軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

395 悪魔の技術

三百九十五

その場より退避したミラがキャッスルゴーレムでの定位置に着く頃、前線では苛烈な戦闘が繰り広げられていた。

ノインは後衛陣への進路を完全に塞ぐ防衛ラインとして、どっしりと構え悪魔の攻撃に耐えている。

中でも悪魔が放つ特に強力な攻撃などは、全てノインが割って入り引き受けていた。正に盾役の鑑とも言える仕事ぶりだ。

ゴットフリートは、僅かな隙や攻撃終わりのタイミングなどを見計らっての一撃を狙い叩き込んでいく。

絶対的な安定感のある盾役がいるからこそ、彼もまた最大限の実力を発揮出来ていた。

その一撃を警戒してか、悪魔の攻撃に大振りなものはなくなったほどだ。

ゆえに、アルテシアの回復にも幾らか余裕が出てきた。

メイリンとラストラーダもまた、昔取った杵柄とでもいうべきか、以前と遜色のない連携がとれている。

蜘蛛糸による行動妨害や幻影での撹乱、また時には護りの術など。ラストラーダがサポートする事によって、メイリンの攻撃力が最大限に発揮される。

加えてサイゾーもまた間隙を縫って悪魔の意識を散らしていた。

そこへ切り込むのがアルフィナとゴットフリートだ。

聖剣サンクティアの力とアルフィナの剣技が合わさった事により、それは公爵二位の悪魔をも警戒させるだけの力となっていた。

嵐の如き剣戟を繰り出すアルフィナに対して、真っ向から受け返す悪魔。

と、そうした中で生じる僅かな隙をゴットフリートは決して見逃さず、一撃を叩き込む。

そして続くのは、頃合いを見計らったルミナリアの魔術だ。

追い打ちをかけるようにして炸裂した光線は、一瞬にして爆発エネルギーへと変わり、爆炎を上らせた。

「おー、こえー……」

一撃の後、即座に駆け抜けて退避していたゴットフリートは、その破壊力を改めて確認して苦笑する。

また、これだけの魔術を容赦なく放つルミナリアと、既に追撃を仕掛けているメイリン、ラストラーダ両名の慣れっぷりに呆れていた。

「今のところは順調じゃが、しかしそれでもグランデ級は油断が出来ぬからな……」

現状においては互角に渡り合えている。完璧に立ち回るノイン達前線組は、着実に悪魔の体力を削っていた。

とはいえ決して気を抜く事は出来ない。

常にアルテシアは回復にかかり切りであり、カグラも状況に合わせての援護で手一杯だ。

どうしても生じてしまう後衛側への射線などは、全てカグラが潰している状態である。アルテシアとルミナリアを術に集中させるため、式神操作で大忙しだった。

ソウルハウルとエリュミーゼは、ゴーレムの運用によって戦場を有利に作り変えていた。

悪魔が放つ炎から逃げるための塹壕や防壁、更にはラストラーダとサイゾーが奇襲し易いように身を隠せる遮蔽物や、立体的に動くための足場など。次々と変化させていく。

しかも変幻自在なエリュミーゼのマッドゴーレムが全体に広がっているため、悪魔がこれを利用しようものなら、即座に反応して妨害するという仕組みだ。

更にパムは盾役のノインの強化に集中しており、レティシャも防御寄りの支援役として熱唱している。

そこまでのサポートもあって、どうにか互角だった。予断を許さない戦況といえる。

「さて、こちらも──」

もしも前線のノイン達が崩れた場合は、立て直すための時間を《軍勢》で稼ぐ事になる。どのような状態になっても対応出来るように備えておくのが、グランデ級での鉄則だ。

そのためにミラは《軍勢》とヴァルキリー姉妹達の防護の修復を行いながら、対悪魔用の陣形について話し合う。

その最中、「母上、母上!」という声が聞こえて覗き込んでみれば、城門前で待機しているアイゼンファルドが、是非とも前線に出たいなどと言い出したではないか。

「いや、お主はじゃな……」

ミラの主力であるアイゼンファルドが前線に加われば、更に有利になりそうなものだ。

けれど、こういった状況、ノイン達が前線にて戦っているような場面では、いつもアイゼンファルドは後衛陣の護りとして待機していた。

理由は、その巨体ゆえである。アイゼンファルドが前線に加わってしまうと、その体格ゆえにノイン達の邪魔になってしまうのだ。

(いや、思えば今の姿なら前のようにはならぬか?)

かつて意気揚々とアイゼンファルドを前線に投入したミラだったが、ソロモン以下前衛陣に邪魔だと言われて幾星霜。

今回もいつも通り後衛陣の防衛ラインにまで下がらせたが、今のアイゼンファルドは人化の術によって人の姿となっている。

竜の姿の時とは違いパワーなどは落ちてしまっているものの、前衛で戦えるだけの力はある。

ならば、もしかして。

そんな考えがミラの脳裏を過った時だった。

「おいおい、嘘だろ」

「あらあら、大変ね」

ルミナリアとアルテシアの声に振り向いてみれば、何とキャッスルゴーレムの裏手側へと向かって来る魔獣の姿が目に入ったではないか。

「何と……まだ残っておったのか」

現時点でも、相当な数を討伐したはずだ。それこそ、一日での討伐数で新記録となるくらいに。

それでいて島の奥から更に追加が現れた。いったい、悪魔はどれだけの魔獣をこの島に集めていたというのか。

現れた魔獣は三体であり、これまでに倒した数に比べれば、そう大したものではない。

けれど問題は、その種類だった。

レイド級とまではいかずとも、最上級プレイヤーが一人は掛かり切りとなってしまう強力な個体ばかりだったのだ。

「けれど見たところ、最後の隠し玉って感じだ」

ソウルハウルの視線の先には、三体の魔獣を先導するように歩くレッサーデーモンの姿があった。

ソウルハウルが予想するに、エギュールゲイドを潰された代わりとして、悪魔がレッサーデーモンに連れてこさせたのではないかという事だ。

事実、これまでに遭遇した魔獣とは様子が違っていた。

まるで恐竜とでもいった姿の魔獣『バリアントレックス』。

全身を覆う装甲のような表皮が特徴の魔獣『ナイトロードディシス』。

そして十数本もの触腕を持つ異形の魔獣『ディグリーズロッチズ』。

三体とも見た目は見覚えのある魔獣だが、ところどころで相違があるのだ。

「改造魔獣、とでもいったところかのぅ」

「あの継ぎ接ぎに、どれだけの効果があるのか」

そう、ただの魔獣ではなく、その体には改造を施された形跡が見て取れた。

とはいえ緊急的に動かしたのだろう、歪な接合部からは血が流れ出ている。

改造魔獣は、完成品というわけではないのかもしれない。だが、ここで出してくる事からして、それでも相応の戦力を有しているはずだ。

「おじいちゃん、どう分ける? ピー助達ならそっちに加勢出来るけど」

「ふーむ、そうじゃのぅ……」

出来る事ならば悪魔との戦いに集中したいところだが、無視出来る相手ではない。しかも改造によって、どの程度の変化があるかも未知数である。生半可な戦力で対応しては痛い目を見るかもしれなかった。

「二人でどうにかしてみるとしようか。のぅ、ソウルハウルや」

最低でも三人、改造具合ではそれ以上が必要になりそうなところだが、ミラは一切の躊躇いもなく言ってのけた。

更にソウルハウルも、「ああ、それで問題ない」と答える。

「わかった、じゃあ二人に任せる」

「オッケー、頼んだ」

二人の力を信用してか、カグラとルミナリアは承知するなり悪魔との戦いに意識を戻した。

「あまり無茶しちゃ駄目よ」

アルテシアもまた、この二人ならばと納得したようだ。

そしてエリュミーゼはというと、二人がどのように対応するのかを気にしていた。

中でも特に同じ死霊術士としてか、ソウルハウルが気になる様子だ。

けれども前線は、一切の油断も出来ない戦況である。こうしている間にも、ノインの防御を突き崩した悪魔がゴットフリートとラストラーダに痛烈な一撃を決めていた。

ゆえにエリュミーゼは、どこか不満顔で前線のサポートに戻る。

マッドゴーレムによる妨害によって追撃を防いだ後に、メイリンが正面を受け持った事により立て直しに成功。

そのように現時点でも、ギリギリの状態だ。

だからこそ改造魔獣の対応に当たるのは最低限が好ましく、多少意識を外しても運用が利く使役系の二人こそがベストといえた。

「さて、ソウルハウルよ。初撃は頼んだぞ」

「ああ、任せとけ」

そう言葉を交わしながら、城の後方へと意識を向け直すミラとソウルハウル。

対するは、本来ならば二人だけでは対応しきれないような三体の魔獣。しかも改造されているとあって、そこに秘められた力は未知数だ。

更に迫る敵の中には、レッサーデーモン三体も存在する。

悪魔の従者として暗躍するレッサーデーモンもまた、何かと面倒な能力を持っている事が多い厄介な相手だ。

けれども使役系である二人が組めば、その不利を補える可能性は十分にある。術者本体が非力な分、それこそが使役系の魅力ともいえた。

なお、ミラは例外である。

「さて、始めるとしようか」

改造魔獣達との距離が残り百メートルを切ったところで、ソウルハウルの言葉と共に城壁の砲台が一斉に火を噴いた。

轟音の後に放たれた砲弾は、そのまま改造魔獣とレッサーデーモンがいる辺りに着弾していく。

「では頼むぞ、アイゼンファルドや。全力でのぅ」

「さあ、行っておいで、イリーナ」

改造魔獣に対応するための《軍勢》は、その数ゆえに展開まで暫くかかるが、指揮をヴァルキリー姉妹に任せてあるため問題はない。

ゆえに最初の足止めとして、二人は初手より最大戦力を戦線に投入した。

もうもうとした爆炎の中から姿を見せる改造魔獣とレッサーデーモン。

その進行先に降り立つ、アイゼンファルドとイリーナ。

イリーナは対魔獣用装備へと換装されており、巨大な戦斧を手に佇む姿は、歴戦の魔獣狩りとでもいった迫力があった。

その隣に立つのは、人の姿をしたアイゼンファルドだ。

完全武装のイリーナと並んでいるためか、軽装のアイゼンファルドは迫力に劣る。

けれど、ここから始まる戦いは、ほぼ足元を注意する必要のない戦いとなる。ゆえにミラから全力でと言われた今、アイゼンファルドは皇竜の姿へと戻った。

相手は二人だけ。そう思っていたのだろう、薄ら笑いを浮かべていた三体のレッサーデーモンは、突如として現れた皇竜の姿を前にして戦慄したように立ち止まった。

それは最早、迫力がどうこうというものではない。畏怖を孕む存在感の成せる業である。

そこへ一足飛びに迫ったのは、イリーナだ。そのまま戦斧を振り下ろして、瞬く間にレッサーデーモンの一体を斬り裂いていた。

更に残る二体もまた、アイゼンファルドが放った縮小版のドラゴンブレスによって直後に消し飛ぶ。

何かと厄介なレッサーデーモンだが、ミラとソウルハウルが誇る最強を前にしては為す術などなかった。

だが次の瞬間である。

三体の改造魔獣が急激にもがき始めたではないか。

きっとレッサーデーモンが、何かしらの制御を行っていたのだろう。これまで大人しくしていた改造魔獣は、その何かから解き放たれたかのように暴れ始めた。

「成功じゃな」

「ああ、思った通りだ」

ただ暴走するように、理性も制御も失った改造魔獣は闇雲に襲い掛かってくる。

それを前にして、にたりと微笑むミラとソウルハウル。

どれだけ強い力を秘めていようと、理性や戦略がなくなってしまえば、対処も容易いというものだ。

そして二人は、そういった部分をレッサーデーモンが補っているのだろう事を予想していた。

その理由は、立ち位置だ。

本来ならば強者の陰に隠れてばかりいるレッサーデーモンが、改造魔獣の前方にいた。

それはつまり、そのようにしなければ誘導が出来ないほどに、改造魔獣の思考力が失われていた証と言える。

だからこそ先制して頭脳役となっていたレッサーデーモンを倒した事で、改造魔獣の危険性が大幅に減少したわけだ。

「さて、早めに片付けるとしよう。あの時よりは、ずっと楽じゃろうからのぅ」

「ああ、マキナガーディアンに比べれば、どうって事もなさそうだ」

何よりもレイド級を二人で撃破したという実績と経験が、この場面で大きく活きた。互いを知っているからこそ、動きもまた見えてくるものである。

アイゼンファルドとイリーナ、そしてヴァルキリー姉妹が率いる《軍勢》は、暴れ回る改造魔獣を相手に激しくぶつかり合った。

制御が外れたとはいえ、その力はずば抜けたものがあり、改造魔獣の一撃は極めて重い。

アイゼンファルドの防護に加え、《軍勢》もまた、百、二百と圧し潰されていく。

けれども、ミラ達の勝利は揺るがなかった。

「よし、そこじゃ!」

見事に尻尾の一撃で改造魔獣の足元を崩したアイゼンファルド。そのまま圧し掛かるようにして押さえつけるなり、ゼロ距離でのドラゴンブレスを炸裂させる。

地面が抉り飛ぶと共に、頭部もまた消し飛んだ事でバリアントレックスの活動は停止。アイゼンファルドは、そのままイリーナの援護に入った。

「ああ、素晴らしいよイリーナ、もう立派な魔獣狩りだ」

小さな身体ながら、大型の改造魔獣ナイトロードディシスと互角に渡り合うイリーナ。

激しく打ち合うその姿は、鬼気迫るほどに力強く、それでいて儚さを帯びた美しさを内包していた。

ただ相当に外皮が硬いようで、イリーナの戦斧を以てしても斬り裂くまでには至っていない。

そこへ飛び込んだアイゼンファルドが、改造魔獣に意識外からの一撃を炸裂させる。

改造魔獣は余程イリーナに執着していたのか、その一撃はダメージ以上の影響を与える事に成功し、これでもかというくらいの隙を生じさせた。

そしてソウルハウルが、その一瞬を見逃すはずもなかった。

城壁の砲門より一発の砲弾が放たれると、それは改造魔獣の顔面に直撃する。

しかし、どれだけ面の皮が頑丈なのか、さしても効いた様子はない。けれど、その衝撃によって大きく仰け反った事で首元が露わになった。

瞬間、イリーナが跳躍する。そして、その首筋目掛けて巨大な戦斧を振るった。

「何とも豪快じゃのぅ」

「そこがまた、イリーナの魅力さ」

小さな身体で振るわれる巨大な戦斧。その刃は鋭く、そして凄惨にナイトロードディシスの首を斬り落とした。

どすりと落ちる首と、噴き出す血飛沫。そして何事もなかったかのように、その中で佇むイリーナの姿。

さしものミラも苦笑するような光景だが、儚げなイリーナと惨劇のような場面が合わさるコントラストが堪らないのだと、ソウルハウルは語る。

彼が言うに、血と死と美女の組み合わせこそ完成した美しさの一つであるそうだ。

「ふむ、さっぱりじゃな」

その感性は理解出来ないと聞き流したミラは、最後に残った改造魔獣へと目を向けた。

ヴァルキリー姉妹と《軍勢》が相手にするのは、ディグリーズロッチズ。

改造の影響か、無数の触腕には本来なかった鋭い爪が生えていた。そしてその触腕を力任せに振り回し、《軍勢》を薙ぎ払っている。

生半可な攻撃では弾かれてしまうほどの勢いであり、接近すらも許さぬというほどに苛烈な攻防一体の暴れっぷりだ。

弓隊が放つ矢も、台風の如く暴れ回る触腕によって無造作に叩き落されていた。

そんなディグリーズロッチズを相手に、ヴァルキリー姉妹達はよく耐えているものだ。

耐えて耐えて、遂に反撃の時が来る。

城壁からの一斉砲火によって、半数の触腕が防御に回った。

そうして生じた僅かな隙間にイリーナの投擲した戦斧が入り込み、本体を直撃。その体勢ごと崩す事に成功。それと同時に触腕の動きが若干鈍くなった。

「クリスティナデストロイスラーッシュ!」

満を持してとばかりに飛び出したのはクリスティナだ。

エギュールゲイドの死骸を見張っていた彼女だが、特別に合流。

見張り役を団員一号と代わったクリスティナは、ここが今回最後の活躍の場だと見極めるなり、ご自慢の必殺技を繰り出した。

その名は、クリスティナデストロイスラッシュ。はて、クリスティナをデストロイするのだろうか。そのようにも聞こえてしまう技だが問題はない。

クリスティナが振るった剣から放たれた無数の光刃が、触腕をずたずたに穿つ。

するとディグリーズロッチズが叫んだ。痛みを訴えるかのように、そして怒りを露わにするかのように。

けれど、その叫びを聞く者はなく、クリスティナの後に畳みかけるようにして姉達は動いた。

「それでは、これを試させていただこうかしら」

僅かに動きの鈍くなった触腕。そこに穿たれた傷を抉るようにして、エレツィナの放った矢が突き刺さり爆散した。エレツィナが得意とする爆裂のエンチャント矢だ。

その効果は絶大であり、触腕の一本が千切れ飛ぶ。

そうして空いた防御の隙間に飛び込んでいくのは、エリヴィナとフローディナだ。

「クリスティナが起点とか、何だか釈然としないんだけど」

「そんな事を言っていないで行きますわよ」

触腕の暴風圏を抜けた二人は、そのまま素早く最短で駆け抜けてディグリーズロッチズの両目を斬り裂いた。

再び響く叫び。それを合図にするかのようにして、今度はセレスティナが飛び出す。

「決めてみせます!」

その気配に反応したのか、触腕で迎撃を試みるディグリーズロッチズ。けれど目で捉えられないために正確性が乏しく狙いも曖昧になっていた。

だからこそセレスティナは容易にそれを躱し、すれ違いざまに数本を斬り落とすという芸当をやってのける。

しかもセレスティナの番は、まだ終わらない。

「私にも必殺技があるんだから!」

全ての武器を使いこなせるがゆえに、必殺技を必要としていなかったセレスティナ。

けれどクリスティナの活躍に負けてなるものかと特訓を重ねた末に、彼女なりの必殺技を編み出していた。

それは、ミラに相談したからこそ生まれた技だ。

「いきます!」

セレスティナは、より一層の気合と共に短剣を投擲する。

扱い易く小型の短剣は、目に見えぬほどの速さで空を切り、ディグリーズロッチズの中央部に突き刺さった。

ただ相手の体格に対して、短剣が与えた傷は軽微なもの。ほぼダメージなどないのか今度は叫び声も上げず、触腕を振り回し続けている。

セレスティナは、時折迫る触腕を躱し斬り裂き、二本、三本と短剣を投げつけた。

そして五本目も突き刺さったところで身を翻して距離を空けると、そのまま高く空へと跳躍する。

ディグリーズロッチズの頭上、触腕の届く範囲よりも更にずっと高くまで舞い上がったセレスティナは、そこでいよいよ本命の武器を取り出した。

光の粒子が集まり形作るのは、巨大な斧。

いや、むしろそれはギロチンの刃の如くシンプルでいて、断つ事のみに特化した形をした鉄塊といっても過言ではなかった。

セレスティナの背丈を遥かに上回るどころか、全長にして十メートルはあろうかという巨大な刃。巨人とて、武器として使えそうもないだろう代物だ。

そのようなものを出してどうするつもりなのか。

ミラが期待するように見守っていると、セレスティナは、その刃の背の部分に足を乗せて言い放った。

「これが私の、真・巨獣狩りです!」

重力に引かれて落下すると共に加速したセレスティナの手には、何やら光の糸のようなものがちらついていた。

それは、先程投げた短剣に繋がる糸だった。

短剣は、ディグリーズロッチズの中心近くに突き刺さっている。そして糸は、正確にその場所へと誘導するための導線であるわけだ。

糸を引く事で更に加速していく巨大な刃は、強靭な触腕の守りを容易に切断して、その中心部へと迫る。

そしてセレスティナの巧みな操作によって、見事にディグリーズロッチズの脳天よりその体を真っ二つに斬り裂いていったではないか。

地面にまで刃が届いたところで、軽い地響きと共にディグリーズロッチズが、二つに割れて地に伏せた。もはや、確認すら必要ないだろうほどの即死ぶりだ。

「よもや真っ二つとは……とんでもない切れ味じゃのぅ」

その必殺技は、繊細でいて豪快。ミラは魔獣クラスがこうも綺麗に頭から割れるような事になるとはと驚き、同時に喜んだ。見事な必殺技を完成させたものだと。

「いかがでしたでしょうか、主様!」

完璧に決まった事もあってか、期待に満ちた顔のセレスティナ。

ただ、真っ二つになったディグリーズロッチズの間から出てきた彼女の姿といったら、それはもう酷い有様であった。

あっという間に斬り裂くばかりか、セレスティナはその刃と共にど真ん中へと突っ込んだのである。

つまりは、返り血のシャワーの中にいたようなものだ。ゆえにセレスティナは、頭からつま先まで魔獣の血で塗れていた。

それでいて、はつらつとした様子なのだから猟奇的な印象すら覚えたところで仕方がないというものだ。

「う……うむ、実に素晴らしい一撃じゃったぞ」

とはいえ、かのディグリーズロッチズを一撃で両断したのはお手柄だ。

ミラはその点をしっかりと褒めた後に、付け足すようにして続けた。

「──じゃが、防護膜は悪性のもの以外は防げぬからのぅ。もう少し調整した方が良いじゃろうな……」

毒液などの類であれば召喚時の術式に組み込まれた防護膜が反応してくれるが、ディグリーズロッチズの血は無害だったために、セレスティナの全身に染みている。

本来ならば、魔獣を倒した英雄の凱旋とばかりな絵面になるはずが、今はどこか悪役的な印象が強めだ。

「え……? あっ!」

よほど必殺技をミラに見てもらいたかったのか、セレスティナは言われるまで自身の状態に気付いていなかったようだ。血塗れになった鎧や髪を見て驚くと共に、「嘘でしょー!」と叫びながら天を仰ぐ。

セレスティナの新必殺技。それは完成したばかりというだけあって、まだまだ改良の余地が残っているようだ。