軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26 死に戻り令嬢、結局王太子に助けられる

『フェアリー・パニック』の件を一言でも王家側に相談しなかったのは、やはり失敗だったのかもしれない。

まさかこんなタイミングで王太子妃選考の関係者に見咎められるなんて。

人知れずすべて片付けられたらそれでOKと思っていたんだけれど、甘い見通しだったわね。

前世では『フェアリー・パニック』を振り撒く張本人として誰にも察知されずに実行できたから、その時の経験で楽観視しすぎていたわ。

あの時は……本当に誰にも見られずに『フェアリー・パニック』を散布できたのに。

「何も答えないのですかなエルトリーデ嬢? アナタがここで何をしているか? しかもそんな怪しげな連中を引き連れて? 吾輩は王太子妃選び第二審査の差配人として聴取する義務があると思うのですが?」

どうやらとぼけ切るというのは不可能のようね。

これで事が荒立って、中和剤を没収されでもしたら最悪だわ。

「お嬢……やっちまいますか?」

ガトウが殺気立った視線を送ってくるけどダメよ、殺るのは。

ここは正直に話す以外にないわね。

「王都に『フェアリー・パニック』が持ち込まれたという情報を得ました」

「何だと!?」

その言葉に露骨な反応を示す差配人。

どうやら『フェアリー・パニック』については知識があるようね。

よかった、一から説明するとなると面倒だものね。その危険度まで実感できるほど上手く説明できる自信がないわ。

「ただでさえ凶悪なグレムリンの住むこの森に『フェアリー・パニック』が撒かれたら、どんな被害が出るか想像がつきませんわ。だから大事を取って中和剤を製造してきました。これを散布すれば既に『フェアリー・パニック』が撒かれていようがいまいが、明日の試験は安心できるでしょう」

「な、ごごごごごごごごごご……!?」

驚きに言葉も失うという態度。

少しオーバーかもしれないと思ったけれども、そうでもないわよね。

自分が差配する催しでトラブルが起こり、名家の令嬢が怪我でもしようものなら進退に関わる。

だからこそ激しく動揺したと思ったけれど。

「何を戯言を! 由緒ある王太子妃選びを侮辱するか!」

「えッ!?」

返ってきた反応は予想外。

激しい拒絶。

「このベスリン侯爵アズクロが取り仕切る二次審査に、あろうことかそんな言いがかりをつけてくるとは!……そうか、それが『魔力なし』令嬢であるアナタの作戦ということか!?」

「なッ、どういう意味です?」

「魔力のないアナタでは正面切って他の令嬢に勝つことはできない! だから汚い手段で排除しようというんだろう!『フェアリー・パニック』などというありもしない薬品までデッチ上げて……いや、その樽の中に入っているものこそ『フェアリー・パニック』ではないか!? それを森中に撒いて妖精どもに、他の有能な令嬢どもを襲わせる気か!?」

バカな、何故そんなことになるの!?

しかし咄嗟の否定ができなかった。何故なら彼の指摘は、前世の私がしたことそのものだったから。

だから『違う』とすぐさま言えない。

「図星か!? だからこそ何も言えんだろう!? どうやらアナタが連れてきたそのチンピラどもが持っている樽、どうやらこちらで没収しなければならんようだな! いや処分だ! この場で地面にでもブチまけて、使い物にならなくしてくれる!」

「そんな!」

中和剤をダメにされたら『フェアリー・パニック』に対抗する手段がなくなってしまうわ!

これだけの量を揃えるのに二十日もかかってしまったんだし、この森にもう『フェアリー・パニック』が撒かれているのは確実なのよ。

もういっそ強行突破する?

こっちにはガトウの率いる腕自慢たちが数揃っているし不可能じゃないけれど……ダメだわ。

貴族を傷つけたとあってはガトウたちがただじゃ済まない。本格的に罪人として厳しい立場に追い込まれる。

一体どうすれば……。

「そこまでにしておけベスリン侯」

えッ?

その声は?

「キストハルト王太子殿下!?」

また出たわよこの王太子。

いつも絶妙のタイミングで。

「審査前日に度重なる下見とは仕事熱心だなベスリン侯。真面目な臣下を持ってオレも嬉しく思うぞ」

「めめ、滅相もありません……!」

「しかし謹厳実直も正しく行使しなければ失敗の元となるぞ。お前も下見したのなら森の異様な状態も感知しているのではないか? 今日のグレムリンどもの様子は明らかに異常だ。目が血走っていた」

「それは……その……!?」

当たり前のように話の主導権を取っていったけど、なんでいるのよこの人?

私もガトウとその部下たちも呆然と口を開けるしかない。

「現地妖精の突発的な凶暴化……。何を原因としたものか俄かに解明できないが、エルトリーデの言う通り『フェアリー・パニック』が王都に持ち込まれたというならすべてが腑に落ちる。中和剤があるというのなら問題は即座に解決するが……、そこのキミ」

「はいッ?」

王太子が声をかけたのはガトウの部下の一人で、中和剤入りの樽を背負った人。

「その樽の中身、霧状に噴ける仕組みになっているのか? オレの手に一噴きしてくれないか」

「えッ、でも……!?」

「一噴き程度なら総量的にも問題ないだろう」

王太子が何を考えているのか知らないが、散布役の人は戸惑いながらこちらを見たので、私が促すように頷く。

それでやっと王太子の指示に従った。

みずからの手にべっとりついた中和剤を吟味して……。

「……うむ、おかしな成分は交じっていないようだ。オレは水属性は得意分野じゃないが、それくらいの魔法分析はできる」

「なッ!?」

「責任はオレが取ろう。エルトリーデのやりたいようにしてあげなさい。どちらにしろ今日判明した森の状態を考えれば、翌日の選考は中止にするしかない。しかし決行か中止かの最終的判断は、この中和剤を撒いた結果を見てからでも遅くなさそうだな」

そしてやっと始まった中和剤の散布作業。

凶暴化妖精からの奇襲を警戒し、護衛役が安全をたしかめてから進んで、中和剤を散布する。

亀の歩みではあったけれど着実に成果は上がっていた。

「効き目は覿面だな。森の剣呑な空気が見る見る和らいでいく」

「そんなこともわかるのですね」

今なお王太子は私と並んで立っている。

そして自分が指揮しているかのように散布作業を見守っている。

この現れて即座にトップ顔して、それを皆も納得させてしまうのは一種の才能なのでしょうね。

あるいは王家の血のなせる業なのかしら?

「……」

「不満そうな顔をしているな。オレが助けに駆けつけたのがそんなに嫌だったか? だとしたらさすがに傷つくが」

嫌だわ顔に出ていた?

さすがに助けてもらって迷惑面するのは失礼極まるわね……。

「キミがスラムの者たちを率いて何かしているのには気づいていた。オレがキミのことを監視しているのはもう知っているだろう?」

「まだ続けていたんですか?」

「大事な人の動向はいつでも気になる」

何を言うに事欠いて……!?

「王都警備からの報告に『フェアリー・パニック』のことなど何も上がってこなかった。こうした生の情報を確保してくる巧みさはさすがというべきだな」

「ガトウたちが優秀なだけですわ。高い報酬で雇った甲斐があります」

「続く対処も的確で、人の上に立つ資質を充分に示してくれた。キミに足りないことはむしろヒトに頼ろうとする姿勢だな」

「そんなことはないと思いますけれど……」

こうしてガトウや、今は領地にいるお父様にも頼りっぱなしですし。

「だったら何故オレには頼ってくれないのかな? オレに一言言ってくれたら、こんなコソコソとやる必要もなかったし、見咎められて危うく頑張りが無駄になることもなかった」

それを言われると……。

「わ、私も王太子妃候補の一人として公私は厳密にすべきだと思ったんです。アナタだって一人に肩入れされていると批判されては心外でしょう?」

「オレのことを心配してくれていたわけだ。そのことは単純に嬉しい」

何を言っているのよこの人は。

作業も滞りなく進んでいるし、そろそろ帰ってほしいわ。この人も城に戻れば色々仕事を抱えているんだろうし。

「でも気遣いなら、もっと別の形で示してほしいな。キミの頼る相手にオレも含めてくれないか。男は頼られると嬉しがる単純な生き物なのさ」

「アナタに頼りたい女性なら他にたくさんいるでしょう?」

そう、今の時点でも十数人ね。

とにかくこれで明日の王太子妃選び第二審査は予定通りに進められることでしょう。

正々堂々と。

そこで今度こそ『魔力なし』の私は脱落し、晴れて王都から離れることができる。

その時が待ち遠しいわ。その時こそ私が前世の因縁と完全に決別できるときなのでしょうから。