軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは入学試験くらい平穏に受けたい  2

おそらく相手は警護に魔道士がついているなんて思っていなかったんでしょう。

新品の治安維持部隊の制服を着た無精ひげがだらしない男たちは、酒に酔った喧嘩なら日常茶飯事だったとしても、貴族の馬車を襲った経験はなかったんじゃないかしら。

アレクシアが魔法でひとりを氷漬けにしただけで、棒立ちになっている。

馬車の扉をあけようとして吹っ飛ばされた男が、たぶんリーダーよね?

それなのに仲間に指示を出すどころか、仲間が氷の中に閉じ込められる瞬間を見てて、しゃがんだまま逃げようと後退っている。

そこへ。

「動くな」

いつの間にか駆け寄ってきた騎士が、男の喉元に剣を突き付けた。

「おまえたち、何者だ!」

「暴漢を捕えろ!」

え? もう本物の治安維持部隊がきたの!?

四方八方から剣を手に騎士が集まってきたわ。

「シェリル様、ご無事ですか?」

違う。

この制服は……ギルモア侯爵騎士団のものだわ。

「まあ、警護をしてくださっていた……あそこに魔道士が!」

やっぱり私は、幸運にだいぶポイントを振っているタイプのヒロインだと思う。

何気なく目を向けた先に、ぶつぶつと口を動かしているローブ姿の男が見えた。

私の声を聞いた全員が振り返り、私は防御魔法を、アレクシアは反撃のための攻撃魔法を使おうと構える。

でもその必要はなかった。

急にローブの男が白目をむいてその場に崩れるように倒れたのだ。

「彼は……」

ローブ姿の男が倒れたせいで、彼の背後にいた背の高い少年の姿が見えた。

髪の色は赤味がかっているし瞳の色も深い緑色で、私とはまったく違う。

顔のパーツもひとつひとつ見比べたら、特に似ているとは思えないのに、全体的に見るとなぜか私とよく似ている彼は、ユーインだ。

アードモアの転生者が、なぜここにいるのよ。

「お知合いですか?」

騎士に聞かれて慌てて首を横に振った。

「……手を貸してくれたみたいね」

アレクシアもユーインの登場に驚いているようだ。

そりゃあね、アードモア王国にいるはずのユーインが、貴族の子息のような服装で目の前に現れたら驚くわよ。

私も驚いたけどそれより今は、この場をうまく乗り切らなくちゃ。

このタイミングで、私によく似た少年が現れるのはおかしいでしょ。

今の状況だと、私を襲わせておいて、颯爽と助けることで信頼させようとしている悪役かもしれないと疑われそうだ。

だけど、ユーインと私たちが知り合いだとばれるのはまずい。

ギルモア侯爵騎士団の騎士に目撃されてしまったからには、すぐに大伯父様に報告がいくもの。

両親や大伯父様が納得する話を考える必要があるわ。

「かなり腕が立つようですね。服装からして貴族の子息のようですが、どこの家の子供でしょう」

私に声をかけてきてくれた騎士は、ギルモア侯爵騎士団の中でも腕の立つ人で、大伯父様の護衛をしているので何度も顔を合わせているし、お話をしたこともある。

そんな人を私の護衛に、しかも私に気付かせないように警護させていたなんてありがたいけど、相手が優秀だと誤魔化すのが大変よ。

「さあ、初めて会う人だわ。でも助けてくださったみたいですね。それに……気のせいかしら。私によく似ているような……」

指摘される前に自分から言っておこう。

「やはりそうですよね。全体的になんとなく似ている気がします」

やっぱり第三者が見ても似ていると思うのね。

「アレクシア、彼にお礼を言いたいわ。呼んできてもらえるかしら」

「わかったわ」

待ってましたとばかりにアレクシアは転移でユーインの目の前に飛んでいった。

かわいそうに、ユーインがびっくりして逃げ腰になっているわ。

「試験があるので、あまり時間がないんです。彼らのことはお任せしてかまいませんか?」

呆気なく捕まった暴漢たちは、すっかり戦意喪失して肩を落として俯いている。

まさか子爵家の娘の護衛が、こんなに厳重だとは思わなかったんだろうな。

王都は決して治安が悪いわけではないので、騎士がひとりかふたり同行していたら、警護に力を入れている家なのねって思われるところに、六人よ。そこにアレクシアもいたのよ。

まるで襲撃されるのを知っていたかのような警備体制よ。

「もちろんです。学園まで警護をつけますので、安心してください」

「ありがとうございます。大伯父様にもお礼に行かなくちゃ。まさか試験の日に襲われるなんて思わなかったわ」

「ギルモア侯爵様は試験の日だからこそ危険だとお考えでしたよ」

「え?」

「前回も祝賀会で 攫(さら) われかけたんです。今回も狙う可能性は高いとおっしゃっていました」

さすがだわ。

前回は声をかけてきたのが御令嬢だったでしょ?

攫おうとした男も貴族の子息で勘違い野郎だったから、彼の父親は殺されたんだと主張しても信じる人はあまりいなかった。

私も家族も警戒していたけど、あれから特に何もなく平和な毎日が続いていたので、つい油断していた。

まさかまた襲ってくるなんて。

いえ、同じ犯人とは限らない。

私やお父様を妬む人間は大勢いるはずよ。

「シェリル」

ユーインの腕を掴んで、すぐにアレクシアが帰ってきた。

その腕の掴み方はやめてあげなさいよ。連行しているみたいよ。

「彼はユーイン・アシュベリーという名前だそうよ」

「アシュベリー!?」

「ご存知なんですか!?」

うわぁ、まじか。親戚だったんだ。

「クロウリーの祖母の実家です」

「御親戚でしたか」

「絶縁していて、いっさい交流はありませんけど」

「え」

本当にもう、試験当日になんで面倒ごとを持ち込んでくるのよ。

やめてくれないかしら。

「アシュベリーさん、助けてくださってありがとうございました」

「い、いえ。俺は騒ぎに気付いて来てみたら、魔道士を見つけただけで……」

たぶんまずい状況だとわかっているんだろうな。

ユーインは情けなく眉尻を下げて、目を泳がせている。

「きみはどうしてここにいたんだ?」

騎士も怪しいと疑っているんだろう。

私の前に立って厳しいまなざしと声でユーインに尋ねた。

そういえば鞄を持っているのね。

服装といい鞄といい、まるで学生みたい……あ。

「試験を受けに学園に行く途中だったんです」

「そうか。きみも試験に。馬車はどこにあるんだ?」

「ありません。歩きです」

「馬車がない?」

アシュベリーって子爵家なのよ? それなのに馬車がない?

騎士団の方々の目つきが変わった。

偶然にも絶縁状態の親戚の御令嬢が襲撃されている現場に居合わせて、偶然魔道士を見つけて撃退して助けた。

しかも、偶然年齢が同じで、偶然同じ学園の入学試験を受けるところだった。

……怪しさ満載なのよ。

「そうですか。では私の馬車で学園まで一緒に行きましょう」

「シェリル様、彼をまだ信用するわけにはいきません」

「でも試験の時間が決まっている以上、騒ぎに巻き込んだ私としては彼をここに放置はできません」

笑顔で、でも断固としてここは言い切らせていただくわ。

ともかく馬車に連れ込んで、問いただして全部吐かせなくては。

「アレクシアも一緒なので大丈夫です。馬車も出してもらえないなんて、彼にも何か事情がありそうですし……彼のバルナモア語はちょっとアードモア訛りがあると思いません?」

はっとしてユーインが口を押さえている。

わかりやすいなあ。

「言われてみれば確かに」

「祖母に聞いていた話と合致しているので、聞きたいことがあるんです」

「……」

「馬車の中で話を聞いて、すぐにアレクシアに報告してもらいます。両親にも説明しなくてはいけません」

「でしたら我々が」

「いえ、祖母の実家はギルモアとは無関係なのに、ご迷惑をおかけしたくありません。ここは私に任せてください。これ以上遅くなるわけにはいかないので行きますね」

「護衛はつけさせていただきます」

「ありがとうございます。心強いです」

納得はしていないものの、どうにか引いてはくれた。

試験前の私に、これ以上動揺させるような話はしたくなかったのかもね。

「乗って」

それに、アレクシアの厳しい声と口調が安心感を与えたのかも。

彼女は私を守るためなら、容赦なくユーインを凍らせるでしょうから。

ユーインのほうはおそるおそるという感じでステップを上がり、馬車に入る前にきょろきょろと中を見回した。

「早く!」

アレクシア、少しは優しくしてあげなさいよ。

背中を押さないの。

「つめて」

アレクシアが隣に座ったもんだから、ユーインは小さくなって壁に張り付くように座っている。

冒険者で剣の腕もかなりのものだと聞いていたのに、すっかり緊張していて、そして意気消沈している?

前に会った時は、もっと明るかったわよね。

「ちょっとでもシェリルのほうに手を伸ばしたら、凍らせるわよ」

「なにもしないよ」

でもアレクシアのおかげで騎士団の人達は安心してくれたようだ。

ふたりが護衛について、残りが治安維持部隊への説明や大伯父様への報告にあたることになった。

「さて」

馬車がまだ動く前から、ユーインの顔をまっすぐ見て話し始めた。

「わかりやすく最初から、どうしてあなたがここにいるのか話してもらえるかしら」

「……俺がバルナモアにいるのが気に入らないのか?」

「いいえ。事情が知りたいだけよ。あなたはアードモアでホリーの宿屋を手伝っているのではなかったかしら?」

パーシヴァルさんと一緒にバルナモアに来た時、彼女が意味ありげな様子だったのは、ユーインのせいだったのよね?

彼が学校に通いたいと考えていることは聞いていたけど、それがバルナモアの学園だったなんて知らなかったわよ。

「親父がS級冒険者なのは知っているよな」

ぐしゃっと髪をかきあげ、ユーインが真顔で私を見返してきた。

「アードモアにS級冒険者は三人しかいない」

「え? パーティーの他の人は?」

「S級がひとりいれば、S級のパーティーになれるんだ。親父の仲間は全員A級で、A級はそんなには珍しくないんだ。だから仲間が辞めるのはかまわなくても、親父が辞めるのは許可できないと貴族たちが圧力をかけてきた」

「あー、なるほど」

ようやくアレクシアが少しだけ緊張を解いた。

それでもまだ、ユーインの動きからいっさい目を離さない。

彼女がユーインと顔を合わせたのは二回だけで、どちらも直接はたいした話をしていないから、まだ信用できる相手とは思えないのでしょうね。

「王家までが親父を呼び出して、家族の身の安全も考えろと脅してきた」

「あんのくそ国王」

「アレクシア、落ち着いて」

「それでバルナモアに行こうって話になったんだ。親父の父親……俺にとっては祖父がバルナモアの貴族で、アシュベリー子爵家の次男だから身を守る手伝いをしてもらえるかもしれない。アードモアにいるより安全だって」

実の娘も役に立たなくなったら他所の国に押し付けようと考える国王だ。

S級冒険者を言いなりにできるなら、平民の家族を拉致して監禁するくらいは迷いなくやるでしょうね。

「確かに私の祖母には兄と弟がいたという話は聞いたことがあるわ。そして子爵家を継いだ兄は嫌な男で、田舎の男爵家に嫁いだ祖母を馬鹿にし、弟を家から追い出したって。それで絶縁したそうよ。俺様で偉そうなことを言っていた割には、才能のまったくなかったアシュベリー子爵は財産を食い潰して借金まみれになって、それで余計に成金の我が家を妬んでいたんですって」

「その人はもう死んでいて、息子があとを継いでいる。そしてその男もくそ野郎だ」

そうなんですってね。

ギルモアもそのあたりは把握しているから、もしかしたらうちに近付かないように圧力をかけていたりして。