軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

396 軍勢奮闘す

三百九十六

三体の改造魔獣を処理し終えたミラとソウルハウルは、城の裏側より再び悪魔戦の陣営へと戻りルミナリアらと合流した。

ヴァルキリー姉妹と《軍勢》は一度城内へと入ってから整列し、残存戦力の確認中だ。

またアイゼンファルドはというと再び人の姿となり、ミラの隣でどんと構えていた。今度は、ソウルハウルの護衛とばかりに佇むイリーナに感化された様子だ。

「して、どんな状況じゃ?」

「変化はあったか?」

戦況はどうかと尋ねてみたところ、少々防戦寄りになっているとルミナリアは答えた。

「もともとギリギリだったからな。一気に斬り込まれないようにするのが精一杯だ。直ぐに支援してくれ」

そう言いながら魔術による援護射撃を行うルミナリア。ソウルハウルの砲撃に代わりルミナリアが援護する事で、どうにか悪魔の勢いを抑えていたようだ。

攻撃役であるルミナリアが援護に回ったため、その分の攻撃力が不足して攻め切れなくなったというわけだ。

ただでさえグランデ級を相手にギリギリか、少々不足といった人数である。一人が担う役割は相応に重かった。

そしてソウルハウルの的確な砲撃支援と陣地操作は、反撃のきっかけや態勢の立て直しにおいて重要な要素。ゆえに今は、悪魔が一気呵成に攻め始めた勢いを断ち切れずにいる状況だという。

「ああ、直ぐに始めるとしよう」

手早くイリーナの換装を済ませつつ前線の様子を確認したソウルハウルは、言葉通りにすぐさま支援砲撃を開始した。

防戦一方のノインと、牽制されて近づけないゴットフリート。

果敢に攻めるメイリンとラストラーダにアルフィナだが、強力な悪魔の魔法によって迎撃されている。

サイゾーもまた常に位置を把握されてしまっており、得意の隠遁技を使えない状態にあった。

「さて、反撃だ」

十分な砲撃支援さえあれば反撃の余裕も生まれ、接近する機会も生まれる。

ルミナリアが攻撃に注力出来たのなら、その強力な魔術攻撃に対抗するために、悪魔は防御に魔法のリソースを割かなければならない。

また、砲撃の爆炎と轟音は、姿を紛れさせるのに丁度いい目眩ましとなった。

城壁より支援砲撃が再開されるなり、ノイン達は徐々に攻勢へと盛り返し始めていく。

それぞれが担う役割がはっきりしているからこそ、それがぴたりと嵌った時の効果は、目に見えるほどに現れるものだ。

しかし、優勢を取り戻したと思った数分後の事である。

「ふーむ、ちと厳しそうじゃな……」

ルミナリアの攻撃支援。アルテシアの回復。カグラの遊撃と補助。ソウルハウルとエリュミーゼの地形操作と砲撃。そしてミラとレティシャ、パムによる強化。

後衛陣の支援は、全てが理想的に行き届いている状態だ。

しかし戦況に乱れが生じ始めていた。徐々にノインが押されだしたのである。

「あらあらノイン君、ちょっと疲れているみたい」

回復のためにノインを中心に見ていたからか、アルテシアがいち早くその変化に気付いた。

そう、スタミナ切れだ。常に悪魔の正面に立ち、その猛攻を一身に受け続けていたノイン。

加えて、ミラとソウルハウルが改造魔獣と戦っている間、不足した戦力分を補い仲間を守り通したのは、盾役のノインの尽力があってこそだ。

だが、そこまで踏ん張ったからこそ、彼は多くのスタミナを消費してしまった。

結果、ノインの守りが間に合わなくなる事が多くなり、ゴットフリートとラストラーダへの痛烈な一撃が決まる。

ノインだけでなく、前線で戦う全員もまた消耗気味のようだ。

「少し休んでもらった方が良さそうね」

「うむ、そうじゃな」

カグラの言葉にミラもまた同意する。このまま戦闘を継続した場合、ノインに続き前衛陣が続けて崩れてしまう事になると。

ゆえに一度、彼らを休ませる必要がある。中でも特にノインのスタミナ回復は必須だ。

だが彼の代わりに盾役を務められる者など、そうはいない。公爵二位が相手ともなれば尚更だった。

「お、少し様子が変わったな」

ふと、そんな言葉を口にしたルミナリア。

見ると、前線での立ち位置に変化があった。あちらでもノインのスタミナ切れを考慮したのだろう、彼に代わるようにして悪魔の正面に立つ者が一人いた。

「さあ、勝負ネ!」

メイリンだ。仲間達の事を思ってか。それとも単純に公爵二位と真正面から戦いたかっただけか。それはもう、ここぞとばかりにタイマン勝負をふっかけていた。

こんな時でもメイリンは、いつも通りのようだ。

とはいえ今は丁度いい。売られた喧嘩は何とやらか、それとも悪魔なりの流儀とでもいうのか、相手がその誘いに乗ってきたではないか。

前衛陣を休ませる準備に加え、ゴットフリートとラストラーダを治療する時間も必要となる今、この展開は好ましい状況といえた。

後は、どれだけメイリンが時間を稼いでくれるかだ。

ミラはレティシャに歌ってもらう曲をスタミナ回復に変更してもらいつつ、ヴァルキリー姉妹に指示して《軍勢》を動かし始める。

メイリンに続く戦力の投入によって、より時間を稼ごうという算段だ。

「わりぃ、しくった」

「見事な反撃だったな!」

そうこうしている間に、ゴットフリートとラストラーダが戻ってきた。メイリンと悪魔のタイマンが始まったところで、ここぞとばかりに撤退したのだ。

遠距離からの治療に定評のあるアルテシアだが、近くにいる方がより効率が良くなるからである。

「いいのよ、いいのよ。どれだけ怪我をしても治してあげるわ。だけど無茶はしちゃだめよ」

聖術によって二人の傷を癒していくアルテシア。

その腕前は大陸一であり、即死さえしなければ万全にまで治癒出来ると言われるほどだ。

とはいえ流石のアルテシアでも、一瞬でというわけにはいかない。特に深手ならば尚更だ。

(何ともまた、酷い傷じゃな。武装召喚がなければ、わしなど一撃かもしれんのぅ……)

強固な武具を身に着けたゴットフリートでも、先程の一撃で数本の骨を折られるほどの怪我を負っていた。

ラストラーダもまた、降魔術による防御が間に合ったにもかかわらず、片腕がぽっきりとやられている。

ただ、それでいて二人がケロリとしているのは、痛みを和らげるパムの新たな精霊魔法によるものだ。

「じんわりと痛む程度で済むってのはいいな。集中力を切らさずに済んだからな!」

「怪我の具合がわかり辛くなるのが難点じゃがな」

素晴らしい精霊魔法だと称賛するゴットフリートに、欠点もあると答えるミラ。痛みが鈍くなるというのは、それだけ身体の限界が計り辛くなるという事でもあると。

あくまでも、治療を受けに戻れるための保険というわけだ。

ミラは回復していく二人の状態を前にして公爵二位という脅威を改めて実感した。これだけの支援を重ねて、ようやく勝機が見えるような相手なのだと。

ただ実感すると共に、内心でふつふつと燃え上がり始めてもいた。

(相手が相手じゃからな、全力を超えていくしかないじゃろう!)

今は、いつでもメイリンと代われるように、アイゼンファルドと《軍勢》を控えさせている。

だが相手は公爵二位だ。アイゼンファルドといえど、召喚時の防護によって幾らか力が抑えられてしまっている今では分が悪い。

ヴァルキリー姉妹が指揮する《軍勢》とて、公爵二位が相手ともなると、どこまで持ち堪えられるかは未知数だ。

果たして、ノイン達が万全になるまで回復し切れるだろうか。

そう考えたミラは、より強敵を想定して練っていた召喚術の運用のあれこれを出し切っても問題ない場面なのではないだろうかと、実験魂を疼かせ始めた。

既に検証は何度も行っている。後は実戦にて、どこまで通じるのかを確かめるのみという策が残っているのだ。

と、そうこう考えている間にもメイリンと悪魔は激戦を繰り広げていく。

(いやはや恐れ入る。あやつ、数段と腕を上げておるな。修行だ何だというておるのも伊達ではないのぅ)

互いに引かず、数十、数百と打ち合う両者。よく見ても掴み切れないほどの技の応酬。さながら格闘漫画のような光景が繰り広げられているのを見つめながら、ミラはほとほと感心したように笑う。

技だけでもって、こうも公爵二位と拮抗出来るものなのかと。

そのようにしてぶつかり合うメイリンと悪魔。ただ、その戦いにも終わりが近づいてきた。

ぶつかり合っては拮抗して仕切り直すを繰り返す事、十四回。

共に次が決着だと悟ったのか、両者の間に漂う雰囲気が急激に凍てついていく。

見合ったまま構える悪魔と、深く息を吐き出すメイリン。

張り詰めた緊張の中、風すらも凪いだ一瞬。状況は、刹那のうちに動いた。

メイリンと悪魔の姿が掻き消えたかと思った次の瞬間だ。幾重にも連なった衝撃音と振動が轟いた僅かの後、まるで立ち位置を入れ替えたかのように両者は背を向け合う形で姿を現したのだ。

「これは何とも……」

まるで一瞬のうちに交差するという、かの名シーンをこの目で見る事になるとは。そう驚くミラは、それでいて緊張の面持ちで勝負の行方に目を凝らす。

「こんなに胸が躍ったのは久しぶりだったヨ……」

先に膝をついたのは、メイリンの方であった。相当な深手を負ったようで、嬉しそうに笑いながらも額に汗が滲んでいた。

「よもや人の身でありながら一人でここまで抗うとはな、恐れ入った」

対して悪魔はというと、満足そうに立っていた。とはいえ、メイリンに撃ち込まれた一撃が相当に効いているようで、その顔には苦悶が浮かぶ。

しかもそれだけに留まらない。悪魔が止めと振り返った時だ。その手にしていた大剣が真っ二つに折れたではないか。

ノインの盾を幾度と打ち付け、ゴットフリートの特大剣と斬り合った悪魔の大剣。かなりの業物であったはずの剣が、見るとボロボロになっていたのだ。

「なるほど……してやられたか」

剣の柄を投げ捨てた悪魔は、見事だとメイリンに賛辞を送った。

悪魔は相手が行動不能になるだけの一撃を決める事が出来たが、攻撃の要ともいえる大剣を失った。ゆえに、この勝負は引き分けだと悪魔は笑う。

「あの様子じゃと、支援を切っておるな」

決着を見届けたミラは、同時に呆れたように苦笑する。

悪魔の一撃は余程だったのだろう、珍しくその顔に苦悶を浮かべているメイリン。

一対一で勝負をするとなった際、メイリンはそれこそ己の力のみで戦うために仲間からの支援効果を全て拒否する事があった。表情を見るに今回もまた、そのようだ。痛みを和らげるパムの魔法が効いていない。

だが今は、それでよしとも言える。

「さて、交代じゃ。続いては、わしらの出番といこうかのぅ」

メイリンと悪魔の勝負は引き分けで決着したという事で、このまま下がってもらうべく《軍勢》を動かすミラ。

「うう……わかったヨ」

もしも痛みが和らいでいたとしたら、メイリンの事である。きっと第二ラウンドだとばかりに挑み始めただろう。だからこそメイリンには、治療を受けさせるために痛みがあった方が丁度いいというものだ。

「次は、お前達か。これだけの数による戦力をこうも容易く展開するなど、まったく予想外だった」

エリュミーゼのマッドゴーレムがそっとメイリンを運んでいく中、入れ替わるようにして前に出たのはヴァルキリー姉妹と《軍勢》だ。

数で押せるだけの量が揃っていた魔物達を相手に、真っ向から数を揃えて押し返した《軍勢》の存在は、悪魔にとっても予期しえなかったようだ。

実際のところ、どこから連れてくるでもなく千もの騎士をその場に並べるなど、相手からしたら反則もいいところであろう。

だからこそ悪魔は忌々しげに《軍勢》を睨むなり、そのまま戦闘を開始した。

「さて、今のうちじゃな」

たとえヴァルキリー姉妹に率いられた《軍勢》であろうと、公爵二位が相手では壊滅も時間の問題だ。

対して現状はというと、ゴットフリートとラストラーダは完治し、続きアルテシアがメイリンの治療を始めたところだ。

しかし傷は癒えたものの、全員スタミナの消耗が激しく、まだ万全という状態ではなかった。もう幾ばくかの時間を稼ぐ必要がありそうだ。

「このあたりが限界かのぅ……」

ヴァルキリー姉妹が率いる《軍勢》と悪魔との戦いが始まってから、一時間ほどが経過した。

一撃にて《軍勢》を薙ぎ払っていく悪魔に対し、陣形と戦術を以て対抗するミラ達。

一体ではなく複数体で攻撃を受け止める事により突破を防ぎ、セレスティナらが波状攻撃を仕掛ける事で攻撃を分散。弓隊の一斉射で敵の勢いを削いでいく。

されども公爵二位の脅威は、留まるところを知らない。万全に構える《軍勢》を、その圧倒的な力でもってねじ伏せていった。

両雄の戦いは、さながら戦争そのものともいえるほどに激しいものだった。

そしてグランデ級にもなる公爵二位が相手だけあって、さしものミラとて戦線を維持し続けるには限界がある。

まだ八百近くは残っていた《軍勢》は既に数えるのみとなり、奮闘しているヴァルキリー姉妹達もまた満身創痍だ。

唯一、アルフィナだけが気丈に相対している状態である。

とはいえ、本来ならば最上位プレイヤー十数人で互角と言われる敵を相手にして、一時間も凌いだのだから十分な成果とも言えるはずだ。

事実、ミラ達が稼いだ時間によって他の仲間達が万全に整っていた。

「もう十分だ。このまま俺が引き継ごう」

そう言ってキャッスルゴーレムより飛び出していくノイン。疲労など一切感じさせない足取りで駆けていく。

「司令官は休んでいてくれな」

「さて、作戦その二の開始だぜ」

「流石は軍勢殿。安心して休めたでござるよ」

続き、ラストラーダにゴットフリート、サイゾーが戦線に戻っていく。

体力だけでなく気力も充実した様子であり、その足取りは軽やかでいて力強いものだった。

「あの《軍勢》、今度、わたしも手合わせさせてほしいヨ!」

進化した《軍勢》の戦いぶりを見たからか、メイリンはそんな事を言い残しながら元気よく飛び出していった。

ノインを筆頭に、一度立ち会ったが最後、二度目以降の試合は拒絶される事の多い《軍勢》なのだが、メイリンにとってはやり甲斐のある相手のようだ。

「うむ、幾らでも良いぞ!」

そしてミラもまたそういった相手が少ない事もあってか即答である。

そんなメイリンに続いて『試したい術がある』などと言い出したルミナリアとソウルハウルに、「あ、私もー」と便乗するカグラ。

かつてはそうして九賢者同士で実験的な試合を重ねて研鑽したものだ。

「構わんぞ、わしもじゃ」

これまでにも色々と試したが、まだまだ実験したい事は残っていた。だからこそミラもまた、最上級のマナポーションを飲み干すなり不敵に答える。

互いに互いを利用して高め合う。そんなマッド気質な一面を垣間見たエリュミーゼは、だからこそ九賢者は大陸最強と謳われ、銀の連塔こそが最大の研究機関とされているのかと理解する。

また同時に、喰らい合うかのようにも感じられる四人の雰囲気にドン引いてもいた。