軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 死に戻り令嬢、騎士を茶会に招く

そして当日となりました。

王太子妃選び、第二次審査。

第一審査で十分の一以下に絞られた令嬢たちが、ここでさらに半分以下にふるい落とされる。

審査の基準は魔法だけ。

どれだけの魔力を有するか。どれだけ魔法の扱いに長けるか。

いずれ王の隣に立つべき令嬢の審査基準が魔法しかない。

どれだけ他国から奇妙がられても、嘲笑われようともその伝統は変わらない。

きっとこの国が滅ぶまで。

なので今日も令嬢たちは全力で魔法を使うことでしょう。

自分こそがキストハルト王太子殿下のパートナーに選ばれるために。

「ま、私は関係ないけれどね」

王命に従い『グレムリンの森』に集まったまではいいけれど、そこから先の頑張りは各自次第。

私は悪いけれど今日はピクニック気分だわ。

本当のピクニックであればもっと鬱蒼としていない爽やかな山にでも登りたかったけれど。

邪悪な妖精が棲むという『グレムリンの森』は、その前評判を補強するかのように陰鬱として湿気たっぷりで……。

まるで闇夜の墓場みたいな不気味さがあるわね。

前日は『フェアリー・パニック』の浄化に神経がいって気にならなかったけど、改めてみるとなんという鬱蒼さなのかしら。

これ都会暮らしの真っ当な令嬢なら、怖くて入れなくなるまであるわよ。

「選ばれし令嬢方、よくぞ試練の場へとお集まりいただいた」

役者はどうやら揃ったようね。

司会進行役らしい、昨日も対面した差配役の侯爵が声高に言っている。

「この中から王太子キストハルト殿下に相応しい最良の魔法令嬢が……ひいてはいずれ王妃となられる御方が選ばれる。その立会人の栄誉に浴せること、このベスリン侯爵アズクロ至福の極みにございますぞ!」

なんとも芝居がかった口調ね。

私の冷ややかな視線も厭わず侯爵は話を続ける。

「まあ、この中には栄誉に相応しくない御方も何かの間違いで紛れ込んでいるようですが、指摘する価値もありますまい。それよりも選考の詳しい内容をご説明しましょう」

皮肉が露骨だわね、まったく。

これから行われる王太子妃選びは、魔法の扱いの巧みさを見るためのテスト。

第一審査で単純な魔力の大きさを計られて、次に技術。

その的として抜擢されたのがグレムリン。

草木に寄り添う下位精霊とされる妖精だけど、中には性根が悪質で人から忌み嫌われるモノたちもいた。

その典型と言われるのがグレムリンよ。

彼らは醜い容貌に凶悪な性格。

ヒトが近づくと寄ってたかって襲い掛かり体中ひっかき傷だらけにするとか。

妖精が悪戯好きなのは全体的な特徴だけど、グレムリンのそれは度を過ぎているというわ。

だから彼らの住む『グレムリンの森』近辺に町村はなく、このんで近づこうという人もほとんどいない。

しかしその分、腕に覚えのある人の力試し相手には打ってつけという相手でもあるのでしょうね。

「各令嬢には、騎士が五名ずつ付きます。彼らは万が一に備えての護衛役ですが、同時に令嬢方の動きを審査する役目も負います」

要するに、襲い掛かってくるであろうグレムリンにどんな対処をするかを、騎士たちがつぶさに観察して点数をつけるってことね。

そしてどうしても危なくなったら騎士たちが前に出て助けてくれると。

そうなったら即座に不合格が確定でしょうけどね。

「王太子殿下は生憎政務が重なっているということで、こちらにいらしていません。しかしながら次の機会に胸を張ってお会いできるよう、各令嬢の奮闘を期待しますぞ!」

さて概要もわかったところで説明はもう終わりかしら?

だったらいよいよ本戦開始となりそうだけれど。

「エルデンヴァルク公爵令嬢エルトリーデ!」

あら誰かしら?

私のフルネームから親の爵位までご丁寧に全部呼んでくださるのは?

ボヌクート侯爵家のファンソワーズ嬢ね。

「ようやく今日という日がやってきたわね! 姑息なアナタを堂々と叩き潰す日が、私はこの勝負で好成績を叩き出し、アナタより優れていると証明してみせるわ!!」

「はいはい、頑張ってくださいまし」

「何でそんなに軽いの!?」

だからアナタが私より優れているなんてとっくにわかりきっているでしょう?

既に証明されていることを再び証明しようなんて時間と労力の無駄ですわ。

それよりもアナタが競い合って勝たなければいけないのは、アナタと同等の魔力持ちで家格はアナタより上って相手が幾人かいるんですからそっちの方が数段手強いですわよ。

そちらの方に意識を向けた方が絶対いいですって。

「……だったら何故殿下はアナタにかまうの?」

「はい?」

「夜会が終わってからずっと、キストハルト殿下はアナタにばかり気を懸けていらっしゃるわ。一緒に御城下へ出かけたとも聞くし、先日の説明会の時でもわざわざお姿を現されて声をかけたのはアナタだけだった!」

それは、なんというか……。

王太子の気紛れとしか言いようがないというか……。

「私は今日まで一生懸命魔法を鍛えてきました! 王太子妃となってキストハルト殿下をお支えするために! それなのに魔力も何もないアナタが殿下のお傍に近寄るなんておかしいことだわ! 見ていなさい、今日で殿下に相応しいのどちらかハッキリ示して見せる!!」

「本当に殿下の隣に立ちたいのならば、私を重用する事実そのものではなく、その意味を考えるべきね」

私は冷徹に、噛みつくばかりのファンソワーズ嬢に告げる。

王太子があえて皆の前で、私を持てはやす意図は大方わかっている。

この国の魔法至上主義に疑問を持ち、変えようと思っているのだろう。

そのために一番手っ取り早いのは『魔力なし』の私……この国の思想では『価値がない』とされる存在を持てはやすこと。

そうすれば人々は自分の信念に、疑問を感じざるを得なくなる。

「キストハルト殿下が何を考え、どこに向かおうとしているかわかっていなければ隣に立つことなど不可能です。あの方は立ち止まってはいない。隣にいるには一緒い同じ方向へと歩いていかねばならないのですから」

「偉そうに言うわね。自分なら王太子様のすべてを理解していて一緒に歩けるとでも言うつもり?」

「まさか」

どんなに彼のことを理解し、同じ思想の下に動くとしても。

魔力のない私では結局王太子妃は務まらない。

いかに王となられるキストハルト殿下が思い立っても、多くの人々が価値観を共有し、国の基本方針にまでなってしまった考えを覆すことは不可能でしょう。

それを変えるには長い時間……何世代にわたる尽力が必要。

少なくともキストハルト殿下の代で急激に変えられるとは思わないし、私が結婚できる可能性はないわね。

前世の私は何故それに気づかなかったのかした……?

「ファンソワーズ嬢、王太子妃になるべきはアナタのように高い魔力を持った御方よ。でもそれだけに頼ってはいけません。王太子妃という、この国の頂点に並び立つ立場は、たった一つの資質だけで務まる単純なものではないはずですから」

これだけ言えば、少しは感じ入ってくれるかしら?

私に可能性はなくとも誰かが王太子妃にはなるのだから、是非とも一番ふさわしい御方になってほしいものだわ。

彼女……ファンソワーズ嬢にその資質は大いにある。

だからこそ前世の私にも標的にされた。

前世では私は黒幕だった『フェアリー・パニック』による妖精凶暴化。

そのもっとも大きな被害を受けたのがファンソワーズ・ボヌクート侯爵令嬢。

前世でもあの通り血気盛んだった彼女は、凶暴化する妖精にもひるまず果敢に立ち向かって結果、凶悪妖精に押し負けた。

数百という妖精に一斉に襲われ、全身を引っ掻かれて血まみれとなり、その美貌も原型を残さぬものになり、二度とベッドから起き上がれぬようになった。

志があるゆえに大怪我を負うなんてあってはならないこと。

だから今世でこそ彼女にも、自分の頑張りに見合った輝かしい将来を手に入れてほしいものだわ。

そのために私も力を尽くした。

誰がやったかは知らないけれども今世でも『フェアリー・パニック』は森に撒かれ、前世同様の被害が出るところだった。

しかし中和剤散布で危険がなくなった。今度こそ彼女も実力のすべてを発揮できることでしょう。

私はそれを静かに見守らせてもらうわ。

さあ、第二審査の本格的な始まり。

森の各所から物騒な炸裂音が聞こえてくるわ。

きっと各令嬢が襲ってくる悪妖精に魔法で応戦しているのね。

そんな最中に私は……。

森の入り口というべき外れにまだいた。

そこにシートを敷いて、持ち込んだ簡易椅子とテーブルを並べ、これまた簡易湯沸かし器で茶をたてて、優雅に楽しむ。

「あの……御令嬢? いいのですか?」

同行の騎士が、不安そうに尋ねる。

「何がです?」

「何がって……、他の令嬢は既に森に突入し、妖精たちとの戦いを繰り広げておりますぞ。エルトリーデ嬢はよろしいので?」

「よろしいも何も、私がなんと呼ばれているか皆さんもご存じでしょう?」

『魔力なし』令嬢。

そんな私が悪妖精の巣食う危険な森に入ったら、『フェアリー・パニック』を撒かれるまでもなくボコボコにされてしまうだろう。

「悲しいことですがそれが私の分際ですわ。戦おうと戦うまいと不合格。だったらここで優雅にお茶して過ごした方がまだ得ではなくて?」

「そうかもしれませんが……!?」

護衛兼審査役の騎士様も、こんなハズレ令嬢の担当になってご愁傷様だわね。

「だったらせめて皆さんでゆったりとした時間を過ごそうではありませんか。騎士様たちも一緒に座ってお茶を楽しみましょう?」

「いいのでしょうか……?」

「いいでしょう。さあノーア、騎士様たちの人数分のお茶を用意してあげて」