軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋を知る 3

やけにお洒落でお高そうなカフェにやってきた私達は個室に通され、そこには既に魔法省に勤めるユリウスの先輩の先輩の姿があった。

「お久しぶりですね、レーネさん」

「はい! 今日はよろしくお願いします」

夏休みぶりだけれど相変わらず物腰が柔らかく、つられて笑顔になってしまうような人だ。

言わずもがなイケメンである。

「早速ですが、こちらの水晶に手を翳して魔力を流し込んでいただくだけで測定は完了します」

「分かりました」

頑丈そうなスーツケースから取り出したのは、学園のランク試験で使っているものと全く同じ水晶だった。

どうやら彼の勤める魔道具の部署が開発したものを、学園も使っているらしい。

つまりこの結果はランク試験での結果そのものだと思うと、なんだかドキドキしてくる。

「あまり緊張しなくても大丈夫だよ。レーネが割ったら俺が弁償してあげるから」

「怖いこと言わないでくれる?」

この水晶が一体いくらなのか、想像するだけでお腹が痛くなる。慎重に扱わなければ。

「なんだかお二人の間の空気感、変わりましたね」

すると私達の様子を見ていた先輩の先輩が、少し驚いたような顔をした。

確かに夏休みの半ばというと出会って3ヶ月くらいの頃だし、今よりまだ距離があったのかもしれない。

「俺達、結婚することになりまして」

「そうでしたか。おめでとうございます」

「…………」

もう突っ込むのはよそうと無視をして、私は透き通る水晶と向き直る。そうして試験の時と同じく魔力を流し込めば、水晶はぱあっと明るく光った。

春の試験の時より、光が強くなっている気がする。

「ど、どうでしょうか……!?」

「……なるほど」

先輩の先輩は水晶に触れた後そう呟き、顔を上げた。

「この魔道具は魔力量を0から100の数値で判定します。我が国の筆頭魔法使いであるエリク様で98です」

テレーゼのお兄さんのトラヴィス様のように、超エリート魔法使いを集めた国専属の魔法師団が存在する。

その組織のトップであるエリク様という方は、それはもうすごい方なのだと授業で教わった記憶があった。

「ユリウス様の話や、ランクも考慮するとレーネさんの入学当初の魔力量は1程度だったかと」

「いち」

むしろよく入学できたと、逆に褒めてあげたくなる。

けれど私が転生した直後のスッカスカのしょぼい魔法を思い出すと、全然ありえた。

「そして今の数値は──29です」

「……えっ?」

信じられない数値に、間の抜けた声が口から漏れる。

聞き間違いかと思ったものの、どうやら事実らしい。

この国のトップの魔法使いで98なのだから、この数値が低くないということは私にも分かる。ハートフル学園内で言えば、普通よりも高い方である気すらした。

何よりそれがユリウスの好意の大きさだと思うと、あらためて好かれていることを実感してしまう。

──むしろこの数値を見る限り、ユリウスはかなり私を好きになってくれている気がしてならない。

「…………っ」

もちろん、嬉しかった。そしてそれは魔力量が増えたことに対してではないことも、分かっていた。

「へえ、すごいね。流石に驚いたよ」

一方、隣で水晶を覗き込んでいたユリウスもやはり驚いたようで、感心した様子を見せている。

「短期間でこんなにも魔力量が跳ね上がるケースは滅多にないので、興味深いです。もしかするとレーネさんはすごい魔法使いになるかもしれませんね」

「そ、それはどうでしょう……」

この先、私の魔力量がさらに増えるとすれば、ユリウスが今よりも私のことを好きになってくれた時だろう。

逆に嫌われた場合、減ってしまうこともあり得る。

もちろん誰かの好意を利用するなんて嫌だし、この先増えることを期待するつもりもない。他の面でも努力を続けてランクを上げていくつもりでいる、けれど。

ふと、このゲーム──『マイラブリン』──何度思い出しても略称がダサすぎる──の攻略対象の好感度や他ステータスがMAX状態のヒロインの能力がどの程度なのか、気になった。

ファンタジー世界のヒロインというのは、ヒーロー顔負けの能力を持つことも珍しくない。

けれど『マイラブリン』は最終的に世界を救うなんて壮大なストーリーではないし、ただ高ランクになって攻略対象と結ばれてハッピー程度の話のはず。

アンナさんからまだ詳しい話を聞いていないけれど、このクソゲーに壮大なラストやイベントが待っているはずがない、という確信があった。間違いなく浅い。

「あ、俺もついでに測ってもらおうかな」

そんな中、先輩の先輩の同意を得たユリウスもまた、水晶に手をかざす。

すると水晶は驚くほど眩く光り、思わず目を細める。

「……本当にユリウス様は規格外ですね。それもまだ成長過程なんですから、末恐ろしいです」

「あ、また上がったんだ?」

ユリウスは再びソファの背に体重を預けると、軽い調子で長い脚を組み直す。

私はそんな姿を眺めながら、目の前に置かれていたグラスを何気なく口元へと運ぶ。

「はい。今回の数値は91です」

その言葉を聞いた瞬間、私は口に含んだばかりのレモン水を思い切り吹き出していた。