軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンの親戚はS級冒険者だった  3

「それよりクロウリー子爵、殿下に対して何をそんなに警戒しているんです?」

ユーインがいなくなったからなのか、レイフ様の反撃が始まってしまった。

お父様ってば商売ではいつも冷静なのに、子供のことになると感情的になるところがあるのよ。

レイフ様もそれは知っているだろうから、スルーしてくれると思っていたのに。

「ギルモアから何か聞いたのだとしたら、それは彼らが勝手に動いているだけで、殿下も困っているんですよ」

「……その気はないということかい?」

「……というより、婚約も結婚も今は全く考えていないと言ったほうが正しいですね」

……私がいるのに、その話を始めるの!?

やめてよー。どんな顔をして聞けばいいのよー。

「王弟殿下が第一王子より先に婚約する気がないというのはご存知ですよね?」

お父様は無言で頷いた。

レイフ様はちらっと私を見て微かに微笑んでから、お父様に視線を戻した。

「国王陛下は第一王子が成人するまでは、立太子も婚約もしないと決定しました。つまりあと五年は殿下も婚約しません」

「それは第一王子も知っているんですか?」

うっ……つい聞いてしまった。

だって本来ならもう王太子になっていてもおかしくないんでしょう?

それなのに成人するまで立太子しないなんて言われたらショックじゃない?

「むしろ第一王子が言い出したようですよ。王太子になると学園でみんなが遠慮するだろうから、まだ立太子はしたくない。学園には三年以上いたい。公務は成人してからすると」

王族の、しかも第一王子がそんなことを言っていていいの?

しかも、ついこの間問題を起こしたばかりでしょ。

周りの大人はそれを聞いてどう思っているの?

ゲームではヒーローやヒロインと一緒に、パッケージに大きなイラストが描かれていたというレイモンド・アッシュクラフト第一王子って、どんな子供なんだろう。

天才型で苦労しなくても勉強ができるからか努力をしない子なんだっけ?

お山の大将でいるのが好きで、苦言を呈する側近を排除した結果、有力貴族の子供たちはみんな第二王子の側近になってしまったって話だったわよね。

それで今度は成人するまで王太子にはならない?

元気よく墓穴を掘っているお子様なんじゃない?

弟が王太子になる可能性は考えていないのかしら。

学園に三年間通うのはいいとしても、公務をする気がないと宣言までするなんて……。

以前、陛下とお話をした時の様子からすると、陛下は冷静に子供たちの成長を見ていた。

その陛下がそんな勝手な要望を受け入れたということは、第二王子を跡継ぎにしようと決めたのかもしれない。

立太子が遅れているのは第一王子の要望だというほうが、第一王子を次期国王にしたい貴族たちは文句を言いにくい。

そうして時間を稼いで、第二王子が成長するのを待っているとか?

あくまで私の妄想だけどね?

まったく見当違いだと笑われるかもしれないけど。

「ですので心配しなくても大丈夫ですよ。殿下はシェリルの才能と個性的な性格を高く評価しているだけです」

「……感情的になってしまってすまない。反対しているわけではないんだ」

な、なんですって!?

思わず驚いてお父様の顔をガン見してしまったわ。

心の中でいろんな感情が葛藤しているのかお父様は眉を寄せて、レイフ様に軽く頭を下げて話を続けた。

「シェリルの今後のことを考えたら、王弟殿下にもらっていただけるのが一番いいと私も思っているんだ。むしろ成り上がりの田舎貴族の娘が、大公になる方にもらっていただけるなんて、こんなありがたい話はない」

「あの……お父様?」

お父様までそんなことを言い出すの?

待ってよ。私は結婚する気なんてないわよ。

「ギルモア侯爵もいずれはイールに爵位を譲る。彼は優秀な青年だが、今のギルモア侯爵の権力を維持できるかどうかは、まだわからない。シェリルが自由に好きなことをして生活するのに一番いいのは、地位と権力があって、シェリルを理解してくれる男性に嫁ぐことだ。情けないが私ではシェリルを守る力はない」

え? そんなに私ってまずい状況なの?

あれだけ保護者がいるのに?

「シェリル、殿下はよく目立つなというでしょう?」

私が怪訝な顔をしているのに気付いたのか、レイフ様が声をかけてくれた。

「はい」

「でもやりたいことをやれないのはつまらないじゃないですか。もっとアイデアがあるのに何も出来ないままだったり、自分で動きたいのに動けなかったり」

「それは……でも、子供ですし」

「大人になっても変わりませんよ。いえむしろ、今は天才少女だから好意的に見てくれている人たちも、あなたが成長したら妬んだり敵意を向けたりするかもしれません。男性たちだって、なぜ結婚しないのかと不思議に思うでしょう。そんなに男の好みがうるさい女なのかと思われるかもしれませんよ」

前世で結婚に失敗して懲りているんです。

男なんて、恋愛なんて、もう面倒なんでしたくないんですって言うわけにはいかないもんね。

「大公領に行けば王宮にいるよりは周りの目はうるさくはないでしょうけど、あなたはご夫人方にたいそう人気があって、お茶会に呼ばれるでしょう? 年配のご夫人は、いずれあなたも誰かと結婚して自分たちと同じ立場になると思っているはずです。結婚しない場合、競うように相手を紹介しようとしますよ」

うわああ、想像できてしまう。

皆さんは好意でそうしてくるだろうから、余計に面倒なのよ。

でも確かに、子供だからと心配してくれたり、気を配ってくれる人はたくさんいると思うわ。

ジョシュア様でさえ、最近は天才だなんて話をされなくなった。

優秀だとは思われているわよ?

国王陛下の側近のひとりとして活躍していて、いずれは宰相になるかもしれないとは言われているわ。

でも神童も成長すれば、ただの優秀な大人よ。

切れ者と言われるかもしれないし、出世もするでしょうけど、特別な人間とは思われなくなる。

「すでに殿下は、いずれシェリルと結婚するつもりで傍に置いているという噂があります」

「へ?」

「……おそらくギルモアが流したんだろう」

「は?」

なんだそれは。

いつのまにそんな包囲網が形成されていたの!?

「まあ、気にすることはありませんよ。五年間は今のままです。噂もそのままにしておけばいいんですよ。シェリルに悪い虫が寄ってこなくなるでしょう」

「いや、私としてはシェリルの気持ちも大事にしたいんだ。この子が誰か好きな相手が出来て、それが殿下ではなかったときに大問題になってしまう」

お父様、その心配はありません。

私は誰とも恋愛も結婚もする気がありませんから。

それに考えてもみてよ。

大公って王族に次ぐ地位の高い人なのよ。

大公妃って王家を除いたら、この国で一番地位の高い女性よ?

無理無理無理。

「レイフ様、よく考えてください。元は成金男爵令嬢だった私が、そこまで成り上がってしまうなんてことになったら、今まで味方だった人たちまで敵になってしまいます」

「そうですかね?」

そんな呑気な顔で首を傾げていないでよ。

どう考えてもやばいでしょう。

「あなたの優秀さとクロウリー子爵の商才によって、どれだけのお金が動いているか考えてみてくださいよ。やろうと思えば、まだまだアイデアがあるのではないですか? それによって生活が豊かになるのなら、あなたを大公妃にした殿下は賢い選択をしたと思われるでしょう」

アイデアなんてもうないわよ。

私は仕事を効率よく、便利にできる道具がほしかっただけ。

もう王弟殿下の執務室も財務省も、ファイリングも伝票も改革済みよ。

「そういえば、作ってもらいたい魔道具があったんでした」

レイフ様が声のトーンを急に落として話し始めた。

いやな予感がする。

口元が緩んでいるじゃない。

「マガリッジで工事や建築が進んでいるおかげで、周囲の宿屋食堂も賑わっているんですよ。マガリッジ風料理は大人気ですから」

「……それはよかったですね」

「それでみなさん大忙しで、他領に行っていた子供たちが帰ってきて働き始めたのはいいのですがまだまだ料理が苦手のようで、野菜の皮を剥いたり、みじん切りにする便利な道具を作ってあげたいんですよ」

事務関係の道具の次は調理器具!?

「なんで私が? レイフ様が考えればいいじゃないですか」

「料理はしたことがないので、どんなものがあればいいのかよくわからなくて」

「私だって料理なんてわかりませんよ」

お父様の前で、私が料理を出来るってばらさないでよ?

そんな情けない顔をしたって、手伝わないんだから。

「ああ、バリーソースを作る時のきのこや香辛料を細かくするのも手間なんだよ。確かに魔道具があれば便利になるね」

「お父様……」

「受験があるのでマガリッジ復興に直接参加が出来なかった分、ここでアイデアを出すというのはいかがですか?」

殿下がこれ以上目立つなというからおとなしくしていたのに、何を言っているの?

レイフ様は、私と殿下を結婚させたいってこと?

「そうですね。レイフ様から相談を受けたと、殿下に話してから考えます」

「え……」

ほら、殿下には言わないで私にやらせようとしていたでしょ。

いつまでも殿下が、親しい女性を作らないから心配しているんでしょうけど、だからって身近で見繕おうと思わないでよ。

素敵な女性はいくらでもいるわよ。

それに六歳差ってどうなの?

おとなになればいいのよ。そんなに珍しくない年の差よ。

でも今は、十一と十七よ。

小学生と高校生よ。

「ちょっと待ってください。僕はアイデアをですね」

「お父様、レイフ様にアイデアが一番重要なんだということを教えてください」

「いや彼はきっとわかっているよ。きっとアイデア料としてたくさんお金を稼がせてくれる気なんだ。フェネリー伯爵と共同で販売して、シェリルの名前は出ないようにすればいい」

……お父様が商人の顔になっている。

売れると思ってしまったか。

「わかりました。殿下に相談してみます」

「なんで? 殿下の意見が一番なのか?」

あとでお小言を言われるからよ。

これ以上目立った場合、大公妃になる確率が高くなるしね。

「そもそも私がそんな料理器具を考えつくかどうかわからないじゃないですか」

「つくでしょう」

「つかないなら、最初からわからないって言うだろう?」

あ。答えを間違った。

お父様、もう私の異常性に慣れ切っているわね。