軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

595 教会トップ集結

五百九十五

魔物を統べる神の骸について話し合うため、残りの関係者三名を呼び出し待っている間の事。空いた時間で軽く雑談を交わしていたところで、ふと話題はリーズレインの周りへと移っていた。

「そうだったのですか。そんなに永い時を越えて……なんだか私まで嬉しくなってきました」

始祖精霊リーズレインと、三神に仕える巫女アナスタシア。かつて引き裂かれはしたが、今は再会して誰に邪魔される事なく愛し合っている。

そうなるまでの経緯を軽く話して聞かせたところ、色々あったが大団円となった結末に教皇は安堵したように、また我が事のように喜び微笑んだ。

「ほう、今の教皇は私達を祝福してくれるのか。教会は相変わらずだと思っていたが、変わったところもあるのだな」

「それはもう。当時の様子は文献などで知る限りですが、私から見ても少々潔癖といいますか、あまりにも個人をないがしろにし過ぎていたように思います」

リーズレインが不満を抱いていた当時に比べ、教会側も色々変わっているようだ。今では、健全な恋愛に対して教会側が戒律だなんだと持ち込み騒ぐような事は一切ないと教皇は語る。

つまり、もう二度とリーズレインとアナスタシアのように無理矢理引き裂かれたりはしないわけだ。

「……そうか」

教皇の真っすぐな目。それを正面から受け止めたリーズレインは、教会という組織に対しての認識を心の中で改めたようだ。

(……一件落着、という感じでよいのじゃろうか?)

教会とリーズレイン。その確執を知っていたからこそ見守る事に徹していたミラは、やり取りを終えた双方を見回しながらそっと胸を撫で下ろす。

と、そうして関係性の拗れも一段落してから少々。ロア・ロガスティア大聖堂における派閥の長、大司教の一人がこの場に到着した。

「緊急の案件と伺い、参上いたしました。それで、如何──」

初老を越えたあたりだろうか。きっちり整った身なりの男は、扉を開けて一歩出た直後にこれまたお手本のように一礼する。そうして改めて顔を上げたところだ。

「──! なんと精霊女王様ではございませんか! まさかいらっしゃっておられるとは。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません」

そこにあったミラの姿に驚くも直ぐに駆け寄って、先ほどと同じようにもう一度、一礼した。

「いやいや、わしが一報もせず勝手に押しかけただけじゃ。こちらこそ急な事で済まんかった」

彼の反応を見るとわかる。前回の訪問をきっかけに精霊女王としてのミラの立場も、ここロア・ロガスティア大聖堂では更に相当な事になっている様子だ。

「いえ、とんでもないことでございます。どうぞいつでもいらしてください」

何ならば三神教のトップという絶対的な地位にある教皇に対してよりも、気持ち腰が低く見受けられた。

と、そのように一人目が到着してから更に二、三分ほどが経過したところで恰幅のよい男性と、しっかりした体躯の女性も到着する。二人とも老齢ながら姿勢はよく、どちらもミラの姿を目にした途端に駈け寄って歓迎の意を示した。そしてここぞとばかりにさりげなく、少しだけでも精霊王に御言葉を頂けないかなどという期待をその目に覗かせる。

とはいえ、そう簡単に有難い御言葉を頂けるかといえばそうでもない。

「それじゃあ揃った事だし、場所を移しましょうか」

まずは、こうして集まった用件を済ませるのが先だ。そう教皇が立ち上がったところ、それもその通りであると三人も肩を落として彼女に続いた。

教皇の部屋の奥。そこには物理的、更には魔法的にも厳重な会議室があった。極めて重大な案件などについて話し合う時は、いつもこの場所を使うそうだ。

「さて、それでは今回集まってもらった理由ですが、見ての通り彼女が大きく関係しています」

話し合いを始める合図として、そのように告げた教皇は続きを促すようにミラへと視線を送った。

「また精霊王様が何かと、期待してもいいところだろうか……」

「それにしては、空気が重めですね……」

「良い方か、悪い方か。緊張してきました……」

ロア・ロガスティア大聖堂において、それぞれの派閥を取りまとめる長が一堂に会したのはなぜか。しかもこれまでいなかった存在が同席しているばかりか、その精霊女王が持ち込んだ案件ともあって、三人の顔には僅かな期待の裏に多大な不安が浮かんでいた。

もしや何か粗相があって、精霊王からお叱りの言葉があるのではないかと、そんな状況を思い浮かべたようだ。

とはいえ、それは杞憂というもの。今回は頼み事である。

「えー、まずはじゃな──」

ここにいる全員に注目される中、ミラは今回来訪するに至った経緯と、それに伴う要請を同時に話した。

魔物を統べる神の骸を、決戦より先に処理する方法が見つかった。そして実践したところ、それは見事に成功。不滅とされていた骸の一部を完全に消滅させる事が出来た。

この結果は、来たるべき決戦の際に敵を大きく弱体化させる事に繋がる。

ゆえに、このロア・ロガスティア大聖堂にて封印されている分も、この方法で処理したい。ついては、それを預からせてほしい。

そのために、この件を知る者に集まってもらった。ミラは、そのように丁寧に説明した。

「なんと……!」

「あれを消滅ですか!? 大いなる存在が揃っても不可能であったあれを」

「いったい、どうすればそのような事が?」

ミラの言葉を受けた三人が一番に見せた反応は、まず驚きであり、次に疑問だった。

三神教会にて厳重に管理され代々受け継がれてきた、機密文書。極めて秘匿性の高いそれには、魔物を統べる神の骸についても詳しく書いてあった。

精霊王と始祖精霊のみならず、三神の他、多くの神々もまだ地上で活動していた神話時代。そんな当時の総力を結集してもなお完全消滅に至らなかったというのが、魔物を統べる神という存在である。

そしてその不死性は、六つに分割してもなお健在。だからこそ封印という形をとるしかなかったわけだ。

ただ、ここでミラが口にしたのは、そんな神々の力を以てしても為し得なかったそれをしてのけたというもの。もしもそれが真実だとしたのなら、もはや奇跡すらも超えた奇跡のようなものである。

だからこそ三人の大司教は、精霊女王ミラの言葉とはいえど直ぐには鵜呑みに出来なかった。

しかも事は世界の終焉にまで関係してくるため、より慎重に判断する必要があった。

「精霊女王様が仰るのですから、きっとそれは真実なのでしょう」

「けれど、万が一もございます。そして我々は、それがどのような方法なのか把握出来ておりません」

「出来る事ならば、我々が安心して判断出来るよう、まずはその方法をお聞かせ願えないでしょうか」

神妙な面持ちをした三人は、熟考した末にそのような言葉を並べていった。

どのような力であっても不滅であった、魔物を統べる神の骸の一部。そのようなものを、どうすれば消滅させられるというのか。

その詳細を知り、それが信頼に足るものであると判断出来たのなら喜んで手を貸せるというのが三人が胸中に抱いた思いのようだ。

「ふむ……まあ、そうじゃな。何に命運を預けるのかは伝えておくべきかもしれぬか」

その方法は、決戦の切り札にも通じるものだ。だからこそ知る者は少ない方がいい。とはいえ今回の件は、ロア・ロガスティア大聖堂においても最大級の機密に触れるもの。ならばこそ三人の大司教にも快く協力してもらうため、こちらも相応の情報は開示しておくべきであろう。

とはいえ、重要な決断だ。よってミラは少しだけ時間をもらって精霊王に相談し、明かせる部分と明かせない部分を明確に分けていった。

そうして十数分ほどで一通りまとめると、明かせると判断した部分の全てを伝えた。

三神の力を束ねる事が出来る特別な神器の存在のみならず、その実物の方も実際に見せての説明だ。

「これに三神様の力が」

「見ただけでは、静かな感じですが……」

「なんでしょうか、この……仄かに胸が熱くなる感じは」

現在の神器には、三神の力が宿っている。ただ、完璧な調和状態にあるため、見ただけでは特別な何かも一切表れていない。

けれど、流石は三神教会の中枢を担う者というだけはある。三人は、神器から何かしらを感じ取っている様子であった。

なお初めてのチャージの時に同行していた事もあってか、既に知っている教皇は『そうでしょう、そうでしょう』と、得意げな顔をしていた。

「ああ、何となく祈祷している時や瞑想している時に、このような何かを感じた事があります。その時は、もしかしたら三神様が見守って下さっているのかもしれないなどと、自分勝手に想像しては喜んでいたものですが……」

「確かに、似ていますね。稀にですが私にも覚えがあります。それとお恥ずかしながら、私も同じ事を考えていましたね。これはもしや三神様が、と」

「私も何度かありますぞ。それに、考える事は同じですな。まったく見知らぬ感覚だったものでしたから、私もそう都合よく思っておりましたとも」

神器から感じられる不思議な気配。そこに秘められた力から三人が感じ取っていたそれは、三神の力で間違いないだろう。つまり神器は、三人が勝手に想像していた事が限りなく真実であったという証明にもなったわけだ。

三人がこれに喜んだのは言うまでもない。本当に三神様が見守りに来てくださっていたのだと、感涙している。

『実際のところは、どうなのじゃろうか?』

何となく気になったミラは、ただ興味だけで精霊王に問うた。

『あながち、勘違いというわけではないかもしれないな──』

精霊王が言うに、三神は信者達の様子を窺うために、時折地上を覗いたりしているそうだ。

そして、この三人は特に敬虔で信仰が深いため、その際に零れる微細な神力を感じ取ったのかもしれないという。

それもこれも真面目に修練に取り組み信仰を積んできたからこそだと、精霊王も三人の反応を前に感心した様子であった。

そんな精霊王の言葉を伝えてみたところ、これまでの努力が報われたと、三人は更に感無量であるとむせび泣くのだった。

何はともあれ、三人は魔物を統べる神の骸の引き渡し条件として十分信頼に足るものだと納得してくれたようだ。

これほど素晴らしい神器があり、それを成す準備も進められているというのならと同意を示す。

「ですが、もう一つだけよろしいでしょうか──」

ただそこで更に条件──というよりは要望を提示してきた。その内容は、神器を使うところを見たいというもの。そして何より、未来の不安要素である骸が完全に消滅するところを、しっかりその目で確認したいと言うのだ。

何といっても、それを預かっていた責任がある。だからこそ最後まで見届けるのが、これに関わった者の義務であり責任でもある。そう三人は力強く語った。

その言葉には、興味だなんだといった感情も見え隠れしている。だがその目には、それ以上の信念が宿っていた。三神教会として、またその役目を引き継いだ者としての責務を全うしたいという強い想いが。

「ふーむ、その気持ちもわからなくはないのじゃが、こればかりはちょいと難しいかもしれんのぅ──」

その立場や気持ちもわかるが、それを行う場所が場所である。敬虔な信者であろうとも、それに立ち会うのは不可能だろう。

ミラは、真剣な三人の視線を受け止めながら、それが困難である理由について説明していった。

三神の力を束ねた神器の威力は尋常なものではない。そもそも、この神器は決戦の切り札として用意されたものである。

ゆえに骸の処理のためとはいえ決戦前にこれを使うとしたら、何より敵に存在を気づかれないようにする必要があった。

だが力を解放した神器の影響は、極めて甚大。そのため、これを使うには多くの条件を揃える必要がある。

それは反動への対処であり、更には決して敵に気づかれない場所であったりだ。

「──その場所じゃが、わしも多くの特殊な条件が重なった事でようやくといった具合じゃからのぅ。幾らお主達ほどの者であっても、あの場所には入れんじゃろう」

精霊王の加護を筆頭に、始祖精霊と多くの精霊の加護も得た上で特別な衣を纏いようやく入る事が出来るのが神域という場所だ。

加えてアンドロメダの拠点を経由するという点も踏まえると、まずは最初のゲートを抜けるための条件を達成しなければいけない。つまりは、マキナガーディアンの少数討伐というような実績が必要になってくるわけだ。

流石は三神教会の中枢を担うだけあって三人ともただ者ではなさそうだが、そこまでの無茶が出来るほどにも見えなかった。

それらも踏まえて、ミラは三人では厳しいだろうと提言した。

「ミラ様がそこまで仰るほどの場所……ですか」

「いったいどのような……」

「それほどでしたか。そうすると、もうこれ以上は我がままになってしまいますね……」

はたしてミラが神器を振るうのは、どこなのか。流石にそこが三神のいる神域であるとまでは想像もつかないだろう。

三人は、それほどまでに厳重で機密性が高い秘密の場所があると考えたようだ。だからこそミラの答えを前にした今、しつこく喰い下がってくる事はなかった。

是が非でも現場に立ち会いたいという気持ちを、どうにか抑え込んでいく。

ただそれと同時に別の何かを考えているのか、三人の顔には諦めたような色は見られない。

だがそれはそれ。条件は十分であると、三人は魔物を統べる神の骸をミラに預ける事を承諾してくれた。