軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋を知る 2

それからも必死に勉強と技術練習をしているうちに、あっという間に約束の週末を迎えた。

「レーネお嬢様、とても素敵ですよ。お隣を歩かれるユリウス様も鼻が高いと思います」

「ありがとう! そうだといいな」

ユリウスと共に魔力測定に向かうため、私はローザやメイド達に囲まれて身支度をしてもらっている。

みんなやけに気合いを入れており、鏡に映る私は完璧な美少女貴族令嬢の姿になっていた。正直、かわいい。

普段は制服姿でいることが多い上に屋敷の中では過ごしやすさを優先しているため、こうして華やかなドレスを着ると未だに七五三気分になる。

「あ、そろそろ時間だ。行ってきます!」

「玄関ホールまでお見送りいたします」

待ち合わせも何もないため、ひとまずユリウスの元へ向かおうとドアを開けると、部屋の目の前──廊下の壁に背を預けて立っているユリウスと目が合った。

「おはよ」

ふわりと微笑んだユリウスは銀糸の刺繍が施された深い紺色のジャケットを着こなし、少し伸びた銀髪を片方だけ耳にかけている。

毎日顔を見ているはずなのに、その圧倒的な美貌から目を逸らせなくなってしまう。

「お、おはよう……」

一言で言うと、とんでもなく格好良かった。

学園祭での正装とはまた違い、少しラフでありながらも眩しさは同等かそれ以上で、私の後に続いて部屋を出てきたメイド達も短い悲鳴を漏らしていた。

呆然とする私を見て小さく笑うと、ユリウスは身体を起こし、こちらへ来て私の手を取る。

「おめかししてくれたんだ、かわいいね。ありがとう」

「いやいや、ユリウスの眩しさが限界突破していて私の精一杯のおめかしが霞むんですが」

「そんなことないよ。俺はすごくドキドキしてる」

さらりとそう言うと、ユリウスは「行こうか」と言って歩き出す。本当にどうして、そんな恥ずかしいセリフを簡単に言えてしまうのだろう。まだ学園祭のホストは続いているのかと、突っ込みたくなってしまう。

廊下を進んでいき、玄関ホールでユリウスは不意に足を止めた。何か忘れ物でもしたのかと思っていると、急に腰を抱き寄せられ、ユリウスは壁へ視線を向ける。

「ねえ、見て。俺達お似合いじゃない?」

そこには大きな全身鏡があって、寄り添うようにして立つ私達の姿が映っていた。血の繋がっていない私達はもちろん似ていないせいで、兄妹にはとても見えない。

確かに美男美女が並ぶ姿はお似合いで、恋人同士なんかにも見えなくはない。

ほら、なんて言いながらユリウスはさらに顔を近づけてくる。攻撃力が高すぎて、まだ出発すらしていないのに私は動悸息切れが止まらない。

「ユリウスって、どこでそういう技を覚えてくるの?」

「技ってなに? 思ったことを言ってるだけだよ」

そんな会話をしながら、馬車へと乗り込む。隣に並んで座ると、ユリウスは繋いだままの手を自身の膝の上に置き、もう一方の手でもぎゅっと包んだ。

どうやらこちらに休む隙を与える気はないようで、いい加減にしてほしいと逃げ出したくなる。

その際、きらりと光った手首へと私は視線を向けた。

「そのカフス、初めて見た。すごく綺麗だね」

「でしょ? レーネが好きそうだと思って買ったんだ。今日の服装だって全部レーネのことを考えながら、色々と悩んで時間をかけて支度したし」

「こ、こわ……」

「今の流れでそんな感想ある?」

ときめきなんかを超えて、私は恐怖を感じていた。

このハイスペックさと完璧な容姿で健気さまで持ち合わせていては、もう死角がない。

「1時間くらいで着くから、眠っててもいいよ。昨日も遅くまで勉強してたみたいだし」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」

それでいてどこまでも優しくて、ユリウスの「俺、本気出すから」という先日の言葉が脳裏を過ぎる。

これまでもユリウスは私に優しかったけれど、最近はなんというか、度を越えている気がしてならない。

本気で落としにきているというのが伝わってくる。私は咳払いや深呼吸をして、心を落ち着けた。

「でも、ほんと頑張るね。今回の目標がDランクのままでいいなら余裕じゃない?」

「油断は大敵とは言え、学園祭での加点もあるしDランクはいけると思うんだけど……」

問題は、2年春のCランクだ。この学園は相対評価のため、この辺りからかなり厳しくなると聞いている。

「でもランク試験は前回の結果も関係してるらしいし、少しでも稼がないとなって」

「ああ、そんな噂もあったね」

細かいことははっきり明らかにされていないものの、どうやら前回のランクなんかも関係しているという。

全ての項目が満点だったとしても、いきなりFランクからSランクにはなれないんだとか。

やはり積み重ねが大事なのだろう。今の頑張りが後に無駄になることは絶対ないし、後から少しでも後悔しないよう、できることは全てやっておきたい。

そう伝えれば、ユリウスは感心した声を出した。

「レーネって、偉いよね。その年で普通、そこまで考えられないと思うよ」

「こう見えて私は大人の女だから」

「あはは、ずいぶんピュアな大人の女だね」

「くっ……」

顔を近づけてきて赤面する私を笑うユリウスは、自分の顔が武器だとよく分かっているらしい。

──それに私は一度失敗して後悔しているから、そう思えるようになった。今日という日は今日しかないという言葉の意味も、今はよく分かる。

今生きているこの瞬間が、後々どれほど後悔しても二度と戻らないものだということを知っているからだ。

「…………」

なんだか私らしくなく真面目なことを考えてしまったと思っていると、じっとこちらを見ていたらしいユリウスは「でも」と口を開いた。

「本当にレーネって時々大人びた顔をするよね。ずっと遠くを見てるような」

「そうなの?」

「うん。ま、今日はちゃんと俺だけを見てて」

そうして顔を掴まれ、ユリウスの方を向かされる。

アイスブルーの瞳に映る私は、大人びているなんて口が裂けても言えないほど余裕のない顔をしていた。潰れたタコのようで、恐ろしく不細工だ。

「あはは、かわいい」

「うほふひ!」

「本当だよ。レーネが世界で一番かわいい」

「こ、こわひ……」

「だからその反応なんなの? 酷くない?」

そんなこんなで、ユリウスと私の休日は幕を開けた。