軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンの親戚はS級冒険者だった  2

お父様は家族で出かけるときに使用する我が家で一番大きな馬車で来ていた。

男性が三人も乗ると、肩幅が違うから狭く感じるもの。

私とお父様が並んで座って、ユーインとレイフ様が向かいの席に並んで腰を落ちつける。

馬車が動き出すとすぐにレイフ様に、アレクシアから報告は受けているけど、私の口からも詳細を聞きたいというので話はしたけど、私はアレクシアの背後にいたから周りで何が起こっていたのかはよくわかっていないのよ。

アレクシアの報告にプラスできる情報は何もないわ。

「騎士団の方とユーインには感謝しかありません。こわいと感じる間もなく襲撃者は制圧されていました」

「ギルモア侯爵にお礼に伺おう」

「はい」

穏やかに話をしながらも、馬車に乗ってからお父様は一度も私の手を離さない。

私も動揺していないつもりだったのに、お父様に会って不安だったんだなって気付いたわ。

ユーインやレイフ様がいなければ、もっと甘えて抱きついていたかもしれない。

「お父様、私にも魔道士を二名、護衛としてつけてください。アレクシアにいつまでも甘えるわけにはいきません。転移が出来て連絡を素早くとれる人がいいです」

「ふたりか」

「はい。休みを取ってもらわなくてはいけませんから。家にいる時にもひとりはすぐに動けるようにしてもらいたいんです」

家にいる時は警護ではなくて、殿下やアレクシアに連絡を取りたい時に動いてほしいのよ。

今まではアレクシアが転移で飛び回ってくれていたけど、レイフ様と婚約したのだから、もう警護ではなくて友人に戻ってもらわなくちゃ。

襲撃事件が解決するまではいつでも連絡を多方面にとれるようにしたいし、転生者が増えて、今後も問題が起こりそうなんだもの。

対処できるようにしておきたいわ。

それに、私のせいでアレクシアを危険な目に合わせるわけにはいかないわ。

マガリッジ領の領主でレイフ様という婚約者がいるのだから、むしろアレクシアにも警護をつけてもらわなくちゃ。

「僕のほうで探しましょうか?」

急にレイフ様が話に加わってきた。

「戦闘訓練をしたことのある魔道士がいいでしょう。王宮魔道士を辞めた人間もいますし、ちょうど今、王弟殿下が大公になるのに合わせて、王弟殿下付きの近衛の中から大公家騎士団に入る者と近衛に残ることを希望する者、そして違う職業を考えている者が何人いるか調べているんです。きっとシェリルの警護なら、希望する魔道士が何人もいますよ」

とうとう大公になるための動きが始まったんだ。

「殿下の執務室も解体されるんですか?」

「いいえ。大公になってもしばらくは今まで通りに執務をこなしますので、そちらはまだ変わりません」

今のところは……でしょう?

うーーん。国家公務員でいたいけど、第一王子に会う危険がこの先どんどん増える王宮にいるのは不安がある。

それに私が狙われるのは、王宮で目立ちすぎているせいなんじゃない?

他に理由が考えられないもの。

そうだとしたら大公領でお仕事をしたほうが安全ではあるのよ。

「いや、そこまで王弟殿下に甘えるわけにはいきませんよ。娘の警護はギルモアも考えてくれていますし、僕も信頼できる魔道士を探していますから大丈夫です」

「そうですか?」

「王弟殿下には従兄弟家族のことでもお世話になりそうですし、あまりシェリルを特別扱いするのは殿下にとってもよくないのではないでしょうか」

お父様、敬語に戻ってますよ?

どうしたの?

「シェリルが狙われるのは、殿下に特別扱いをされているのを妬まれているのかもしれません」

自分の娘を殿下に嫁がせたい家の人間が、私を排除しようとしているってこと?

たいした身分でもない子供だから、消すのは簡単だと思われた?

でもギルモアとの関係は知らない人がいないだろうし、中立派の主だった貴族は親戚の親戚はみんな親戚だ状態なのよ? 主にロゼッタ様絡みで。

そんなリスクの高いことをするかしら。

ジョナスの誘拐未遂事件とも関係があるとしたら、かなり財力のある貴族が黒幕よね?

「……ギルモアから何か言われましたか?」

「いや……べつに」

「え?」

ふたりが何を言っているのかわからずに、交互に顔を見ていたらレイフ様に苦笑されてしまった。

「クロウリー子爵は王弟殿下ばかりがシェリルのために動くから、焼きもちを焼いているんですよ。娘は自分が守るって」

「父親なんですから、当然だ!」

あ……ジョシュア様が話していた私と殿下を婚約させたいって考えている人がいるって話を、お父様も聞いているのか。

ギルモアの大伯父様が話したんだろうな。

それで王弟殿下を警戒しているのね。

「その話はいずれまた。それより今はユーインくんの御家族のことを決めませんと」

「そうだな。彼らが安心して生活できる環境を整えたい」

話が戻ったのでユーインに視線を向けたら、目を見開いて私を見ていた。

なによ。

「シェリルって王弟殿下とそんなに親しいんですか」

「へ?」

「いや、親しくはないよ。上司と部下の関係だ。なあ、シェリル」

「はい。そうですよ」

ユーイン、やっとこの話題が終わりそうだったのに、何を言ってくれているの。

殿下も私もその気はないの。

周りが騒いでいるだけよ。

「殿下は年齢や性別にこだわらず、才能のある子は育てようと考えていらしてね、シェリルの有能さを高く評価しているんですよ」

「そうなんですね」

「きみは何か得意なことや、やりたいことはないのかな?」

レイフ様が空気を読んでくれた。

これ以上は本気でお父様が殿下を警戒しそうよ。

「まだ決めてはいませんが、できれば騎士になりたいとは思っています」

「ほう。きみも冒険者をしていたのかな?」

「はい。まだ子供なので強い魔獣のいる場所ではないですが、ダンジョンにも行ったことがあります」

剣を持って戦うって、私には想像もできない。

ほんの一瞬の油断で怪我をするんでしょう?

ゲームはやり直しがきくけど、現実はそうはいかないわ。

もしもって考えたら、足がすくみそう。

「じゃあ、学園で三年頑張って騎士の資格を得たら、大公家騎士団に入団したらどうだい?」

レイフ様に言われてユーインの目が輝いた。

「俺でも入団できますか?」

「もちろんだよ」

あれ? ゲームのラスボスがいつのまにか布陣を強化していない?

転生者のほとんどが彼の傘下に入っているのよ。

ヒロインが事務関係でヒーローが騎士団で働いて、側近も執事も転生者。

それを許している国王陛下は、王弟殿下を信頼しているんでしょうね。

本当なら自分のもとで働かせたいのではない?

……私みたいに何かとやらかしている子は嫌かもしれないな。

これ以上私が王宮で保護者を増やすのはまずいのかもしれない。

「ここです」

話をしている間に到着したのは、王都でも有名な一流ホテルだ。

さすがS級冒険者。

家族のために警護のしっかりしているホテルを選んだのね。

「ホテルを知られてもよかったんだ」

ぼそっと呟いたら、ユーインがはっとした表情で私を見た。

「あ……いや……べつに」

「シェリル、困らせるんじゃない」

「そうですよ。我々は何もしませんから大丈夫です。でも気になるのでしたら御父上に報告だけはしておいたほうがいいかもしれませんね」

冒険者をしていた割には抜けているわね。

私だったら町に入ったところで待ち合わせの場所を決めておろしてもらうわ。

もっと言うなら、父親と相談してから会う場所と時間を自分で決めて、相手に連絡をする。

……なんて言わないわよ。

お父様にうちの娘はどういう子なんだって思われそうなんだもの。

「はい。あの待ち合わせは」

「ここに書いてある店に個室を用意しましたから、一緒に食事はいかがですか? こちらはここにいる三人しか参加しませんので、マナーなど気にしないで気軽に食事をしましょう」

「……父に話してみます」

うんうん。ここで行くって答えちゃ駄目よ。

報告と相談は大事。

「……」

なんでこっちを向くのよ。

私の反応を確認するのはやめて。

「シェリルは最近、身の危険を感じる場面に何回か遭遇しているので、普通の令嬢とちょっと発想が違うというか……警戒心が強いのはいいことではあるんですけどね」

「ちょっと変わってはいるんだけど、いい子なんだよ。きっとユーインくんのいい相談相手になるのではないかな。わからないことがあったら……ギルバートに聞いてもらったほうがいいかな」

「お父様、どうしてですか」

レイフ様もお父様もなんで弁解しているの?

私は何も言っていないじゃない。

「バルナモアにくると決めた以上、ここで動かないという選択肢はないですよ。それに母や俺に何かあった場合、父が何をしでかすかわからない。それはまずいとおふたりも思うでしょう?」

「当然です。S級冒険者を敵に回すなんて気はありませんよ。むしろこれからいい関係を築いていきたいと思っているんです。家族の身の安全を脅かすような発言をしたアードモアの国王が馬鹿なんですよ」

レイフ様が楽しそうに言ったので、ユーインも笑顔で馬車を降りていった。

「シェリル、ユーインを虐めないでくれよ」

馬車が動き出してからお父様が言った。

「虐める? そんなことはしませんよ」

「彼は十一歳なんだろう? それで異国に来て貴族の通う学園に受験するなんて大変なことなんだよ。それなのにひとりで行動しているんだ。心細い思いをしているだろう」

心細い……そうなのかな。

あ、お父様は私やローズマリー様がユーインと前からの知り合いとは知らないんだった。

だとしたら、私はずいぶんと彼に厳しいことを言っていると思われたかもしれないわ。

「初対面で相手を怖がらせてはいけないよ。以前もフォースター伯爵夫妻を怖がらせてしまっただろう?」

「あ、そうでした」

いけない。子供らしい顔をやめると、私はこわいんだった。

ユーインもこわがっちゃったかな。

「シェリルは王宮でもたまにこわいですけど、みんな慣れましたよ」

レイフ様、まったくフォローになっていませんよ。