軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

464 職人一同

四百六十四

「この世界にきてからそういった事に多少なりとも耐性がついたと思っていたんだけどね。あの時は、本当に肝が冷えたよ……。暫くの間ウィルフォーネ──あ、友人の水精霊なんだけどね、彼女の傍から離れられなかったよ」

ファンタジーな存在と思いきや、それだけでは説明出来ない幽霊船。それでも現代人の感性的な条件反射とでもいうのか。精霊王の存在を頼りにしたミラと同様に、その気味悪さを体験したミケもまた精霊を頼っていたようだ。

「にしても、まさかね。あれだけ調べて何の手がかりも掴めないとは考えていなくてさ。あの時は衝撃的だった。このファンタジーな世界にファンタジーでは解明出来ないミステリーがあったのだから。それはもう興奮したものさ」

恐ろしげなオカルトに遭遇したが、それはそれで貴重な体験だったと笑うミケ。少しばかり強がっている印象が窺えるものの、その顔には好奇心も浮かんでいた。

「不気味ではあるが本物の幽霊船となれば、気になるところじゃな。そういった類には、何かと海賊のお宝みたいな要素があったりするからのぅ!」

オカルトではあるが、それはそれとして興味を示すミラ。状況からして、出没するのは海賊の幽霊船と思われる。

海賊といえば、お宝。実に安直な発想だ。

「そうなんだよ。だから今度は幽霊船の正体を特定するために、歴史を色々と調べてみたんだけどね──」

安直な発想ではあったが、ミケがこれに同調したではないか。

謎の幽霊船は実在した。けれど、それを直接調査する事は叶わなかった。

ならばと考えたミケは幽霊船の姿形を参考にして、その正体に該当しそうな海賊が過去の歴史に存在してはいないか調べたのだそうだ。

「──で、あったんだよ。私は、今でもはっきりと覚えているんだ。あの幽霊船の船首に掲げられていた首無しの船首像を。最初は一般的な女神像が壊れただけだと思ったんだけどね。何かを掲げているかのように伸びて折れている腕が気になって、色々な可能性を考慮して調べてみたんだ。そしたら見つかったんだよ。自らの首を手に掲げたデュラハンを船首像にしていた海賊、『ヴェイパーホロウ』がね」

そこまで怒涛のように語ったミケは、更にそこから饒舌に続けた。

海賊『ヴェイパーホロウ』が実在していたのは、今から三百年ほど前の時代。どの国も海域の支配権を求めて争っていた戦乱の時代だったと。

そんな頃に現れたのが政府公認の海賊団だ。政府が海賊達に、他国の船ならば好きに略奪しても構わないという免罪符を与えたわけである。そして『ヴェイパーホロウ』もまたそんな海賊の一つであり、その中でもっとも多くの船を沈めた最強の海賊だったそうだ。

「──で、気になるのはその先だ。どの歴史書を紐解いてみても、この海賊の最期については一切記述されていなくてね。なぜか忽然と歴史から姿を消しているんだ」

そんな海賊船が幽霊船になって現れる。何かしらの未練があるのか。もしくは恨みがあるのか。それとももしや伝えたい事があるのか。かの海賊『ヴェイパーホロウ』は、どのような理由で出没しているのか。そこにこそ興味がそそられると、興奮し始めるミケ。

彼女が言うに、今も幽霊船の調査は続行中だそうだ。当時の歴史を収集するほか目撃された地点の関連性など、多方面から調べているとの事であった。

「歴史の闇に葬られたのか、それとも別の何かがあったのか。確かに気になるところじゃのぅ」

「そうだろ? 過去にいったい何があったのか。それがどのようにしてオカルトチックな現象の発生に結び付くのか。因果関係がわかれば、オカルトだって解明出来る日がくるかもしれないからな!」

得体が知れないからこそ、人はそこに恐怖を覚える。そして恐怖するからこそ、その正体を解き明かし安心を得ようとするものだ。

今もまだ、あの時の声がどこかから聞こえてくるような気がすると呟いたミケは、進む廊下の先にいた水精霊の姿を目にするなり「ほら、こっちだ」と駆けていった。

『ところで──』

ミラはそんなミケの後を小走りで追いながら、ふと気になった点について精霊王に問うてみた。

この世界では、一般的な存在として確立している精霊。ゆえにミラが暮らしていた現代と違いオカルトの存在でなくなっているのだが、なぜか幽霊だなんだといった問題をどうにかしてくれそうという期待を抱いてしまう。

だがはたして、この思い込みは正しいのかどうか。それを精霊王に訊いたところだ。何とまさかそういったオカルトの類は対応不可だという答えが返ってきた。

魂などといったスピリチュアルな部分は理解出来るが、精霊王をもってしても幽霊や祟りといったものは専門外だそうだ。

ただ代わりに、そういった問題は教会などに行く方が早いだろうとの答えも教えてもらえた。なんでも幽霊などは神の領分らしい。

(なんともややこしい関係性じゃのぅ……)

いざという時の精霊王頼みが効果無しだと判明した。けれど、いざという時は教会に助けを求めればいいという確約も得た。

教会だったら、伝手はある。ミラは以前に教会へ寄付した際に大司教より受け取ったメダルの事を思い出しながら、いざという時も安心だと改めて胸を撫で下ろすのだった。

「ようやく来たな!」

「へぇ、これがあのダンブルフか……!」

日之本委員会の現代技術研究所。そのなかでも特に重要な会議や開発のための話し合いが行われるという第一特専室なる場所に到着したミラは、そこで待っていた沢山の職人達に歓迎された。

待ってましたと喜ぶ中、ほぼ全ての職人が興味深そうな目で見るのは、やはりミラの容姿だ。

見た目だけならば最も賢者と呼ぶにふさわしかったダンブルフ。それがよもや今は、まったくの正反対といえる姿になっているではないか。

ここにいるのは、一流の職人ばかり。そしてトッププレイヤーの筆頭であった九賢者達とも縁の深い者が多くいた。だからこそ、実際にその目で見たダンブルフの変わりように心底驚いた様子だ。

「よくもこうまで化けたもんだな」

「これで前と同じ能力なんだろ? 興味深いな」

「これはこれで、ありだな」

「このギャップ、嫌いじゃない」

ミラとダンブルフ。その違いによほど興味がわいたのか、それはもうじろじろとじっくり嘗め回すようにミラの全身を観察し始める職人達。

しかもここにいるのは誰も彼もが似たり寄ったりな探求心を持ち合わせているためもあって、誰一人としてセクハラめいたその行動を注意する者はいなかった。

ギリギリなのかライン越えなのか。あれやこれやを見られるミラ。

そんな中、セクハラを止める者はいなかったが当然の疑問を浮かべる者はいた。そう、先ほどにもミケがミラに投げかけた疑問だ。

「──でさ、何で女の子に──」

「──それはもうミケに話した事なのでな。気になるのなら彼女に問うてみるとよい!」

二度手間という事もあるが、この場で余計な突っ込みをされないために、ミラは「それよりもこれじゃろ!」と先制し、催促される前にマキナガーディアンの素材をテーブルにバラまいてみせた。

「きた、待ってた!」

「ああ、ニューロンクリスタルの輝き。何年振り……何十年ぶりだろうか!」

「おお、こいつは上等なクリアマテライトだ。これで仕上がる!」

どちらかと言わずとも、ここの職人達は生産系のエキスパートであった。ミラという存在の謎よりも、超希少素材への興味が勝ったようだ。

我先にとテーブルを囲むなり、争うように素材を手にしては、これが出来るあれが出来ると妄想に耽り始める。

特に高難度レイド産の素材というのは、挑戦する者の激減もあって滅多に市場に出回らなくなっていた。それこそマキナガーディアンの撃破など数十年ぶりというほどの出来事だ。

ゆえに職人である彼ら彼女らがそちらを優先してしまうのは当然で、ミラにしてみても狙い通りの反応ではあった。

(これほどとはのぅ……)

けれど急に興味を失われた現状を前に、ミラはなんとなくどこかで聞いた『私とは遊びだったのね』というセリフを思い出していた。

あれほどまでに寄ってたかってだったのが、今は見向きもされていない。そればかりか素材を出したら、もう誰も気にした素振りすらないくらいだ。

「おお、これがあの……」

「初めて見たな……」

そんなミラをよそに盛り上がる職人達だが、数ある希少素材の中で唯一、誰も手を触れないばかりか、ただならぬ緊張感を漂わせて見つめるだけの素材があった。

そう、マキナアガーディアンから得られる素材において最も希少とされるもの。ゲーム時代においても片手で数えられる程度しか入手報告のなかった究極の激レア素材。

アポロンの瞳だ。

もはや値段がつけられないどころか次があるかもわからない代物を前にして、流石の日之本委員会でも、おいそれと気安く触れるのには抵抗があるようだ。

「ほれ、どうじゃ。なかなかの上等品じゃろう」

息を呑む職人達を前にして、ミラはここぞとばかりに自慢げな態度でそれをひょいと手に取った。まるでバスケットボールのように持っては、どうだといった様子で見せつける。

瞬間、職人達がどよめく。だが誰も、そんな気安くなどとは口にしない。なんといってもミラこそが、その持ち主なのだから。

「流石はダンブルフ……いや、今は精霊女王とかって呼ばれているんだったか」

「流石は、精霊女王!」

「素晴らしい素材をありがとう!」

素材ばかりに気を引かれていた職人達の心が、ようやくそれをもたらしたミラへと戻ってきたようだ。

「うむうむ。よいよい」

再びの注目に感謝と称賛の声を浴びて、満更でもなさそうなミラであった。

「で、装備を誂える代わりに、この素材を貰えるって話だったよな」

「どんなのを作ればいいんだ!?」

「なんでも作ってあげる!」

どんと来いと意気込む職人達。

約束したのは、マキナガーディアンの素材を用いて新装備を作ってもらう代わりに、残りの素材を全て寄贈するというものだ。

だからこそか、全員気合の入り方が違う。より活躍して、よりよい素材を手に入れたいという欲望がその全身からにじみ出ていた。

そんな欲望まみれな職人達とはいえ、腕前は本物だ。任せれば最高品質の武具を生み出してくれるのは間違いない。

しかもマキナガーディアンの素材を寄贈するとあってか、それ以外に必要な分は全て研究所が提供してくれるときた。

研究用として各地から収集しているためもあってか、ここに備蓄されている素材は多種多様だ。しかも今回のように桁違いの希少性でなければ、かなり貴重な素材まで取りそろえられている。

ゆえにここならば、ミラが望むものはだいたい作る事が出来るだろう。

「うむ、では皆に作ってもらいたいものはじゃな──」

職人達の注目が集まる中、ミラは考えに考え抜いた新装備案を提示した。

まずミラが求めたのは、スタミナを増強出来るものであった。

スタミナ。それは、この世界が現実となった中でトップクラスに影響の大きかった要素かもしれない部分だ。

ゲーム時代にもスタミナというステータスはあったが、それが感覚として現れる事はなかった。スタミナ切れの状態で無理をし続けると色々なペナルティが発生してしまうという具合のものだ。

しかし現実となった今は大きく違う。たとえどれだけ強かったとしても、疲れてしまえば集中力は散漫になり、ポテンシャルの何割かしか発揮出来なくなってしまう。

息は上がり倦怠感が押し寄せ、足が動かなくなるほどに疲弊する。

それが現実であり、今のミラの肉体というのは、魔力の高さ以外において一般人とそこまで大きく変わらない程度であった。

全力で駆け回りでもすれば、そうかからずスタミナ切れになってしまうくらいのものだ。

これまでは召喚術士としての腕前で、どうにか誤魔化しながらやってきたが、この先もそれが通じ続けるなんて楽観的な考えはミラになかった。

筋力的な問題は、武装召喚で底上げ出来る。スタミナについても、一応は武装召喚のパワーアシスト機能でそれなりに補える。

だが補える程度であって、動けば相応に疲れは蓄積していく。現時点においてもスタミナ不足がミラの弱点である事に変わりはないのだ。

だからこそ今回のきっかけを活かして、その弱点を装備で補おうというわけである。

「なるほど、スタミナか──」

「とすると、最も効率のいい形は──」

「ニューロンクリスタルとエーテマイトを繋げば──」

「スタミナ特化で構わないのなら、巨岩王の核を使うのはどうだろう──」

ミラが希望を告げるや否や、ここぞとばかりに案が並んでいく。

素材同士の組み合わせによる相乗効果。また形による効果の発現率。それら多岐に及び複雑に絡み合う要素を深く熟知する職人達は、その最適解を求めて瞬く間に白熱していった。

マキナガーディアンの素材という最高の報酬を得るために。だがそれ以上に職人として最高の一品を作り上げるための労力は一切惜しまないといった気迫が垣間見える。

(もう一つあるのじゃが……まあ、落ち着いてからでもよいか……)

そのあたりもまた、職人魂というものなのだろうか。専門用語が乱舞し、職人同士でなければわからないようなやり取りが展開されていく。

そんな中またも置いてけぼりとなったミラは、のんびりと濃厚チーズオレを飲みながら、話が一段落するのを待つ事にした。