軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

509 究極神器

五百九

「決戦とな? それほど強力そうな神器を使うなぞ、どのような決戦を想定しての話じゃ?」

科学と魔導の融合によって生み出された神器。三神の力を束ねる事が出来るというそれは、明らかに人と人との戦争では過剰にも程があるというものだ。

ではいったい、どういった状況の決戦だというのか。兵器を受け継いだ自分が戦うとしても、いったい何と戦うというのか。

決戦だけでは、どうにも要領を得ない。と、その辺りについてミラが指摘したところ、アンドロメダは既に伝えられているメッセージに、その一文があると言った。

「一文のぅ……」

そうメモを確認してみたところで、それらしい言葉が目に入る。

『来たるべき侵略者との戦い』

アンドロメダが示唆するに、その戦いが決戦を示しているようだ。そしてここにある神器は、その戦いに備えて用意されていたわけだ。

「侵略者、のぅ。つまりその者は、それほどまでにとんでもない神器が必要になってくる相手というわけじゃろうか。それはいったい何者なんじゃ?」

相手は侵略者らしい。しかも用意された神器の性能を聞く限り、かなりとてつもない存在のようだ。だがこれだけでは漠然とし過ぎている。どこから何を侵略しにきているのかわからなければ、結局何も判断しようがない。

これに対してアンドロメダは、「遥か空の果てより舞い降りた滅びの化身、かな」と前置きするなり、過去の出来事について語った。

するとその内容は、ミラも以前に聞き及んだ事のある歴史についての話であった。

遥か昔の事。精霊王達が戦い、打ち破った存在。当時、『魔物を統べる神』と呼ばれたもの。そのものこそが、ここでいう侵略者であるという事だった。

「何と……聞いた事があるのぅ。じゃがしかし、相当に昔の話じゃったろう? しかも今は、その亡骸を幾つかに分けて封印してあるという話じゃが……」

以前にも、ちらほらと聞いており何かと厄介そうではあるが、今はまだ封印されている。

ただ、その封印の一つが悪魔の手によって解かれてしまったという事も聞き及んでいたミラは、もしや何か起きるのかと懸念を顔に浮かべた。

「そう、今は確かに封印している状態。ただ、それはつまり完全に消滅させる事が出来なかったから封印という手段をとったまでの事。やつは、いずれ復活する。しかも以前の戦いを糧として、より強力になってね」

それは、間違いなく訪れる事になる未来だと告げたアンドロメダは、だからこそ完全に滅ぼし消滅させる必要があるのだと続けた。

昔と同じように、それをただ倒したところで意味はない。封じたところで一時しのぎにしかならない。消滅させなければ、必ず世界は滅亡すると。

「まさか、それほどのものじゃったとは……」

精霊王達から聞いた限り、厄介そうだったが封じていれば問題ない。そのくらいの認識でいたミラは、唐突に告げられた滅亡の危機に息を呑んだ。

「実は、その一つが暴かれ盗み出されたようなのじゃが、もしや相当にまずい事じゃろうか?」

事が事である。緊迫感に包まれる中、そんな懸念を抱いたミラは、思った以上に危機的状態ではないかとアンドロメダに問うた。

「もう動き出しているって事か……。でも、何も聞こえてきていないから今はまだ大丈夫。一つ破られただけなら問題ないよ。……でも、その時は必ず来る──」

ミラの不安に対して緊急性はないと答えながらも、未来はわからないとしたアンドロメダ。しかし次には「──だからこそ、君の出番だ!」と、にこやかに告げた。

そう、ここにある神器は、不滅であるはずの脅威を完全に滅ぼすために創られたものであったのだ。

「しかもこれを使うには、特別な資質が必要でね。正直、誰も来ないのではと不安だったけど、君が来てくれて本当によかったよ。ここに来られたという事は、その資質を持っているって意味でもあるからさ」

アンドロメダはミラの事をじっと見据えるなり、嬉しそうに頷いた。

「わしとソウルハウルに資質が……? いったいどのような資質があったというのじゃろうか」

資質という謎の要素があると言われたミラは、むしろ謎ゆえに戸惑う。とんでもない神器を使える資質と言われても、これといって心当たりがないからだ。

ソウルハウルにもあるという事で、精霊王の加護といったものではない。他に共通点があるとしたら九賢者という立場か、はたまた元プレイヤーくらいなものであろう。

「気になるのも仕方がない。ただ私もその辺りについては詳しく教えられていなくてね。一つ、この世界との因果がどうとか聞いたくらいだ」

はてさて、資質とは何なのか。もしや伝説の勇者的な素養でもあるのか。そう期待したミラであったが、アンドロメダが告げたのは不確かな情報のみであった。

「ぬぬ……」

そこはモチベーションのためにも重要なところだろうに。まさかの答えに眉をしかめたミラは、だがそこで彼女の言葉にあった、『教えられていなくて』という部分に注目した。

それはつまり、彼女よりも更に詳しく事情を把握している人物が存在するという意味にもとれるからだ。

「ところでじゃが、確か先ほど言うておったな。天魔族は、神様とやらに遣わされたと。加えて途中にもちょくちょくと、この『神様』という言葉が出てきておったが、それはいったいどういう存在なのじゃろうか?」

アンドロメダよりも詳しそうな人物とは何者か。その点について考えたミラが行きついた存在。それが『神様』であった。

何度か彼女が口にした、神様。ミラは単純に、太古の神々や三神に対して敬称をつけただけだと思っていた。

だが、よくよく思い返せば、彼女はある特定の存在を示す場合のみに神様という呼び方をしていると気づいたのだ。

マキナガーディアンを使った試練を計画した存在。神器を創ったという存在。そして天魔族を地上に遣わせたという存在。これらの時に限ってのみ、彼女は神様という言葉を使っていた。

「ああ、神様はね──」

アンドロメダにとって、他の神々とはまた違う特別な存在であったのだろう。それでいて、特に隠す様な事でもないようだ。彼女は、その神様という存在について簡潔にだが教えてくれた。

神様とは、この世界を今の状態に整え、その管理者として太古の神々を創造した偉大なる存在であると。

だが今は、遥かな次元の彼方へと去ってしまったそうだ。

「なるほど……のぅ」

(正に創造神とでもいった存在じゃのぅ。しかしまた何とも……色々と謎じゃな)

アンドロメダの説明を一通り聞いたミラは、そこでふとゲーム時代の事を思い出していた。

現実となったこの世界は、そもそもVRMMOのゲーム『アーク・アース オンライン』の舞台であった。となればつまり、管理者というのは運営という意味にも捉えられる。そして神様といったら、開発元だ。

だがそこまで考えたところで、更にミラの中に疑問が生まれた。

(そもそも、この世界とは何なのじゃろうか……)

それは以前にも、ふと過ぎった疑問だった。

ミラ達元プレイヤーの主観からすれば、ゲームが現実になったという状況だ。では、ゲームとして作られた世界が現実になったという事なのだろうか。

だがもう一つの考え方もある。それは、現実としてあった世界をゲームの舞台に仕立て上げたという場合だ。

このどちらかで、アンドロメダが言う神様という存在が大きく変わっていくだろう。

はたして、この世界とは。不意に浮かんだ秘密に考えを巡らせるミラだったが、今はそれ以上に気にするべき事があった。

世界滅亡の危機だ。世界の始まりがどうだったにせよ、今はこうして現実として過ごしている世界である。そこに危機が迫っているとなれば、放っておく事など出来るはずもない。

何よりもここには、大切な仲間と大切な人が暮らしているのだから。

「ともあれ、そんな神様が創ったという神器を使う事が、わしに出来るというのなら……やれるだけの事はやってみようかのぅ」

将来に必ず訪れるという滅亡の危機。その原因とされる、魔物を統べる神。そしてこれを完全に消滅させるために創られた神器。その神器を使う資質。

急に降って湧いたような話ばかりだが、アンドロメダの言葉には確かな重みと説得力があった。

だからこそミラは、その決戦に挑む覚悟を決める。色々と探究するのは、その危機を乗り越えてからでも遅くはないだろうと。

「そう決断してもらえて嬉しいよ。それじゃあ、いよいよ君に使ってもらう神器を見てもらうとしよう」

世界のために戦う事を選んでくれたのなら細かい話はこれで終いだと、アンドロメダが扉に手をかざした。すると重厚な音が響くと共にその扉が開き、遂に神器が保管されているという部屋の全容が目の前に広がった。

「なんと……」

アンドロメダに続き、その部屋に踏み込んだミラは、そこにある光景を見回しながら息を呑む。

「さあ、この中から運命を感じた一つを選んでくれ!」

そう言ってアンドロメダが示した部屋は、それこそ軍事用の武器庫とでもいった様相だった。

そう、武器庫である。どれほど希少で貴重な神器が大切に保管されているのかと思いきや、そこには数十……いや、数百にも及ぶであろう様々な武器が整然と並べられていたのだ。

アンドロメダいわく、これら全てが神器だという。どのような使い手であっても、その手に馴染む一つが見つけられるように。そんな理由で、これだけの数を用意していたとの事だ。

「これは、予想外じゃったな……!」

スタンダードに、剣か何かだろう。そう思っていたミラは、突如突き付けられた選択肢に動揺し戸惑い、そして歓喜していた。

ゲームなどでよくあるのは、伝説の武器はこれだと決まった何かを入手するパターンだ。ただ、それが使っていない武器種である場合も多く、がっかりする事がある。

だが今回は、この伝説の武器の中から一つを選んでいいと言われるパタ−ンであった。ただでさえわくわくする瞬間が、選べるという要素で更に広がるのだから興奮度も跳ね上がるというものだ。

しかし──「これらは、性能にどのような違いがあるのじゃろうか!?」と興奮気味に聞いたところ、アンドロメダが当然のように返してきた。「形状以外に違いはないから、使いやすいのを選んでね」と。

「なん……じゃと」

それも当然である。神器の用途は、魔物を統べる神の完全消滅だ。そこにある全てが、そのために創られているのだから性能も同じなのは当たり前である。

ただ、ひょんな事からゲーム脳を発揮したミラのモチベーションは僅かに低下したのだった。

「よし、これじゃ!」

無数の神器を前にして悩む事、数十分。あれやこれやと試しに持ってみたり振ってみたり、ポーズを決めてみたりしたミラは、これしかないという一つを選んだ。

最もオーソドックスでスタンダードで何の捻りもない、安定と信頼の武器。

そう、剣タイプである。とはいえ、その剣身はミラの身の丈を超えている。分類的には特大剣だが、ここにある他に比べると特徴が薄いと言わざるを得ない。

「散々迷った挙句、無難に落ち着いたものだね……」

基本的なものから特殊なものまで、多種多様な神器が並ぶ夢のような部屋。そんなより取り見取りな状況の中から、たっぷり時間をかけてミラが選んだのは、正面近くにあったシンプルな剣タイプの神器だった。

ただアンドロメダは、選ばれし人間がどれほどユニークな神器を選ぶのか楽しみにしていたようだ。先ほどまでの吟味の時間はなんだったのかと、少々不満げだ。

「そんなもんじゃろう。これが世界の危機云々でなければ、あっちの五メートルくらいはありそうな杖か、そっちの変形する斧、はたまた向こうの合体する槍などを選んでいたじゃろう。しかし用途が用途じゃからな、無難に扱えそうなものになってしまうというものじゃよ」

何よりも剣であれば、いざという時に武装召喚のアシストでそれなりの腕前になれる。全て性能が同じならばこそ、ミラにとっては剣が一番相性がよかったのだ。

「……確かにそうかもしれないけど。あー、先に選んでもらってから説明するべきだったなぁ」

そうすれば、もっと遊び心のある選択を見られたかもしれない。そう言って落ち込むアンドロメダを前にして、ミラは凡庸な選択で悪かったなと不貞腐れる。

「ま、まあとにかく、おめでとう! これで君は究極の神器の担い手となった。そして同時に、世界の危機に立ち向かう英雄にもなったわけだ。君がその道を選択してくれた事、神様に代わり感謝するよ」

仕切り直すように謝辞を口にしたアンドロメダは、出来る限りの事はバックアップしていくと続けるなり、「とにかく次はこれだ」と壁にあるスイッチを押した。

するとどうだ。部屋の中央の床が開き、そこから巨大な棚がせり上がってきたではないか。

「何じゃこれは……?」

その棚に収められている特大の柱──いや、何かしらの装置のようなものを目にして疑問を浮かべるミラ。

長さにして五メートル、直径にして一メートルはあるだろう機械仕掛けの何かが、そこには四本も置いてあった。

いったい、これがどうしたというのか。これをどうしろというのか。これはどういうものなのか。これも神器と何か関係があるというのか。

見た目だけでは何もわからないそれを前にしたミラは、アンドロメダに何かと問うた。

「これを一言で表すとしたら、そうだね……安全装置かな──」

僅かな逡巡の後、アンドロメダはそう答えた。

いわく、ここにある神器を使うためには、この装置を特定の地点に設置する必要があるそうだ。

「──なんといっても、三神の力を束ねて使う事になる神器だ。その力はあまりにも規格外過ぎるから、本来は人の身で扱えるような代物ではないんだよ。けれど、その神器を使えるのは、資質を有する人でなければいけない。ならば、人の身で使うにはどうすればいいのか。その答えが、これというわけだ」

そのように話したアンドロメダは、更に続けて詳細を語っていった。

人の身でも三神の力による反動に耐えられるようにする事。それは当然、簡単ではない。よって安全装置の起動条件も、なかなか厳しいものだった。

まずこれをアース大陸上にある特定の地点に設置する。しかもその場所は、活性化している大きな霊脈の上が理想的だという。

そうしてそこから必要な力を汲み上げ収束させる事で、神器の反動が人の身体に影響を及ぼす前に相殺する、という仕組みだそうだ。

つまり、神の力に耐えるため、星の力を利用するわけである。

「ちなみに設置地点探しについては、そこまで難しく考えなくても大丈夫。理想的な場所は、だいたい聖域になっているからね。ただ、間隔を空ける必要があるから東西南北でわけるのが確実かな」

霊脈の上。その言葉だけでは、それがどこにあるのか皆目見当もつかなかっただろう。だが聖域が目印になるとの事で、「それは、わかりやすくてよいな!」と、ミラは安心して頷いた。

なんといっても聖域といえば、召喚術士にとって契約相手が集まってくれているという非常に重要な場所であるからだ。

しかも、そのような理由もあってか、ダンブルフ時代の頃には聖域復興や新規聖域化計画などを実行していた。ゆえにミラは聖域の場所などについては、そこらの専門家よりもずっと把握していたりする。

そのため、アンドロメダが理想と言った候補地について既に幾つか浮かんでいた。

「……ところで一つ聞きたいのじゃが、荒れ果てていたが人の手によって復興した聖域というのも、その候補に入るのかのぅ?」

あれこれ頭の中で候補を浮かべていた際に、その点が気になったミラ。天然ものの聖域ではなく、人工的に整備したそれも候補に入れていいのだろうかと。

「荒れ果てていた聖域を整備か……面白い事をするものだね。ただまあ、うん。その答えは、問題なしだよ。人工的だったとしても、そもそも聖域となる条件に霊脈は不可欠だからね。聖域として復活したのなら、そこには霊脈が流れているという証拠にもなる。逆に霊脈がなければ、どれだけ頑張って整備しても聖域にはならないんだ」

何とアンドロメダは、聖域となる条件についてまで把握していた。対してミラは、「なんと……そのような条件もあったのじゃな!」と、まさかの答えに驚きと喜びを浮かべる。

なぜなら、聖域関係の計画は数十単位で実行していたが、成功したのはほんの一握りだったからだ。

中でも成功例のほとんどは、聖域復興計画の方だ。つまり荒廃した聖域を再び、在りし日の姿に戻すというもの。

アンドロメダの話を聞いた後ならば、わかる。その成功率が高かったのは、元々が聖域であったため、霊脈という要素が初めから確保出来ていたからだと。

そして新規に聖域を作ろうという計画は、そもそも、その霊脈の条件をクリア出来ていなかったというのが原因のようだ。

ただ、これには最近に知ったもう一つの要素もあったと思い出すミラ。

「聖域には核となる存在が必要とは聞いたのじゃが、霊脈という要素も必要だったとはのぅ」

それは以前に精霊王とマーテルが話していた内容から判明した事だ。

するとアンドロメダはこれに対し、それは核となる存在と霊脈の結びつきが重要になるからだと答えた。

つまり霊脈の力が核となる存在を通して大地に広がり、その一帯を聖域と化すわけである。

「これまた、何とも興味深い話じゃな!」

核となる存在。そして霊脈。聞く限り、この二つの要素を揃えられたら完全に人工の聖域も可能になるのではないか。

これは、とても良い事を知れた。今後、面白い実験が出来そうだと、ミラは心の中でほくそ笑むのだった。