軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

463 クリエイターのミケ

四百六十三

「それにしても遅かったぞ、どんだけ待った事か!」

発着場から研究所の内部に進んでいく途中。思い出したかのように怒鳴るミケ。

ソロモンから明日こちらに向かうという話を聞いた日より、ミラの到着を──ミラがもつマキナガーディアン素材の到着を心待ちにしていたそうだ。しかもミケは、先ほどのあの海の只中で三日も待ちぼうけていたのだと話す。

「仕方がないじゃろう。アルカイトからここまで、どれだけあると思うておる。これでもまだ早い方じゃろうが。そのくらい計算せんか」

アルカイト王国からここまで、直線距離にしても千キロメートルを軽く超える。快適なガルーダワゴンで空の旅とはいえ、出発したその日につくような距離ではない。

ミケが勝手に待ちぼうけていただけで、こちらは文句を言われる筋合いなどないと言い返すミラ。

その言葉は、完全に正論であった。この場所からアルカイト王国まで一日で移動するとなると、ここにある最新の飛空船を使ってやっとというほどの距離だ。それを四日で到着したのは、むしろ早いくらいと言える。

「ううー……!」

少し考えればわかる事。その通り過ぎたためもあってか、反論も浮かばずに唸り声をあげるミケ。

その様子にしてやったりとほくそ笑むミラだったが、そこでふと思い出す。ここには何をしに来たのかという事を。

「まあ、それはともかくじゃ。先ほどのあの円盤といい、何とも面白そうなものを作っておるのじゃな!」

ミケの技術は、ミラが頼む装備品作りに必須だ。だからこそ最高の一品を仕上げてもらうためにも、彼女の機嫌を損ねるのは愚策だと気づいたミラは、そのための話題を持ち出した。

ガルーダの圧勝に終わったものの、自信作だった様子の空飛ぶ円盤。そのあたりをよいしょして気持ちよく装備品を作ってもらおうという魂胆だ。

「ああ、そうだろう、面白いだろ! あのなんともいえない飛行感覚。謎めいた挙動。思いつく限りのUFOっぽさを詰め込んだんだ」

都市伝説だったり未知のあれやこれやだったりといったマニア方面の話を好む傾向にあるのが、このミケイシャマーレという人物だ。

ミリタリー好きが高じて戦車だなんだといったものの開発を始めたソロモン然り。彼女もまた、その趣味が高じた結果、よもやUFOを作ってしまったというわけだ。

「して、あれもいつか販売するつもりか?」

空飛ぶ円盤。奇抜な乗り物感は否めないが、それが広まれば交通面において革命的な影響が出るのは間違いない。

ファンタジーな世界でありながらサイバーな未来を垣間見たミラは、今後あの円盤をどうするつもりなのかと問うた。

「いや、あれはただの趣味だからな。その予定はまったくない。というより、そんなもったいない事するわけないだろ。あれを完成させたら、こっそり飛び回るんだよ。そしたらどうなると思う? 各地でUFOの目撃証言が広まっていくわけだ。そして、唯一その真実を知る私。堪らないとは思わないか?」

ミケは、それこそ夢でも語るかのような顔で言ってのけると興奮したように震えながら笑う。

これからは都市伝説やミステリーを収集するのではなく、それらを発信していく側に立とうなどと考えているようだ。

「私の円盤を見て、誰がどんな噂を付け加えていくのか。私の円盤がどんな存在に祭り上げられるのか今から楽しみで仕方がないな」

更にそんな言葉を続けたミケは、うっとり恍惚とした顔で身悶える。しかも現在画策しているのはUFOのみならず、現実で見聞きした伝説やミステリーなどを再現する研究も進めているのだと嬉々として告げる。

「まったく……あまり世間に迷惑をかけるでないぞ」

やり過ぎて事件事故につながったり、経済に影響を及ぼしたりしたら困りものだ。

噂というのは、時折そういった規模に膨れ上がりかねない危険性を孕んでいる。だからこその一言である。

と、そんな忠告を口にしたミラはそこで不意に、ある噂話を思い出した。以前にセロから聞いたうちの一つだ。

当時、セロが語った噂話は三つ。天空の城と黄金都市、そして幽霊船の噂であった。

天空の城については、その犯人が身内だったというまさかの結末だったが、他の二つはまだ不明のまま。

その一つである幽霊船の噂について、思えばその出現地点がカディアスマイト島の周辺海域であったなと思い出したわけだ。

「ところでちょいと聞くが、このカディアスマイト島周辺で幽霊船を見たという噂があるようなのじゃが、もしやお主が関係していたりするのではあるまいな?」

幽霊の正体見たり枯れ尾花。まさか、天空の城に続いて幽霊船の噂も知り合いが原因という何の面白みもない結果になりやしないかと危惧するミラ。

セロから聞いた話によると、その幽霊船は笑うジョリーロジャーを掲げており、甲板には赤い服を着た船長らしき人物の姿があったという。

状況を想像すればするほど、ザ・幽霊船といった情景が目に浮かぶ。だからこそ、ミケがそれを忠実に再現した事で生じた噂だったのではないかという可能性まで出てきてしまったわけだ。

「お、その噂知っているのか!?」

ミラがそれを口にした直後、ミケの顔がぱっと明るくなる。まるで自分の仕掛けがうまくいった事を喜んでいるかのような反応だ。

しかし続くミケの言葉は、少しばかり意外なものであった。

「何を隠そう、それがきっかけだからなぁ。こうして都市伝説だUFOだってのを再現しようと思いついたのはさ──」

そう前置きしたミケは、思い出すかのように昔の事を語り始めた。

曰く、幽霊船の噂が出回り始めた頃は、都市伝説だなんだといった話よりも現代技術の再現に注力していたとの事だ。

それというのも、やはりインターネットがない事もあり、そういった噂の類がさっぱり入手出来なかったのが原因だという。

そして時折、面白そうなネタが入ってきたかと思えば、精霊の悪戯程度のものだったり魔獣の仕業であったり、悪魔が暗躍していただけだったりで何の面白みもなかったそうだ。

「いや……悪魔の暗躍なぞ、ちょいと穏やかではなさそうじゃが……」

悪魔のいるところ、厄災の兆しありだ。

だからこそ思わず突っ込みを入れたミラ。けれどミケは一転してつまらなさそうに答える。そのあたりは、別の部署の仕事であると。

ミケが言うに、ちょくちょく見つかる悪魔の暗躍は全て秘密裏のうちに解決しているそうだ。

その正体を掴んだら、元プレイヤーで編成された特別チームが対応にあたるという。しかも九賢者達と並ぶようなトッププレイヤーが複数所属しているだけでなく、日之本委員会で開発された最新の武具付きだ。その戦力は、公爵級が相手でも十分にわたり合えてしまえるほどだった。

「それは、納得じゃのぅ……」

事情を聞けば、彼女が悪魔の暗躍であろうとそこまで気にしていない理由がわかる。

流石は元プレイヤー国主達が作り上げた日之本委員会か。技術のみならず十分な戦力も有しているようだ。

と、そうしてファンタジーな世界でありながら──というよりはファンタジーな世界であるからこそ、調べればファンタジーな事が原因だと判明していく都市伝説。

だからこそ、摩訶不思議ミステリーの類から少し距離を置いていたミケ。

「しかしだ。そうしてなんて事のない日々を送っていた私のもとに入ってきたのが、何を隠そう幽霊船の噂だったのだよ!」

そこからミケは、更に興奮気味で語り始めた。

どうせ、また何かしらのファンタジーな事が原因であろうと思いつつも、幽霊船についての調査に乗り出した。何かしらの災厄の予兆だったり、どこかしらで被害が出たりするかもしれないからだ。

ミケは日之本委員会の技術を存分に利用して、この噂の究明を進めた。

そしていつもなら一ヶ月ほどもあれば、だいたいの原因は掴めていたという。けれど、この幽霊船については不可解な出来事が多発したそうだ。

「──調査中にカメラが壊れたり、風があるのに海面が鏡のように静かになったり、真昼間なのに真っ暗になったり、地平線の先まで何も見えないのに街にいるような喧騒が聞こえてきたり、雨が降ってきたかと思えば何かの骨だったり。もう、おかしな事がちらほら起きたんだ」

そこまでを一気に語ったミケは、当然ながらあらゆる原因を想定してすぐさま調べたと続けた。

実は結構多い、精霊の悪戯説。けれど、これらの時は全てにおいて精霊との因果関係は確認出来ず。また調査に協力してくれている精霊の友人も、精霊の仕業とは思えないと証言していたという。

次に魔物や魔獣の類だが、これらが原因の時は失踪だ神隠しだといった噂が主だ。早い話が狡猾な手段で襲われた結果の行方不明である。よって状況とは一番遠い。

また、現象によって千差万別なのが悪魔の仕業だが、これについても専門チームを含んで調べ尽くしたところ、その形跡は皆無という結論が出たそうだ。

では、いったい幽霊船の噂の正体とは。

ミケは、そこから神妙な面持ちで口にした。調査の最終日に、その運命の時が訪れたと。

「あれは、特に静かな日の事。夜になって寝ていた時間だった。不意に「起きろ、外を見てみろ!」っていう声がしてね。何事かと飛び起きたわけさ。そして船室から甲板に急いで上がり、真っ暗な海を見た、その時だ。本当に現れたんだよ、噂の幽霊船ってやつが。それは話に聞いていた通りに笑うジョリーロジャーを掲げた海賊船で、赤い服を着た船長と思しき人物もはっきりと確認出来た。霧に包まれた海のど真ん中にいたんだ──!」

ミケはそこまで語った後、一呼吸おいてから、その時目の当たりにした不思議を並べていった。

まずは不思議な事に、持ち込んだ最新鋭の観測機の全てが何も反応していなかった事。目の前に幽霊船が見えているはずなのに、観測機ではその姿すら捉えられなかったのだ。しかも写真にすら写らないという。

次に不思議だった事は、近づけなかった点らしい。

まず、原因不明の障害で船の動力が停止。ならば直接乗り込もうとボートを出したが、当時の状態ではありえないような波に阻まれて押し戻される。

空からの接近もまた謎のつむじ風が巻き起こり、全員が海に叩き落されたとの事だ。

「──それで、あれもダメこれも無理って試している間にも、まあ何事かと船員達が甲板に出てきて大騒ぎだ。で、そんな中でふと思ったんだよ。この幽霊船が現れた瞬間っていうのは、どんな感じだったのかってさ。その時に何か異変を感じたりしなかったか。何か気づいたりした事はないか。少しでも謎の正体を探るためのヒントがあればと思って、まずは甲板で当直をしていた者に話を聞いてみたんだが、なんて答えたと思う? 見てなかったっていうんだよ。急に観測装置が動作不良を起こしたから、その修理に集中していたって。そうした中で私が甲板に飛び出してきて、見ると幽霊船が現れていたって、そう言ったんだ。それならばと私はもう一人の方、私を起こしに来てくれた奴を探したわけだ──」

出来るのは、見る事だけ。調査のため幽霊船に乗り込むどころか、その周りにすら近づく事が出来ない。人だけでなく鉤爪付きのフックや調査用ゴーレムの類も何かの壁にでも阻まれたかのように落ちてしまうそうだ。

いったい何が原因なのか。出現した瞬間を捉えていた者がいれば、そこから幽霊船がどのようにこの場へと干渉しているのかを予想する手掛かりになるかもしれない。

だが、最有力の一人であった当直の観測手は、その決定的瞬間を見逃していた。

となれば残るは、もう一人。ミケは自分よりも先に幽霊船の存在を確認したからこそ呼びにきたであろう、その人物を探したという。

「すると、またここで不思議な事が起きたわけだ。そこにいる全員に訊いたが、誰も私を起こしに来てなどいないって言うじゃないか。おかしいだろ? で、ふと思い出したわけだよ。そういえば私が聞いた声は誰の声だったんだろうなって。何かと長い付き合いだからね、調査班の者達とは全員友人だ。声でだいたい誰だかわかる。でも思えば誰にも当てはまらなくてさ。そこまで考えて更に気づいたんだ。そういえば、あの時の声は扉越しなどではなく、すぐ隣から聞こえたような……ってね」

そこまで語り切ったミケは、少しばかり頬を引きつらせていた。自分で言っておきながら、その時の感情も思い出したといった様子だ。

「ほぅ、まさにオカルトじゃのぅ……」

まさかその時点から。そして、すぐ隣に得体の知れぬ何かが来ていたのかもしれないとなれば、ぞくりとするのも当然といえよう。

そういったオカルトの類も十分にありそうだと思えるファンタジーな世界。それでもやはり、そういった体験談には何とも言えぬ不気味さというものがあった。

幽霊に憑りつかれるなんて事になれば、現実であろうとファンタジーであろうと、恐ろしい事に変わりないのだから。

その事を改めて思い直したミラは、それでいてどうにか平静を保つ。

死霊系の魔物などが関係しない、正真正銘の幽霊といった存在が実際にあったとしても、それはきっと精霊王ほど強くはないはずだ。

祟られたりだとか憑りつかれたりだとかしても、精霊王パワーでどうにかなる。だからこそ何があっても大丈夫だと信じ、ミラは得体の知れない恐怖に打ち勝つのだった。