軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

508 天魔族

五百八

「さてと、どこまで話したっけ……。ああ、精霊王誕生のあたりか。えっと、それで次に精霊王の影響によって始祖精霊達が生まれ、秩序の上に自然の環境が築かれていってね。それが今君達がいる大地の基盤になっているんだよ」

そのように歴史の話を続けるアンドロメダ。それを聞くミラは、何とも壮大な内容だなと感心するばかりであった。もはや、なぜそのような話が始まったのかすら微妙に忘れかけている。

「──で、そこまできて私達の仕事も一段落ついたんだ」

いつの間にか創世神話になっていたところから、ここでようやく元々の話の始まりである『天魔族とは何なのか』という本筋に合流した。

そして続く言葉は、ミラにとって衝撃的な内容であった。

アンドロメダは言う。「役目を終えた我ら天魔族は、未来に向けて転生する事になったんだ」、と。

遠い未来。広く地上に生活圏を広げていく事になる人間を、よりよい未来に導くために。

人々を見守り、時に手を差し伸べてこれを助ける役目を持つものが天使。人々の成長のため、時に乗り越えるべき試練を課す役目を持つものが悪魔に転生したというのだ。

「なんと……」

天使のみならず、悪魔もまた本来の役目は人類の成長のためだった。そのあたりの話については、以前に精霊王から聞いていた事だ。

だが、そんな天使や悪魔に天魔族という前世があったなんてと、もう何度目になるかわからない驚きを浮かべるミラ。ただ、そうして次から次に世界の秘密が飛び出してくる中で、ふとした疑問が脳裏を過り「ならばなぜ……」とアンドロメダを見やった。

「気づいたようだね! そう、ではなぜ私が、こうして転生せずに残っているのかと!」

ミラの視線を受け止めるなりアンドロメダは嬉しそうに笑うと、「それについては、この場所がどういうところなのかという秘密にもかかわってくる事なのさ!」と、更なる本題に踏み込んでいった。

「それはもしや、あの謎のメッセージにあった試練だとか力を受け継ぐだとかいったあれじゃろうか!?」

その部分に注目し、更に期待しながら転移ゲートに飛び込んだといっても過言ではない。ゆえにミラは、いよいよかと興奮気味に返す。

「どうやら設計図だけでなく、そっちの方もしっかり受け取ってくれたようだね。あの演出方法はどうかと思ったけど、よかったよかった」

安心したと頷くアンドロメダは、次に胸を張って誇らしげな様子で言葉を続けた。そのメッセージにある『試練を乗り越えた者』を、ここで迎えるという新たな目的のために転生せず待っていたのだと。

「これまた途方もないのぅ……」

それが言葉通りだとしたら、とんでもない時間をここで待ち続けていた事になる。それはいったいどれほど大変な事だったのだろうか。

そう、ミラがアンドロメダのあれこれについて心配したところだ。

「ああ、心配はご無用さ。ここには、それこそ色々あるからね。暇はしなかったし、それにまあ……四分の三くらいは寝ていたから!」

ミラの表情から色々と察したのだろう。アンドロメダは、はつらつとした笑顔を湛えつつそう言った。そして──。

「さて、というわけでこの流れのまま、色々あると思う疑問に答えていこー!」

むしろ早く説明したいといった顔で立ち上がり、部屋の隅からホワイトボードのようなものを運んできた。

それからアンドロメダは、もう何度も練習していたのだろうなと感じるくらいに手慣れた様子でホワイトボードを操り、多くの謎だった部分を説明してくれた。

まず初めに教えてくれたのは、ここに来るための全ての始まりとなったマキナガーディアンについてだ。

アンドロメダが言うに、マキナガーディアンとは、真の実力者を見つけるために神様が計画し、その使徒達によって造り出されたものだそうだ。

そして真の実力者として認められる条件は、四人以下でこれを打倒した場合。この条件を満たした時にのみ資格ありとして登録され、設計図が贈られると共にメッセージが再生される仕組みだったという。

「なるほどのぅ……。とするならばソウルハウルの奴にも、ここにくる資格があるわけじゃな」

素材ばかりに目がいっていたミラは、よもやマキナガーディアンという存在にそのような役割があったとはと衝撃を受ける。だがそれは顔に出さず、道理でそこらのレイド級よりも厄介だったのかといった顔で頷き、もう一人の功労者の名を口にした。

「そうだね。その人物も登録済みだから、連絡出来るなら来てくれるように伝えてほしいな。渡すべきものがあるから」

いわく、マキナガーディアン戦を行ったあの場所にはセンサーがあったらしい。そしてミラとソウルハウルは、マキナガーディアンを打倒した際に合格者として登録されたそうだ。

だからこそ、ここに来るための転移ゲートに弾かれなかったという事だった。

そして、そんな場所に来れた事には何かしら重要な理由があるようだ。アンドロメダは、なるべく早めに来てくれると嬉しいと続けた。

現時点においても、とんでもない秘密が次々と飛び出してきている状況だ。ゆえにミラは「うむ、そうしよう」と素直に頷いた。

その後も説明を続けていったアンドロメダは、次に設計図の事について触れた。

そもそも、マキナガーディアンを打倒した実力者を招きたいのならば、設計図などではなく用意した転移ゲートの鍵などを報酬にした方が確実であっただろう。

だが、なぜわざわざ設計図などという形にしたのか。

「──それは、強さだけでなく技術力という面も重要だったからでね。目的を達成するためには、その設計図からここに来られるだけの転移装置を作れるくらいの文明レベルが不可欠だったんだ」

アンドロメダは、そう告げると共にミラを見据えながら遂にそれが叶ったと感慨深そうに頷いてみせた。

「技術力のぅ。わしだけではどうにもならん部分じゃな……」

設計図については、その何もかもを技術者達にぶん投げた形だ。ミラ自身は、その技術の一切を理解していない状態である。

だが話によると、どうやら技術力も重要らしい。となればもしや資格を剥奪されたりするのかと警戒するミラだったが、そこは大丈夫なようだ。

「ああ、問題ないよ。言った通り、文明レベルでの話だからね。設計図を再現出来るだけの技術が育っているかどうかを確認するための試金石みたいなものだ。そして君には、これをクリア出来た仲間がいる。そうだろう?」

「うむ、確かにそうじゃな。あの設計図から転移ゲートを作ったのは、仲間の一人じゃ」

正確には、同郷の夢追い技術者が勝手にやった事であり、状況的には事故みたいなものだ。だが話の流れからして、確かな技術があると思われておいた方が都合がよさそうだ。

何よりも、それを突破した結果、どのような報酬が貰えるのかという事の方がミラにとっては大事であった。

「それなら安心だ。何といってもこれから君に預けるのは、かなり特殊なものだからね」

十分に資格ありだと納得してくれたらしい。アンドロメダは、そう意味深に告げるなり「さて、それじゃあいよいよ本題だ。この施設の役割について話そうか」と口にしながら、『極秘』と書かれた書類を手にして、見せつけるようにちらつかせてくる。

「早く言えって思っているでしょ? でもね、ここはあえて引き延ばさせてもらうから! だって何万年も待ち続けて、ようやくこの日がきたんだからね!」

勿体ぶった態度は全て、そのためだったようだ。それはもう堂々と告げたアンドロメダは、「次回に続く!」と決め顔で言って満足げに笑った。

静かな緊張感に包まれる応接室内。真剣な顔で沈黙を続けるアンドロメダ。

マキナガーディアンの試練を突破した者のみが来る事が出来るこの場所とは、はてさていったいどういう場所なのか。

「……もうそろそろよいか?」

「では、説明しよう! 君が足を踏み入れたこの場所は──」

有難い事に次回には続かず、そのままここで話してくれるようだ。その謎がアンドロメダの口から遂に明かされる。

ただ、それでもまだ少しだけ勿体ぶりたいのだろう、アンドロメダは僅かながらの間を置いてから告げた。「──最新鋭の兵器が保管されている兵器庫なんだ」と。

「なん、じゃと!?」

凄い術具が貰えるのだろうか。伝説級の武具が貰えるのだろうか。はたまたアーティファクトまでいってしまうのではないか。などと期待していたミラは、まさかの兵器という言葉に驚愕した。

ただ同時に、その可能性は十分にあったと納得もする。

謎の転移ゲートに謎の施設。ファンタジーが極まってきたかと思ったところで、技術云々ときた。

つまり、試練合格者に受け継がせようという何かとは、相応の技術がなければ制御出来ない代物という意味でもあったわけだ。

それが兵器の類ならば、確かにあり得る話だ。

「うんうん、驚いているね。いい反応だ」

ミラの反応に満足げなアンドロメダは、「それじゃあ、実際にその目で見てもらおうか!」と口にするなり、『極秘』と書かれた書類をその場に置いて歩き出した。

向かう先は、部屋の奥にある扉だ。いわく、その先に本命の兵器があるらしい。

「いや、この書類は何だったんじゃ!?」

これからそこに書かれた極秘の秘密が明かされていくのかと思いきや、もう用はないといった仕草で捨てていったアンドロメダ。

どういう事かと拾い上げ開いてみれば、そこには高級レストランの点数と感想が書かれていた。

そう、高級レストランである。しかもニルヴァーナやアトランティスといった文字もある。ずっとここで待っていたと言っていたが、どうやらアンドロメダは、かなり自由に行き来出来る状態にあるようだ。

「有名どころには行き尽くしたが、もし私が知らないオススメどころがあったら教えてほしい」

ミラが何だこりゃと呆れていたところ、アンドロメダはずいっと顔を覗かせながら多大な期待を寄せてきた。

どうやら彼女は、かなりのグルメのようだ。だいたいの有名店は網羅しているらしい。

「……日之本委員会の研究所にある食堂は、オススメじゃな──」

有無を言わさぬ迫力に負けたミラは、ふと頭を過ぎった場所を口にする。

高級なレストランだ何だというような、いわゆる接客業とは違う。だが食材から何から、その全てにおいて清濁併せた情熱が注がれている料理の並ぶ場所だ。

グルメ通ならば一度は経験してみるのもいいだろうという、それなりの理由ながらも雑な紹介である。加えてその食堂は、部外者がおいそれと立ち入れるような場所でもない。

「多方面の技術が集まる総合施設の食堂か……。いいよ! そういうところは初めてだ!」

だが、アンドロメダは相当に興味を惹かれたようだ。近いうちに行ってみようと、それはもう嬉しそうであった。

そうこうしてアンドロメダに付いていく事暫く。廊下を進んだ先に本命の部屋があった。

アンドロメダが、今一度確認するように言う。メッセージの一文に出てくる『我らが力』とは、この部屋にある兵器の事であると。

「さて、それじゃあご対面……の前に、もう一つ説明しておこうか」

重々しい金属の扉。メカニカル感溢れるそれを前にして立ち止まったアンドロメダは、さあここでも勿体ぶりタイムだといわんばかりの笑顔で解説を始めた。

「そもそも今回、君に預ける事になる兵器とは、そもそもどういうものなのかというとね──」

どことなく軽い調子で始まったアンドロメダの勿体ぶり話。だがそれでいて、その内容は大陸全土を揺るがすほどのものだった。

いわく、ミラが手にする事になる兵器とは、科学と魔導の融合によって完成した究極の神器であるというのだ。

「神器……じゃと?」

そのくらいのものが手に入ったら凄いな、などと考えてもいたミラは、それでいて実際に神器と言われたところで途端に困惑した。

神器といえば、現時点において三神国くらいしか所有が確認されていない代物であるからだ。

そして未確認だが、もう一つ。カディアスマイトに保管されている宝剣が、神器だと考えられる。海賊ヴェイパーホロウの船長ヴェイグによって別大陸から持ち込まれたと思しき、家宝の剣だ。

神器とは、それほどまでに希少な代物なのだ。

絶大な力を誇るとされる神器。ゆえに、それを所有しているとなれば数多の厄介事が付きまとってくるのは必然といえた。

加えて、それほどの代物を実際に貰えると言われたら、その美味しい話の裏にどんな罠が潜んでいるのかと警戒してしまうものだ。

しかも一番気になる点は、科学と魔導の融合という部分だ。

三神国の歴史の中に登場し、現在にまで伝わっている神器。その始まりは、神より授かったというもの。

だが今回はどうだ。状況と説明からして、きっとそういう逸話は存在しないだろう。しかも神器を作ったなどという話は、だいたいが胡散臭い話に繋がっていくと相場が決まっていた。

ゆえにミラは、喜びよりも先に戸惑いを浮かべたわけだ。

「……それは、正規品……じゃろうか?」

だが、だからといって神器という言葉に惹かれないはずがない。ゆえにミラは、思わずそのような言葉を口にしていた。出来れば、まともなものであってほしいという希望を抱きながら。

「えーっと……何をもって正規と定義するのかは、ちょっとあれだけど。神様と使徒達が作ったものだから正真正銘の本物だよ。ただまあ、なんとなく不信感を抱いているのはわかったよ。だから、もっと説明しちゃおう!」

ミラが抱く、信じたいけど信じきれない感情。その繊細な部分が伝わったようだ。アンドロメダは、「本当はどれにするか決めてもらってから話すつもりだったんだけどね」と前置きしてから、その神器が存在する理由について教えてくれた。

アンドロメダが一番初めに告げた言葉。それは、ここにある神器が、まだ器だけの状態であるというものだった。

作りはしたが、その力の根源となる神の力は、まだ宿っていない。だがその神器は一柱のみならず、三柱分を同時に宿す事を目的に設計されているとの事だ。

つまりは、三神の力を一つに束ねる事が出来る兵器、というわけだ。

「しかしまた、聞いただけで相当に危険そうな代物じゃが……。そもそも、なぜこのようなものが作られたんじゃ?」

神の力を宿すだけでも極めて強力な神器だが、それを三つも重ねたらどれほどのものになってしまうというのか。

本当にそんな事が出来るのか、そんなものを使えるのか。疑問は多々あるが、それはそれとして、ミラは最も肝心な部分に触れた。その神器は、いったい何を想定して作られたものなのかと。

「それは、いずれ始まる決戦のためだよ」

アンドロメダは、そう静かに告げた。