軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

511 アンドロメダ降臨

五百十一

日之本委員会からの転移ゲートが繋がった謎の広間。ミラがそこに戻って来たところ、ゲート先に見えるアラト達が一斉に盛り上がった。

(おー、おー、随分と心配してくれておった──……というわけではなさそうじゃな……)

無事にミラが戻って来たから喜んだ、というように見えたのも束の間。次の瞬間には『で、結果は?』などと書いた紙を提示してくるあたり、アラト達の興味は、この謎の施設にしかないようだ。

(こういう時は、形だけでも心配するそぶりをするべきじゃろうが)

むしろミラなら大丈夫という信頼もあったのか。早く早くと成果だけを欲しがるアラト達を前にして、少し悪戯心を覗かせたミラは、まるで何もありませんでしたといった仕草で首を横に振ってみせた。

するとどうだ。まさかで繋がった転移ゲートと、これほどまでに謎な施設が揃いながら何もないなんてと驚き落ち込み慟哭し、打ちひしがれていく技術者連中。

と、そんな時だ。

「あ、そこに見えるのが技術者の方々かな?」

途中、私室に寄ってから資料だなんだを持ってきたアンドロメダが、転移ゲートの向こう側を覗き見ながらミラの隣に立った。しかも寄るついでに、なぜかフード付きのローブを羽織ってきていた。

そのローブの意匠は実に見事なものだった。一見すると、とんでもない大魔導士にも見えるほどだ。

そんな大物染みた存在がいきなり現れたとあってか、悲壮感の漂っていた向こう側の様子は一変。いったい何者か何があったのかと、今度はてんやわんやの大慌てだ。

「うむ、あの真ん中にいるのが、今回転移ゲートを完成させたアラトという男じゃな。で、周りにいる者達もまた、何かしらの技術に傾倒する変人共じゃよ」

一度向こう側の状況は端に置き、まずはアンドロメダにアラト達を紹介する。と、その際にミラが行った仕草などから自分達が紹介されていると悟ったのだろう。隣の人物は、何者なのか。もしや、神でもいたのか。それはもう次々と浮かんだ疑問を紙に書いては答えを求めて迫ってきていたアラト達が急に大人しくなった。そして何かを話し合った後、出来る技術者面で整列した。

「なるほどなるほど。見た感じ、これなら十分に期待出来そうだ」

アラト達の態度、それとゲート越しに見える施設の様子を見回したアンドロメダは嬉しそうに笑った。

きっと、その技術力が彼女の望む水準に達していると判断してくれたのだろう。ミラは少しだけ誇らしく思いながらも、「しかし、何でまたそのような格好をしてきおった……」と口にする。

落としてから持ち上げる。そんな一連の楽しみを全てアンドロメダにかっさらわれたミラは、そうなるのもやむなしな彼女の服装を見据える。

「だって君は、私が天魔族だって言ってもあんまり驚いてくれなかったじゃないか。だから今度は、少し趣向を変えてみようと思ったんだ」

どうやらアンドロメダは、何が何でも驚かせたいらしい。それが天魔族という極めて希少な種族の矜持なのだと息巻いていた。

「なんじゃそれは……」

呆れるミラだったが、ゲートの向こう側を見たところ半分は成功していそうだと苦笑する。

とりあえず、とても偉そうな相手に見えるから、当たり障りのないよう相応に身構える。アラト達の様子を表すのならば、そんな一般的な日本人らしさが滲み出ている対応であったからだ。

「ともかく、戻るとしようか」

アラト達がアンドロメダにどのような反応をするのか。そしてアンドロメダは、その目標を達成出来るのか。その辺りについては割とどうでもいいミラは、そう言うなり転移ゲートに踏み込んでいった。

「……おお、無事に戻ってこれたようじゃな」

万が一も考えたが、それこそ杞憂であった。見覚えのある研究所に戻って来たミラは、だが次の瞬間に「おかえり、それで──!」と、怒涛の質問攻めを受ける事となった。

何があったのか、どんな施設だったのか。気になる事は沢山あるだろう。ただ、今はやはり転移ゲートの先にいる人物が最大の興味対象となっていた。質問内容は、あの人物は一体誰なのかという点に集約されていく。

「まあ色々、話せば長いのじゃがな──」

問われるも正直に答えてしまったら、ネタバラシを楽しみにしているアンドロメダに何と言われるか分かったものではない。よって転移した時の感想などを、のらりくらりと説明していたところ──。

『おお、ミラ殿! 急に繋がりが遮断されてしまったので、どうなったのかと心配したぞ!』

『よかったわ、ミラちゃん! 大丈夫だった? いったいどこに行ってたの?』

研究所に戻って来た事で、精霊ネットワークもまた再接続されたようだ。その途端に精霊王とマーテルの心配したという声が降り注いできた。

『それがまた、とんでもないところじゃった。しかも、そこにはとんでもない者がおってな。ただ話からして、精霊王殿とマーテル殿は知り合いではないじゃろうか』

二人にそう返したミラは、続けてアラト達にも、細かい事は彼女本人に聞いてくれと告げて振り返った。

「え?」

一瞬、その言葉の意味が正確に認識出来なかったのだろう、アラト達は驚いたように転移ゲートに目を向けた。

それは、アラト達では通る事の出来なかったものだ。資格を持つミラのみしか通り抜ける事の出来ない転移ゲート。だからこそ、他の者がそれを通ってくるという可能性について失念していたわけだ。

だが相手は、転移先の施設にいる謎の存在である。アラト達は、その可能性がある事を思い出し、期待するように転移ゲートを見据えた。

そうして皆が注目したところで、前振りは十分だと喜んだアンドロメダが動く。

一歩二歩と歩を進め、アラト達が息を呑む中、アンドロメダは転移ゲートを通り堂々とした足取りで研究所内に降り立った。

大物感漂うアンドロメダの登場に沸く研究所。それと同時にミラの頭の中にも声が響いていた。

『なんと、そういう事か! お役目のために色々動いていると言っていたが、まさかこうして繋がるとは。そして彼女の施設に招かれたという事は、つまりそういう事か。やはり我の目に狂いはなかったな』

『まあまあ、アンドロメダさんね。懐かしいわ。彼女がいた場所というのなら、そうね。繋がらなくなってしまうのも無理はなさそうね』

やはり二人はアンドロメダの事を色々と知っているようだ。そして繋がりが切れた事にも納得した様子でもある。むしろアンドロメダが関係していたのなら心配もなさそうだと、安堵すら浮かべていた。

と、そんな精霊王達からの信頼も篤いアンドロメダはというと、自分演出に余念がなかった。

それこそ大物ぶりながらアラト達を見回すと、次の瞬間に、そのままふわりと宙に浮いて見せたのだ。

(おお!? 何だかんだ言うて、やはりとんでもないのじゃのぅ)

ミラの目は、マナの流れを捉えていた。ゆえにアンドロメダが浮かんでみせたそれは、魔法による演出だと気づく。

しかし、その魔法の構造やマナの反応に動きなど、魔法を構築する部分は、さっぱり解読出来なかった。

研究のため、多くの魔法や術の構造を研究してきたミラ。その膨大な知識をもってしても、アンドロメダが使う魔法は未知の領域だったのだ。

「浮いてる……!」

「なんか……凄いぞ!」

「これは……女神様!」

そんな未知の魔法による演出は成功したようだ。使い方が何とも下らないが、その只者ではないですよ感にアラト達は十分な驚きを露わにしていた。

なお一部、声の色合いが違うが、その理由はローブの裾から覗くアンドロメダの生脚が理由だろう。それっぽいローブを用意した彼女だが、その下はショートパンツとティーシャツのままなようだ。

位置が上がり中途半端にローアングルになったからこそ覗き込めるという背徳感が生まれ、 女神(・・) の降臨を望む彼らの心を刺激したわけだ。

なおアンドロメダ本人に、そういった理由だと気づいた様子はない。むしろ女神などと呼ばれ、ますます得意げになっていた。それが比喩の意味で使われているとも知らずに。

ただ、そこについては知った事ではないため、ミラは静かにその先の展開を見守る構えだ。

「初めまして、素晴らしき技術を持つ者達よ。まずは、ゲート開通おめでとう。遂に、わたしの許に客人が訪れた。これは、とても素晴らしい事だよ」

演出が上手くいったようだと嬉しそうなアンドロメダは、どこか得意げな顔でそう称賛した。

そして、確かに演出と尊大な言い回しも相まって、研究者達はそれこそ上司が視察に来たとでもいった反応を示す。なんだかわからないけれど、ありがとうございます。と、褒められた事もあってか概ねそのような反応だ。

「で、どちら様なんだ?」

そんな中アラトが、小声でミラに問いかける。なんだか凄そうという印象だけが先行して、結局のところ正体不明のまま。早くそこをはっきりさせたいと思うのも当然だ。

けれどミラは「はてさて、何者かのぅ」と答えをはぐらかす。こんなところで正直に答えたら、間違いなくアンドロメダが不貞腐れるはずだからだ。

「……まあ、なんか凄いのは間違いなさそうだな」

もったいぶるミラの反応を前にして共犯かと苦笑したアラトは、それでいて興味深そうにアンドロメダを見据えた。ミラの態度からして、少なくとも危険はなさそうだと判断したようだ。ならば後は、名乗ってくれるのを待つだけという構えだ。

他の者達も、同じ考えなのだろう。いったい何者なのかと、アンドロメダに皆の興味が集まっていく。

「うんうん、私の事が気になるようだね。まあ君達からしたら、謎のゲートの先にいた人物になるわけだからね。それも仕方がないだろうよ」

それこそが理想的な反応であったのだろう。アンドロメダの声は、少し嬉しげに弾んでいた。

「では明かそう。私の正体と、その使命を!」

彼女はそのままの勢いで続けるなり、大げさに振る舞いながらフードに手をかけると、優雅そうな仕草でフードを脱いでみせた。

「あれは……!?」

「なん……だと!?」

瞬間、全員の顔に緊張と警戒が浮かんだ。

それも当然か、天魔族であるアンドロメダの頭には、悪魔と同じような角があるのだ。そして元プレイヤー達の中に、ねじれた黒い角という悪魔の特徴を知らぬ者はいない。

そして悪魔といえば、数多くの悲劇を生み出す元凶。ゆえに急激に場が張り詰めていき、そのまま臨戦態勢に──突入するかといったところでアンドロメダは高らかに告げた。

「私の名は、アンドロメダ! 悪魔ではない、だが天使でもない。むしろその始まりとなる、そう我こそが天魔族! 天魔族のアンドロメダ、だ!」

それは、ミラが彼女と初めて出会った時とは、また違った口上だった。ミラの反応を余程気にしていたようだ。特に天魔族の部分を、これが特に重要だと言わんばかりに強調していた。

更に彼女は、中々に徹底した性格だった。アラト達がそれに対して反応するより先に、それこそ前回の事を鑑みてか「説明しよう、天魔族とは──!」などと自己紹介の補足まで始めたではないか。

アンドロメダは語る。神話と言っても過言ではないほど遠い過去の事を。未だ創世の時代にあった頃の事を。そして天魔族の過去と今について、事細かに告げた。

「急に壮大になったな」

「これは、本当の事なのか……?」

「精霊より前からいたとか、マジ神クラスじゃん」

アンドロメダの話を聞き終えた技術者達は、その内容に驚き戸惑いながらも、同時に凄い事になったぞと騒ぎ始める。

過去に存在した天魔族。天使と悪魔は、その者達が転生した存在である。そんな世界の秘密がさらりと明かされるのみならず、自分こそが僅かに残った天魔族そのものだと話すアンドロメダ。

その内容に興味を持たぬ者などいるはずもなく、真実は、証拠は、理由は、と様々な言葉が飛び交い錯綜していく。

「うんうん、驚くのも無理はない。うんうん、もっともだ、もっともだ」

その言葉は本当なのか。なぜ転移ゲートの先にいたのか。ここにきた目的は何か。

肯定的であったり否定的であったり、人が多ければ相応に様々な意見が出てくるものだ。だがそれら全てをひっくるめて、アンドロメダは実に素晴らしい反応だと喜んでいた。

『何と言うのだろうな。我が知る頃に比べて、随分と承認欲求が高まっている様子だが……何かあったのだろうか?』

『そうねぇ。元々、自己主張は強めだったけど、ここまでではなかったわねぇ……』

精霊王とマーテルは、久しぶりに再会した知り合いの様子を前にして苦笑気味であった。元から前に出たがるタイプだったが、ここまでではなかったそうだ。

『長い時が経っておるからのぅ。そういう事もあるじゃろう』

ただ、それはきっと、あまりにもミラの反応が薄かったためだろう。その点を相当気にしていた事からして、ミラも何となく原因に気づく。だが面倒そうなので、そこに触れはしなかった。

「所長のオリヒメです。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、今後ともよろしくね」

と、精霊王達の話を聞いている間にも、現場では挨拶が進んでいた。オリヒメとアンドロメダが対面し自己紹介を交わす。

心なしかオリヒメは緊張気味だ。だがそれも無理はない。ああ見えても、実際に大物である事は確かなのだから。

「ところで質問いいかな。あの設計図を解読し、私のところに繋がるこのゲートを完成させたのは、君でいいんだよね?」

挨拶も終わったところで、アンドロメダは本題ともいえる部分に触れた。彼女がこちら側に来たのは、それを可能とした技術者と安全装置の件で直接話をするためだ。

とはいえ、いきなり今のような言い方をされたら、もしかして勝手に繋げてしまって怒っているのかと思い戸惑ってしまうというものだ。

事実、僅かにざわつきが引き、沈黙が広がった。

「そうです、俺です!」

何とも言えない雰囲気の中、責任というものか。アラトは堂々と頷いた。お咎めなら自分が受けるとでもいった表情だが、それはまったくの杞憂であり、次の瞬間にはその事がはっきりと示される。

「素晴らしい! 設計図には不可解な点も多かっただろう。そして調整の難しい部分もあっただろう。しかし、それらを解決して私の許に繋げるとは、実に見事な技術力だ」

アンドロメダはアラトを見据えながら絶賛した。そして更にそこから「さて、その技術力を見込んで、とても重要な話をしよう」と続けた。

アンドロメダが話す内容。それは、先ほどミラも聞かされた世界の未来についてのものだ。

過去に起きた魔物を統べる神との戦い。それに伴う世界の危機と、これを防ぐための神器。そして、神器を使うために必要な安全装置の事。アンドロメダは、それらについて詳細に伝え、最後に「だからこそ、貴方の技術力が必要というわけなんだ」と締めくくった。

「いやいや、そんな──」

話を聞き終えたアラトは、それこそ、まさかいきなり世界の危機だなんてと苦笑していた。

とはいえ、それもそうだ。突然、世界が滅びるだなどと言われても、だいたいの者がアラトと同じような反応をしたであろう。それほどまでにアンドロメダの話は、突拍子もないものであった。

けれど、その話の内容と繋がりのある何かがあれば、今度は急激に現実味を帯びてくるものだ。

アラトは、繋がる何かに心当たりがあったようだ。「──最近報告にそのような……」などと呟くなり暫く黙り込んでから、「わかりました。やりましょう」と力強く答えたのだった。