軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

交流会・涙の水竜ボス討伐編 3

「ご、ごめんね。その、もう一回だけテストしてもらってもいいかな? 吉田、聞こえる?」

《わんダフル!》

「…………」

心からの願いも虚しく、魔道具は全く使いものにならない空気が漂っていた。

それでもここで本当のことを伝えてしまえば、吉田は恥ずかしがって二度と言葉を発さなくなってしまうに違いない。私でさえそうする。

けれどその場合、色々と困ることになる。緊急事態下では咄嗟の反応が大事になるだろうし、そこに余計な感情があった場合、命取りになる可能性だってあるだろう。

「あの、アンナさん……ちゃんと聞こえてるって吉田に伝えてほしいんだけど……うん…………」

そう思った私は全てを隠し通すための、優しくて悲しい嘘を吐くことにした。

ボス水竜との戦いに加え、意図せず吉田の尊厳を守るための戦いも始まってしまった。

無事に水竜のボスを討伐した暁には、陸に上がる前にブローチを湖の底に沈めて証拠を隠滅し、アンナさんにはお金を払って弁償しようと思う。

沼の中は想像していた以上に深くて、必死に泳ぎながら底へ向かって潜っていく。

深くなるにつれてだんだん身体への負担が大きくなっていくものの、セシルが水魔法を使ってサポートしてくれるお蔭で、何とか順調に進むことができていた。

《全然、他の水竜はいないのな》

《杏奈が水竜がほとんどいない効率の良いルートを選んでるからね! すごいでしょ》

アンナさんのお蔭で普通の水竜に遭遇する回数は驚くほど少なく、セシルと吉田があっさりと倒してくれるため、私は本当にただ後をついていくだけで済んでいた。

そんな中、吉田は無事に魔道具が使えていると思っているため、積極的に声をかけてくれる。

《もっとかまってほしいワン!》

しかしながら魔道具は【絶対に吉田が言わないことランキング】でも勝手に発表しているのかというくらい、とんでもない言葉を発してくる。

「お、OK、任せて!」

無視をするわけにいかないものの、本当は何を言っているのかさっぱり分からないため、とりあえず無難な返事をして誤魔化すということを繰り返していた。

この凄惨な事件については必ずや私一人の心に留め、墓場まで持っていかなければならない。

《なあレーネ、吉田はなんて言ってるんだ?》

「も、もっとみんな腹から声出してこうって感じかな……」

《あいつ、ああ見えてやる気なんだな。俺も頑張るか》

時折セシルにもそんな確認をされ、なんとか誤魔化しているけれど、限界を感じる。

そうして心身共に苦しみながら泳ぎ続け、やがて水竜のボスがいるという岩山に辿り着いた。

《あの岩陰にでも隠れてるのか? 相手の巣の中だとこちらの分が悪いな。引っ張り出すか》

セシルはそう言うと、風魔法と水魔法を組み合わせた特大の攻撃魔法を放つ。

同じ二年生とは思えないその威力に驚く中、攻撃が当たった岩山がグラグラと揺れ出す。そのまま崩れるのかと思いきや、なぜか岩山は形を変えて水中に広がっていく。

「えっ……えええええ……」

そして岩山はやがて、巨大な水竜の姿になった。

──正確には、巨大な水竜を岩山だと勘違いしてしまっていたのだ。

山だと思ったら巨大モンスターでした、というパターンはファンタジー世界では鉄板だけれど、このクソゲー恋愛シミュレーション世界ではいらない展開すぎる。

《えっ、嘘でしょ? ゲームよりずっと大きいんだけど!》

《あんなのボスって言うより最早、別の生き物だろ》

《お腹すいたワン!》

流石にみんなもやはり動揺しているようで、場には緊張感が走る。狩猟大会で戦ったベヒーモスもかなり大きかったものの、その比ではない。

けれど動きはかなり遅い上に、動ける範囲も限られているようだった。

《とにかくやるしかないよな。弱点に変わりはないだろうし、全員で腹の辺りに向かうぞ。レーネは俺の指示をアンナと吉田にも伝えてくれ》

「分かった! アンナさん、吉田、全員で弱点のある腹部に向かいましょう」

《了解、みんなで頑張ろうね! 杏奈も頑張ります!》

《いくぞー!》

なんとここに来て吉田の方も噛み合い、妙な感動を覚えてしまった。この流れならいけると気合を入れ、ボス水竜の腹部へと向かって泳いでいく。

近くで見れば見るほど鱗は岩石のようで、水竜というより岩竜とか土竜という名称の方が合っている気がする。

「く……っ」

私達が近付いていることを悟ったらしいボス水竜は、振り払うように身体を捩った。するとたったそれだけの動きで、水の流れが変わり、激流に呑まれそうになる。

《抗うような水の流れを水魔法で使って、相殺しろ!》

セシルの言う通りになんとか水魔法を使い、吹き飛ばされないように抵抗する。アンナさんや吉田もしっかり防いでおり、その場に留まっていた。

「は、はい! って、うわあああ!」

私もなんとか耐えられたとほっとしたのも束の間、今度は水竜の尻尾がこちらへ向かってぶんと振り降ろされ、すんでのところで避ける。

もはや尻尾というよりビルが吹き飛んできたくらいの衝撃と大きさで、心臓が早鐘を打つ。まともに喰らっていたら、即死だっただろう。

すると今度はまた水竜が身体を捩って水中に竜巻のようなものが起こり、必死に堪える。このままでは最悪のループを繰り返されるうちに、こちらの魔力や体力に限界が来てしまうに違いない。