軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

526 大晦日の大仕事

五百二十六

フローネとクー・シーの若い衆、またその場に居合わせた数名の精霊らに見送られながら、ワントソは送還の光の中に消えていった。

そしてミラは、次のターゲットにされる若い衆達を尻目に、また明日と告げるなり素早くその場から離れる。

ワントソロスもあってか暫くは愛が重くなるだろうが、若いならばきっと耐えられるだろう。

そう信じて逃げるように天空城を後にしたミラは、続きアルカイト城を訪れていた。

「──というわけでのぅ、精霊王殿が年明け一発目に祝いの言葉を贈ってくれるそうでな。ちょいとこう、ドッキリ気味に仕立ててもらえぬか?」

目的は、フローネと密談した内容に基づいた年明けドッキリの提案だ。

当然ながらソロモンに伝えた内容は、精霊王がどうたらという半分のみ。フローネの存在については完全に伏せての提案である。

「何かまた、急な話だね。……でも、まあそういう事なら喜んで準備しようじゃないか。精霊王さんが祝ってくれるなんてなったら、もう無理をしてでも舞台を整えてみせるさ!」

ドッキリという部分もそうだが、やはりソロモンは王様でもあった。何よりもその影響を考えた上で快諾。当日は最高の状態になるよう直ぐに準備すると、それはそれは力強く嬉しそうに答えてくれた。

三神教においても絶大な影響を持つ精霊王だ。その精霊王が姿を見せるのみならず祝いの言葉まで贈ってくれるとなったら、国としての恩恵は計り知れない。

しかも年末年始という大きな区切りのタイミングでとなれば、特別感もひとしおだ。

ゆえにミラの提案を受けたソロモンの反応は、かなりの前のめりであった。

「おお、そうかそうか。ではお主からの許可も得られたと、後で伝えておくとしよう」

流石は精霊王効果か。イベント前日でありながら問題なく許可が下りた。この様子ならば、きっと最高のドッキリステージを整えてくれる事だろう。

一先ずは予定通りに進んでいるといってもよさそうだ。

「おや、今は聞いていない感じかな?」

と、ミラがその結果に喜んでいたところ、ソロモンがそんな言葉を口にした。

事あるごとに話を聞いており、ちょくちょく出てきては色々な知識を与えてくれる精霊王。だからこそ、今も聞いていると思ったのだろう。

けれど今、精霊王はこの場面に立ち会ってはいなかった。

「あー、ちょいと明日の登場時の演出だなんだで、仲間の精霊達も交え打ち合わせをしておってのぅ。何とも派手になりそうじゃから、それも踏まえてよろしく頼む」

思った以上に演出好きな精霊王。実はミラの言葉通り、裏で色々と打ち合わせをしているところであった。

だがそれは、精霊王の登場のみに限ったものではない。天空城の登場から始まる一連の流れを通しての演出だ。

しかもいつの頃からだろうか、ミラの契約しているシルフィードが精霊王の伝令役として活躍していたりした。

今は天空城にて、向こうの精霊達と精霊王を繋ぐ役割を果たしているところだ。

「なるほど、それはまた凄い年越しになりそうだ」

そう答えたソロモンは、国民達がどのくらい盛り上がってくれるか楽しみだと笑う。

そしてミラもまた「そうじゃのぅ」と同じように笑った。

いよいよその瞬間になったら、なんと空には天空城。続けてまさかのフローネ登場だ。

しかもそれだけでは終わらない。しっかり精霊王も登場するという二重のサプライズである。

国民のみならず、きっとソロモンも驚くだろう。

いつも何かと仕掛けられる側であったミラは、遂に逆襲の時がきたとその瞬間を想像し、心の中でほくそ笑んでいた。

加えてこの目論見が成功した暁には、フローネも満足してくれるはずだ。

ソロモンの驚く顔が見られて、フローネが国に戻り任務も達成。そうなれば、もう安泰である。

次の軍資金の増額を希望出来るかもしれない。フローネの研究成果なども幾らか共有出来るかもしれない。

来年は早々から良いことずくめだと確信したミラは、研究用の術具や素材などを買って帰ろうかと考えるのだった。

ソロモンとの打ち合わせも済ませたミラは今、ガルーダワゴンで帰宅する途中にあった。

「──という感じに決まったのでな。そちらで合わせるのじゃぞ」

『うん、わかった。白から緑に変わったらね』

その最中、通信装置を使ってフローネに連絡。ソロモンと打ち合わせて決まった内容などについて共有した。

精霊王が、どーんと登場するはずのタイミングで天空城がどーんと登場する。ソロモン側から出される合図についても伝え、二人は万全に準備を整えていく。

『くふふふふ、明日が楽しみ』

「うむうむ、楽しみじゃのぅ」

あのソロモンがどのように反応するか。今からワクワクが止まらないようで、ガルーダワゴン内には、ミラとフローネの不敵な笑い声が響き続けた。

「──そうして最後に精霊王殿が登場して、祝福の言葉を贈って締めというわけじゃ」

召喚術の塔の自室。今日の用事を全て終わらせ帰宅したミラは、マリアナに問われるままドッキリの一部始終について語っていた。

「フローネ様のみならず精霊王様まで……とっても凄い事になりそうですね!」

年明け早々、アルカイト王国は話題の中心となるだろうほどのドッキリ内容にマリアナも興奮気味だ。

「きゅい!」

そしてルナもまた、楽しそうな二人の様子を前にはしゃぐのだった。

いよいよ迎えた大晦日。年末年始のイベントが盛りだくさんとあって、街はどこもかしこも大忙しといった様子だ。

特に多くの行事を取り仕切る国側の人員はソロモンも含め椅子に座る暇もないほどだった。

またソロモンのみならず、九賢者勢もまたあっちこっちへと大騒ぎである。

これだけの九賢者が揃って迎える年末年始とあって、もう国民達のみならず役人達の気合の入りようも格別だ。それこそあちらこちらで九賢者を招いてのイベントが予定されていた。

なお、毎年酷使され続けてきたルミナリアにとっては、色々分散されたために今年が一番楽だという。

そんな今年の年越し祭りだが、中でも特に出番が多いのはアルテシアだった。

英雄の九賢者としてのみならず、彼女にはもう一つの立場がある。それは、聖職者だ。

年末年始といえば教会の方でも様々な行事があった。聖術士と教会は何かと深い関係性にあるため、自ずとアルテシアも教会との繋がりは強く、あれよあれよとその立場に収まっていた次第だ。

そしてアルカイト王国が誇る三神教の拠点、大聖区はアルテシアが主軸となって立ち上げた場所。

三神国に認められるのみならず三神教会のトップより、三神聖区として認可されたその場所は、だからこそ三神教関連の行事がてんこ盛りだった。

今日のこの日のみならず、年末が迫るこの時期は大小様々な行事が行われている。幾らかソロモンによる調整が入ってはいるものの、それでもアルテシアは連日多忙を極めている様子であった。

「ふーむ……」

対して九賢者でありながらも弟子を名乗って誤魔化しているミラは、この多忙を極める中にありながらも蚊帳の外──というわけにもいかず、準備の手伝いをさせられていた。

むしろここで呑気にふんぞり返っていたりでもしようものなら、仲間達から何をされるかわかったものではない。

と、そんなミラが手伝っているのは、昨日ミラの方から言い出したドッキリについてのあれこれがメインとなっている。

当然と言うべきか、祭り本番前日にあのような提案をしたのだ。それはもう慌ただしい準備になるだろうし、細かく調整している時間などない。

『──という感じがいいだろう。では、よろしく頼むぞ』

「畏まりました、心して作業に取り掛からせていただきます!」

舞台設定にタイミング合わせ、また演出などについて現場監督と細かい部分のすり合わせを行うのは精霊王本人だった。

何でも精霊王降臨からの流れなどの演出については、折角だからと昨日の夜の間にマーテルと考えていたのだそうだ。

ドッキリなんて楽しみだと、マーテルも随分と張り切った様子である。だからこそ内容は結構複雑だった。よってミラの口を介して伝えるよりも、精霊王が舞台監督に直接伝えた方が早くて確実だと考え、このような形になったわけだ。

ミラと手を繋いだまま、驚いたり喜んだり興奮したりする現場監督の姿は周りから奇異に映ったであろうが、きっとその辺りは時間が解決してくれるはずだ。

『本番が楽しみじゃのぅ』

『うむ、我もだ』

『ええ、本当に』

精霊王とマーテル発案の演出。天空城の精霊達までも巻き込んだそれは、思った以上に壮大なものとなりそうだ。

随分と俗世に馴染んできたとでもいうべきだろうか。なかなかの演出家ぶりである。

そのように精霊王直々の演出とあって、このイベントを取り仕切る関係者一同は、今までにないくらいの緊張感に包まれていた。

けれども、流石はプロというべきか。それに勝るとも劣らぬやる気を漲らせて作業に取り掛かっていく。

かなりのハードワークになりそうだが、きっと彼らならば時間までに完璧な舞台を整えておいてくれるだろう。

なお、トラブルにならぬよう、現場監督だけには精霊王が登場する前にちょっとした秘密の演出があると明かし、この件については極秘だと伝えてある。

「さて、ここはもう大丈夫そうじゃな」

明かしたとはいえ内容は秘密だ。ゆえにフローネが登場する部分についての準備などは、全てミラが直接行う必要があった。

「では秘密の仕込みにいってくるとしようか。後は頼んだぞ」

現場監督にそう告げるなり、召喚したペガサスに跨ったミラ。必要なものはフローネから預かり済みである。街の四方に各一個、周囲に遮蔽物のないところに設置してほしいとの事だ。

「お任せください!」

気合の入った現場監督の声を背に受けながら、ミラは特設舞台から颯爽と飛び立っていくのだった。