軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

423 模擬戦

四百二十三

大歓声の中、無差別級を除く各部門別の勝者が全て出揃った。

時刻は夕暮れの半ば。太陽が沈み始める頃、まだまだここからだとばかりに照明が灯っていく。

遂にこの時がやってきたのだ。

急遽、特別に編成されたイベント。大国の将軍が国を越えてやってくる理由として用意した舞台。そんな急ごしらえながらも、観客達の目の色が変わった一大決戦。

そう、これから始まるのは、『 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 』とニルヴァーナ皇国の将校、そして新兵部隊による模擬戦であった。

「ゴットフリート様ー!」

「サイゾー様、ステキー!」

「エ・リュ・ミーゼ・様! エ・リュ・ミーゼ・様!」

司会によって進行する舞台上に三人が出てくると、無数の歓声に交じって一部から何やら特徴的な声援が響いてきた。

どうやら観客席に、三人の相当なファンがいるようだ。

(二人はともかく、あの暑苦しいゴットフリートにもファンがおるのじゃな……。わしも……わしもこのような事になっておらんかったら、きっとあの渋カッコよさで世の女性達を虜にしおったはずなのにのぅ。今は、変な男しか寄ってこぬ……)

またはリリィやフリッカのような女性だ、などと考えては落ち込むミラ。

と、そんな間にも舞台上は次の場面に移っていた。

『さあ、お待ちかねの一試合目は、アトランティス王国が誇る最高戦力『 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 』のお一人、ゴットフリート様です!』

普段ならば滅多にお目に掛かれる人物ではなく、しかも他国の大将軍だ。ピナシュの司会には、これまで以上の熱がこもっていた。

模擬戦の初戦は、ゴットフリートの出番となった。特大剣を得意とする彼は、身の丈をも超える剣を担いで舞台に立つ。

一見すると、サイズ比が狂いそうになる立ち姿だが、それでいて堂にいった佇まいは確かな猛者の風格に満ちていた。誰が見ても尋常ではないと認識出来る、そんな威圧感がある。

そして何といっても、ファンがどうこうという以前に、その名は大陸全土に響き渡るほどに有名であった。

大国アトランティスが誇る『 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 』は、輝かしい功績と共に学校の教科書にまで載っているほどなのだから。

割れんばかりの歓声が響き渡る。ゴットフリートが剣を振るう、それだけで来た甲斐があると感涙する観客までいるほどだ。

『対するは、ニルヴァーナ皇国のためにその身を捧げると誓った勇敢なる兵士達。将軍の胸を借りるべく、この困難な一戦に名乗りを上げた、未来の将校候補生です!』

続いて、そんなゴットフリートの相手となる者──いや、者達もまた舞台に上がっていく。

今はまだ新兵だが、いずれはニルヴァーナ軍を背負おうという気概と才能に恵まれた者達だ。

アトランティスの『 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 』との模擬戦など、特別に特別が重なるような事にでもならない限り実現しないだろう。

ゆえに、これを貴重な経験を積むための好機として集まったのが、ここにいる総勢三十人の新兵である。

アルマが言うに、選抜に選抜を重ねた結果の有望な若者ばかりらしい。

『さあ、この一戦。ミラさんは、どう見ますか』

『ふむ。まず一つだけ言えるのは、勝負は二の次という点じゃな。誰もが思う通り、新兵がどれだけ束になろうと、あの大将軍を相手に勝利なぞ到底叶わぬ。そして、それは兵士達も重々承知じゃろう。となれば後は、これまでの訓練の成果をどれだけ出せるかといったところじゃな。きっと、様々な戦術や戦法を試してくると思うぞ。巨大な強敵を相手に、どのような策を用いるのか、どのような戦いを組み立てるのか。どれだけ学べるか。これは、ニルヴァーナ軍の練度が垣間見られるよい機会とも言えそうじゃな』

ピナシュの振りに対して、そのように返したミラ。

新兵の練度によって、ニルヴァーナ軍のレベルがどれほどのものかがわかる。

つまり新兵達の戦績によっては、ニルヴァーナ軍への不満と不安が生じてしまう事になるわけだ。

しかもミラがそのような発言をしたために、よりそのような目で見るようになった観客が増えた。

『それはまた、とんでもない事態ですね……。新兵達の健闘を願いましょう!』

新兵の双肩に軍部の未来がかかっている。ミラの言葉を受けたピナシュは、その全身に緊張感を漂わせながら、それこそ本当に祈るように答える。

今は司会役の彼女だが、その所属は軍部であるからだ。

お祭りのように思えた模擬戦に、よもやそのような要素がと気づかされたピナシュは、どんな状況でも好い方向に実況するべきかと悩み始める。

(さて、こんな感じでよかったじゃろうか。まあ、後はあの者達次第じゃな)

ミラはというと、一仕事終えたとばかりな顔でフローズンオレを口にしていた。

そして、とろけるような果実の甘味と溶けだしたソフトクリームのような口当たりを堪能しながら、新兵達を見やる。

ピナシュに対するミラの返答。ピナシュは知らない事だが、実はもともと用意されていたものだった。

この日のために、しっかりと訓練を重ねてきた新兵達。その成果を、ここで存分に出し切るのが目標だ。

そして、相手となるゴットフリートもまた、アルマよりその説明を受けていた。

いわく、ニルヴァーナ軍の更なる成長と結束のため、その実力を出し切らせてやってくれと。

それは、いつぞやにミラがブルースのためにメイリンと交わした約束のようである。

だからこそというべきか。ミラもまた、そこに協力したのだ。

まず初めに、そもそも勝てはしないと告げる事で、負けた新兵達への不満と不信感を軽減させる。そして、勝負よりも新兵達の練度に注目させて、軍部の質の方に意識を向けさせたわけだ。

早い話がアルマ演出による、ニルヴァーナ軍のデモンストレーションだ。

しかも本来のゴットフリートならば難色を示しただろうが、アルマの頼みとあってか彼は笑顔で快諾したものだ。

ゴットフリート対ニルヴァーナ軍将校候補の新兵達。

その模擬戦は、思った以上にエンターテイメント性に溢れていた。

ミラが予め勝敗云々を告げていた事もあってか、観客達の視点が幾らか新兵寄りとなっていたためだ。

何となく不利な方に肩入れしたくなるという不思議な心理が働いた結果である。

それこそ、ラスボスの如き強さで新兵達の攻撃をものともしないゴットフリート。

それどころかひとたび剣を振るえば、たちどころに新兵の意識が刈り取られていくという圧倒ぶりだ。

だが、そんな途方もない相手を前にしても怖気づかず、臨機応変に陣形や戦術を組み替えて挑んでいく新兵達。

その姿は、物語に登場するような世界を救う英雄とは程遠い。けれども家族や人を、ほんの些細な幸せを守ってくれるのは、こういった者達なのだろうと強く感じさせる何かがそこにはあった。

『勝者、ゴットフリート様! その強さ、まさに伝説通りといえるでしょう。しかし、そんな伝説の一人を相手に、ここまで戦い抜いたニルヴァーナ軍の若き獅子達もまた見事と言ってもいいでしょう!』

『うむ、そうじゃな。しかも、まだまだ新兵じゃ。これからの成長が実に楽しみというものじゃよ』

様々な作戦を駆使してゴットフリートを相手に善戦した新兵達。それでも実力差は歴然であり、予想通りの決着となった。

しかしながら新兵達の奮闘ぶりと困難に挑む姿は、観客達の心を奮わせたようだ。思いのほか、ゴットフリートよりも新兵達の頑張りに対する歓声が多く聞こえていた。

(見事に敵役となったわけじゃが……まあ本人が満足そうじゃし、問題はないかのぅ)

この模擬戦によって、ニルヴァーナ軍への信頼度は確実に上がっただろう。

対してゴットフリートはというと、ただ伝説通りにすこぶる強かったという事実が確認されただけともいえる。

彼にとっては、きっと大して得るものなどなかったに違いない。

ただゴットフリートは、実に満足そうだ。笑顔で礼を言うアルマに、それこそ子供のように照れている。

(しかしまた、惚れた弱みというのは、なかなかに効果的なのじゃのぅ)

アルマの笑顔の裏に隠れた、したたかさを垣間見たミラは、ゴットフリートを不憫そうに見つめる。

そんなミラとは対照的に、盛り上がる者が一人。

そう、マーテルだ。

『翻弄されるのもまた、一つの愛よね』

ゴットフリートの反応と、どことなく確信めいた行動をとるアルマ。最近のマーテルは、そんな二人のやり取りに夢中であった。

『さあ、この特別な時間は、まだまだ始まったばかり! 続きまして、こちらもまたアトランティス王国が誇る最高戦力『 名も無き四十八将軍(ネームレスライン) 』のお一人、サイゾー様の出番です!』

ゴットフリートと入れ替わるようにして舞台に立つサイゾー。

その動きは至って普通だ。それこそヒーローの如く「とうっ!」と宙を舞って舞台外へとはけていったゴットフリートに対して、サイゾーは徒歩で淡々と舞台に上がった。

(余計なところでは、目立たず騒がず。折角の舞台であってもサイゾーはいつも通りじゃのぅ……)

自分ならばきっと召喚術の宣伝も兼ねて盛大に登場しただろうと考えるミラは、羨ましそうにサイゾーを見やった。

『対するは、ニルヴァーナ軍において数々の功績を重ね、若くして第三師団長にまで上り詰めたガイウス中佐の出陣だー!』

ゴットフリートの時とは変わって、今度の対戦相手は単独での登場となった。

サイゾーが担当するのは、相応に経験を積んできたニルヴァーナ軍の若き将校五人。いわゆる天才という類の者達だ。

そんな天才達の鼻っ柱を叩き折る──と言うべきか、現実を知らしめるべくと言うべきか。ぶち当たった事のない壁という経験をさせようと言うべきか。

今回のアルマの人選は、圧倒的才能で将校にまで上り詰めた五人だ。

その一人目であるガイウス中佐が、颯爽と舞台に上がる。天才ながらの自信の表れか、それともニルヴァーナ軍を背負っているという矜持か。その表情は険しく、全身からは漲る闘志が溢れていた。

そんな彼の活躍ぶりは相当に有名らしい。まさかここで見られるなんてと、観客席が賑わい始めている。

『ゴットフリート様の時とは違い、今回は一対一となっております。さてミラさんは、今度の模擬戦をどう見ますか?』

『ふむ、基本的な部分は先程と同じじゃな。けれど今回は一対一。一人でかの大将軍と真っ向からぶつかり合う事になるわけじゃからのぅ。その負担は尋常ではないじゃろう。けれども最後までついていければ、一皮剥けるほどの経験となるのは間違いないはずじゃよ』

今回もまた、ミラはそのように予防線を張ると同時に、ちょっとした見所を提示した。

勝てないのは当たり前。むしろこの模擬戦は、難敵を相手にどれだけ奮闘出来るのか、そしてそこからどれだけ成長の種を得られるかがガイウスの課題である。

『なるほど……もしかしたらこれをきっかけにして、ガイウス中佐は更なる高みへと到達出来るかもしれないわけですね!』

成長の瞬間が垣間見えるかもしれない。そんな期待を胸に舞台上に注目するピナシュ。

(しかしまた、流石は大国ニルヴァーナじゃな。よい人材が揃っておるのぅ)

ミラは、手元の資料にあるガイウスの経歴を眺めながら羨ましげに思う。アルカイトにも、こういった人材が流れてきてくれれば、もっと楽が出来るのに、と。

そのようにミラが羨むニルヴァーナ軍の特徴はといえば、開けた運営である。軍に関係する色々な情報が国民に開示されているのだ。

優秀でいて更に人気を集められそうな将校というのは、特に注目される要素だったりする。

その中でも、上位の人気を誇るのがガイウスだ。顔良し、実力良し、家柄良し。更にはその歳に比べて階級も高いときた。

そんな人気者のガイウスは、険しい顔のままサイゾーと相対する。

才能からくる自信の表れか。はたまた、自信を奮い立たせてでもいるのか。

サイゾーを前にしながらも、堂々としたガイウス。

だが、その直後だ──。

「ああ、アルマ様。このような舞台を用意してくださり感謝いたします! 改めまして。お会い出来て光栄です、サイゾー様。ガイウスと申します。この度は、我々若輩達に気合を入れてくださると聞き、感謝に堪えません!」

緊張の糸が解けた、というよりは感極まったというべきだろう。強張った顔から一転、ガイウスはそれこそ声援を送る観客達と同じような顔になっていた。

そう、彼が堂々としていたように見えたのは、緊張を隠す彼なりの努力。天才と持てはやされているが、ガイウスもまた一般と変わらず、サイゾー達が残してきた伝説に憧れる男だったのだ。

「いや、某もニルヴァーナの未来を背負って立つ有望な君達の経験となれる事を光栄に思うでござるよ」

ガイウスの言葉を受けたサイゾーは、それでいて静かに、だが期待を込めてそう返した。

「ありがとうございます!」

はしゃぎたくなるのを抑えた様子のガイウスは、努めるようにして表情を引き締め直し構えた。

サイゾーもまた、そんな彼の気持ちに応えるようにして右足を半歩ほど下げるなり、いつでも来いと手招きする。

突如として準備の整った二人の様子に慌てたのは審判だ。すぐさまその場から飛び出すなり「始めてください!」と開始を宣言した。

サイゾーとガイウス。二人が繰り広げた模擬戦は、その実、試合というよりは修行のそれであった。

まずは好きなように攻めていくガイウスと、それをいなし続けるサイゾー。

あるタイミングを起点に攻守が変わったかと思えば、サイゾーはガイウスの至らぬ部分を的確に突いて、どのように対応すればいいのかを指摘する。

再び攻守が変われば、ガイウスは指摘された点を踏まえて動く。

それを何度と繰り返していったところ、素人目に見ても始まった時よりずっとガイウスの動きが洗練されている事に気付くほどの変化が表れていた。

そうして残す時間もあと少しといったところで、数度目の隙に打ち込まれたガイウスが、もう限界とばかりに地に伏せた。

『勝者、サイゾー様! その実力もさることながら、教導者としても素晴らしい才覚に満ち溢れていらっしゃいました。そして、そんなサイゾー様の厳しい教えを一身に受け切ったガイウス中佐。ミラさんの言葉通り、戦いの中で何かを掴んだ様子でしたね。あれほどの戦いを繰り広げるばかりか、その動きがより鋭くなっていくのを私は感じました!』

注目していたからこそ見えた、ガイウスの変化。それに気付けて嬉しかったのだろう、ピナシュの声が弾んでいる。

『いやはや、恐るべき才能じゃな。きっかけ程度の動きに対して、完璧に対応しておった。将来は、今よりも更に立派に成長しておるじゃろう。羨ましい限りじゃ』

そのような言葉で締めくくったミラ。

少し聞いただけでは、その才能を羨んでいるかのようだ。けれど、その言葉を聞いた一部の者にとってみると、まったく別の意味に聞こえるものだった。だが、それはまた別の話である。