軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

597 骸、二つ目。

五百九十七

ロア・ロガスティア大聖堂から飛び立った飛空船は、特にこれといった問題もなく翌日の朝には日之本委員会の研究所に到着した。

なお、あえて問題点を挙げるとすれば、大司教達のテンションが一晩中高かったというところだろう。

「さて、アンドロメダは作戦室じゃろうか?」

「そうだね。このまま向かってくれたまえ」

飛空船からの荷下ろしやら何やらは、全てミケが手配してくれていた。魔物を統べる神の骸のみならず大司教達が持ち込んだ祭具も含め、研究所専用のカートに積載完了。そのまま楽々と移送可能だ。

「馬もゴーレムもなしに、これほど軽く」

百キログラムは軽く超える荷物も何のそので運んでしまえるカートの性能に目を見張る大司教達。そして、これがあれば多くの祭儀の準備が捗りそうだと盛り上がるも、これはまだ研究所以外で運用する予定はないとミケが答えたところ、それはもう目に見えて落ち込んでいた。

とはいえ、この研究所にあるのは、教皇と大司教達にとって初めて目にするものばかりだ。そのため、また直ぐに別の技術へと好奇心が移っていく。

そのように次々と興味の対象を変えていく四人を連れて、どうにかこうにか目的地のコンテナ作戦室に到着した。

宇宙科学技術研究開発部の巨大な建造場の一角にあるため、やはり四人が気になるのは周囲に広がる光景であろう。あれはなんだ、何を造っているのか、どういったものなのだろうかと疑問と興味が留まるところを知らない。

そしてミラもまた、その全てを知っているわけではないため細かい事はここの誰かに聞いてくれと答えるのがせいぜいだ。

「アンドロメダやー、おるかー?」

とにもかくにも次の予定は変わらない。後はまたアンドロメダと共に神域に行って、神器で骸を消し飛ばすだけだ。

「はーい、いるよー。っと」

快活な返事と共にコンテナから出てきたアンドロメダは、同時にミラの傍にいる四人に目を留めてから、何やら不意に態度と雰囲気を変えた。

「やあ、ようこそ。はるばるこんな遠くまで、大変だっただろう」

どういうつもりか、何気なく格好つけたような態度のアンドロメダ。しかも、その目にはどことなく期待のようなものが浮かんでいた。

今更、何を考えているのか。そんな事より早く用事を済ませるぞと、そうミラが言おうとしたところだ。

「な、なんと!」

「そんな……もしかして!?」

それはいったいどういった反応なのか。直後、アンドロメダを目にした教皇達の間に緊張が走った。

瞬間、ミラは思い至る。既に見慣れてしまっている感覚だが、そういえば彼女には悪魔と同じ角があったという事に。

だからこそ勘違いさせてしまったのかもしれない。と、ミラは慌ててアンドロメダについて説明しようとしたが、教皇の口から思わぬ言葉が飛び出してきた。

「もしかして貴女は、天魔族の方ですか!?」

なんとアンドロメダについて説明するより先に、教皇がその正体を言い当てたのだ。

しかも大司教達も同じ事を思ったのか。三人の顔にも教皇と似た、驚きと期待の色が浮かんでいた。

教皇が言うに、決戦にまつわる三神教の古い言い伝えで、天魔族の存在が記されていたそうだ。ゆえに三人は、本当に伝承通りなのかとアンドロメダに注目する。

「素晴らしい! 一目でそこに気づくなんて、流石は三神のお膝元! その通り、何を隠そうこの私こそが天魔族のアンドロメダさ!」

アンドロメダの反応は、今までで一番の喜びに満ちていた。名乗るより先に、それこそ一目見ただけで気づいてもらえたというのが何よりも嬉しかったのだろう。その歓喜のまま、彼女は得意げに名乗ってみせた。

するとどうだ。そこから続き、大司教達に動きがあった。

「まさか、その御姿を目にする事が出来るなんて」

「これもきっと三神様のお導きですね」

「なんと有難い事か」

三人はアンドロメダを敬うよう、その前に跪いたのだ。

「こうして直にお会い出来た事、嬉しく存じます」

そして教皇もまた、アンドロメダを前に恭しく一礼した。

何でも決戦にまつわる三神教の伝承には、天魔族もまた随分と格のある存在として記されていたそうだ。

そしてそんな天魔族がこうして出てきたという事は、これはもういよいよ決戦も近いと感じたらしい。教皇達の目には、これまで以上の真剣みが宿っていた。

これから始める予定について簡単に打ち合わせが済んだ。一先ず教会設立に必要な祭具などは、ここの作戦室に保管しておく事になった。

その場で荷下ろしを済ませたら、残るは魔物を統べる神の骸のみとなる。

「それじゃあミラさんは着替えちゃって。私達は先にこれをゲートの入り口まで運んじゃうから」

アンドロメダはコンテナの一つを指さしながら、そこに着替えは用意済みだと続けた。神域に入るための特別な衣は、どうやら既に完成しているようだ。

「うむ、ではちょちょいと着替えてくるとしようか」

そう答えたミラは、そのまま示されたコンテナの中に入っていった。

「さあ、ミラさん。今度は完全完璧な服に仕上がったからね!」

そこには、着替えの服のみならずアナスタシアも待っていた。

破けてしまった前回の改善点を考慮するだけでなく、デザインの方も妥協せずにきっちり完成させたと、それはもう自信満々な様子である。

ただ手の込んだデザインだからこそ、余計に着るための手順なども複雑化してしまった。だからこそ着付け役として、アナスタシアがこうして待っていたわけだ。

「これはまた何とも……思った以上に本格的じゃのぅ」

彼女が手にするそれは、言葉通り前回とは明らかに違うとわかる仕上がりだった。もう見ただけで巫女だとわかるくらいの出来栄えだ。

ただ神域で着るだけの防護服なのだから、ここまでデザインに拘る必要などないのだが。と、そう思いながらもミラはアナスタシアに言われるまま、その服に袖を通していった。

「なんだか凄い、印象変わったね」

着替えを終えた後、アンドロメダ達のところに戻った。すると教皇が巫女服姿のミラを見て一番にそんな感想を口にする。

「以前、精霊王様の声を聞かせて頂いた時も素晴らしい御衣裳でしたが、こちらもまた素晴らしいですね」

「これはまた、文献などに残る神守の巫女の装束にどこか似ているような」

「素晴らしい。かの骸に立ち向かう者としての気迫が感じられますな」

余程、様になっていたのか大司教達からの評価も上々だ。それこそ神事に臨むに相応しい御姿だからこそ、より頼もしく勇壮に見えると満足げだ。

「さて、それでは移動しようか」

その言葉と共にアンドロメダが歩き出すと、骸を乗せたカートも動き出す。

何度見ても不思議な道具だ。そんな顔をしながら、大司教達も後に続く。

「ちょっと、ドキドキしてきた」

これから向かうのは、ゲートの前。つまり教皇達が近づけるギリギリの場所となる。そして今日、その先で行われる事は世界の未来に大きくかかわる。

だからこそ流石の教皇も、緊張気味のようだ。

そうしてやってきたのは、宇宙技研の所長アラトが好きに使っている開発室。ゲートは、そこに開かれたままとなっている。

「これは、何とも不可思議な……」

大司教の一人がその先に見える、こことは別の景色を見つめながら呟く。

なお、このゲートについてはミラが着替えている間に、アンドロメダがある程度は説明していたという。

いわく、骸を完全に消すための場所に通じる特別なものであると。

「それじゃあ、封印の解除をお願いするよ」

「はい、お任せ下さい」

教皇達が特別に施したという封印は極めて強力なものではあるが、その重量と体積が著しく増えるため、ここから先に運ぶには不便だった。

よってここで表側の封印を解除した後、ミラと精霊王とで仮封印を行い、神域へと持ち込む流れになっている。

「よし、こんなもんじゃろう」

教皇が予定していた通りに封印を解除したところで、直ぐにミラが仮封印を施して安定させる。これで暫くは、骸から溢れ出す不気味な力を封じておけるだろう。

そしてその間に神器で消滅させれば任務完了だ。

「それじゃあ、ここで待っててね」

「では、行ってくる」

アンドロメダとミラは、そう言葉を残しゲートを越えていった。

その後ろ姿を見送った教皇達はそっと両手を組んで、ミラ達の任務が無事に終わるように祈った。

アンドロメダの秘密拠点を経由して、神域に入る。すると直ぐ全身に精霊王の加護紋が浮かび上がり巫女服と共鳴し合い、神気防御を発動させた。

(ほぅ、前のより穏やかな感じじゃな)

二着目という事もあってか、より洗練されたようだ。僅かにあった加護のざわつきのようなものも今回は感じられない。それこそ何も着ていないかのような軽やかさである。

「ところでヴァレンティンとハミィは、どうしておった?」

三神の待つ間へと向かう途中。その長い階段を下りながら、ミラはアンドロメダにそんな質問を投げかけた。

研究所に戻ってきてから、まだ二人を見ていない。それどころか迎えにすら出てきてくれなかった。ならばいったい何をしているのかと。

「ああ、あの二人だったら──」

ミラの疑問──というより不満に対するアンドロメダの答えは、不満げなミラも納得するようなものだった。

アンドロメダが言うに、ヴァレンティンとハミィは二人とも、工房で職人達と念入りに話し込んでいるそうだ。

折角ここまできたのだからと装備の調整や新調、また開発のために、それはもう熱心な様子であったという。

「ここに来た目的を忘れてはおらぬじゃろうな……」

日之本委員会の研究所といえば、最高の職人達が集う場所だ。だからこそ二人がそうしたい気持ちも理解出来るが、もう少しこちらの事も気にかけて欲しいと、そう不機嫌に唇を尖らせるミラだった。

神域の深部、三神が待機している場所に到着後、魔物を統べる神の骸を用意された台座に設置した。

後は、一回目と同じように神器を使うだけなのだが、ここにきてアンドロメダが何やら設置し始める。

「何かと思えば、それはもしやカメラか?」

設置地点から、そこそこ離れた地点に立てられたのは三脚だった。更にセットされたのは、ビデオカメラと思われる機器だ。

「うん、そうなんだ。昨日連絡を受けた後、ちょっと思い付いてね。この映像を残せるというカメラを調整してみたのさ」

ミラが神器を使い魔物を統べる神の骸を消滅させる、その瞬間まで見てみたいという大司教達の要望。直接という形で叶える事は出来ないが、その瞬間を記録出来たらどうだろうかと、皆で考えたそうだ。

その提案の大半は職人達の好奇心と、資料映像としての価値まで考慮した結果といったところであろう。

だが色々と熱心な大司教達だ。少しでも望みを叶えられるというのなら、それもまた悪くはない。うまく撮れれば喜んでくれそうだ。

「ならば、前回よりも気合を入れんとな!」

映像に残されるというのなら下手な事は出来ない。であれば最強の神器を振るう自分の勇ましい姿を見せつけてやろうと、むしろやる気を漲らせていくミラ。

「さあ、始めようか」

「うむ、よろしく頼む!」

カメラが回り始めたところで、ミラは台座を前に神器を構える。そして三神が、そんなミラを支えるよう配置につけば全ての準備が整った。

神器を振り上げてその力を解放する。三神の力を束ねたそれは煌めく光となって膨らんでいく。

そして溢れる力を一つに集束させたミラは、裂帛の気合と共に、それを鋭く振り下ろした。

「エクス──!」

これでもかと気合を入れて叫んだミラの声は、続く三神の力の衝撃に呑み込まれた。

放たれた光が台座に炸裂すると、莫大な三神の力の奔流が一気にその場を埋め尽くし、何もかもを消滅させる。

「……相変わらず、凄まじいのぅ」

神器からの反動のみならず、そこから生まれる余波も三神が防いでくれた。だからこそミラは最も近い場所で、魔物を統べる神の骸が消滅していくのを確認していた。

これにて、二つ目の骸の処理も完了だ。そして、これでまた勝利に一歩近づけたはずだと、ミラは満足げに笑う。そして三神もまた、そんなミラの活躍を称賛し、よくやったと撫でまわすのだった。

今回も、上手くいった。この調子で全部の骸を消滅させる事が出来れば、魔物を統べる神が復活するなんていう未来も回避出来るのではないだろうか。

そんな希望まで見えるくらいに確かな手応えを感じられた。

しかも今回は作戦の成功に伴って、次の作戦に必要な情報も三神から得る事が出来た。

その情報とは、魔物を統べる神の骸を封印している場所だ。

なお、大陸各地には封印のダミーが複数設置してあるという。だが、いよいよそれらも看破されてしまったらしい。既に本封印の周辺に怪しい気配が無数にあるそうだ。

封印自体は極めて強固であるため簡単に破れるものではないが、状況からすると時間の問題。

この作戦を更に進めるならば、早めに行った方がいいだろうとの事だった。

(しかし、最後の一ヶ所はどこなのじゃろうな)

教えて貰えたのは、三ヶ所だけ。最後のもう一ヶ所については、特殊な場所らしい。しかもそちらはまだ周辺に怪しい影は近づいていないようだ。

なおこれについて三神は、作戦が上手く行った時に教えると約束してくれた。

「とにかく全部こうして済ませられれば、余計な戦いをせずに済むというわけじゃな」

魔物を統べる神の骸を神域に持ち込んで処理してしまう。この作戦を完遂出来れば、最終決戦すらも回避出来るのでは。そんなルートもありだろうなんて思いながら意気揚々と研究所に戻る道を進むミラ。

「ところでわしの雄姿は、ばっちり映っておったか!?」

そうなれば、もしかしたら今回撮影した映像は伝説になるかもしれない。世界の危機を未然に防いだ英雄だと、ミラはそんな期待まで抱き始める。

「かなりよく撮れていたと思うよ」

「おお、それは楽しみじゃな!」

作戦は順調だ。今は人類側有利に傾いている事だろう。アンドロメダもまた未来への期待も込めながら答えると、ミラはますます期待を込めて笑った。

と、そうして大成功の報告を引っ提げて研究所に戻って来たところだ──。

「なんじゃ、何が起こっておる!?」

「これは明らかに異常だね」

研究所に起きていた異変。一番わかりやすいのは、放送で流れている警告音とアナウンスだった。

『緊急警戒警報発令。警戒度、五。非戦闘員はシェルターに退避してください──』

と、そんな内容の言葉と共に、異常を知らせるサイレンがそこらから響いてくるではないか。

「とりあえず、誰かわかりそうな者に聞いてみるのが先決じゃな」

そう判断して周囲を見回してみるが、もう既に避難しているのか近くには人っ子一人見当たらない。

ならば誰かいそうな場所にと、そう思ったところだ。

『二人とも戻って来たみたいだね。ただ見ての通り、厄介な状態になっているんだ。だからとりあえず所長室に来てくれるかい』

どこかに監視カメラでもあるのだろう。ミラ達の帰還に気づいたようで、スピーカーからミケの声が響いてきた。

「ふむ、とりあえず所長室じゃな!」

どこにともなく手を振って答えたミラは、そう口にして直ぐに駆け出した。

「皆、大丈夫かな」

もう研究所の皆と随分仲良くなったようだ。アンドロメダもまた心配そうな表情を浮かべながらミラに続いて走り出した。