作品タイトル不明
527 マジカル・コーデな大晦日
五百二十七
年越し迫る大晦日の夕方。そろそろ日も暮れようかという頃になってきたが、年越し祭りは暗くなればなるほどに盛り上がりを増していく。
「年末は特番を観ながらのんびり過ごすのが常じゃったが、今年はえらく忙しく賑やかじゃのぅ」
アルカイト王国の住民は、年末年始を粛々と過ごす気など毛頭ないようだ。それはもう、あちらこちらで飲めや歌えやの大騒ぎである。
年末年始といったら家にこもって家族と共に穏やかに過ごす事の多かったミラは、それでいて今の街の気配を感じつつ、こういう年越しもまた悪くないなと感じていた。
ただ、マリアナとルナがいる家で静かに年を越すというのも、それはそれできっと素晴らしい時間になったであろう。
しかし、それは叶わぬ願いだ。なぜなら銀の連塔の方でも年末年始は多忙であるからだ。賢者代行に元代行のみならず、補佐官であるマリアナもまた今頃はイベントの運営やら何やらで駆け回っている頃であろう。食事も共に出来ないくらいの多忙ぶりである。
よって叶うのは、ルナと遊びながらの年越しくらいのものだ。
(それもそれで、よいかもしれぬがのぅ……)
ソロモンに言われるまま忙しく飛び回っていたミラは今、そんな理想の年越しについて考えながら大きくため息を吐いた。
なぜなら可愛いカッコいい女性達に交じって、煌びやかなステージに並ばされているからだ。
そう、いってみれば現実逃避中である。しかしながら、どれだけ目を背けようとも現実は変わらない。むしろ拒絶するほど、それは大きく膨れ上がって胸に伸し掛かってくる。
ミラが今立たされているステージ。そのタイトルは『最高最カワ マジカル・コーデ ファッションショー』というものだった。
その名の通り、実にキラキラしたイベントである。そして何となくわかるように、これは俗にいう魔法少女風ファッションを主軸に据えたものだ。
しかも今回はいつもより特別なファッションショーとなっていた。その手のトップブランドであるマジカルナイツ主催に加え、王城の侍女隊が後援につくという、ルナティックレイク限定で開催される一夜限りのファッションショーだ。
そんな特別とあってか、魔法少女風ファッションのファン達の姿が非常に多く、観覧席の方は実にファンシーな色に満ち満ちている。
(おのれ、ソロモンめ。騙しおったな!)
そんな観客達の視線が集まるその先に、ミラはいた。
君にしか頼めない緊急の仕事があると言われ張り切って来てみれば、待ってましたと言わんばかりに囲まれて、あれよあれよと着替えさせられ、気付けばステージの上。それがミラの現状だ。
コンセプトは、女王だろうか。いつも着せられている服と違い、着替えさせられたそれは可愛さの中に凛々しさがあった。
いつもとは違うデザインの方向性。だがミラは、それでいて制作者がリリィ達であると直ぐにわかった。なぜなら、ミラ専用というくらいに寸法から何から全て完璧だからだ。
これほどまでに身体の隅々を把握しているのは他にいない。だからこそミラは、このタイミングで新作が飛び出してくるとはと呆れながら、こうなるように仕向けたソロモンに憤った。
「──さあ、続きましては、こちらの方の紹介です。既にお気づきの方も多いでしょう。魔法少女風──いえ、遂にファッション業界において『マジカル・コーデ』という正式な呼び名が公認される事となった立役者の一人。このマジカル・コーデの広がりを、不動の域へと高めたトップクラスの冒険者。そう、このお方こそが、かの精霊女王ミラ様であります!」
と、不満を募らせていく間にもイベントは進行しており、いよいよミラが主役となる時間がやってきた。とても感情と気合の入った言葉で紹介されるなり、ミラの頭上からは、これでもかとライトが降り注いだ。
なおミラは、流れのみならず現状から何からまで理解してはいなかった。係員にステージ中央まで出るよう促されると、そこに立ち尽くしながらステージ前に集まる観客達を見渡した。
(いや、どうしろと!?)
先ほどの紹介文のお陰もあってか、なんとなくだが自分が何を称賛されているのかについては多少把握出来たミラ。
今まで魔法少女風と呼ばれていた特定のファッションが、『マジカル・コーデ』と業界で呼ばれるようになった事。それを祝っているのだろうと。
(というか、代表みたいに言われるのは御免こうむりたいのじゃがな!)
だが、そうなった立役者として紹介されるのは、少し──どころかまったく認めたくない。まるで好き好んでマジカル・コーデを纏い、その先頭に立ちファッションを普及したかのような印象が出てしまうからだ。
ミラは決してそうではないと心の中で抵抗する。加えてこのステージに立たされた意味と理由と求められている事もわからないとあって、いよいよ考える事を止めた。
そして、いつも通りを選ぶ。
「さて諸君。知っておるか? 召喚術は、良いぞ──」
宣伝相手が多い今こそがアピール時であるというのが、これまでの間に染みついた癖であった。
召喚術の可能性。ミラはその言葉と共に次から次へと召喚術を行使しては、有用性をアピールする。
ファッションショーだかなんだか知らないが、細かい事など何も聞かされておらず、また説明しない方が悪いというもの。だからこそ好き勝手してしまおうというわけだ。
これだけのステージである。しかも若者も多いときたら、召喚術をアピールするにはおあつらえ向きだ。ミラはここぞとばかりに魅力を見せつけていった。
「──という感じじゃな。きっと近いうちに、更に召喚術士への入り口は広がるはずじゃ。選ぶなら今じゃぞ」
とにかくやりたい事をやって言いたい事を言い切ったミラは、最後にペガサスを召喚する。そしてワントソを肩に乗せてからペガサスに跨り、そのまま逃げるように星の輝く空へと飛び去って行ったのだった。
ファッションショーから一転、怒涛の召喚術サーカスが始まり、そして終わった会場。
ビビットでマジカルなステージにて突如始まった召喚術講座と解説。マジカルナイツのショーを楽しみにしてきた観客達にしてみれば、ほとほと困惑するような状況であっただろう。
だが、はてさて何事か。精霊女王が去った後、その場は不思議と盛り上がっていた。
なぜならファッションショーのステージでありながら、かの精霊女王の真骨頂ともいえる華麗な召喚術を目の前で観覧出来たからだ。
「あれが精霊女王か……噂通り凄いな!」
「召喚術って、本当はあんな感じだったのね。すっごい感動!」
「ペガサスに乗って空を……いいなぁ、私もあんな風になりたいなぁ」
そんじょそこらの召喚術士では到底真似出来ない、真に達人級の術捌きだ。しかも女王チックな衣装だった事もあって、まさしく精霊女王ここにありというステージだった。
ゆえに観客達は、非常に珍しく貴重な経験だったと興奮気味だ。中には、召喚術に興味を抱く者までちらほら。
そのためもあって、ショーは大成功の空気一色。これを主催していたマジカルナイツの名は更に勢いを増す事となったのだが、それはミラの与り知らぬ話であった。
「おのれソロモンめ……」
王城の広間で、むすりと眉を顰めるミラ。
マジカルナイツでのファッションショーを半ば強引に終えた後、ミラはそのままソロモンに文句を言いに行った。
しかし、どれほど捲し立てようとも、のらりくらりと躱されてしまい、気付けば次の用事を頼まれ今に至る。
またしても上手く丸め込まれてしまった形だ。なんて小癪なと腹を立てるミラだが、今はあえて我慢の時だ。
全ては、この後に控えるドッキリでやり返せばいい。今からどんな驚く顔が見られるのかと、ミラは気持ちを新たに歩き出す。
なお、案の定というべきか。着せ替えられた女王風の服は、予想通りにリリィ達の作であった。ただ今回は、いつものミラカスタムではなくデザイン特化の礼服仕立てとの事だ。
今回のような祭りのみならず、公式なイベントや厳粛な場といった所にも着ていける仕様になっているらしい。
何かと有名になってきており、更には各国からの注目度も高まっている事から、その内必要になる時がくるだろうと考え用意した一着だそうだ。しかも折角だからと、精霊女王の名に合わせて特別に誂えたらしい。
(まあ……悪くはないのぅ)
騙し打ち気味だったが礼服の類は持っていなかったミラ。一応、賢者のローブも礼服として通用するのだが、如何せん今の姿でそれを着ると、お土産の子供用を着て喜ぶ少女のようになってしまう。
ゆえに今回の服は有難く受け取ったわけだが、ここで一つソロモンからのお達しがあった。侍女達の活力になるから、今日一日はそのままでいてくれと。
(少し落ち着かぬが、仕方がない……)
いつもならば、そんなの知った事かと突っぱねるところだ。しかし日も日であり、時間も時間だ。どこもかしこも大忙しの今、リリィ達侍女軍団は特に忙しそうであった。
もはやミラにちょっかいを掛ける事すら出来ないくらいの仕事量だ。そのため誰もが相当に疲れた顔をしているのだが、広間に立つミラの姿を目に留めるなり、花のように笑顔を咲かせて駆け抜けていく。
そんな場面を何度も目撃したミラは、まあ一日ぐらいならと妥協しつつ、ソロモンの要請に従い次の修羅場へと救援に向かった。
手伝いやら何やらをしていたら、あれよあれよと慌ただしく時間は過ぎていった。そしていよいよ、今年も残り一時間ほどとなった頃。
待ちに待ったドッキリ本番直前という事で、ミラは現場監督達と最終の打ち合わせを行った後、姿を隠しながら天空城に移動した。
「──という感じで、予定通りに準備は出来たのでな、後はお主達次第じゃ。わしは特等席で待機しながら、様子を見させてもらうからのぅ」
「うん、わかった。ありがと、じっじ!」
話し合った通り、地上側の合図や演出のタイミングを調整する事が出来た。よってここからドッキリが成功するかしないかは、フローネ側次第だ。
よほど自信があるのか、それとも嬉しさと悪戯心が突っ走っているのか、フローネの顔に不安などは一切ない。それはもう、ひたすらに無邪気さと不敵さで染まっていた。
(さてさて、言うてフローネの後は、わしの番じゃからな。しかと準備しておかねば)
フローネ達がはりきる姿を横目に、ミラは天空城の最上階にあるテラスへと移動し、精霊王の登場の演出担当である精霊達と合流した。
「うむ、うまい!」
天空城にてドッキリ作戦開始の時間まで待っている間、ミラは年越し御膳なるものをご馳走になっていた。この空飛ぶ島で収穫された食材をふんだんに使った精進料理だ。
新鮮なのはもちろんの事、フローネが高品質の名産名物ばかりを集めただけあって、味は格別である。しかしながら国境を越えまくったこの料理は、ここでなければ味わえず、ここから出してもいけない料理となっていた。
実に複雑な味わいだ。ミラは、しみじみと噛みしめた。
と、そうしている間にも時間は過ぎて、あっという間に年越し間近。街の方でカウントダウンが始まったと、団員一号より報告が入る。
現在、彼がいるのは王城の一室。いざという時の連絡要員として派遣した形だが、本来の役目は別にあった。それは、ソロモンがドッキリに対してどのように反応するかを確認するという役目だ。
『よしよし、よいか、もう直ぐじゃからな。決して見逃すでないぞ』
『もちろんですにゃ! ……と答えたいところにゃのですが、もしかしたらがあるかもしれませんにゃ……』
カウントダウンの後、新年の挨拶が終わったらドッキリ開始だ。そしてそのタイミングで天空城とフローネが登場になる。その瞬間が迫る中、ミラが念を押したところ団員一号から少し自信のなさそうな言葉が返ってきた。
『む……なんじゃ、どうした?』
向こうで何か問題でも起きたのだろうか。ミラが心配して聞いてみたところ、団員一号より現状の説明がなされた。
どうやらカウントダウン直前になって、ソロモンが控える部屋に九賢者達が集まってきたそうなのだ。
折角、今年はこうして多くが戻って来た。ゆえに年越しの挨拶の際、皆からも何かしら新年の挨拶を贈ろうじゃないかとソロモンが言い出したらしい。
『あー……』
そうしたらどうなるかは、想像に容易い。全員が揃っているならば、当然カグラもそこにいるという意味でもある。つまるところ団員一号の身柄は、カグラに確保された状態であるという事だ。
カグラの動きいかんによって、団員一号はソロモンの反応を確認出来ない状態に陥る可能性がある。そしてカグラ相手となったら、団員一号に抗う手段はない。
よって、無事に任務が遂行出来るかわからないというのが、今の彼の立場であった。
そしてミラもまた、そのような状態なら仕方がないと納得し、『出来る限りでよいからな』とだけ伝えるに留めた。