軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

427 特別トーナメント決勝

四百二十七

無差別級とは違った試合展開で盛り上がる特別トーナメント。その中にミラが注目した選手がもう一人いた。

「おお、今のはわしも見切れる自信がないのぅ。流石は、かのウォーレンヴェルグ殿のお孫さんじゃな!」

ウォーレンヴェルグ・ヴィルターネン。それは三神国の一つ、オズシュタインが誇る三神将の名であった。

何とそんな彼の孫であるヘムドールが、この闘技大会の特別トーナメントに出場しているのだ。

しかも手元の資料によると、ヘムドールは今年に入ってオズシュタイン軍が誇る巨獣騎兵団の軍団長に就任したとあった。

その後ろ盾に加え、役職と家柄もすべてが揃っているといっても過言ではない男。それこそ究極の孫とでも言える彼が有する権力ともなれば、そこらの王族すらも震え上がるほどだ。

そんな彼が、何をどうしたら闘技大会に出場する事になるのか。

アルマが送った招待状には、当然、大物を出してこいなどとは書いていない。新進気鋭な軍人の力を試してみるのはどうですか、といった程度だ。

それがよもや、これほどの大物が出場するとは、と彼女も大層驚いていたものだ。

(しかしまた、この三十年で何があったというのか。あの孫が、よくぞこのような戦士に成長したものじゃのぅ……)

三神将といえば、アトランティスの 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) が全員で戦い敗れたというほどの強さを誇る、正しく神にも近いとされる実力者だ。

そしてミラはそんな三神将の一人、ウォーレンヴェルグと関わりのある騒動に巻き込まれた事があった。

それは、オズシュタインで発生した悪魔関連の騒ぎに端を発した一連の騒動だ。

特に悪魔の活動も活発だった当時、その立場や威光などもあって三神将の周りでは様々な陰謀が渦巻いていた。

その一つが、彼ウォーレンヴェルグの孫であるヘムドールがまだ十代の中頃だった時に起きた事件であり、ダンブルフら九賢者が解決へと導いたと知られる大きな功績でもあった。

(あの時に震えていたヘムドール少年が、今や名誉ある巨獣騎兵団の軍団長とはのぅ。立派になったものじゃなぁ)

ミラが知るかつてのヘムドール。それは三神将の孫という立場ゆえか、甘やかされに甘やかされたボンボンの極みともいえるような少年だった。

そんな彼が今や、当時の傷跡すらも似合うような立派な男に成長していた。

時の流れによる変化は何とも不思議なもので、思わぬ奇跡や驚きをもらたしてくれる。

実に分かりやすい変化を目にしたミラは、それでいて感慨深げに微笑みながら、どこまで強くなったのかと彼の試合にも注目した。

そうして特別トーナメントも進み、日も暮れた頃。

いよいよ、決勝の時がやってきた。

(ふむ、こうなったか)

照明によって照らされた舞台に立つ二人の選手。

その一人はミラの予想通りに、セロだ。

やはり大陸規模にもなるギルド、エカルラートカリヨンの団長だけあって実力もまた折り紙付き。ジャックグレイブやエレオノーラといった新進気鋭で勢いのある冒険者をものともせずに、その強さを見せつけて勝ち上がった。

そんな彼の対戦相手としてそこに相対する者。それは、ヘムドールであった。

かつての彼は、どうしようもないお坊ちゃまであったが、やはり内に秘めた才能は計り知れなく、また相応の努力もしてきたのだろう。立派に成長した彼は、真の実力のみでその場に立っていた。

(リグラーグ・ジェンキンスという賞金稼ぎも相当な手練れじゃったが、よもや、ああもあっさりと下してしまうとはのぅ。いったい当時から、どこまで実力をつけたのじゃろうな)

あの少年が、よくぞここまで強く逞しくなったものだと感心するミラ。

だが、そうして感慨深く舞台を眺めていたミラは、暫くして、どうにも会場から伝わってくる雰囲気が少しばかりおかしいと気づいた。

場面は、特別トーナメントの決勝。一番盛り上がる試合が始まろうとしているタイミングであるはずだ。

けれども聞こえてくる声援や歓声の中に、どうもその場にそぐわない色が含まれていたのだ。

これはいったい、どういった様子なのだろうか。

『アルフィナよ。何やら闘技場がざわついているように思えるのじゃが、何があったかわかるじゃろうか?』

解説席からは詳しく探れないミラは、観客席にいるアルフィナに様子を確認する。

『はい、主様。こちらから聞こえる範囲で判断するならば、どうもセロ様の対戦相手であるヘムドールという者がここまで勝ち上がってきた事を、多くの者達が不審に感じている様子でございます』

初めに返ってきたのは、そのような報告だった。

更にミラは、そのように不審がられている原因について何かわかるかと続けたところ、『暫しお待ちください』との返事があった。

最初に問うた直後より、姉妹達が原因究明のために動きだしたようだ。

そして一分も経たぬうちに、その原因が報告された。

姉妹達が集めた情報によると、どうやら昔の彼の素行が大本の理由であるとの事だ。

(ふーむ……じゃがまあ、仕方がないのかもしれぬな……)

ミラが思っていた以上に、ヘムドールが三神将の孫として傍若無人だった時代は深くその影を落としていた。

だがそれも、大陸全土に影響を及ぼす三神教の名を冠する将軍の孫だったからこそでもあるだろう。

究極の親の七光りによって重要な職の位についている、お坊ちゃま。それが、アルフィナ達の聞き及んだ世間一般での印象だった。

そんなお坊ちゃまが、名だたる冒険者達を抑えて決勝に残ったという今の状況が観客達の動揺と驚きに繋がり、この何ともいえない決勝の雰囲気を生み出しているというわけだ。

(さて、三十年でどこまで変わったのか)

当時の彼は、確かに褒められたものではなかった。

しかし、あの頃から三十年。かつてを顧みて、やり直すには十分な時間である。

また何よりも、この特別トーナメントを勝ち上がるのは生半可な事ではない。きっとこの決勝で、彼がどれだけの努力をして力をつけてきたのかはっきりとわかるはずだ。

ミラは、どことなく孫を見守るかのような面持ちで、その試合を見守った。

特別トーナメントの決勝が始まる。

一人は、セロ。大陸中にその名を轟かせるエカルラートカリヨンの団長として、名実ともに多大な結果を残してきた英雄だ。

対するは、ヘムドール。かの三神将を祖父に持ち、子供の頃には相当な問題児として悪名を馳せていた男だ。更に親の七光りで名誉ある巨獣騎兵団の軍団長になったと噂されてもいる。

そんな二人の試合である。大半の観客達はセロの圧勝だと予想しており、ヘムドールの鼻っ柱を折ってやれとばかりな顔をしていた。

「おーっと、セロ選手距離をとったー!」

「ふむ。ヘムドール選手の、あの構え。得体の知れない雰囲気があるからのぅ。迂闊に近づくのは危険じゃろうな」

観客達の期待、そして予想に反して決勝戦では熾烈極まる激闘が繰り広げられていた。

祖父が三神将だからこそ実力に見合わぬ地位についたと認識されているヘムドールが、セロを相手に互角に渡り合っているのだ。

そんな事実を目の当たりにした観客達に、どよめきが広がっていく。

(一度ついた印象や噂というのは、厄介なものじゃのぅ)

ミラはセロだけでなくヘムドールの事も応援しながら、徐々に観客達の雰囲気が変わっていくのを感じていた。

そもそもヘムドールは祖父の威光が及ばぬこの舞台にて、決勝まで勝ち上がってきたのだ。加えて彼が撃破してきた者達は皆、イカサマが通じるような相手ではなかった。

つまり今の彼には、それだけの実力があるという事だ。

(しかしまた、想像以上の伸びしろじゃな……)

総じて上位のプレイヤー勢というのは、この世界においても屈指の実力者となっている。

だが、それが全てというほど易しい世界でもないのが事実だ。

かの三神将を筆頭に、九賢者のようなプレイヤー勢のトップすら脅かす傑物が存在する。かの地下闘技場元王者のように、上位陣のプレイヤーにも並ぶほどの存在も確かにいるのだ。

ミラはこの時、ヘムドールからその片鱗を感じ取っていた。

そして、そんなミラの予感通りにセロの圧勝と予想されていた決勝は激戦へと突入していった。

「また凌いだー! 鮮やかに冴えわたるセロ様……──セロ選手の剣技! しかしヘムドール選手、またもやそれを受け切りました! なんという反応、なんという身のこなしでしょうか!」

「あれを全て躱すなど、わしでも無理じゃな。しかも徐々に順応してきておる。ヘムドール選手は、この試合の中で更に強くなりおったわ!」

一進一退の戦い。セロの実力は超一流だが、ヘムドールも負けてはいない。

その才能の成せる業か、戦いの中で進化の兆しを見せ始めていた。

初めは、数分もてばいい方だと思われていたヘムドールだが、気づけば既に試合時間は二十分を超えている。

(きっと、あ奴は目が良いのじゃろうな。あの僅かな動きを見抜き反応するなど、常人では不可能というものじゃ)

第三者視点だからこそ見える挙動というものがある。だからこそ予測出来るという場面もある。

ヘムドールは舞台に立ちながらも、そんな視点を持てているようだ。何度かに一度程度ではあるものの見事にセロの剣を躱し、反撃までも繰り出していた。

そんなセロとヘムドールの試合は、観客達にとって相当に予想外だったようだ。闘技場内には、そんな馬鹿なといった気配が広がっていく。

「なんと素晴らしい一撃でしょうか! ヘムドール選手、これには堪らず距離を置きました」

「試合中に進化していったヘムドール選手も相当じゃが、やはりセロ選手も差を詰められるばかりでは終わらぬようじゃな」

ヘムドールがセロの剣を覚えて対応してきたように、セロもまたヘムドールの動きを把握したようだ。

そのふり幅すらも計算に入れた彼の剣技は、それこそ経験と実績によって培われてきた重さを秘めており、それはヘムドールの才能と努力では、まだ到達出来ない領域にあった。

そこから試合の流れは徐々にセロ側へと傾いていき、更に十合、数十合と打ち合ったところで、遂にセロの代名詞でもある追刃が炸裂した。

描いた剣閃に沿って今一度閃く、斬撃。それがヘムドールの鎧を大きく穿ったのだ。

これに体勢を崩したヘムドール。その首元に剣先を宛てがったセロ。

そうして特別トーナメントの勝者が決定した。

セロの勝利は観客達が望んだ結果でもあるためか、それはもう会場は大盛り上がりだ。割れんばかりの歓声が闘技場に響き渡る。

「──全てを見切ったといっても過言ではありません。これこそが達人がみせる一瞬の冴えというものでしょう。セロ選手、実に見事な一撃でした」

ピナシュもまたセロファン寄りなのだろうか。観客に負けず劣らず興奮した様子である。だがそれでも己の仕事は忘れていないようだ。「そんなセロ選手と、これほどの激闘を繰り広げたヘムドール選手。共に素晴らしい決勝戦でした!」と締めくくる。

「うむ、そうじゃな。昔は色々とあったようじゃが、これが今の彼の実力という事。いったいどれだけの努力と研鑽を積んできたのじゃろうか、想像も出来ぬわい」

奮戦しながらも敗北したヘムドールを見据えながら、かつての問題児がよくぞここまでと称賛するミラ。

するとだ──そんなミラの言葉を聞いてか、その言葉が影響したのか、ざまあみろとばかりな声が客席より掻き消えていったではないか。

そんな中でセロが、舞台上にてヘムドールに素晴らしい試合だったと敬意を示す。

これに対してヘムドールは、少しばかりばつの悪そうな様子で「ありがとう」と答えた。

そうしたらどうだ。今度は、あのセロと互角の戦いを繰り広げた事を、それだけの努力を重ねてきた事を観客達の一部も認めたようだ。

今一度、二人の健闘を讃える拍手が巻き起こるのだった。