軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

512 起動実験

五百十二

アンドロメダによって告げられた世界の危機。これにアラトが協力の意を示した事で、にわかに沸き立つ技術者連中。この件は極めて大事だと懸念するその者達の中から、技術力ならばアラトに負けないという者が、ちらほらと名乗り出た。

事実、日之本委員会の中でもかなりの腕を持つ技術者達である。

その腕前を認めたアンドロメダは、そんな彼ら彼女らも加え、その場で世界危機対策チームを結成してしまった。

「よし、それじゃあ君達に扱ってもらう安全装置だけど、これはまあ説明するより直接見てもらった方が早いかな」

当然のように自分がチームリーダーだと決めてから、ちょっと待っててねと言い残し転移ゲートで向こう側に戻っていったアンドロメダ。

そして、一、二分ほど待ったところで、安全装置を担いで戻って来た。そう、あの長さ五メートル、太さが一メートルはある大きな機械仕掛けの柱をだ。

「わーお……」

「でっか」

「あんな感じで、怪力キャラ?」

アンドロメダと安全装置。その見た目の大きさ的比率がバグっていると戦慄するアラト達。

天魔族というのは、スレンダーでいながらとんでもないフィジカルなのかと、またざわめき出す。

「どうだい、凄いだろう?」

そんなアラト達の反応に気をよくしたのか、一度床に置いたそれを再び片手でひょいと持ち上げては得意げにほほ笑むアンドロメダ。

いったい、どこにそんな力が。種族の力か、もしやわからないように魔法を使っているのか。または身に着けているものの中に、とんでもないブースト装備があるのかもしれない。

驚きながらも、あーだこーだと予想合戦を始めるアラト達。ただアンドロメダは、これについてはそこまで勿体ぶらずに理由を明かした。

いわく、この安全装置自体に特殊な重力制御が組み込まれているのだと。

凄いのは安全装置であり、アンドロメダ自身ではない。だからこその早期ネタバラシである。

「これは、本当に凄いな……」

「メインの機能のみならず、そんな機能まであるのか」

「駆動音とか何もしないのに、とんでもないぞ、これは」

ミラにしてみると「なるほど」くらいの仕掛けだったが、技術者達の目からすると、その性能はとんでもない部類に入るようだ。

アラト達といったら、安全装置に釘付けだ。その重力制御は、いったいどんな仕組みになっているのかと調べ始めた。

何でも重力制御については、この研究所でも似たような術具を開発し、大陸鉄道などに使っているらしい。

だからこそ、それを例として比べる事で性能の差が明確になる。この安全装置に組み込まれたそれの性能は、ずば抜けていると。

「まさか起動状態でこの静かさとは……。しかも安定性が違う。こういう細長いものを均等に制御するのは、かなり難しい。驚きしか出てこないな」

調べるほどに、その見事過ぎる技術の高さが窺い知れると感心するアラト達。

なおミラはというと、「へぇー」くらいの感想しか出なかった。アラトの言っている内容についても、やはり専門外であるからだ。

術具については相応に把握しているものの、魔導工学に使われるものはまた別分野なのだ。

「よし、これで全部だね」

その後、残る三本の安全装置も運び込んだアンドロメダ。アラト達は、これほどのものが四本もあるのかと興味深そうに観察している。

そうした中で、いよいよ本格的な作業が始まった。研究観察は一旦中止。まずは安全装置が万全な状態かどうかの点検を始めるという。

「ずっと保管されていたって話だけど……新品そのものだなぁ」

「そりゃあ、使っていないなら新品だろうさ。まあ、経年劣化がまったく見られないって点は驚きだが」

「よーし、起動確認。っていうか、霊脈のエネルギーを吸い上げるって、どんな仕組みなんだろう」

アンドロメダの指示通りに安全装置を操作して、点検作業を進めていく技術者一同。

と、その様子をただ見守るだけの者が一人いた。

(全部持っていかれたのぅ……)

転移ゲートを通れる存在として、先ほどまでは今か今かと皆が待っていたはずが、気付けば全てをアンドロメダに掻っ攫われたミラ。加えて技術者達の興味は、彼女が持ち込んだ安全装置に釘付けだ。日之本委員会よりも更に先を行く技術が使われているとあって、それはもう皆がこぞって点検に協力している。

ともなると工学的な技術を持たないミラは、いよいよ何もする事がなくなっていた。

「これはもう、わしはとっとと聖域を測定して来いという感じかのぅ」

ちょっと不貞腐れ気味にぼやくミラ。安全装置を設置するに相応しいかどうかを調べるための測定器は既に預かっている。よって、このまま出発したところで問題はないわけだ。

と、そう考えていたところ、聖域という点で一つ思い出す。それは、一番重要だとアンドロメダが言っていた聖域についてだ。

『時に精霊王殿よ。ちょいと聞きたい事があるのじゃが──』

ミラはそんな前置きをした後、アンドロメダに聞いた聖域の件について精霊王に色々と伺った。かつて精霊王が治めていた聖域『彩霊の黄金樹海』の事だ。

最大の霊脈上にあったが統治者である精霊王がいなくなった事で荒廃してしまった聖域だが、それがまだ健在だった頃は、いったいどれほど素晴らしい場所だったのだろうか。そうミラは気になったのだ。

『おお、それはもう我が言っては自画自賛になるかもしれないが、この大陸で最も美しく平和な場所であったといっても過言ではないだろうな──』

ミラの質問を受けるなり、精霊王は当時の栄光を語るが如く『彩霊の黄金樹海』とは如何に素晴らしい聖域だったのかを話し始めた。

生い茂る木々は黄金に輝き、恵みに溢れ、聖獣達によって争いはなく、恒久的な平和が実現していた正真正銘の聖域。

それは精霊王にとっても、かなり自慢出来る話題だったようだ。止めどころがなく、それでいて実際に強く憧れるような内容も満載であった。

『──流石は精霊王殿じゃな。よもやそれほどまでとは。是非とも見てみたかったのぅ!』

中でも特にミラが憧れた部分があった。今では幻とされる聖獣や霊獣が当たり前のようにいたという点だ。

かつてダンブルフが聖域造りや復興に力を入れていた理由の一つが、正にそれだった。もはや存在すら確認出来ない幻の聖獣や霊獣が、もしかしたら聖域に現れるかもしれない。そんな願いも込めての活動だったのだ。

だからこそ『彩霊の黄金樹海』には、ミラの夢の全てが詰まっていた。可能ならば、それを今一度復興させてみたいなどと思うくらいにだ。

『本当に懐かしいわ。私もよくお邪魔したものね。でも、本当に残念だわ。せめて継承が出来ていたら、シン様みたいに単独でとはいかなくても、分割して統治するくらいは出来たかもしれませんのに』

マーテルもまた当時をよく知っているようだ。加えて、彼女もその聖域で多くの植物を生み出し育てていたらしい。そして何よりも、そんな聖域が失われてしまった事が残念だと呟く。

精霊王が禁忌に触れた時の事。環境への影響はあまりにも迅速で膨大だったため、継承だ何だという様々な引継ぎをする間が一切なかったそうだ。

多少なりとも時間があれば、一度マーテルが聖域の管理者を引き継ぐなどして対応出来たという。その後、適任者を選び分割するなどすれば、在り様などは変わってしまうだろうが今でも聖域は維持出来ていたはずとの事だった。

『もったいないのぅ……』

『ああ、まったくだ。苦労してあれほどまでに育てたものを……』

健在であったなら、きっと多くの出会いがあった。そうミラが惜しむと、精霊王もまた今は無き聖域を思い溜息をもらした。

「よーし、こっちも問題なしだ」

「オッケー。これで完璧だな」

ミラが精霊王達と話している間にもアラト達の作業は進み、いよいよ安全装置の点検が完了した。機械的な故障などはなく、それどころか一万年以上も置きっぱなしになっていたとは思えないくらいの状態であったと驚くほどだった。

「うんうん、いい手際だ。これなら十分に使えそうだね。教える手間も省けて助かるよ」

どうやら日之本委員会の技術者達は、アンドロメダのお眼鏡に適ったようだ。安全装置の機能や仕組みなどといった点も、彼らはばっちり理解したらしい。

そのように、ミラがまったくわからない領域の話で盛り上がり続けるアンドロメダとアラト達。

「それじゃあ最後に、起動テストもしておこうか」

状態に不備はないと点検を終えたアンドロメダは、設置してからどのように起動し、どこに注意すればいいか確認してほしいと続けた。

今は問題なくとも、いざ本番の際に問題が起きた時、どう対応するべきかという点もまた重要であると。

「待ってました!」

「どんな感じになるのか楽しみだな!」

その通りだと作業を再開したアラト達は、意気揚々といった顔つきで安全装置の起動準備を始める。

そうして、いよいよそれぞれが持ち場に着いたところで、アンドロメダがミラに向けて言った。「神器を構えていてもらえるかい」と。

「おお、承知した!」

ずっと置いてけぼりかと思ったら出番があったと喜んだミラは、アイテムボックスに収納してあった神器を取り出し、決め気味に構える。

思えばこの安全装置は全て、ミラが手にする神器のためにあるものだ。つまり主役は自分であると胸を張ってのポーズである。

と、準備が万端に整った事を確認したアンドロメダの合図によって、安全装置を起動したところ──。

「……あれ?」

まず一番に困惑の声を漏らしたのは、アンドロメダであった。

だが安全装置は、四基とも起動しているとわかる。何やら変形ロボット並みに形を変えて、ただの柱状から砲塔のような状態になったからだ。

けれどアンドロメダは、明らかに起動成功とは言えない顔をしていた。

「どうしました? 何か問題が?」

一見すると問題はない。だがアラトはアンドロメダの反応が気になったのだろう、そう問いかけた。

また誰もがアンドロメダの反応が気になったようで、これにどこか問題があるのかと注目が集まる。

「ああ、そうだったね。そういえばまだ正解を話していなかったか──」

これはどうした事かと安全装置を確認していたアンドロメダは、ふとミラの方を見やるなり、いったい何があったのかを説明した。

「──これの目的は共通しているからね。本来は、全部が連動して同じ地点に向くように作られているんだよ」

そのように問題を告げたアンドロメダは、「おっかしいなぁ、どこも正常だったのになぁ」と呟きながら安全装置の点検を再開する。アラト達もまた、そういう事かと納得してアンドロメダを手伝う。

そうするとまた、先ほどにもあった状態に逆戻りだ。

「……わしは、どうしておればよいのじゃろうな」

神器を手にぴしっと決めていたミラは、全部がバラバラな方を向いている安全装置を見つめながら、そうぼやいた。

本来ならば、それらが霊脈から吸い上げたエネルギーを送ってくれる仕組みだ。

しかし今のままでは、間違いなく失敗である。それでいて世界の危機は待ってくれるわけもない。となれば神器の反動で吹き飛ぶ未来しかない。

いっその事、武装召喚の研究を更に進めて、この神器の反動にすら耐えられるようにしようか。

そう、ミラがいざという時の対処法を考え始めたところだった。

「あれ……おかしいな。そもそも、リンクが繋がっていないぞ」

安全装置を調べていたアンドロメダが、そんな言葉を口にしたのだ。また二つ目、三つ目と続けて安全装置を確認するたび「これも」「あ、こっちもだ」と言葉を繰り返す。

結果、神器の起動信号を受けて連動するはずのリンクそのものが繋がっていないのが原因だったとアンドロメダは結論付けた。

「つまり、そのリンクを繋ぎ直せばいいわけですね」

安全装置と神器は、今ここにある。だからこそ直ぐにでも解決出来そうだと、安心した様子のアラト。他の技術者連中もまた、一万年以上も出番がなかったのだから、そんな事もあるだろうと納得顔だ。

「まあ、そうだね。そうなんだけど……」

少し懸念でもあるのか、複雑な表情のアンドロメダ。ミラは「ちょっと調整させてね」と言う彼女に神器を預けながら、面倒な事にならなければいいなと願った。