軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

510 候補地

五百十

「ああ、そういえばもう一つ。聖域といっても霊脈の大きさがそれぞれ違っていてね。必要な大きさかどうかについては、実際に現地で調べてみるしかないんだ。後で測定器も渡すから、思い当たる候補地があったら先にそれで調べてみてくれ」

神器の反動を相殺するための装置。その設置地点について、アンドロメダは更に条件を追加した。

東西南北と大陸の広くに分ける他、霊脈の大きさというのもまた装置の起動に必要だそうだ。

「ふむ、承知した」

とはいえ用途が用途だ。そして何よりも神器を使う自身にも関係する事である。ミラは素直に頷きながら、自分が復興させた聖域の中に候補地があってくれと願う。

なぜならアンドロメダは聖域に設置などと簡単に言っているが、事はそう単純ではないと知っているからだ。

無関係の者がおいそれと入り込むのみならず、勝手に何かを設置などしようものなら、聖域に住まう全てと敵対する事になりかねない。場合によっては、戦闘にだって発展するだろう。

だが、復興させた聖域ならば話は別だ。そこに住まうもの──ペガサスやロッツエレファス、ガーディアンアッシュ、ウムガルナ、ジングラーラなど、その中心となっている聖獣の類は全てミラが召喚契約している仲間であるからだ。

入り込んだところで敵対する事は、まずありえない。そして頼めば装置の設置もまた問題なく出来るはずだ。

「ところで、この装置の設置や起動による悪影響といったものは、あるのじゃろうか?」

まずは自分が関係している聖域を確認してみよう。そう予定を立てたミラは、同時に浮かんだ懸念事項について口にした。

設置するものは、強力な神器の反動を相殺するための力を霊脈より汲み上げる装置だ。よって相当に莫大な力が流れる事になるが、それによる影響はどうなるのか。

大事な仲間のいる聖域に設置するかもしれないのだ。その辺りについては、はっきりさせておきたいところである。

「ない、といえば嘘になるけど、その点は大丈夫。だからこそ東西南北に設置する形にしたんだ──」

アンドロメダは少しだけ言い淀んでから、そう正直に告げた。

いわく、ミラが懸念した通り、莫大なエネルギーを扱うため聖域に何かしらの影響は出るそうだ。

だが、それは一ヶ所のみに設置した場合だという。装置を各地に分散して設置する事で、それぞれが扱うエネルギー量を抑え、周辺への影響を最低限にまで抑える。それが、装置を複数用意し、なおかつ一定以上の規模の霊脈を必要とした理由との事だった。

起動後、暫く霊脈の力が弱まるものの、影響のないうちに元通りとなる。それが想定されている影響だという。

「ふむ……それならば、大丈夫そうかのぅ」

アンドロメダのいう事を丸ごと信じるならば、問題はなさそうだ。しかし、神の力がどうとかこうというレベルの話になってくると、あまりにも未知な部分が多過ぎた。

全てを鵜呑みにして、いざ仲間達の聖域に何かあったらという心配も払拭しきれない。

「それはもう大丈夫さ。この装置を開発した神様は、過剰なくらいにお人好しだったからね──」

と、心配が顔に出てしまっていたようだ。アンドロメダは、どれだけ装置の安全性が確かなものなのか、どこか懐かしむように語り始めた。

アンドロメダが口にした神様とは、どうやら複数存在しているようだ。いわく、そのうちの一柱が、とても心配性のお人好しだったらしい。

神器の完成後、その反動と影響をいち早く考慮し、これを抑制する方法を用意した。それが、目の前にある四本の装置であるわけだ。

「──で、数十回にも及ぶやり過ぎな試用テストを行い調整を完了して、ようやくここに収まったんだ。だから心配は要らないよ。気になるのなら、新たに霊脈を探したっていい。聖域というのはあくまでも目安だからね。それと設計図も保存されているから、君のところの技術者に確認してもらうといいよ」

アンドロメダ自身、その神様の事を余程信頼しているのだろう。その表情には、懐かしさの他、信仰とはまた違った敬意のようなものが窺えた。

「そこまで言うのならば、きっとそうなのじゃろうな。うむ、ではわしも、その神様を信じるとしようか」

そもそも、危険だなんだを考えないような神様だったとしたら、反動を相殺するための装置自体を用意したかすら怪しいというものだ。

そして何よりも、このアンドロメダが信頼を寄せる相手である。よってミラもまた、そんなアンドロメダを信じる事にするのだった。

「さて、それで東西南北に設置するって説明したけど、その内の一本、西側の分だけは特別な霊脈の上に設置しなければいけないんだ──」

安全装置を大陸の東西南北に設置する。それらについての説明などが終わって直ぐ、アンドロメダは次が一番大事であると続けた。

安全装置のうち三本は、早い話がいい感じの場所に設置すれば大丈夫。だが、西側の一本を設置する場所は、もう予め決まっているという。

「──で、それがどこなのかと言うと、まあ察しはつくよね。そう、大陸西側の特別な聖域といえば、ご存じ『彩霊の黄金樹海』だ。大陸一の聖域であり、その境界線を越えるには困難な試練を突破しなければいけない。ゆえに一番重要ながら、一番難しい設置場所だ。けれど、ここで嬉しい誤算だ! 君ならば、もう楽勝だね!」

アンドロメダの言葉は重々しく始まった。しかし一転、途中から声が弾みだす。まるで、面倒ごとが一気に片付いたとでもいった爽快な表情だ。

彼女の言葉からして、その理由は、ここにきたのがミラだったからこそとわかる。しかし当のミラはというと、なぜ自分ならば楽勝なのかを把握出来ていなかった。

「その黄金なんちゃらというのは、どこの事じゃろうか……?」

大陸で一番大きな聖域という部分については、幾らかの知識はある。現在は、アリスファリウスの南にある広大な森の只中に存在する花畑──『虹の咲くオーレガリア』だ。

中心に聳える大きな廃城も包み込むようにして一年中可憐な花が咲き乱れるそこは、女神が愛する地などとも云われ、景色も一番とされる聖域である。

きっと素敵な召喚契約相手がいるだろうと想像しつつも、未だ立ち入る事の叶わぬ場所だからこそ、ミラは詳しく知っていた。

しかしどういう事か、アンドロメダが一番大きな聖域と言ったのは、まったく別の場所だ。もしかしたら、呼び名が複数あるのか。それとも──。

気になったミラは、単刀直入にその疑問を口にしていた。

「……あれ? 聖域には結構詳しそうな感じだったけど知らない? しかも精霊王の加護まであるのに?」

アンドロメダが最初にみせた反応は、驚きだった。そして次には、むしろそれだけの要素を持ち合わせていて、なぜ一番の聖域を知らないのかという疑問も浮かべて困惑する。

と、その時だ。アンドロメダの言葉に『精霊王』と出てきた事で、ミラはようやく合点がいったと声を上げた。

「あーそういう事じゃったか。以前にその存在についてちらりと聞いておったな。そうかそうか、精霊王殿が統治していたというそれが、黄金なんちゃらという聖域じゃったわけか!」

「そうそう、そこだよ。いやぁ、知らないなんていうからびっくりしちゃったよ、もう」

ミラがその聖域について知る事を口にすれば、アンドロメダは正にその場所であると嬉しそうに頷いた。

精霊王とマーテルが聖域の核がどうのと話していた際に、精霊王が統治していたという聖域の存在が登場した。日之本委員会の研究員ノリマサいわく、今でも健在だったなら大陸最大であっただろう聖域だと。

「──しかし今その聖域は、何もない荒野になっておると聞いておるぞ?」

聞いた話をそのまま伝えるミラ。

そう、精霊王が統括していた聖域は、精霊王の不在という原因によって今は完全に荒れ果てているのだ。

「あ……! あー、そういえばそうだったぁ……。精霊宮殿だと、その辺りも遮断されちゃうんだっけ」

霊脈があっても、その核となる存在がなければ聖域とはならない。今回の状況は、先ほどまで話していたそれの途中で核が喪失した形となる。

どちらかが欠けたら聖域としては成り立たない。単純な事ではあるが、美味しいもののためにある程度ここを離れたりもしていた彼女だ。その辺りについて知る機会くらいあっただろう。

そんな疑問も投げかけたミラに、アンドロメダはしどろもどろで答えた。行くのは食堂やレストランばかりだったため、世情についてはまったく気にしていなかったと。

そう今更ながらに気づいたアンドロメダは、そりゃそうだと苦笑した。

「して、大丈夫じゃろうか?」

一番重要だと言っていた聖域が、今は失われている。はたして、その事が現状にどれだけ影響するだろうか。神器は使えなくなりました、なんて事になったりしないだろうかと、ミラは不安げにアンドロメダを見やる。何よりも、折角手に入れた神器であるのだから。

「うん、まあ多分大丈夫でしょ。さっきも言ったように、必要なのは霊脈の方だからね。荒れ果てていようが場所さえわかれば、そこには大陸最大の聖域を支えていた霊脈がある。だから問題ないない」

大丈夫だ、問題ない。そのように答えるアンドロメダだが、その声は徐々に落ち込み、目には不安の色が浮かんでいた。

「何か、そうとは言い切れない様子じゃのぅ?」

誰が見ても、懸念点があるとわかる態度だ。ミラもまた直ぐに勘付くと、その点について追及した。

「まあ、他のところの普通の聖域だったなら、気にもならなかったんだけどね──」

するとアンドロメダは、圧倒的規模の聖域だったからこその影響があるかもしれないと告げた。

いわく、通常の聖域が荒廃するくらいだったならば珍しい事でもなく、霊脈への影響もほとんど出ないそうだ。

だが、精霊王の喪失に伴う最大規模の聖域荒廃は、何かしらの影響が懸念されるレベルだという。

「──この霊脈を流れるエネルギーというのはね、いわばこの星が生み出すエネルギーの余剰分みたいなものなんだ」

途中、アンドロメダがそのような情報を何気なく口にした。

それを聞いたミラは、「そうじゃったのか!?」と、それはもう大いに驚きを露わにした。

霊脈。そう聞いてミラは、むしろ循環している星の根源的なエネルギーそのものか何かだとイメージしていたからだ。しかしアンドロメダが言うには、余剰分。つまり、この星に秘められたエネルギーからはみ出た程度のものに過ぎないという事だ。

何より驚くべきなのは、そんな余剰分だけで大陸中の聖域は維持され、更には様々な恩恵が大地にもたらされている事である。

「凄いんじゃのぅ……」

いったい、星のエネルギーの本体とはどれほどのものになるのだろう。そんな事をぼんやり思いながら、ありきたりな感想を口にするのが精一杯なミラ。

そんなミラにアンドロメダは、懸念事項を丁寧に教えてくれた。

余剰という事は、いわば余ってしまったエネルギーという事。そして聖域などという存在は、そういった余分なエネルギーを消費するのに役立っているそうだ。

中でも精霊王が統治していた『彩霊の黄金樹海』は、その余分を多く引き受け、更には周囲の大地までも豊かにしていた。星にしてみれば、非常に優秀な取引相手だったわけだ。

「──しかし、そこが失われてしまったらどうなるか。余剰分を大量に引き受けてくれていた取引相手がいなくなったらどうなるかって考えたら、わかるよね。当然、消費されずに蓄積し続ける事になるわけだ。そしていずれは限界を迎え、地形すら変えてしまうほどの天災が発生するかもしれない」

そこまで語ったアンドロメダは、だからこそ星が緊急措置をとっているかもしれないと続けた。場合によっては、その消費出来なくなった最大の霊脈を閉じて、別の場所に移してしまっているかもしれないと。

「霊脈が完全に閉じられていたら、ちょっと厄介だ。そこに据える安全装置は、他の全ての安全装置の安定した起動と、集めたエネルギーの芯となる役割がある。そしてそのためには、最大クラスの霊脈のエネルギーが不可欠だ。もしもダメになっていたら、他に同じくらいの霊脈がどこかにあるかどうか……。うーん、これは困った」

どのような反動が起きているか、今はまだ断言出来ない。そのように結論付けるアンドロメダだが、幾つも事態を予想しては「とにかくまずは、現場を測定してみるしかない」と言って、台の横から何かプレート状のものを取り出した。

一見するとタブレット端末にも見える代物だ。

「というわけでさ、向こうに戻ったら現地に行って状態を調べてきてもらえるかな。これを使えば、霊脈の有無から何から詳細に測定出来るから。あと東西南北の分も、これで規定値以上あるかどうかわかるから」

どうやら、そのタブレット端末のようなものが先ほど言っていた測定器のようだ。アンドロメダは、ミラが測定している間に色々な状態を想定した案を考えておくとの事だ。

「うむ、承知した」

事は未来に関係する。ゆえにミラは、これは重要な役目だと頷きながら測定器を受け取った。だがそれと同時に、僅かな笑みを浮かべていた。

その測定器は、霊脈について様々な事を調べられるものだ。それはつまり、聖域となる場所の特定なども出来るという意味である。

これまで失敗で終わっていた新規聖域作り計画が、これを使う事で一気に前進する可能性が出てきたわけだ。

折角なので新規の候補地も見つけてしまおうと、ミラは心の中で計画するのだった。

「ああ、ちなみに装置の設置についてだけど──」

それぞれの聖域と『彩霊の黄金樹海』の跡地に赴き、霊脈の状態を測定する事。そう次の行動が決まったところ、アンドロメダがついでといった様子で話し始めた。

それは、安全装置をどのように扱い、どのように調整し、どのように設置するかという内容だ。

起動に調整、安定化。更には修正や再起動など。その説明の中には、かなり複雑な技術面での問題なども出てきたため、聞いているうちにミラの顔には疑問符が増えていく。

「──ああー、うん。よし、とりあえずミラさんは装置を設置出来そうな候補地と、『彩霊の黄金樹海』跡地についての調査だけお願いするよ。安全装置の詳細については、転送装置を完成させたという技術者に直接話そう。うん、それが一番だ」

ミラの表情から技術関係については、それこそさっぱりであると読み取ったのだろう。アンドロメダは途中で話を区切るなり、専門的な事は全てミラ側の技術者に直接伝えると口にした。

「ふむ、そうじゃな。それが出来るのなら、それが一番早そうじゃのぅ!」

何か特別な制約がありアンドロメダがここから出られないというのなら、どうにか覚えなくてはいけなかったが、そんな事はない。何かと出かけている様子なアンドロメダだ。であれば日之本委員会に来てもらう事だって十分に可能だろう。

専門的な事は専門家へ。ミラは、そうしてくれるのが最も簡単で確実だと頷いた。

「では、一度君がいた場所に戻るとしよう。今度は、私も一緒にね」

「よしきた」

アンドロメダが来てくれるのなら、安全装置について細かい事を考える必要はなさそうだ。よって自分は霊脈の測定だなんだをすればいいだけだと理解したミラは、早速幾らかの候補地を思い浮かべながら、アンドロメダと共に転移ゲートのある場所に向かった。