軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

交流会・涙の水竜ボス討伐編 2

ユリウスと別れた後は、そのまま競技場で競技を観戦する──と見せかけて体育着に着替えて、アンナさん達との待ち合わせ場所へコソコソと移動した。

「おはよう、レーネちゃん」

「みんなおはよう! 待たせてごめんね」

まだ待ち合わせ時間前にもかかわらず、既にアンナさん、セシル、吉田が待機していた。

みんなも体育着を着ており、アンナさんはやけに大きなリュックを背負っている。

「今日は何の競技にも出ない私達が制服じゃないから、ディランに疑われちゃった」

「面白がるあいつを撒くのに苦労したんだからな。さっさと行くぞ」

「はい、よろしくお願いします!」

ユリウスに内緒で手配した我が家の馬車に皆で乗り込み、選手達とは別ルートで湖へと向かう。

参加しない生徒は、競技が行われる場所に近づくことは禁止されているからだ。

そのため私達は最初から最後まで、誰にもバレないように行動しなければならない。

「まずはこれ、先生から借りてきたんだ。四人分あるよ」

私の隣に座るアンナさんは大きな鞄から、四つの銀色のブレスレットを取り出した。

「湖での競技用の魔道具なんだけど、これを着けていれば半日は水の中でも呼吸ができるんだ」

「す、すごい……! でもよくこんなアイテム、貸してもらえたね」

「ナイショだけどね、先生はアンナのことが大好きだからお願いすれば大体なんとかなるよ」

どこかで聞いたことがあるセリフだと思いつつ、なんと続編では攻略対象に先生もいるらしい。

アンナさんの小悪魔っぷりに感謝しながらブレスレットを受け取り、右腕に嵌めてみる。こうして身に着けるだけで水の中に入ると自然に呼吸ができる、優れものなんだとか。

「でもひとつだけ問題があってね、この魔道具は全身に空気の壁を作るから外部の音のほとんどが遮断されちゃうの。だから普通の状態だと、周りと会話ができなくなるんだ」

アンナさんは「でも」と続けた。

「競技では通信用の魔道具を使うんだけど、買うとものすごく高いし、先生からは2セットしか借りられなかったんだ。だからこれは私とレーネちゃん、セシルで使おう?」

「ありがとう、大丈夫だよ! 吉田と私は心と心が繋がっている大心友だから、通信用の魔道具がなくても意志の疎通くらい簡単にできちゃうし」

「その自信はどこから湧いてくるんだ」

アンナさんは「でもね」と再び鞄の中に手を差し入れ、ゴソゴソと何かを探し始める。

「でもね、代わりにこれを用意したんだ! じゃーん!」

やがて鞄の中から引き抜いた真っ白な手のひらの上には、犬の肉球の形をしたブローチのようなものが二つある。

かわいらしいなと思っていると、アンナさんは吉田と私に差し出してくれた。

「これは……?」

「犬の言葉を人の言葉に変換する魔道具だよ! 昔流行ったらしくて、ホテルの近くにあった魔道具店で叩き売りされてたの。おもちゃみたいだけど、何もないよりいいかなって」

元の世界でも昔、そんなアイテムが流行っていたことを思い出す。最近ではアプリなんかも出ていた記憶があるけれど、まさかこの世界にも存在していたなんて。

猫バージョンなんかもあったな、なんて懐かしみながら愛らしいブローチを見つめる。

なんと通信用の魔道具と同じ作りらしく、音質は悪いしあまり離れると途切れてしまうものの、ブレスレットをしていてもやり取りが可能だそうだ。

「ふうん? よく分からねえけど、合図を伝えるくらいはできそうだな」

「確かに水中で何も聞こえないよりはいいだろう」

セシルも吉田も同意していて、私もうんうんと頷く。

片方は人間用でもう一方は犬用のため、私の声は吉田にそのまま伝わるものの、吉田の声は魔道具に登録されている音声でしか返ってこないという。

人間と犬の差がどう現れるか分からないけれど、喜怒哀楽くらいでも分かれば十分だろう。

「こんな代用品を見つけられるなんて本当にすごいよ、流石アンナさん! より安心だね」

「えへへ、それほどでも」

私がはぐれたりしては元も子もないため、私は全員と通信ができる状態にしておくらしい。そうしているうちに、窓の外には木々に囲まれた大きな湖が見えてきた。

「あ、着いたよ! もう選手の人達も到着してるみたい」

遠くにユリウスやミレーヌ様の姿があって、慌てて木々の後ろに隠れる。

湖は端から端が見えないくらい広く、選手達が競技を行う場所と正反対の場所から潜っていくこととなった。歩く攻略サイトのアンナさんは、湖の地形まで暗記しているらしい。

「お前、その記憶力をもっと勉強に活かせよ」

セシルは冷静なツッコミを入れると、湖の中にそっと手を差し入れた。

「水竜の討伐はさほど危険じゃないが、かなり鱗が硬いからダメージが通りにくい。とにかく全員で一斉に弱点を攻撃するのがベストだろうな」

「弱点はおへそなんだよね?」

「ああ、そこだけは鱗がない」

それからは一通りの流れを確認したけれど、アンナさんの案内のもと、四人でボス水竜のいる地点まで潜り、倒すという至ってシンプルな内容だった。

やがて競技が始まり、私達も行動を開始することにした。

「じゃあみんな、よろしくお願いします!」

「うん、頑張ろうね!」

「足を引っ張んなよ」

「ああ。はぐれないようにな」

みんなで一斉に湖の中に潜り、沼の奥深くを目指す。

アンナさんが借りてきてくれた魔道具のお蔭で、地上と変わらない感覚で楽に呼吸ができて感動してしまう。

昨日のセシルとの拷問──ではなく特訓の苦しさを思い出すと、涙が出そうになる。

《わあ、今日は天気も良いから湖の中も気持ちいいね!》

《確かに悪くないな》

水中でも通信用の魔道具はしっかり使えており、アンナさんとセシルの声もクリアに聞こえる。みんなのお蔭で完璧な状態で挑むことができ、感謝してもしきれない。

二人とは違う魔道具を使用している吉田とも会話ができるか、確認してみることにした。

「もしもし吉田、聞こえる?」

《お散歩行きたいワン!》

「…………」

どうしよう、いきなり雲行きが怪しい。怪しいどころか開始早々、一切の期待もできない気がしてくる。

先程はなぜかいける気満々だったけれど、そもそも犬用の魔道具を使って人間の気持ちを伝え合おうとしたこと自体、大間違いだったのかもしれない。

その上、吉田は大真面目な顔でこちらを見ているから、余計にいたたまれない。

《レーネちゃん、吉田くんの方はちゃんと聞こえてるみたいだよ! そっちはどう?》

吉田の側にいたアンナさんから通信が入り、冷や汗が流れる。二人は黙り込む私を、困惑した様子で見つめていた。

とはいえ、先程のはちょっと魔道具の調子が悪かっただけで、もしかしたら次は大丈夫かも、という淡い期待を込めてもう一度話しかけてみることにする。