軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

426 特別トーナメント

四百二十六

闘技大会の目玉の一つである無差別級は、ミラの望み通りにプリピュア──メイリンの優勝で幕を閉じた。

そして次に始まるのは、もう一つの目玉である特別トーナメント戦。高名な冒険者や歴戦の傭兵、逸話を残す英傑など世の誰もが知っているような、いわばヒーローばかりを揃えたトーナメントだ。

そこに名を連ねる者達の人気といったら格別であり、客達の半数がこれを目的にしていたと言っても過言ではないだろう。

だが無差別級決勝での戦いがあまりにも激しかったため舞台の破損が著しく、少しばかり開始が遅れる事となった。

それに伴い、その間休憩時間となったミラは丁度いいとばかりに救護室を訪れていた。色々な配慮もあって個室となっている部屋だ。

「ふむ、流石はエメ子じゃな。傷痕すら残っておらんのぅ」

血飛沫が上がるほどにさっくりいっていたメイリンの腕だったが、エスメラルダが治療したとあって、それはもう綺麗さっぱりに治っていた。

今は既に、どこが斬られていたのかすらわからない状態だ。

「もうばっちりヨ! また直ぐに戦えるネ!」

ベッドで安静にさせられていたメイリンは、そう答えるなり飛び起きて、まったく問題ないとアピールする。

だがそこで、すぐ隣に控えていたエスメラルダが静かに、だが力強くベッドに引き戻した。

「だーめ、暫くは大人しくしていてね、メイちゃん。傷は治っても、流れた血はそのままなんだから。いつもみたいに動こうとすれば貧血で直ぐに倒れちゃうわよ。今はこれ飲んで安静にしていて。そうすればエキシビションマッチまでには、ちゃんと治るから」

「うう……わかったネ……」

メイリンは渡されたコップから漂ってくる臭いに顔を顰めるも、エスメラルダが放つ無言の圧力を前にして意を決したようにその中身──特製の増血剤を一気に呷った。

するとどうだ。メイリンは、どうにも不自然なくらいの挙動で倒れ伏したではないか。

エスメラルダの事だ。効果は確かなのだろう。だが、その反応からして味は筆舌に尽くしがたいほど酷いようだ。

「さて、ところでレヴィ……トムドッグの方はどこにおるじゃろうか?」

折角ここまできたのだからと思い立ったミラは、エスメラルダに振り返りながらそう口にする。

見たところ彼も相当な重傷であった。ともなればエスメラルダ率いる救護班の世話になっているはずだ。

「あ、彼もプレイヤーっぽかったけど、もしかして知り合いだったのかしら?」

エスメラルダはミラの様子からして、なんとなく察したようだ。

「うむ、多分じゃがな」

そのようにミラが答えたところ、エスメラルダは「そうなのねぇ」と頷くなりミラをじっと見つめた。

「な……なんじゃ?」

どことなく窺うようなエスメラルダの視線に、ミラは何かおかしな事でも言っただろうかと反射的に問う。

「ううん、ただゲームだった頃から会っていないとかだったら、今の姿をどう説明するのかなと思っただけよ」

「あ……」

エスメラルダの言葉は、今の状況からしてもっともな言葉であった。

エスメラルダ達を含め、ミラの正体がダンブルフであると知る者は増えてきた。

だが、その事実は本来、国家機密だ。同郷でそれなりに交友があったとはいえ、おいそれと話すわけにもいかないだろう。

ただ何よりも、今の姿を見てどう思われるのかわかったものではない。かつての威厳が砕ける恐れすらある。

「確かにそうじゃな……」

改めてその事を思い出したミラは、「ふむ、挨拶はまた今度にしようか」と保身を第一に考える。

(今度、アルマかソロモンあたりにでも聞いてみるとしようかのぅ)

国の長である二人ならば、他国の情報もある程度は得られるだろう。

ともなれば、レヴィアードの指名手配についてもわかるはずだ。

何はともあれ、友人の彼は闘技大会で準優勝するくらいに今も頑張っているようである。

それだけでも知れてよかったと思いながら、まだ見ぬ他の友人達はどうしているかと思いを馳せるミラであった。

舞台の修理が完了し、いよいよ大勢が待ち焦がれていた特別トーナメントの開始となった。

そのトーナメントにエントリーしているのは、誰もが知るような有名人ばかりだ。

かつてミラも出会った、今一番勢いのある冒険者ジャックグレイブ。

男達からの人気ナンバーワンであるエレオノーラ。

大陸中に名を馳せるギルド、エカルラートカリヨンの団長セロ。

魔獣狩りとして知らぬ者はいない、リガードハーケン。

百を超える凶悪指名手配犯を捕まえた賞金稼ぎ、リグラーグ・ジェンキンス。

更にそればかりではない。そこには、国の代表として出場する軍人の姿も複数見られた。

(お、あの者がうちの代表か。って、確か……ソロモンが趣味で育て始めたとかいう特殊部隊の一人ではなかったじゃろうか……)

魔導工学を応用する部隊は、ニルヴァーナのエクスマキナだけではない。アルカイト王国でも、その研究は進められていた。

軍の中でも魔導工学を駆使した兵器や術具の運用を得意とした者達で編成され、秘密裏に製造された銃火器に似た術具を主兵装とする部隊。

フル装備した時の姿はファンタジーな世界に非ず、それこそ自衛隊の如きである。

ミラがお土産として持ち帰った迷彩マントや暗視ゴーグルなどに触発され、いよいよソロモンの趣味が爆発してしまった結果に生まれた罪深き部隊といえよう。

だがそれでいて、その運用実績は目を見張るものがあった。

装甲車両で素早く駆け付け、迅速に魔物を撃破。更には凶悪な犯罪にも対応。多くの国民達を救っていた。

アルカイト王国にてのんびりしていた際、その訓練を見学し、更には付き合わされた事があったミラ。だからこそ今舞台上にいる彼こそが、その隊長だと気づく。

(あー……経験を積ませるために送り込まれたのじゃろうなぁ……)

ソロモンが用意した特殊な装備を使う事を前提とした部隊だが、場合によってはその身一つで切り抜けなければならない時もあるだろう。

そのための実戦経験として、この闘技大会は実に都合がいいわけだ。

それを承知してか、静かに、だが熱き闘志を覗かせる隊長。

確か名前は『ディアス』だったはず──と、ミラはそんな彼の事を思い返しながら様子を窺った後、手元に用意されていた資料に目を通した。他の国から送り込まれてきた精鋭達についての簡潔な情報だ。

するとそのほとんどが年若く、才能と努力のみで軍のエリートへと駆け上がってきたといったような者ばかりだった。

どの国も似たり寄ったりな考えらしい。彼ら彼女らは次代を担う人材であり、だからこそこの場にて貴重な経験を積んでもらおうというわけだ。

見て、そして実際に戦って。この闘技大会で得られるものは相当に多いのは間違いないのだから。

(さて、どんな結果になるかのぅ……)

この中では、やはりセロが筆頭だろうか。ミラはそんな予想を立てながらピナシュと共に、この特別トーナメントの実況を盛り上げていった。

特別トーナメント戦。そこにエントリーしているのは、女王アルマが選び抜いた強者十六名と友好関係にある国より代表として参戦する十六名だ。

女王選出の人選はなかなかに容赦がなく、人気実力ともに大陸規模の者ばかりである。

(しかしまた、ミーハーな選び方じゃのぅ)

一目見てそんな印象を受けたミラだったが、大会的には大当たりだ。

招待選手の人気の高さも相まって、その試合は無差別級とはまた違った盛り上がりをみせていた。

また、何よりも試合が盛り上がる理由は特別トーナメントが特別である理由にあった。

「遂に出ましたエレオノーラ様の愛剣、ホワイト・プリム! その輝きは、夜空に輝く満月の如き!」

なんと無差別級とは違い、特別トーナメントでは武具の制限が一切ないのだ。

つまりは噂に聞く英雄達が、それこそ逸話通りの戦いを繰り広げるわけである。

空をも切り裂く聖剣、どんな術をも撥ね返す盾、風のように駆ける靴、炎そのものを集束し武器とする柄など。本気装備といっても過言ではないそれらを用いた戦闘ともなればもう大迫力であり、観客達は話でしか聞いた事のないそれらを前にして大いに熱狂していた。

だが、そんな客席側の防御を担当する術士達の苦労は、その心中を察するレベルでもある。

(これまた、目が離せぬな……!)

とはいえ、それはニルヴァーナの術士の仕事だ。知った事ではないミラは、戦うエレオノーラの姿に感心していた。

彼女については、その妖艶な美しさについてばかり耳にする事が多いが、腕前もまた確かなものだ。

特に受け流す動作は、もはや達人の域といっても過言ではなく、ホーリーナイトあたりに覚えさせられないだろうかと本気で考えるミラ。

(ほぅほぅ、時折噂を耳にするだけあって、やりおるものよ)

続いて今一番勢いがあるといっても過言ではない、ジャックグレイブの試合。彼の戦いぶりをとくと目にしたミラは、出鱈目に見えて洗練された剣技に感嘆した。

解説用に用意された資料によると、彼の技は全てが我流であるそうだ。事実、型破りという言葉がしっくりくるほどの戦いぶりを目の当たりにしたミラは、それでいて技の一つ一つに注目する。

基本は豪剣だが、ところどころに柔軟性があり、それを起点として幾つもの技に派生していく。

(ふむ、これもまた教えてほしいところじゃのぅ!)

ダークナイトもまた豪剣使いだ。彼の技を習得出来れば、更なるパワーアップが期待出来るかもしれない。

そんな考えを思い浮かべながら、ミラはジャックグレイブの名を心にしかと書き留めた。

(ほぅ、あの頃よりも更に腕を上げたようじゃな!)

エカルラートカリヨンの団長セロ。彼の技は、キメラクローゼンとの決戦にて共闘した時に見た時よりも更に鋭く冴えわたっていた。

もはや灰騎士ですら相手にならないだろう。

ただ先程までとは違い、その技を教えてほしいという気にはならなかったミラ。

その理由は、彼の剣技は彼だからこそ扱えるもの、極めた先にあるものだと理解出来てしまったからだ。

これを習得するのは、灰騎士のみならずアルフィナですら不可能だろう。

と、そのようにして他にも数々の名だたる招待選手の試合が繰り広げられていった。

特別トーナメントの第一戦十六試合が終わったところで、この日の日程は終了となる。

そして次の日となり、朝から特別トーナメントの第二戦目が始まった。ミラもまた、若干眠たげな様相ながらも実況席にて今日も励む。

強者達が集う初戦を勝ち抜いただけあって、二戦目からの試合は更に白熱する。

そんな中で意外にも観客達から思わぬ反響があったのは、アルカイトの特殊部隊隊長ディアスだった。

装備は自由となっているものの、試合という事もあって彼が使うものは非殺傷系が主となる。

だがそれでもディアスが使うのは、『とりあえず直ぐに死ぬほどじゃあなければ大丈夫だよね』などといったソロモンの笑顔が透けて見えそうな武装の数々だ。

そして、それらを駆使して戦うディアスの姿は、それこそ作戦遂行に殉じる特殊部隊員そのものといえた。

舞台上を飛び交う銃弾は、貫通せずとも小さな爆発を起こすため、与えるダメージ範囲でいえば酷いものである。

フラググレネードの代わりに炸裂するスタングレネードには電撃の術式が施されているようで、目と耳を利かなくさせるだけでなく全身まで破壊する気満々に見えた。

更に凶悪だったのは、スモークグレネードだ。

ただの煙幕ではなく、催涙ガス仕様というオマケ付きときた。そしてディアスは装備の一つであるガスマスクを装着した後、サーマルスコープを併用し煙に紛れて銃撃するという鬼畜ぶりだ。

(血も涙もないのぅ……)

そんなディアス相手に、どこぞの国の騎士団長が正々堂々と立ち向かい敗れ去る。

正面からまともにやりあっていたなら、ディアスに勝ち目はなかっただろう。それほどまでの実力を秘めた騎士団長だ。

実況しようにも、無慈悲な制圧は催涙ガスの煙の中で行われるため何を言う事も出来ず、ミラは軍人としての任務遂行力は抜群だと解説するだけで精一杯だった。

(まったく、こんな部隊を育ててどうするつもりなのじゃろうな)

ほとほと呆れたように笑うミラだが、なんとなくソロモンの思惑はわかっている。

これは、完全に彼の趣味であると。

ただ、そんな趣味の部隊でありながら隊長ディアスの活躍ぶりはなかなかだった。それこそ、Aランク冒険者もいるトーナメントの中で二回戦目も突破したではないか。

しかしながら三回戦目にてセロと当たってしまったため、彼の進撃はそこで終わってしまった。

ともあれ、これから彼が担当していくであろう任務、凶悪犯罪者の対応などといった正規の案件について十分に対応出来る部隊になるのは間違いなさそうだ。

経験も積めたという事で、ある意味ソロモンの一人勝ちといっても過言ではないだろう。