軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

513 中継基地

五百十三

ミラの願いは、叶わなかった。

安全装置と神器を何度も調整したが、双方のリンクはまったく確立してくれなかったのだ。

もしかして故障しているのか、などという不安も過ぎったが点検の結果それはないとアンドロメダは断言した。

よって原因は別に存在すると告げた彼女は、天井を見上げながら「もしかして……」と呟くなり、「向こうに問題があるのかもしれない」と続けた。

「向こう?」

どうにも要領を得ないアンドロメダの言葉。ならば当然の事ながら、はてどういう事かとアラトが問う。その問題があるかもしれない向こうとは何なのかと。

「ああ、そうか、そうだね。まだ話していなかったか。えーと、今は神器と安全装置が同じ場所にあるけど、本来は遠く離した状態で使うからね。それだけの距離を相互にやり取りする機能を組み込むとなると、更に大きくて複雑な構造になってしまう。中でも神器については、もう限界ギリギリに仕上げられているから余剰分もない。加えて、扱うエネルギーは膨大だ。それを正確に誘導するとしたら、この安全装置は今とは比較にならないほどの大きさになってしまうだろう。だから、主要な機能以外の全てを担う中継基地を別に用意したというわけさ」

アンドロメダは手にした神器をミラに返しながら、考えられる一番の原因をそのように説明した。安全装置が霊脈より汲み上げたエネルギーを神器へと送るために用意された専用の中継基地があるのだと。

「なるほど……専用の中継地点ですか。確かにそれがあれば、神器と安全装置に組み込むのはGPS程度のもので済みますからね」

その用意が可能であるならば、神器と安全装置に組み込む装置を少なく出来る。しかも専用に用意したなら、より緻密で正確な座標の特定が可能になるだろう。確かにその方が効率的だと、アラトも納得する。

「ならさ、もしかしたらここだからダメなんじゃない? ここには色々あるから、信号が届いていないとか」

技術者の女性が、そんな可能性を口にした。研究所の壁やら何やらが障害となり、アンドロメダが示した中継基地とのやり取りが正常に行われていないのではないかというわけだ。

「それについては問題ないはずだよ。この通り、転移ゲートが繋がっているからね。これの相互干渉と同じ仕組みでやり取りするように設計されているから、問題なく向こうから座標の特定は可能なんだ」

実は圏外というだけだった、なんて事はないようだ。

となればつまり、考えられる原因は一つ。その中継基地が正常に機能していないかもしれないというものだ。

「それで向こうの問題、というわけですか。どういう状態なのか見なければわかりませんが、直せるのなら直したい。それで、その中継基地とはどこにあるのでしょう?」

事情を把握したアラトは、まだ可能性は十分にありそうだと続けた。

今のままでは、神器の使用はそれこそ命懸けだ。だが、故障などが原因で動作していないというのなら直してしまえばいいだけの話である。そしてここには、それ相応の物資と技術力が揃っていた。あと必要なのは、それがどこにあるのかと、どのような状態であるかの情報だけだ。

「それは──」

アラトの言葉を受けて、アンドロメダは少し難しそうに眉根を寄せる。だが次には、アラト達を試すように──というよりは託すかのような目で天井を指さしながら口にした。「──空だよ」と。

「空……ですか。なるほど、確かに。用途を考えるなら最適の場所ですね」

可能性としては、二つあった。一つは高い山などだ。その頂上に基地を構えアンテナを立てるのである。そうすればより広い範囲をカバー出来るわけだ。

だが、アンドロメダが示した場所は、もう一つあった可能性の方。そしてそれは、アラトがなるべくならそうでない方がいいと思っていた場所だった。

空。山などよりも更にずっと高い場所であるそこからならば、一つだけで広範囲をカバー出来る。効率で考えれば、空が一番適していると言ってもいい。

「も……もしかしてあの噂の天空城が、実はその中継基地だったりするのかい!?」

アラトが言葉に詰まる中、急にはしゃぎ出したのは、他ならぬミケであった。

都市伝説をこよなく愛する彼女の頭は、空の中継基地と聞いた次の瞬間に天空城を連想したらしい。

謎であった天空城。その真実は、究極の神器を使うために必要な施設であった。それもそれで、また面白いと興奮するミケ。

しかしながら天空城の真実は、まったくの別だ。そしてミラにしてみたら、出来るだけそこには触れてほしくない話題でもあった。

「ほれ、まだ先があるようじゃぞ」

ますます興奮度を高めていくミケの目を塞いだミラは、落ち着くようにと言い聞かせてから彼女を解放する。

場合によっては、口よりも目を塞いだ方が効果的だったりするものだ。ミラの言葉が効いたのか大人しくなったミケは、わくわくした顔でアンドロメダを見やり続きを待つ構えだ。

対するアンドロメダは、「天空城……?」と首を傾げながら説明を続けた。

「こほん。えっと中継基地がある場所は、大陸の遥か上空十万メートルの位置だ。その場所に三神が特殊な力場を形成し固定してある。ただ力場といっても、その中継基地を対象とした特別なものだから他には影響しない。だからそこまで行ければ、問題なく作業は可能だよ」

中継基地が存在している場所。それをアンドロメダが説明したところ、ミケが愕然と項垂れた。高度的に天空城とは全然別であると証明されたようなものだからだ。

けれどミケはへこたれない。謎が謎に戻っただけだからだ。天空城のロマンは、まだそこに残ったままである。

ただ、真実を知るミラは、そんなミケを少しだけ憐れんだ。

「なんてこったい……」

中継基地のある地点は、上空十万メートル。つまりは百キロメートルの高さに浮いている事になる。その事実を聞いたアラトは、ミケとはまた別の理由で愕然としていた。

何故ならば、日之本委員会の技術力を以てしても、未だその高度には到達出来ていないからだ。

百キロメートル。かなりの距離ではあるが、地図で見た場合はそこまで驚くほどではない。だがそれを高さに変えると、そこには多くの制限が付きまとってくるため一気に難度が増す事になる。

「なあ、アラト。確かそっちでロケットとか研究してたよな? どうなんだ?」

いったい、どうやって行けばいいのか。そのような空気が広がる中で室長の一人が、そんな言葉を口にした。

何といってもアラトは、『宇宙科学技術研究開発部』の室長だ。ゆえに可能性があるとするなら、それこそ空の先にある宇宙を目指すロケットであろう。

「任せろ! ……って言いたいところだが、こればかりはなぁ。ロケット開発に集中しても、あと何年かかるか……ってところが現状さ」

宇宙に進出する人類の英知の結晶、ロケット。だがそれを実用レベルで仕上げるには、まだまだ莫大な時間がかかるだろうというのがアラトの答えだ。

ただ、まだ出来ないのなら出来るようにするだけだ、というのがこの研究所の信念。ここの技術者達は、そのようにして多くのものを開発してきた。だからこそアラトも、出来ないとは言わない。

しかし問題は、時間だった。世界の危機が、この先十年ほど待ってくれるというのなら間に合うかもしれない。だが現状、その辺りははっきりしておらず、アンドロメダもまた、明日かもしれないし百年後かもしれないと曖昧に答えるだけだ。

「何でもいい。今すぐどうこう出来る方法はないだろうか」

中継基地のある場所がわかっても、現時点でそこに到達する手段は無い。

だがこの件は、世界の未来に直結する事だ。どのような方法だろうと、どうにかして到達出来る方法はないだろうか。そうアラト達は、ロケット開発の他にも手段はないかと議論を始める。

(……ふーむ)

急遽始まった室長会議。アンドロメダもまた、特別顧問として参加している。そしてミラはというと、その様子を見守りながら少し悩んでいた。

何故ならば、可能性の話ではあるが、ミラは十万メートルもの上空に到達する方法を知っていたからだ。

そう、アイゼンファルドである。その種族を分類して表した場合、アイゼンファルドは天の皇竜となる。

そして天の皇竜には、様々な伝説があった。

音速を超えて飛行するなどは序の口。その咆哮で嵐を吹き飛ばしただとか、かと思えばその翼で嵐を起こしただとか。眉唾なものから、実際にアイゼンファルドが再現出来たものまでと様々だ。

その中でも特にミラが気になっているのが、月に渡ったというものだ。その伝説が真実というのなら、もはや高度十万メートルどころではない。

ただ、今はまだまだ子供なアイゼンファルド。ゆえに成体と比べたなら、月に到達するのはずっと先であろう。だが、現時点でも中継基地の高度までなら行けるだけのスペックはあった。

(しかしのぅ……危なそうじゃからのぅ。無理をさせて怪我でもしたら……)

可能性はある。けれど事が事だけに危険を伴いそうとあって、ミラはそれを言うべきかどうか悩んでいた。

何といっても世界の危機だ。これを放ってはおけない。しかし同時にアイゼンファルドは大切な息子である。危険なところに行かせたくないというのもまた、ミラの親心であった。

「ん? ミラさん、何か心当たりがあるって顔してるけど、もしかして良い案があったりする?」

悩むミラだったが、だからこそ顔に微細な変化が出ていたようだ。それを読み取ったアンドロメダが、そう期待の眼差しを向けてきた。

となれば、同じように何か方法はないかと考え込んでいたアラト達もまた、「可能性があるなら教えてくれ」と期待を寄せてくる。

「あー、うーむ……」

ここで、何もないというのは簡単だ。案がありそうに見えたのはアンドロメダの気のせいであり、これといって思い付いてはいないと。

もしもこれが何でもない話題や、それこそ趣味範囲程度の話であったなら、ミラはそう答えていたであろう。

けれど今回は状況が違う。世界の危機という事情が、ミラの心には深く突き刺さっていた。

世界が滅ぶ。それはつまり、ミラが愛する仲間達もまた全て失われてしまうという意味でもあるからだ。

「これはじゃな、絶対ではなく……もしかしたら程度な可能性の話なのじゃがな。わしの頼もしい仲間の中に、空を得意とする者がおるのじゃよ。じゃからその力を借りれば……と、そんな事を考えていただけじゃよ」

もしかしたら日之本委員会ならば、ここから発展させて安全面を完璧に整えたり出来るかもしれない。そんな場合も考えたミラは、あくまでもこれは可能性であるとして、思いついたそれを口にした。

ただ、そんなミラの言葉には幾らか曖昧な部分が存在していた。それは、空を得意とする者、という点だ。

得意とはどの程度をいうのかと、そもそもそれはどのような者なのか。実に判断に困る物言いといえるだろう。

「あ、ああー、そっか!」

だが、その言葉を受けてから数秒もせぬうちに、その手があったかといった顔でミケが声を上げる。

しかもそれだけでは終わらない。

「なるほど……確かに可能性は十分だな」

「っていうか、天空の覇者だろ? もうこれで解決じゃないか?」

集まった中でも一部の技術者──そう、ミラの正体がダンブルフであると知る者達が一斉に理解したのだ。かの皇竜アイゼンファルドであるならば、十分に可能であろうと。

「いや、しかしじゃな。あれでまだ子供じゃからのぅ。やはり危ないじゃろうからな……」

納得するなり、いけるいけると乗り気になり始めたミケ達。だが言ってみたはいいものの息子の事が心配なミラは、そこで難色を示す。今はまだ子供であるため、絶対に大丈夫とは言い切れないと。

そんなミラに対して、あれだけの存在感がありながら何を気にする必要があるのかと少し呆れ顔をしたミケ達は、同時にその様子からある事に気づいた。

それは、現時点においてのミラは、ただひたすらに心配を拗らせているだけの状態にあるのではないかと。

「じゃあ、そんなに心配なら、本人に確認してみたらどうだい?」

それらを踏まえた結論として、ミケはそのように告げた。更にそこから「もし本人が少しでも難しそうだと答えたなら、別の案を考えよう。それでどうだい?」と続ける。

「ふむ……まあ、そうじゃな。それならば」

言われてみれば、その通りだ。この件については、まだアイゼンファルド自身に確認した事ではない。ただ危なそうだからという理由で、心配を募らせていただけともいえた。

本人が出来ると確信を持って力強く答えるのなら、その方法を突き詰めていってもいいかもしれない。

そのように頷き答えたミラは、改めるようにして室内を見回した。

今居る場所は『宇宙科学技術研究開発部』の実験室であり、見た限りは相当な広さがあった。しかしミラは、天井の高さの方に注目する。

面積は広いものの、高さは四、五メートルほどしかないのだ。つまりアイゼンファルドに直接聞いてみるとしても、この場所では召喚出来るだけの空間が足りないのである。

「召喚して聞いてみようと思うのじゃが、どこか広い場所はないかのぅ? かなりでっかいのでな。広さに加えて高さが最低でも二十メートルほどあればいけると思うのじゃが」

ミラがそのように問うたところ、アラトが「それなら、この奥にある組み立て場ですかね」と答えた。その場所ならば十分なスペースが用意出来ると、かなり自信満々である。

ただ、その直後に「──でも、いったい何を召喚するんだ? ガルーダとかも相当だけど、流石にそこまで高くはいけないと思うが」と、疑問顔だ。

「まあまあ、それは見てのお楽しみさ。じゃあ、聞きに行こうか」

何故だか誰よりも先に歩き出したミケ。その顔には不思議と笑みが浮かんでいたが、ミラに見えるのは後ろ姿だけである。

「んー、まあわかった。じゃあ、案内するよ。というか、僕がいないと入れないからね」

次にはアラトも動き出す。組み立て室は危険なため、必ず責任者が一人以上いないと入ってはいけない決まりだそうだ。

そうしてミラもまた二人の後に続いたところ、残りの者達も何だか面白そうだといった様子で、その後を──追おうとした。だがそこでミケが振り返り声をかける。

「全員でぞろぞろ行くのも手間だと思うから、皆はここで待ってて」

そう告げたミケの視線は、技術者連中からアンドロメダに向けられていた。そして皆は、そんなミケの思惑に気づいたようだ。

「ああ、わかった。待っているとしようか」

「そうだな。まあ、ただ待つだけというのもなんだ」

「待っている間、色々教えてください!」

まだまだ聞きたい事は山ほどある。技術者達にしてみたら、高い技術を持つアンドロメダの方が興味深いようだ。瞬く間に彼女を囲み、次から次へと質問を飛ばし始めたのだった。