作品タイトル不明
オバサンの親戚はS級冒険者だった 1
結果が出るまではまだ安心できないけど、手応えはばっちりよ。
一年で卒業するためには、試験をこれから何回も受けなくてはいけないのだから、ここは満点合格くらいの意気込みでいかないとね。
私を襲撃させた犯人もがっかりさせてやりたいじゃない。
「ようやく出てきた」
教室の扉を出た真正面の壁に寄りかかって、ユーインが待っていた。
ローズマリー様といいユーインといい、ポーズがイケメン仕様なのよ。
格好つけないで立ちなさいよ。
「どうしたの?」
「馬車まで守れとアレクシアに言われてるんだよ」
「ああ、そうだった。真面目ね」
「あいつは怒らせたらやばそうだ」
他の生徒の邪魔にならないように扉からずれた場所に移動して、教室のほうを振り返る。
ローズマリー様に挨拶をしないで帰るわけにはいかないわ。
「試験はどうだった?」
「まあまあ」
あまりくっつかず、かといって離れすぎず、それほど親しくは見えない知り合いの距離ってこのくらいかしら。
教室を出て私たちの前を通る生徒は、おそらくほとんどが貴族の子供ばかりだから私のことを知っているんでしょうね。
遠慮がちに会釈するだけで、ひとりも話しかけてはこない。
ユーインには笑顔を向けて、ふたりの中を訝しむように見ていく生徒もいるのよ。
でも王族とギルモアという激やばな保護者がいる女の子には、下手に関わらないのが吉だと親に言われているんじゃない?
謁見式からいろいろと起こって、公爵家の方々にまで顔繫ぎしている私は、派閥を越えて要注意人物なのかもしれない。
その私を襲撃しようなんて考えるやつって、いったいどんな目的があるんだろう。
お金のためなんていう単純な話ではないわよね。
「シェリルって爵位を持っているんだよな」
「そうね」
「敬語を使ったほうがいいのか?」
「やめて。ローズマリー様にだってため口だったのに何を言っているの」
「休憩時間に話したやつに、大丈夫なのかと心配された。これからは彼女にも敬語を使うよ」
同級生になって、ある程度仲良くなれば敬語じゃなくてもよくなるのかもしれないけど、それまでは敬語を使っておくほうが無難よね。
前もって避けられる問題は避けておくべきだわ。
「私の場合は、親戚だからいいんだって言えばいいんじゃない?」
「親戚だって言っていいのか」
「今更でしょう」
もう受付付近での会話が広まっているわよ。
「こわがられているのか?」
「私がじゃなくて、私の後ろについている方々がすごすぎてね。私は、虎と獅子と熊と……ともかくたくさんの猛獣の威を借る猫なのよ」
「猫?」
「なによ」
「いや、なんでもないけども」
私はか弱いにゃんこでしょうが。
無難に平和に波風を立てず……生きていこうと思っていたのにおかしい。どこで恨みを買ったんだろう。
あんな襲撃を仕掛けてくるってよっぽどよ。
「よかった。待っててくれた」
扉から顔を覗かせてきょろきょろと廊下を見渡したローズマリー様は、私たちを見つけて笑顔になった。
可愛いなあ。
黙っているときつそうな美貌が、笑うと急にへにゃって柔らかくなるのよ。
「当たり前じゃないですか。馬車までは一緒に帰りましょう」
「ユーインは馬車で来ていないんでしょ?」
「うちの馬車で送ることになるんじゃないですかね。アレクシアが多方面に報告してくれているはずなので、誰かしら来ていると思いますし」
「うう……どうなるのか見物したい」
そんな見物するほど面白いことはないんじゃないかしら。
うちの両親や祖父母とは早めに会ってもらわないといけないし、王弟殿下とも面会する必要はあるでしょうね。
ギルモアは……祖母の実家とは無関係だから静観するかもしれないわ。
「ねえ、ユーイン。ひとつだけ聞いておきたいわ」
私とローズマリー様が並んで歩いて、後ろからユーインがついてきていたので、ローズマリー様はぐるりと後ろを振り返った。
「なぜ来る前に連絡しなかったの? 相談してくれていたら、いろいろスムーズだったでしょ?」
「……きみたちに連絡する方法がわからなかったからです。それに貴族のふたりを巻き込むと迷惑がかかると思いました」
「敬語?」
「公爵令嬢には敬語で話さないと……」
「まあそうだけど。シェリルには?」
「親戚だから免除です」
私が得意げに言ったら、ローズマリー様は頬を膨らませて睨んできた。
敬語を使えって言うならまだしも、使われて不満そうな顔をするのはおかしいわよ。
「話を戻すわよ。ホリーはパーシヴァルと一緒に私たちに会いに来たんだから、彼女に聞けばよかったんじゃないの?」
「彼女は……ちょっと……」
話しにくそうな様子からして、ローズマリー様の予想は正しいのかもしれないわね。
つまりアードモアには相談できる転生者は誰もいなかったのか。
それは不安になるよね。
バルナモアに来たくなるのもわかる。
「おけ。わかった。納得の理由ね。試験結果がどうあれ、バルナモアに住むのならユーインももう仲間よ。よろしくね」
「あ……ああ、よろしく」
笑顔で言って、ユーインの答えを聞くまでもなく前を見てローズマリー様は歩きだした。
あれは、照れているわね。
でもユーインは嬉しそうだし、ローズマリー様が受け入れてくれたのならジョシュア様やコーネリアス様も味方になってくれるでしょう。
あのふたりは転生者じゃないけど、数年先を考えた場合、味方にしておきたい相手よ。
「シェリル、マガリッジで歓迎会をするわよ」
「和食が食べたいだけじゃ……」
「食べたい」
ユーインが食い気味に答えたので、ローズマリー様は笑ってしまっている。
いいですけどね。家庭料理でよければ作りますけど。
馬車を停めるスペースまで、周りに聞かれても大丈夫な当たり障りのない会話をして、歩行者しか通れない広い学園内の道を歩いていく。
遠くに制服を着た生徒がいるのに気付いて、ちょっとテンションが上がったわ。
いいなあ、制服。
お嬢様っぽくて可愛くて、なんといっても学生って感じが素敵よ。
私もあんなふうに学園生活を送れるのよね。
「う……レイフがいる」
ローズマリー様の言葉に一気に現実に戻された。
本当だ。道の先の一番目立つ位置にうちの馬車と王宮の公用の馬車が停まっていて、レイフ様とお父様が並んで立っていた。
「お父様までいるじゃない」
「仕事が早いわね」
「レイフってレオンの側近だよな」
「王弟殿下って呼びなさいよ。アードモアの王族が相手なら、対処できるのは殿下だけでしょ」
「動いてくれるのか」
そりゃあ、転生者の身の安全には気を配っている王弟殿下だもの。
ユーインの境遇を聞いたら放置できないでしょう。
それにS級冒険者が仲間になるって、未来の大公家としてはかなりありがたいんじゃない?
思わず三人で足を止めてしまっていたのに気付いて、私はユーインの鞄を掴んで引っ張りながら歩きだした。
だって動揺して逃げそうな雰囲気なんですもの。
「シェリル、いったいこれはどういう状況だい?」
お父様がユーインの鞄を掴んでいる私の手を見て、真顔で尋ねてきた。
「お父様と王弟殿下の側近のレイフ様がいるって話したら、ユーインが慌てて逃げ出しそうな雰囲気だったから捕まえたの」
「逃げないよ。大丈夫だから……あの……はじめまして」
礼儀作法を少しは習っているみたいね。
ユーインは胸に手を当てて、目上の相手にする挨拶をした。
ちらっと横を見たら、レイフ様とローズマリー様も礼儀正しく挨拶していたわ。
お父様がいるから、すでに知り合いだったとばれないようにしなくちゃいけなくて、私もユーインもハラハラしているのに、ふたりは余裕の表情よ。
「はじめまして。アレクシアから報告を受けて母に連絡をしたから、もう王都に来ているよ」
お婆様も行動が早いわね。
でも問題は、ユーインより彼のお父様でしょう。
ユーインの雰囲気からしてご両親もいい人だとは思うけど、S級冒険者って実際はどんな人なのか全くわからないじゃない?
「それでこれから、きみの御両親に会いに行きたいんだ」
「これから!? 展開が早すぎませんか?」
「僕も一緒に行きますよ。報告を聞いて王弟殿下がたいそう興味をお持ちで、是非とも会ってみたいとおっしゃっているんです」
試験はどうだった?
学園の感想は?
なんていう、普通の会話を吹っ飛ばして、もうこんな話?
ちょっとローズマリー様、笑顔で手を振って退場しようとしないでくださいよ。
かといって引き留める理由はないので、ひらひらと手を振って見送っていたら、横でレイフ様もバイバイと手を振っていた。
「そんな警戒されるとは思いませんでしたよ」
「警戒しているんじゃなくてですね、行動が早くて驚いているんです」
「シェリルの親戚で顔が似ていてS級冒険者の息子なんですよ? 殿下が興味を示さないはずがないじゃないですか」
いや、わかるのよ。
アードモアの国王が動く前に話を進めておきたいのよね?
「王弟……殿下……」
でもユーインの動揺は私の比じゃないわよ。
頭がフリーズしているらしくて、茫然と呟いたまま固まっている。
会ったことあるでしょう?
会話もしていたじゃない。
なんでそんなに緊張してるの彼は。
「お父様、ユーインの御家族がどこにいらっしゃるのかご存知なんですか?」
「知らないよ? だからこれから彼に案内してもらうんじゃないか」
「なるほど。……彼の御父上が会わないという可能性もありますよね?」
「レイフには会わないかもしれないけど、私には会うだろう?」
いつのまにレイフ様を呼び捨て?
仲良しになっているじゃない。
そうか……アレクシアは家族みたいだって言っていたお父様からしたら、彼女の婚約者のレイフもいずれ家族になる青年なんだ。
私たちを待つ間に、いろいろと話していたんだろうな。
「無理に面会しようなんて思っていませんが、ご家族を守るためには早めに会っていただいたほうがよろしいのでは?」
「ユーイン」
「はっ」
目の前で手を振ったら、はっと我に返ったように瞬きをした。
「すみません、ちょっと突然だったのでいろいろ考えていました」
フリーズではなくて、ロード中だったのか。
「先に俺……私だけが両親と話す時間をいただけますか? 特に母は平民だからと貴族に嫌な態度を取られて、すっかり落ち込んでしまっているんです」
「もちろんだよ。今日は会えないというのならそれでもかまわない。私としては従兄弟に会えるのは楽しみなので、出来れば近日中に会いたいけどね」
「従兄弟……そう言ってもらえて父も喜びます」
胸を張って背筋を伸ばして立ちながら話すユーインは、非常に礼儀正しい。
お父様もかなり好印象を持ったみたいだ。
「ひとまず馬車で送るよ。レイフはどうする?」
「一緒に乗せてください。できれば王弟殿下の意向をお伝えしたいんです。それにシェリルに朝のことを改めて聞いておきたいですし」
「そうだね。アレクシアとギルモア騎士団がいてくれてよかった」
いけない。
受験とユーインと親戚だったという驚きとで、襲撃事件の話を一瞬忘れていたわ。
そりゃお父様もレイフ様も即座に動くわ。
王弟殿下も心配してくれているんだろうな。
転生者の身の安全は、特に気にしてくれている人だもの。
みんなに心配ばかりかけて申し訳ないわ。