軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

444 建国祭の始まり

四百四十四

伝統の銀卓会議。その全容は、いつもこのようにごちゃごちゃと騒がしいものであった。

思いつくまま適当に案を並べていく九賢者達と、余計なそれらを排除しつつ最適解へと繋げていくソロモンの攻防戦だ。

ある日は、国の安全のため周辺諸国全てを征服するべしというフローネの主張をどうにかこうにか押し留め、アルカイト王国は侵略せず、だが侵略には徹底的な破壊で返すという国の方針をまとめた。

今の国の主軸ともなっている大きな分岐点だ。

またある日は誰がとは言わないが、獅子タイプの魔獣と狼タイプの魔獣討伐の話から猫派と犬派などという話題へと飛び、二派が対立。首都壊滅危機一歩手前までいった事などもあった。

ほとぼりが冷めるまで二派が顔を合わせないように、うまい事チーム分けをしたソロモンの気苦労は計り知れないというものだ。

だが時には、ソロモンでも止められない事がある。

会議によって術の実験場建設地が決まったが、その実験規模がソロモンの想定を遥かに超えてしまったのだ。国の予算のみでは飽き足らず、個人資産も容赦なくぶち込む者がいたからだ。

結果、真夏に大雪を降らせた事で国と国を繋ぐ複数の通商路が完全に麻痺し、多くの国を混乱させた。

それら過去の事を考えれば、今の会議は何とも平和的である。来年度の予算を切り詰めるか、幾つか動いているプランを先延ばしにするか、各国に謝罪して回るか、趣味を諦めるかすればいいだけの話だからだ。

ただ、同時に国の威信もかかっている事からソロモンもまた軌道修正に必死だった。

「よし、こんな感じでよろしくね」

まずは、今回の建国祭のメインイベントにもなる九賢者帰還式典の演出を、全員の意見をまとめながら予定していた通りのところに落とし込んだ。

加えて、ソウルハウルの密かな企みも看破。これに予め釘を刺す事が出来ていた。いつもならば、どうでもいいといった態度のソウルハウルであったが、今回は何かしら考えてる様子だったためだ。

同じ沈黙であっても心の内は違うと見抜いたからこそのファインプレーである。

そのようにして、幾らか傷は負ったものの、どれも致命傷は免れた最善の策が組みあがったわけだ。

「じゃあ次は──」

この件については、これでお終い。誰かが余計な事を言い出す前に、すぐさま次の議題である帰還発表後に行われるイベントなどについて話し始めるソロモン。

そのイベントでは、誰もが気になっているだろう事に対する会見や現九賢者が打ち立てた功績の発表、また九賢者帰還後の銀の連塔の活動についてなど。今後のアルカイト王国の展望について触れていく予定だと、ソロモンは説明していく。

加えて、それぞれの回答などについては概ねまとめてあると書類を配り始めた。

国のため、九賢者のため、そして関係者一同のために考えたのだろう。無難で確実な応答に、他国を刺激し過ぎない栄誉ある行動の数々、そして見事な将来の展望がそこには書き記してあった。

「最近ね、元に戻すだけじゃ足りないのかもって思ったの。だからいっその事、街を森林で囲っちゃうのはどうかな。精霊達がお隣さん。いいと思わない?」

「思い付いたのですけど、あの塔って部屋が多いでしょう? 少し余分な部屋もありそうだから、それを全部子供部屋にするのはどうかしら。怪我をしても直ぐに治せるし、広いから子供達もいっぱい遊び回れるし、いいと思わない? ねぇ、ソロモンさん」

「大きな闘技場を作りたいネ! 仙術と武術は組み合わせるともっと強いヨ。だからいっぱい試合が出来る場所があれば、仙術の発展にも繋がるはずネ!」

「わしもそろそろ、昔は実現出来なんだ人工聖域化計画をじゃな──」

一難去ってまた一難。次の議題が始まれば、再び出るわ出るわの新提案。

「うんうん、それって大切だよね。そこで今、精霊共生計画っていうのを企画していてね。折角だから今後はカグラちゃんにも参加してもらって──」

どれだけ資料をまとめて準備していても、その場の思い付きで話し始める九賢者。それを真っ向から受けて立つソロモンは、再び知恵を巡らせて、それらをどうにかこうにかうまい具合にまとめ、元よりの計画へとすり替えていくのだった。

「ふぅ……やっと終わったか……」

白熱した銀卓会議が終わり、よろよろと執務室にまで戻ってきたソロモンはソファーの方に倒れ込むなり、「もう、今日はオフでいいよね、オフで」とぐったり呟く。

「お疲れ様でございます」

そう応えたのはスレイマンだった。緊急時に備え執務室の方で待機していたのだ。彼はソロモンの様子を確認するなり、「甘いものをご用意いたしましょうか」と続ける。

「ああ、そうだね。頼めるかな。まったく、今日は本当に疲れたよ」

ソファーの上で横になるソロモン。少しばかりだらしない姿であるものの、あの面々の相手ともなれば仕方がない。そう理解するスレイマンは、それを咎める事はせずに、お茶の準備を始めた。

「しかしまた、ここまでお疲れな姿を拝見するのは、どれほどぶりでしょう」

手際よく仕事をこなし、国の平和を維持し続けてきたソロモン。普段は、どれほど忙しくとも毅然としており、内外に及び様々な公務を全うしてきたものだ。

そんな彼があからさまに疲弊し、王という鎧を完全に脱ぎ捨てている。

これほどまでに疲れ切った姿など、そうそうあるものではないと知るスレイマンは、驚き──というよりは少しばかり嬉しそうに笑っていた。

「あー、そうだねぇ、今日ほど疲れたのはかなり久しぶりだ。きっと……三十年ぶりくらいかもしれないね」

疲れ切った顔で答えたソロモンもまた、それでいて僅かに微笑みを浮かべる。

これからは、あの頃の無駄に忙しく、それでいてどうしようもなく楽しい日々が戻ってくるのかと。

(……でも、ちょっと代行達にも残っていてもらおうかな)

九賢者帰還の発表は、間違いなく大陸中のニュースになる。ともなればアルカイト王国の勢いは、一気に高まるだろう。

政治面、国の運営においても有能であった賢者代行達。むしろそちらの方面では、九賢者よりも頼りになるというものだ。

出来れば、九賢者達の制御もしてもらえないだろうか。

そんな事を考えながら、ソロモンは甘いお茶で脳の回復を図った。

銀卓会議から数日の間、いつもの研究や実験、エミリアの特訓に加え、ちょくちょく建国祭の準備の手伝いをしつつ過ごしたミラ。なお今のところ、エリヴィナの作業は順調に進んでいるようだ。

と、そうして過ごしていたら、あっという間に建国祭の当日がやってきた。

「んーむ、今日もまたよい朝じゃのぅ」

塔の私室で目を覚ましたミラは、身を起こすと同時に甘えてくるルナを抱き上げて、その温もりを堪能する。

目覚めてすぐのモフモフは、まさに至福の心地よさである。

それから、いつも通りの朝を過ごした。用を足して朝風呂を浴びて、マリアナ、ルナと共に朝食を堪能する。ありきたりでありながら幸せの全てが詰め込まれているのではと感じられるほどの尊い時間だ。

「さて、少し早めじゃが、そろそろ準備を始めるとしようか」

のんびりとした朝の時間を幾らか過ごしたところで、ミラは元気よく立ち上がる。

普段ならばこの後は、研究やら実験やらといった作業を始めるのだが、今日は違った。

なぜならば、建国祭の当日だからだ。

「はい、ミラ様!」

「きゅい!」

この日のためにミラ達もまた色々と準備していた。それはソロモンに言われてああしたり、こうしたりといったものではない。

建国祭を大いに楽しむ準備だ。

九賢者の帰還発表という最大級のイベントが待っている建国祭。カグラ達帰還組は朝から、というよりこの数日大いに忙しい日々だっただろう。

だがミラの九賢者就任は、まだ保留だ。よってミラにしてみれば、今日はただのお祭りであった。

今日の正午、ソロモンがあーだこーだといった挨拶と感謝の言葉を述べたところで、いよいよ建国祭の本番が始まる。

街中をお祝いの神輿が練り歩き、国は一気にお祭りムード一色に染まっていく事となる。

またソロモンの趣味もあってか、建国祭は日本の夏祭りに似た要素が随所にみられるのが特徴だ。

今回はそれを、マリアナ達と共に巡るわけだ。一家水入らずで楽しむのである。

「ふむ、これならば存分に歩き回れそうじゃな!」

マリアナにも手伝ってもらい、いつもの変装を完了したミラ。今回は黒髪ポニーテールと伊達メガネ、そして町娘風の衣装で身バレ防止だ。

その変装ぶりを確認したら続けてこの日のために用意した荷物を確認し、アイテムボックスに入れなおす。

「こちらも完了しました!」

「きゅい!」

また気合が入っているのは、マリアナとルナも同じようだ。

マリアナはいつものメイド服から、少しばかりオシャレで可愛らしく、それでいて動きやすい服装へと着替えていた。この日のために一緒に選んだお出かけ服だ。

更には、普段のお下げ髪からミラとお揃いのポニーテールに変え、動きやすさをアップしている。その姿からは、今日に懸ける相当な本気度が窺えた。

加えてルナも、お出かけ衣装で準備は万全だ。それでいて首元につけたリボンは、ミラとマリアナのポニーテールをまとめるリボンとお揃いである。

また三人でお出かけするのが余程嬉しいのだろう、そのはしゃぎぶりはいつも以上であった。

「さあ、出発じゃー!」

「はい!」

「きゅいー!」

今日は遊びつくすぞと気合を入れて、いざ召喚術の塔を飛び出したミラ達は、そのままガルーダワゴンに雪崩込みルナティックレイクへと飛び立つのだった。

「あ、もうシルバーワンドが見えてきました」

「きゅい、きゅい!」

ガルーダワゴンでの移動中。マリアナは、その窓から広がる景色に夢中になっていた。

羽を持つ妖精族のマリアナでも、ここまでの高度まで上がる事は出来ないためか、それとも普段ミラが見ている光景を見られて嬉しいのか、いつも以上にはしゃいだ様子である。

ルナもまた見慣れない景色ながら、その迫力はわかるのだろう。おっかなびっくりしつつ、とても興味深げに外を眺めていた。

「お、これまた大きな神輿が用意されておるのぅ」

ミラもそんなマリアナ達と共に地上を眺める。

首都ルナティックレイクとシルバーホーンの中間程に存在する街、シルバーワンド。その街もまた、建国祭で盛り上がっているようだ。今か今かとばかりに待機している神輿が、空からでも確認出来た。

周りには大勢の人が集まっており、その喧騒が離れていても伝わってきそうなほどだ。

(しかしまた、天気に恵まれておるのぅ)

建国祭で装飾された街を後方に見送ったミラは、雲一つない空に視線を移す。

ガルーダワゴンで移動するようになってから幾らか経ち、随分と見慣れてきた空からの景色。だが親しい者と一緒に見る時は、同じようなものでも、どうしてここまで違って見えるのか。

初めて目にした時より、ずっと輝いて見える景色。ミラはそんな光景を見つめつつも、そっとマリアナとルナを垣間見て嬉しそうに笑った。

ルナティックレイクの王城前。いつの間にかミラ専用の発着場となっているそこに、ミラ達を乗せたワゴンが着陸する。

「さて、まずは建国祭の本会場に向かうとしよう。そこで『建国祭特別チケット』を買ってからが本番じゃ!」

「はい、ミラ様。参りましょう!」

「きゅい!」

ワゴンから出るや否や、迷う事無く目的地に向けて歩き出す。

そんなミラの手には、一冊のノートがあった。ソロモンから訊き出した建国祭のイベントスケジュールや露店情報といったものをまとめたノートだ。

ソロモンいわく、今回はそれに加え九賢者帰還もあって、いつもの建国祭よりも更に大規模に行うという。

催しもののほか、各種サービスなども盛りだくさんな内容となっていた。だからこそのまとめノートだ。

そこに必須と書いておいた事。それが『建国祭特別チケット』の購入である。

各露店で使えるお得な割引券と、一部のイベントの参加券、そして建国祭のささやかな記念品との交換券がセットになったものだ。

「賑わっておるのぅ」

本会場は、ルナティックレイクの中央部から職人工房地区へと延びるメインストリートの中央広場にあった。

そこにはイベント用のステージの他、大きなスクリーンや案内所、迷子の預り所といったものも用意されている。

(……いやいや、まさか。もうとっくに準備しているはずじゃろうしな)

ちらりと見えた迷子の預り所にて、どことなくアルテシアに似た女性がいた気がする。ただ、今一度確認してみれば、教会から出張してきてくれたシスターの姿が確認出来るだけだ。

見間違いだろう。そもそもアルテシアは今、建国祭での帰還発表という一大イベントのため王城で準備しているはずだ。

それがまさか幾ら子煩悩だからといって、こんな時にまで来ているはずがない。

そう信じたミラは──信じようと決めたミラは、そっと迷子の預り所から視線を外した。

「三人分で頼む」

「えー……っと……」

目的の建国祭特別チケット売り場での事。

その売れ行きは非常に順調のようで、少しばかり列に並んだミラは番が回って来たところで三人分を申し込んだ。

だがそこでミラ達を見たチケット販売員は、困惑の色を浮かべる。

割引券は、今日一日どこでも使い放題というタイプであるため、サイフを持つ者が持っていれば十分。

また、イベントの参加券は一人一枚となるため、こちらは人数分あればいい。

そして記念品との交換券だが、そのささやかな記念品が特別チケットよりも高価かというと、当然そうでもない。貰えてちょっと嬉しいくらいの代物だ。

ゆえに建国祭特別チケットは、人数分があれば十分であった。

それでいてミラは、三人分を申し込んだ。しかも、ルナを手に一人と換算しての三人分だ。

「二枚だけでも──」

ペットのイベント参加にチケットは必要ない。そうチケット販売員が言おうとした時だ。

「三人分、ご用意して差し上げなさい」

上司だろうか。裏から現れた女性が、そう告げたのである。

「わかりました!」

チケット販売員は、もう疑問を挟むような事はせずに、一も二もなくチケットを三枚用意してくれた。