはわかるけど、どうにかお願い出来ないかな。私も頑張って隅っこの方で小さくなっているから」

と、三人の要望にどう返そうか迷っていたところだ。何やら今度は教皇が、そんな事を言い出したではないか。

「教皇殿もついてくると!?」

「もちろん!」

いわく、移送中の封印を維持管理するためにも、同行する必要があるらしい。

今は極めて安定した状態を保っているが、それは何よりこの封印の間の中だからこそ。ここから運び出すとしたら定期的に調整しなければいけないそうだ。そしてそれが出来るのは教皇ただ一人。

つまりは、ここから持ち出すといった時から教皇の同行は決定していたわけだ。

一緒に三神国巡りをした時の事から考えると、一緒に行きたいと三人が騒いでいた時に静かだったのを不思議に感じていたミラ。

けれど、ここにきてようやく納得する。初めから彼女なしでは骸を持ち出す事が出来なかったからなのだと。

(どうしたものかのぅ……)

三神教会のお偉方の同行をどうこう言っている場合ではない。それどころか三神教会のトップの身柄を預かる事が決定しているようなものだ。

そこまで担うとなったら大役が過ぎる。それほどの責任を負うのは避けたいと考えるミラではあったが、教皇と三人の目は真剣そのもの。四人の顔には、並々ならぬ決意で漲っていた。

三神教会創設から今日まで伝えられ続けてきた伝承の行く先が、いよいよ目の前にまで迫ってきたという状況。ならば最後まで見届けたいと思う気持ちも、確かにわからないわけではない。

責任的には、極めて重い決断が迫られる。ただそんな気持ちの問題以外に、もう一つ大きな問題があった。

「いや、流石にこの人数は乗れんぞ!?」

見れば四人は、ミラのワゴンに相乗りする気満々だったのだ。仕方がないと承諾しようにも、ワゴンの容量的に不可能と言わざるを得ない。

ミラ一人に加えて教皇と、更にそこへ三人が入ろうものなら、快適に造られているワゴンであろうと窮屈が過ぎる。

しかも、このロア・ロガスティア大聖堂から日之本委員会の研究所までは、かなりの距離がある。到着するまでの長時間を、そんなぎゅうぎゅうの状態でいようものなら息が詰まるというものだ。耐えられるはずがない。

だからこそ、気持ちには応えてやりたいがこればかりは仕方がない。そうミラが返そうとしたところだ──。

「なんなら、そこの御者台にでも縛り付けておいてくれればいい!」

「その中に収納のようなところがありますよね。私は、そこに詰め込んでください!」

「幾らか対策すれば、その屋根の上でも耐えられるでしょう。私はそこで構いませんよ!」

ミラが口にするのが色よい返事ではないと察知したのか、三人は一気にまくし立てるようにそう言った。

もはや同行さえ出来るのならば荷物のような扱いでもまったく構わないと主張する。

「どうかな、ミラさん。どうにか出来たりしないかな?」

是非ご一考をと熱心に頭を下げて懇願する三人と、どうにかその要望を叶えられる方法はないかと願い出る教皇。

「わかったわかった。とりあえず、まずは向こうに聞いてみるのでな。ちょいと待ってもらってもよいか」

教皇達の激しい熱意に、いよいよ観念したミラ。

もしも諦めてもらうとしたら、かなりの理由を提示しなければいけないだろう。また同行を認めるにしても問題が色々とある。

一番は、やはり日之本委員会側の判断だ。機密性が極めて高い場所であるため、誰彼構わずひょいひょいと連れて行っていい場所ではない。

よってまずは、それらの確認が先だ。

ミラは向こう側の責任者に相談してみると言ってから、そのままワゴンに乗り込んで通信装置を日之本委員会へと繋いだ。

「まさか、こんな事になるとはのぅ……」

ロア・ロガスティア大聖堂を訪れた次の日。大空を行く飛空船の甲板にて、青く澄み渡る空から視線を下ろしていったミラは、そこでおっかなびっくりしながらもはしゃいだ様子の大人三人を見据え、こんな選択肢が飛び出してくるとはと苦笑する。

「それもこれも、きっと三神様のお導きでしょう」

自慢げというか、誇らしげというか。そう胸を張って空を見上げるのは教皇だった。

ミラ達は今、日之本委員会の研究所に向かう飛空船に乗っていた。

いったい何がどうしてこうなったのかというと、それは昨日ミラが相談を持ち掛けた事に起因する。

魔物を統べる神の骸の移送についてと、それに伴う教皇達の要望について。これらを日之本委員会の所長オリヒメと、今作戦の責任者であるアンドロメダに伝えたところ、ミラの予想とは裏腹に、あれよあれよという間に話が進んでいった。

そして気づけば、魔物を統べる神の骸と教皇達を一緒に移送する事となり、日之本委員会側より小型の高速飛空船が派遣されてきた次第だ。

「何やら見返りにあやつらも随分とふっかけたような気もするのじゃが、よかったのかのぅ?」

「それはもう全然気にしないで。それについても皆乗り気だから。私も含めてね」

日之本委員会の研究所は、秘密の場所になっている。だからこそ、そこに招き入れるなど難しいと思っていたミラ。けれど蓋を開ければ、むしろ丁度いいという言葉が返ってきた。

オリヒメいわく、現在研究所内に三神教会を建造しようなんていう計画が動いていたというのだ。

だが、ある程度話が進んだところで問題に突き当たる。それは三神教の決まり事の一つとして、むやみやたらに教会を建てられないようにするための条約だった。

教会を新たに建築するためには、三十年以上教会に勤める大司祭以上の者の認可と立ち合いが必要となる。しかもそのためには多くの手続きまで必要になっていた。

ゆえに研究所内では、形だけの教会にしてしまうか、しっかりと手順を踏んだ三神教の正式な教会にするかで意見が割れていたそうだ。

そこへ降って湧いたのが、今回の要請である。

つまり、研究所内の教会建設に協力してくれるのなら全てを許可する、という形になったのだ。

「色々と祭具も運び込んでおったところをみるに、結構大変なのじゃろう? まあ、それで構わぬというのなら、もう何も言う事はないのじゃが」

相手は三神教の頂点である教皇と、各派閥の長となる大司教。教会の建築認可と立ち合いならば、そこまでの位でなくともよかった。

つまり今回の新規教会の設立は、無名の中ボス戦に伝説の英雄が四人も出張ってきたような状態であるわけだ。

だからこそ流石にどうなのだろうかと思ったミラであったが、教皇が言うに、あの三人はすこぶるやる気に満ちているとの事だった。

「このように大空を飛ぶとは、素晴らしい」

「これから向かう場所で開発されたという話でしたね」

「今から楽しみでなりませんな!」

ふと風に乗って聞こえてきた三人の声は、教皇の言った通りのものだった。

飛空船、そして大陸鉄道など。多くの革新的な技術を世に広めていった特別な技術者集団、日之本委員会。

そんな研究所に教会を建てるなんて、これほど素晴らしい事はない。と、三人は大盛り上がりだ。

「きっとあの三人が神事や祭礼を大変なんて思う事はないと思う。それに私も、結構わくわくしているのよね」

少しでも近くで魔物を統べる神の骸の消滅を見届けられるのみならず、素晴らしい場所での教会設立にまで立ち会う事が出来る。三人のみならず教皇もまた、伝え聞くしかなかった日之本委員会の研究所とはどんなところなのか、そしてどんな教会が建つのか楽しみだそうだ。