軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

543 幽霊調査

五百四十三

「──というわけでな、ちょいと行ってくるので後を頼む」

今のままでは、この聖域が大きく成長出来ない。その事についてマティに説明したミラは、対策のために暫くここを任せるとマティに告げる。

「う、うん、わかった! 待っていればいいんだよね!」

まさかそんな問題があったなんて。そう驚いたマティだったが、彼女にしてみてもそれは放っておけない事。ゆえにマティは、留守番ならばお任せあれと胸を張って答えた。

「うむ、皆もよろしくのぅ」

何かあったらリーシャに伝えてくれれば、精霊王経由でミラにも連絡がつく。ミラは最後にそう伝えてガルーダワゴンに乗り込んだ。

空を行く事、数時間。ミラを乗せたガルーダワゴンは、アース大陸中央北にあるかの地へと降り立った。

「ふむ、ここで間違いなさそうじゃな」

山と丘、そして谷。複雑に入り組む地形の只中。ミラは目の前に横たわる神殿跡と手元の写真を見比べながら、そう確信する。この場所こそが、リーズレインの愛したアナスタシアが最期を迎えた場所であると。

ミラが手にする写真はアストロに焼き増ししてもらった、あの心霊写真だ。

そしてアストロに教えてもらった通り、アナスタシアだと思しき女性が写り込むその背景と、今ミラが目にしている景色が一致した。

季節の違いに加え、撮影日から六年以上は経過しているため、ある程度の変化はある。だが遠くに見える地形や神殿の残骸具合などは、そのままだ。

「さて、どうしたものかのぅ」

リーズレインがどうこうと精霊王達に急かされてやってきたわけだが、本来、ここに来ようと思った目的は、アナスタシアを成仏させる、またはその手伝いをするというものだ。

リーズレインが愛した女性である事から、もしかしたらその途中で彼についても何かしらの影響があるかもしれない。初めはそのくらいの気持ちだったのだが、ここでリーズレインの方にも何かしらがなくては困るような状況になっているのは、はたしてどうした事なのか。

『まずは、幽霊のアナちゃんがどこにいるかよね』

『そうだな。写真に写っていた彼女の幽霊を捜すのが先であろう』

何よりも精霊王とマーテルにしてみれば、どちらかと言わなくてもリーズレインの目覚めについての期待が大きめである。

そしてミラもまた、その気持ちは十分にあった。もしも異空間の始祖精霊リーズレインの協力を得られたとしたら、待望の転移が可能になるかもしれないのだ。

それが出来るようになれば、いつでもどこからでもマリアナとルナの待つスイートホームに帰り放題だ。

だが、かの『ヴェイパーホロウ』の一件が影響してか、成仏出来ていないアナスタシアについても気にかかっていた。

ゆえにミラは、アナスタシアの成仏のみならず、それをどうやってリーズレインの目覚めに繋げられるのだろうかと悩む。

「……確かに、見つけなければ始まらぬか」

悩んだ末、とりあえずは精霊王達の言う通りかと動き出したミラ。成仏にしろリーズレインにしろ、そもそもアナスタシアの幽霊がいる前提の話なのだ。だからこそ、その部分を確定させなければ、どうにもならない。

そうしてミラが一番初めに調べたのは、やはり写真の地点だ。アナスタシアが写っている付近に歩み寄り──直後にその足を止める。

(……いやいやいや、何やら流れで普通に捜し始めたが……相手は幽霊じゃぞ!? しかもまだ友好的なのかどうかすら確かめられておらぬではないか! 本当に大丈夫なのじゃろうか。呪われたりなどせぬじゃろうな!?)

幽霊船の一件で度胸がついたような気でいたミラであったが、その時とは状況が違う。特に一人ぼっちという今の状況は、割り増しで不安を加速させるものだ。

写真で見る印象は穏やかそうではあるが、実際は恨みに塗れた恐怖の心霊写真だった──という真実が隠されている場合だってある。

いざという時は空絶の指環を使って防御するか、はたまたどうにかこうにか成仏してもらうか──などと考えたところで、ミラはふと気づく。

(何とかなるような気持ちでここまで来たのじゃが、そもそも幽霊を──アナスタシアを成仏させるというのは、何をどうすればよいのじゃろうな……)

成仏させてやりたいなどという思いを抱きやって来たものの、それに関する知識というのは皆無に等しかった。

幽霊船騒動の際は色々な出来事や偶然などが重なり、そして巡り逢い、かの海賊達が成仏していく場面に立ち会った。更には続けて、カディアスマイト連合国の英雄ハルミレイアとオルターバが成仏するところも見送った。

つまりは、それだけの未練を取り払えたわけだ。

だが具体的に何をしたのかと考えたミラは、その全てにこれだとはっきり答えられる自信がなかった。日誌を参考に勢いで動いていたら、何だか上手くいった次第である。

そして今回のアナスタシアの件だが、その日誌にあたるものがない。つまりは、成仏に繋げられるヒントが何もない状態なのだ。

『……ところで、そのアナスタシアとやらは、何が未練で幽霊になったのじゃろうか?』

幽霊になって、ここに留まり続けている。写真から読み解けるのは、それのみとあってか、ミラは他に手掛かりとなりそうな情報はないかと精霊王達に問うてみた。

『未練……か。思えば確かに、どういった未練を抱えて現世に留まっているのだろうな』

精霊王もまた、疑問に思ったようだ。何といってもアナスタシアが生きていたのは、今よりも遥か太古の時代。その頃より幽霊として彷徨っていたのだとしたら、それはもう途方もないくらいの未練であろう。

『ええ、つまりそれだけ、リーズ君への想いが強かったって事よね。アナちゃんは、きっと今も待ち続けているのよ。彼が迎えに来てくれるのを!』

マーテルの方は相変わらずだった。アナスタシアが幽霊になってまで現世に留まっている理由は、何よりも心に秘めた愛こそが未練だったからこそだと、愛説を激推ししている。

とはいえ今回の件に限って言えば、現時点において心当たりは皆無な状況だ。ならばこそ、マーテルの言う通りリーズレイン関係で、とりあえずは試してみるのも選択肢の一つかもしれない。

『正解かどうかは別じゃが、ものは試しじゃからな──』

少なくとも、ただ何もせずに佇んでいるよりは幾らか有意義というものだ。

と、そう思ったミラだったが、そこで首を傾げて考え込む。その線で試してみるとしたところで、はてさて何をどうすればいいのだろうかと。

「めーざーめーよー」

色々と考えたミラは、とりあえずリーズレイン所縁の品という事で空絶の指環を外し、それを天高く掲げてみた。

この際、アナスタシアでもリーズレインでも、どちらでもいいから何かしらの反応を示してくれないだろうか。

と、そんな期待を込めながら、ちらりちらりと周囲の様子を窺うミラ。けれど、変化は皆無。さやさやと冷たい風が吹き抜けていくだけで、僅かな反応もなかった。

「ならば、これでどうじゃ!」

空絶の指環の真骨頂といえば、やはりその効果だ。しかし見た目は地味であるため、掲げるだけではそれが何なのかわかるはずもない。

よってミラは、次の策として指環の力を発動させてみた。

究極の防御壁を展開する特別な力だ。そして何よりも、その効果にはリーズレインの守りたいという強い想いが込められている。

アナスタシアがここにいるのなら、これに込められた想いに反応してくれないだろうか。

またはリーズレインに、指環を通じてアナスタシアの気配か何かが伝わらないだろうか。

「ふむ……」

ある程度、展開を維持してから解除したミラは、これでどうだと期待しながら周囲を探る。

けれど、待てど暮らせど何かが起こる様子どころか僅かな変化もなかった。

「来れば何かあるだろうと考えておったが、これはそう簡単にはいかぬのかもしれぬな……」

そういえば幽霊船の時も、始まりは偶然のようなものだったと思い出すミラ。

あの時は、船のヘリに上がった事が全てのきっかけであった。そこから色々と調査を進め、一件落着といった場面にまで辿り着いたのだ。

だが偶然のきっかけなど、そう易々と巡ってはこないだろう。

「写真だけでなく、これを撮ったカメラも借りてくるべきじゃったのぅ」

写真に写ったのなら、写真を撮る事で何かしらのきっかけになったかもしれない。そんな今は確かめようのない方法を思いついては、どうしたものかと考え込む。

『一先ず、何かないか範囲を広げて調べてみるのはどうだろうか』

『そうね、ここがアナちゃんに関係している場所なのは確かだもの。何かあるかもしれないわ』

特に考えもまとまらなかったところで、精霊王とマーテルがそう提案してきた。

今は、さっぱり面影の無い場所ではあるが、ここにはかつて、それはもう立派な神殿があったという。

そんな場所で命を落としたアナスタシア。彼女の亡骸については当時の人々がしっかりと供養して埋葬したそうだが、その際に何かしら見落とした可能性があるという考えだ。

『とても広い神殿だったのでな。逃げている間に、何かを失くしてしまったのかもしれない。そして今もまだ、それを探し彷徨っている。うむ、十分な理由になりそうではないか?』

思い付きではあるが、これは名推理かもしれないと声を弾ませる精霊王。だが直後、『いいえ』というマーテルの冷静な声が響き、そこから怒涛の愛が溢れ出した。

『決まっているわ。それは、愛よ。アナちゃんは失くしてしまった愛を今もずっと探しているの。そう、つまりリーズレイン君の事を今になってもずっとね!』

悲恋のままに終わった二人の関係。だからこそ、その先にくらい救いがあってもいいではないかとマーテルの感情が爆発する。生前は叶わぬ恋であったが、死した今は当時の教義など関係ないと。

「……まあ、色々とひっくるめて調べてみるとしようかのぅ」

リーズレインとアナスタシアについていえば、マーテルの気持ちも、わからないわけではない。

だが調べるとしたら、選択肢は絞り過ぎない方がいいだろう。そう考えたミラは様々な可能性を考慮して、団員一号とワントソを召喚する。

「今日も元気に即参上! 探し物にゃらば小生の出番ですにゃ!」

「どのような探しものでも、吾輩にお任せ下さいですワン」

登場するなり睨み合い始めた両名だったが、ミラが目的を告げたところで我先にと調査を開始した。先に決定的な手掛かりを見つけた方が勝ちだそうだ。

「さて、何か見つかればよいのじゃがな……」

ミラは最近になって気づいた事があった。それは、いがみ合いながらの方が調査速度と精度が上がるという事だ。相性がいいのか悪いのか。特に広い場所を調べる場合は、この方法がもっとも効率がよかったりする。

「こっち側は小生が目を付けた場所にゃ! あっちいけにゃ!」

「やれやれ、何を言っているワン。誰がどこを調べようと、猫にそれを制限する権利などあるはずないワン」

と、子供の喧嘩のような事を始めたが、それでも調査は抜かりなく進むはずである。ミラはそう信じながら、彼らとは反対方向を調べ始めるのだった。