軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは十一歳になりました 4

やっぱり爵位を持っているかどうかって、重要よね。

公爵夫人の立場が強いのは、夫が守ってくれるからだ。

公爵家の子供たちも、父親が守ってくれるから偉そうにしていられる。

でも長男以外は、女の子は貴族に嫁いで夫という後ろ盾を見つけなくてはいけないし、男の子は国家公務員になるか騎士にならなくては貴族ではいられなくなってしまう。

我が家は幸運なことに、最初はワディンガム公爵家という後ろ盾がいて、今ではギルモア侯爵家という親戚が守ってくれている。

私なんて社会の荒波に揉まれる前に準男爵になっちゃって、学園を卒業したら男爵になるのが決まっているもんだから、大きな問題を起こしたりしなければ一生貴族でいられるんだもん。ありがたいよね。

しかも保護者に王族をはじめとした高位貴族が名を連ねてくれてしまったので、公爵家や侯爵家の令嬢以外は気を使ってくれて申し訳ないくらいよ。

もちろん今はまだ、うちに友好的な貴族とばかり出会っているだけで、これから敵対してくる相手と出会うこともあるかもしれないけど……中身がオバサンだから、若いお嬢さんにそう簡単には負けない自信があるしね。

こうやって改めて考えて気付いたんだけど、これだけ強い立場なのに守られているばかりでは駄目じゃない?

弱い家の子供たちは強い家の子供の命令を聞いて、その代わり他の強い家の子供たちから守ってもらうんでしょう?

取り巻きってやつになるのよね?

うまく味方が出来なかったら迫害されることだってあるのかもしれない。

「そうよ。友達なんて言っていないで、そういう子を今度は私が守ればいいのよ」

友達は欲しいので、命令して従わせるなんてしないわよ?

今日の様子では公爵家のお嬢さんたちも、派閥の家の子供たちの前ではたよりになる理想の御令嬢のように振舞っていたわ。

上に立つ者だって大変なのよね。

好き勝手していたら、周りから人がいなくなってしまうわよ。

よし、これからは周りをよく見て、ひとりで心細そうにしている子に話しかければいいんだわ。

でも……怖がられたりしないかしら。

ひい、話しかけてきたって逃げられたら悲しいなあ。

自室に戻って着替えたら、もうすぐ四時になる時刻だった。

使用人たちはパーティー会場の片づけで忙しそうだ。

窓から庭を見下ろすと働いている人たちの忙しそうな様子が見えるわ。

「パーティー中は何も食べていらっしゃらなかったようですので、軽食を用意しました。夕食が食べられなくならない程度に、少しだけ胃に物を入れておいてくださいね」

「難しいことを言わないで」

お腹がすいているのに、子供が加減して食べるって無理があるわよ?

こういう時はオバサンより子供の本能のほうが強いから、がっつり肉を食べたくなっちゃう。

いえ、肉でもいいのよね。問題は量よ。

うううん……と、立ったままローストビーフの皿を睨みつけている十一歳。

誕生日に何をやっているんだろう。

両親はギルモア侯爵夫妻と急ぎ王宮にお出かけ中だ。

なんと国王陛下と面会することになったそうなの。

レイフ様に隣国のヘンリエッタ王女からのプレゼントとカードを預かってもらったおかげで、対応が早くてこわいくらいよ。

転生者であることを匂わすカードの処分に困っていたから、王弟殿下に渡してしまえって考えただけなのに、まさか陛下が出てくるような大事になるとは思わなかった。

……それだけまずい状況なのかもしれない。

うちの両親なんて、特にお母様なんて、陛下と会うなんて思ってもみなかったから、かなり緊張して震えていたわよ。

それにしても、謁見するのにはあんなにいろいろと手順が必要だったのに、こんな短期間に何度も両親が陛下と会うことになるとは思わなかったわ。

下位貴族の人間は、夜会やお茶会で王族の方を見かけても、あちらから声をかけてもらうのを待つしか出来ないから、遠くから眺めるだけってことも多いのよ。

うちの祖父母なんて、王族の方と会ったことさえないって言っていたわ。

だから下位貴族にとって、公式に謁見出来るってそれだけ大変なことなのよね。

それをぶっ壊されたから、みんながあんなに気の毒がっていたのか。

今になって理解できたわ。

「失礼します。シェリルお嬢様、マガリッジ男爵がおみえです」

「はーい」

ちょっと前までは護衛として自由に屋敷の中を歩いていたアレクシアも、男爵になって自分の屋敷に帰った今は、こうして侍女の案内がないと私の部屋に来ることが出来ない。

それでも王宮への送り迎えだけはかかさずにやってくれて、朝は玄関先で待っていて、帰りも私が屋敷に入るのを見届けて帰っていく。

無理はしないでねと何度言っても、馬車の中でいろいろ話す時間が楽しいんだからやめる気はないと言ってくれるの。

忙しいのに本当にありがたいわ。

「着替えてないの?」

彼女はまだパーティーの時の服装のままだ。

このあと夕食があるから、私もいちおうドレス姿ではあるんだけど、だいぶ楽な格好になっているのに申し訳ないわね。

「今まで王宮に行っていたの。あー、お腹すいた。これ、食べてもいい?」

部屋に入って、食べ物の乗っているテーブルに直行しているわ。

「いいわよ。お茶もあるからどうぞ。私もお昼を食べていないの」

「でしょうね。公爵令嬢たちとあれだけ打ち解ければ、今日のパーティーは大成功よ。もう、あなたを敵に回せる貴族はバルナモアにはいないんじゃない?」

「そうかしら」

「じゃあ、私は王弟殿下を連れてくるわね」

「……へ?」

椅子に座って、さあキッシュを食べようと手を伸ばしたところで、アレクシアがとんでもないことを言いだしたので動きを止めた。

彼女だってまだ、カナッペをひとつ口に入れただけなのよ?

「なんて?」

「王弟殿下を連れてくる」

「なんで!?」

「ヘンリエッタ王女の話を聞きたいでしょう?」

そりゃあね、聞きたいわよ。

だけど私の部屋に連れてくるのは違うでしょう?

相手は王族なのよ? それに男よ?

「じゃあ、王弟殿下の部屋に行く? それかマガリッジの屋敷? いつ誰が呼びに来るかわからないのに留守にして平気?」

「それは確かにまずいけど。誰か来た時に殿下がいたらまずいでしょ?」

「転移で勝手に帰るでしょ」

そうか。王弟殿下も転移が出来るんだ。

「待って。余計駄目よ。一度転移でここに来たら、今後いつでも来られるじゃない」

「何を言ってるの? あなたが寝込んだ時に、彼は寝室にまではいっているじゃない。私が迎えに行くのは、シェリルの了承を得るのと、今なら転移して大丈夫だよって知らせるためよ」

ああああ、そうだった。忘れていた。

すでにもう、いつでも転移で来られる状況なんだ。

つまり、とんでもなく忙しくて夜中でも仕事が終わらない場合は、私を部屋まで迎えに来て、連れて行って手伝わせることが出来るのよ。

ひどいな、それは。

でもたまになら、それも非日常で楽しいアクシデントかも?

「え? そういう心配なの? 男の子に寝室に来られたらこわいとか、身の危険がとか、そういう話じゃないの?」

「ええ!? 殿下って、十一歳の子供にイケナイことをするような男なの? 変態?」

「違うわよ。違うけど、まずはそういう心配をするもんでしょう」

「そう思うなら、連れてこようとしないでよ」

「……じゃあ行ってくるわ」

よく考えたら、男が部屋にくる手伝いをする護衛って駄目じゃない?

それにお茶も食べ物も殿下の分なんてないわよ?

私だけ食べるわけにはいかないでしょ?

……今のうちに食べておいたほうがいいかもしれない。

下手をしたら、夕飯まで何も食べられなくなるかも。

「ただいま」

「はやっ!」

なに?

行って、王弟殿下の腕を掴んで、そのまま転移で戻ってきたの?

そのくらいの早さよね。

「邪魔してすまない」

殿下のほうは申し訳なさそうに大きな体を小さくして、視線をどこに向ければいいか迷っているのか、私とテーブルの上の食べ物の間を眺めている。

部下の女の子の私室にお邪魔しているわけだから、居心地悪いんだろうな。

「座ってください。重要なお話なんですからしかたありません。でもお茶の用意はできませんよ」

「気を使わなくていい。出来るだけ早く話を終わらせて帰る」

出現した場所に一番近いひとり掛けの椅子に殿下が座り、アレクシアは私の隣に腰を下ろした。

私? 平然と座ったままだったわ。

あまりに急に出現したから、フォークをキッシュに突き刺したまま、アホみたいにぼけっと殿下の顔を見上げてしまっていたわよ。

これも全て、突然プレゼントなんて送ってきたヘンリエッタ王女のせいね。

「シェリルはヘンリエッタのことをどのくらい知っているんだ?」

「隣国アードモア王国の王女で、アラサーで亡くなった転生者だってことくらいですかね。あとは……殿下と同じで、神様に会って説明を聞いた五人のうちのひとりなんですよね?」

「そうだ」

王弟殿下が自分の部屋にいるって、違和感がひどいなあ。

しっかり仕事をしている時と同じようにベストも上着も着て、髪もセットした隙のないイケメンぶりだから、女の子向けの可愛い色合いの部屋で浮きまくっている。

「俺たちが最初に顔を合わせた時は、元の世界で亀裂に落ちた時の姿のままだったんだ。彼女は目鼻立ちのくっきりとした美人で、高そうなスーツを着た女性だった。外資系の企業に勤めるキャリアウーマンだったようだ。それに比べると男はさえないやつらばかりで、一番見た目のよかったノアは婚約者の話しかしないだろう? みんな自分のことで手一杯で、彼女のことなんてどうでもよかったんだ」

「そりゃあそうでしょうね」

急に異世界に連れてこられて、きみたちは死んだから生まれ変わらなくてはいけないなんて言われたら、誰だってパニックになるわ。

家族も友人も仕事も、今までの人生で積み重ねてきた物が一瞬で消えてなくなるのよ?

私みたいに、病気でもう長くないと覚悟していたとしても、転生したとわかった時には慌てたんだから、他の人達はもっと大変だったでしょう。

「それで彼女も、こんなやつらといるよりは別々の国に行き、他の転生者を見つけて手伝うほうがいいと神の提案に乗り気になったんだ」

「王女を選んで」

「そうだな。転生者を手伝うなら強い立場がいいと言っていた記憶がある」

そしてひとりは情報屋として他のメンバーの手伝いをして、ひとりはラスボスになって、ひとりはモブになった。

あれ? もうひとりは?

「フリューア公国の教皇になっている」

「教皇? いくつなんですか?」

「十五歳」

え? 教皇って宗教のトップなんじゃないの?

十五歳でなれるものなの?

「神の声が聞こえれば年齢は関係ない」

「あ、そうでしたね」

フリューア公国って大公が治めている小さな国なのよ。

それでも大国に侵略されないのは、この世界の全ての神の神殿が国内にあって、神の声を聞く教皇がいるからだって学んだわ。

つまり喧嘩した神も、彼らの尻拭いをした神様も、全員の神殿がフリューア公国に集まっているのね。

「神殿は全て町から離れた高い山の上にあって、教皇といっても神殿での仕事をしない時には、村人と畑仕事をしたり、薬草を育てて薬を作って生活しているそうだ」

「まあ、スローライフってやつですか?」

「そうなのかね。力仕事ばかりで大変だと言っていたぞ」

そういえば、ノア以外の四人は連絡を取る手段があるみたいだったわね。

魔道具でも使っているのかもしれないわ。

「で、五年前。ひさしぶりに四人が顔を揃えて話をする機会を作ったんだ。国内の転生者の状況や国がゲームの影響をどれくらい受けているか、報告し合って相談する会議だな」

「それぞれの立場があるのに、本当のことを報告するとは限りませんよね?」

「そこはパーシヴァルがいるし、俺もまだ十二歳。教皇は十歳。ヘンリエッタなんて八歳だったからな。割と砕けた会合になった」

まだみんな子供だったのね。

でも教皇は、十歳ですでに教皇だったんだ。

「あ、こんなには食べられないので、適当に摘んでくださいね」

「……普通の料理だけなんだな」

当たり前でしょう。

マガリッジ風料理はマガリッジで食べてください。

「その時は私もレイフもクリスタルも参加したのよ」

「そうなの!?」

「フリューア公国とアードモア王国からはふたりずつ仲間の転生者が参加していた」

「私以外は全員男だったわ」

「ゲームでも女性のほうが若いキャラが多かったからな。その頃は記憶を取り戻していたのは男がほとんどだったんだ。それに男は割と自由に動けるだろう?」

幼い女の子が何時間もいなくなったら大騒ぎだものね。

「ヘンリエッタも最初は天才少女って言われていたのよ。で、私がシェリルに会ったのも八歳でヘンリエッタに会ったのも八歳でしょ?」

「うん」

「初対面の印象があまりにも違いすぎたわ」

アレクシアってば、王族の人がいるのにテーブルに肘をついてだるそうにしちゃ駄目よ。

転生者だけだからって気を抜いてばかりいると、他の人がいる時にもぽろって出ちゃうわよ?

「シェリルはあの頃、狙われて大変な時期だったのに周りのことを心配していたじゃない。私のことも。ヘンリエッタは自分が大事で、転生者の手助けはしていなかったのよ」

「八歳じゃしかたないんじゃない?」

「でも利発な子だと有名で、兄より次期国王にふさわしいんじゃないかって話も出ていたのよ?」

子供の間はね、二周目のヘンリエッタのほうが王子より賢く見えたんでしょう。

でもある程度勉強が進んだら、すぐに差なんてなくなるもんじゃない?

私だって一年で卒業するために猛勉強中よ?

私の場合は、学生時代は四半世紀ほど前のことだったんで、忘れてしまっていることが多いのもあるんだけどね。

若いうちにもっと学んでおけばよかったという思いを一度しているから、それほど苦痛に感じないで勉強できるのは、人生が二周目のおかげだわ。

「だが勉強ができるのと聡明なのはべつだ。統治者としてふさわしいかどうかも別の話だ」

「そうでしょうね」

「アードモア王国の転生者ふたりは、ヘンリエッタではなく彼の兄である第一王子の側近になることを選んだんだ」

「王太子になる人の側近になろうとするのは、当然ではないですか?」

「だが、ヘンリエッタはそうは思わなかった。自分は美しくて頭のいい王女で転生者なのに、なんで自分に従わないのかと……もっと簡単に言うとちやほやしてもらいたかったんだな」

あー、前世で周りの男にちやほやしてもらっていたから、今度の人生も特別扱いしてほしいのね。

「いや、前世では傍に男が寄ってこなかったらしい。彼女が言うには、仕事ができてお金もある美人では高嶺の花すぎて近寄りづらかったんだそうだ」

「自分で言うんですか」

「そうだ」

うはあ。いい性格をしているわね。

うん? ノックの音?

「失礼します。新しいお茶をお持ちしました」

え? 待って。扉を開けないで!