軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

424 闘技大会決勝

四百二十四

サイゾーの模擬戦は、それから更に四戦続いた。

その全てはアトランティスが有する戦力を大いに知らしめる結果となり、それでいてニルヴァーナ国軍への貢献にも繋がる有意義な模擬戦となった。

『さあ、超特別ゲストもこれで最後。ゴットフリート様、サイゾー様に続くのは、アトランティス最高戦力の一人、エリュミーゼ様です!』

いよいよ、最後の一人。サイゾーと入れ替わるようにして、今度はエリュミーゼの登場だ。

普段通りとでも言うべきか。エリュミーゼは、どことなく気だるげな様子だ。

ただ、そんなところが男達の何かしらを刺激するのだろう。前二人とは異なった色味のある声が沸き立つ歓声の中に交じっていたりする。

『対するは、魔導工学を取り入れた新設部隊であり、また開発された数多くの新装備を試すための実験部隊でもありました。それが今日、遂に解禁! チーム・エクスマキナの登場です!』

ピナシュの言葉と共に舞台へと出てきたのは、如何にも実験中とばかりな姿をした兵士達であった。

全身を巡る骨組みと、そこに取り付けられた金属製の装甲板。前が見えなさそうなゴーグルと、複数の配線が繋がるヘルメット。

背中にはアンテナのようなものが突き出た装置。そして両手には、ごてごてとした内部機構が丸見えの棒。

その者達は一見すると、銀の連塔の研究員すら超えるほどにマッドな雰囲気を放っていた。つまりは、相当である。

『これまた奇怪な者共が出てきたものじゃな。しかし、魔導工学というのは日夜進歩し続けておる分野じゃからのぅ。どれ程のものか、楽しみになってきおったわい』

現在、大陸鉄道や飛空船を筆頭に、様々な分野に広まっている魔導工学の技術。

当然それらの軍事転用というのもまた、各国にて進められている。

そして条約による規定に従い、これらは主に対魔物用として開発されている代物だ。

とはいえ、そういった事は建前に過ぎない。だが、それでも今回はそれに倣った形での模擬戦となる。

『さあ、模擬戦最終試合の開始です!』

エリュミーゼ対エクスマキナ。その戦いは、これまでとは大きく違っていた。

次々と現れるゴーレムをエクスマキナの隊員達が撃退していくという、タワーディフェンスを思わせる形式だったのだ。

迫りくるゴーレムに、手にした棒を様々な形に変化させて対応していく隊員達。

剣になったり槍になったり斧になったり。変形速度は、まだまだ心許ない感じではあるが、その性能はそこらの鍛冶品程度では足元にも及ばないだろうほどに優れていた。

しかもそればかりではない。速度重視のゴーレム相手にみせたのは、銃形態だ。

しかもゴーグルと背中の装置に接続する事で発射された雷撃が敵を追尾するという、とんでも性能である。

ただ威力のほどは大きな静電気といった程度のものだが、牽制や陽動、支援、制圧といった用途で使うには十分といえるだろう。

更に武器以外もまた、すこぶる高性能だ。

身に着けたアーマーは、筋力増強に堅牢化、速度の強化と大盤振る舞いである。

『これは凄い! 大型ゴーレムの進行も抑えきりました!』

『これで終わりと思うたが、よもやあのゴーレムを砕いてしまうとは、やはりパイルバンカーはロマンがあるのぅ!』

エクスマキナの隊員達の奮戦ぶりは、それこそ魔導工学の可能性というものを大いに見せつけるものだった。

けれどそれ以上に、これまでに相当な厳しい訓練を積んできたのだろうという苦労が、そこには垣間見えた。

通常の武具や術具などとは比べ物にならないほどに複雑な魔導工学式の兵装。変形一つとっても複数の工程が必要な事に加え、まさかの合体まであるではないか。

これを使いこなすために覚える事、そして必要になる技術といったら、もう想像も出来ないほどと言えた。

けれども隊員達は、見事なチームワークでそれらを操っている。

中でも合体兵装のパイルバンカーは抜群だ。その威力はエリュミーゼの巨大ゴーレムをまとめて打ち砕けるほどの威力があった。

しかし、複雑すぎる工程が仇となり、それを用意するためにエクスマキナ側の陣地が一つ陥落していた。

しかもそれを機に、いわゆるハードモードへと突入していった。

これまでは単純編成だったが、次にエリュミーゼが繰り出したのは複数の種類で編成されたゴーレム隊だ。

対するエクスマキナは、防御専用の隊員を決めるなり、その者が時間を稼いでいるうちに効果的となる兵装を組み上げるという戦い方へとシフトした。

『これは厳しい展開です。構築された防衛線が、徐々に押され始めました』

『しかし、よく持ち堪えておるほうじゃな。あの装備の性能と、それを引き出す技術がなければ、アトランティスの将軍相手にここまでの手を出させられんかったじゃろう』

新設部隊エクスマキナ達は、期待以上の活躍を果たした。

そのようにミラが称賛すると、ピナシュもまた『あの伝説のゴーレム隊を相手にですからね』と感慨深げに答える。

その後、大いに奮闘したエクスマキナであったが、ボス戦とばかりに現れた二体の大型ゴーレムを前にして敗走する事となった。

『勝者、エリュミーゼ様! 多種多様な特徴を持つゴーレムを創り出すだけでなく、それらを巧みに操る技術は圧倒的としか言えませんでした。しかし、それに負けず劣らずなチームワークをみせたエクスマキナの皆様。勝負は負けてしまいましたが、あのエリュミーゼ様を相手に十分奮闘したと言っても過言ではないでしょう!』

『うむ、そうじゃな。熟練した冒険者よりも絶妙なゴーレムの連係は、一人で全てを操作しているからこそ。そんなゴーレムを相手に、チームワークでは負けておらんかった。そして今回の装備は、まだまだ試作段階の代物というではないか。これが正規に完成したとしたら、どれほどになるのか。その可能性がしっかりと示された一戦じゃったといえるのぅ。特に最後に出たゴーレム隊は、サイガード高地殲滅戦の際に、リーガルファングの群れを撃滅した編成と同じじゃった。それを相手に、よくぞここまで耐えきったものと讃えるべきじゃろうな』

負けるのは、当たり前。だがその中でエクスマキナもまた新兵や将校達のように、可能性という結果を残す事が出来た。

ミラが少しばかり補足するようにして称賛すれば、そりゃあ凄いとばかりに観客席が沸き立つ。

負けてもなお、軍の株が下がらないようには出来た。それを確信したミラは、この仕事ぶりに何かしらのボーナスでも出ないだろうかと期待した。

無差別級の準決勝。そして各部門の決勝に加え、『 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 』による模擬戦も終わったところで、この日の日程は全て完了した。

いよいよ、明日が無差別級の決勝となる。

結果が楽しみだとピナシュと話して別れたミラは、そのままイリスの部屋に帰る。

するとそこには興奮冷めやらぬイリスだけでなく、実に興味深い試合の数々だったと、こちらもまた楽しんだ様子のヴァルキリー姉妹達が待っていた。

更にそこからアルマやエスメラルダとも合流したら、一緒に夕食を摂りながら闘技大会の話題で盛り上がった。

どうやらミラの実況は、皆にも好評なようだ。また今回は、召喚術の宣伝の割合がそこまで気にならない程度だったようだ。「あのくらいなら、まあいいでしょ!」と、アルマの承諾も得られた。

そのようにして一日が過ぎていくと、次の日の朝がやってくる。

無差別級決勝の日だ。

闘技場の実況室にて。いよいよこの日が来たといつも以上に気合が入り、それでいて緊張した様子のピナシュ。

ミラはというと、こちらもまた緊張の面持ちだ。メイリンが優勝するかしないかでブルースの立場が変わり、召喚術への印象もまた決まってくるからである。

「さあ、遂に無差別級も決勝戦となりました。勝ち上がってきたプリピュア選手とトムドッグ選手は、どちらも納得の実力者。どのような試合になるのか、今から楽しみでなりません!」

決勝戦の準備が進む中で前説を始めるピナシュ。なんだかんだあって彼女もまた、心は据わっているようだ。話し始めた途端に緊張の色は吹き飛び、元気な声が紡がれていった。

「──さて、解説のミラさん。ずばり今回の試合をどう予想しますか?」

「ふーむ……両選手共に近接寄りの戦闘スタイルである事に加え、共に手の内を全ては明かしておらぬようじゃからな。どうなるかはさっぱり読めぬ。……じゃが、これが最大最高の試合になるのは間違いないじゃろう」

九賢者のメイリンと、最強のプレイヤーキラーであるレヴィアードによる一戦。

ゲーム時代において、この二人が戦ったという話はなかった。また現実となった後もメイリンが勝負をふっかけていない限りは、今日のこの日が初めての対決となるわけだ。

よく知るメイリンは当然、レヴィアードもまたミラ達と同格と言うべき実力者である。この二人の試合がどうなるのかは、ミラでもまた予想がつかなかった。

そんな試合の準備が整い、両者が入場する。

二人を熱く紹介していくピナシュ。その隣でミラは、メイリンが勝ちますようにと全力で祈っていた。

(頼む……頼むぞメイリンや。わしらの立場はお主の双肩にかかっておるぞ!)

やれる事はやった。後はもうメイリン次第だ。と、召喚術の未来について願う一方、同じ九賢者仲間という理由もあってか、ミラは心の中でメイリンを応援する。

そんなメイリンを見やったところ、舞台に立つ彼女は、もうこれまで以上に輝かんばかりの笑顔であった。

レヴィアードの事を知っているのかどうかは不明だが、メイリンの事である。彼がミラ達のようなトッププレイヤーに匹敵すると気付いているのだろう。

それこそ、この試合がどうしようもなく楽しみだったと、その顔にありありと書かれているかのような笑顔だった。

「──さぁ、泣いても笑ってもこれが無差別級最後の試合です! 勝利の栄冠はどちらに輝くのか!?」

メイリンとレヴィアードが準備を終えて向かい合うと共に、ピナシュの前説も終わり、闘技場は一気に緊張感で包まれていく。

そして審判の合図が響くと、遂に決勝戦が始まった。

「なんと、これは……!?」

「おおぅ、とんでもないのぅ……」

メイリンとレヴィアードは、互いに相手を最上位クラスの実力者だと認識していたのだろう。

開始直後、二人は誰も彼も置き去りにした。その姿が掻き消えたかと思えば激突音が響き舞台中央にて交差すると、そこから目にも留まらぬ速度での攻防を繰り広げたのだ。

ぶつかり合う技と技、力と力。

術には技を、技には術を。疾風の如き速さで舞台上を縦横無尽に駆け回り、ぶつかるたびに閃光と衝撃、轟音を響かせるメイリンとレヴィアード。

秒ごとに繰り出される術と技の応酬。共に引かず守らず攻め続ける様は、優勝よりも相手に勝利する事のみを見据えているかのように真っすぐだ。

炎が奔り、小規模な爆発が断続的に続く。

試合が始まってから数十秒ほどしか経過していないにもかかわらず、舞台は割れ、壁は砕け、二人の周囲から形あるものが次々に失われていった。

いつだって舞台脇で試合を見守っていた審判も、これは堪らないとばかりにその場を離れるほど、二人が激突する余波は尋常なものではなかった。

「──始まったと思ったら……何が起きているのかわかりません! ミラさんお願いします!」

数秒のうちに数十もの技が飛び交う舞台上。もはや常人が把握出来る域は初めから存在せず、ただただとんでもない戦いが起こっているとしかわからない状況だ。

それでも理解しようと、その迫力を伝えようと努力してきたピナシュだったが、今回ばかりはお手上げらしい。ミラに解説をふる早さは、ここにきて最短を記録した。

「ふむ、よいじゃろう!」

ミラはというと、それはもう自信満々に答えるなり、舞台上で何が起き、どのような戦いが、どのようなやり取りが行われているのかを的確に解説していった。

「さて、プリピュア選手は《縮地》と《空闊歩》を合わせ三次元的に飛び回り、僅かな隙を的確に狙い打っておる。しかし、少々素直過ぎるのぅ。ところどころでトムドッグ選手が、あえて隙を見せて誘い込んでおるな。今のところは反射神経……というよりは野生の勘のようなもので罠を躱しておるが、プリピュア選手が動きを読まれるのも時間の問題といったところじゃろう──」

それは何より、どちらとも戦った事があるからこそ読み取れた情報であった。

基本真っ向勝負が好きなメイリンと、知略策略を巡らせた対戦が好きなレヴィアード。基盤が大きく違うからこそ、両者の戦いは、より鮮烈で激しいものとなっていく。

様々な戦略を駆使するレヴィアードと、それを正面から打ち破るメイリン。

仕掛けられた罠にかかってなお、それを瞬時に、そして的確に打ち破る。それこそメイリンの強さの秘訣といっても過言ではなく、その臨機応変さこそが彼女の武器なのだ。

かといって、相手はあのレヴィアードである。そのまま全てを打ち破って終わりになど、なるはずもない。

ミラは仕掛けられていた戦略と突破した方法を、その場で分析しつつ解説していく。

すると、それがどれだけ高度な攻防なのかが、しっかりと観客達に伝わったようだ。

だからこそというべきか、その解説を頭に入れて試合を見れば、多少なりとも展開がわかってくる。

そして観客達は、ミラの解説を頼りに目の前で展開する最上級の試合に熱狂していった。

「おっと、どうしたのか。トムドッグ選手、大きく距離をとりました! 何かを警戒しているようですが……」

「──ほぅ! 今のは少し遅い拳打程度にしか見えなかったが、上級仙術の起点となる一撃じゃった。防いだり躱したりする程度で対応していたなら、今頃トムドッグ選手は爆炎に包まれていたじゃろう。あそこまで距離をとったのは、見事な判断じゃったな!」

ところどころに虚偽を混ぜる事でメイリンを躱し、少しずつだが確実に翻弄していたレヴィアード。更に彼は、その動きまでも掴みかけていた。

一進一退といった戦況からレヴィアード側に天秤が傾き始めてきた、そんな時である。

メイリンの動きに、その戦闘スタイルに変化が現れたのだ。

真っすぐ過ぎるからこそ、虚偽やだまし討ちといった類に反応が遅れるという弱点のあったメイリン。だがここにきて、それらへの反応速度の向上が見受けられたばかりか、それを攻撃にも応用し始めたのだ。

まだ不完全ではあるものの、フェイントの類が得意ではなかったメイリンがみせた成長。彼女が更に強くなる兆候を目の当たりにして、ミラもまた驚きを浮かべた。

だが、驚いたままでは終わらない。

「とはいえマナの消費が多い術でもある。今のが発動しておったらプリピュア選手のマナ残量も大きく削れたじゃろう。もしもトムドッグ選手がホーリーナイトなどを召喚出来たのなら、囮として術を誘発させ、相手のマナ浪費を狙えた場面でもあったのぅ」

そのようにして今日もまた、サブリミナル的に召喚術の活用法を挟み込んでいく。

少ないマナで、相手に大きなマナを消費させる。それもまた召喚術ならではの戦略である。

「なるほど、そのような使い方も……召喚術は奥が深いものなのですね」

しっかりと試合内容にもからめて情報を差し込んだ事もあってか、ピナシュが肯定的に返してくれるようにもなってきた。

だが、ここで『そうじゃろう、そうじゃろう!』と調子にのってしまっては、今までと変わらない。

「うむ、召喚術に限らず、術というのは無限の可能性を秘めておるものなのじゃよ」

成長したのはメイリンだけではないと自負するミラは、そう謙虚に答えた。

召喚術こそが最強であるというこれまでのスタイルから、どの術も素晴らしいが中でも召喚術は特に素晴らしい、という方針に変えたのだ。

そのおかげか、今はもうマイクの音量を絞られる事もなくなった。

と、方針がどうであれ、結局は相も変わらず召喚術復興を狙っているわけだが、その間にもメイリンとレヴィアードの試合は更に過熱していった。

両者とも一歩も譲らず、手の内を読み合っては次の手また次の手と繰り出し、ぶつかり合う。

舞台上にて交差するたびに衝撃が大気を震わせ、その一般常識を超えていくような動きで観客席をも沸かせる。

(ふーむ……しかしまた、これほどまでに予想出来ぬとはのぅ)

二人の実力は拮抗していると見てもよさそうだ。互いに小技と大技を織り交ぜながら、同時にそれらを見切っていく。

次は決まるのか、また次こそは決まるのかと、もはや見ている方がハラハラと緊張する展開の連続である。

更にはそこにミラの解説までも加わるものだから、その盛り上がりといったら誰もが決勝戦に相応しいと納得するほどのものだった。