軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 死に戻り令嬢、悪妖精と遊ぶ

同行のノーアに頼んでますます豪華なティータイムを演出してもらう。

最初は職業倫理の関係か悩みまごついていた騎士の皆さんも一人、また一人と席に座り、いつしか和やかなムードに包まれる。

「いやぁ、本当に美味い茶ですなあ」

「嬉しいわ。ウチの領の港町で、海外から取り寄せている茶葉ですの」

「海の向こうにはこんなに美味しい茶がありまするか!? 国王陛下との茶会でもこれ以上のものは出ませんでしたぞ!」

「あらあら、そんなこと余所で言ってはいけませんわよ」

などと普通にお喋りしていた。

他の令嬢は今頃、悪妖精たちに悪戦苦闘を繰り広げているんだろうけれど、その横でこんなに和やかなティーブレイクでむしろ申し訳ない気持ちになってくる。

まあでも私は勝負投げ切ってるんだから、これくらいの余裕はあってもいいわよね。

「今日はしんどいことになるかと思ったのに、エルデンヴァルク公爵令嬢の受け持ちになったおかげで助かりました!」

「そうですなあ、てっきり一日中ワガママ令嬢に振り回されて森の中を駆けずりまわると思っていたのに」

「他の令嬢の担当になった同僚たちに申し訳ないですよ!」

騎士さんたちすっかりリラックスムードになって迂闊なことまで口を滑らせてらっしゃるわ。

でもまあこんな茶会なんて今生二度とないんだし多少のことは目を瞑りますか。

「皆さんお茶ばかり飲んでもお腹が虚しくなりましょう? ノーア、屋敷から持ってきたケーキを騎士様たちに振舞ってあげて。クッキーもあるだけ出してね」

「承知しましたお嬢様」

「すべて出し終わったらアナタも楽にしていいから」

そんな風にして鬱蒼とした森のお茶会を楽しもうとしたところ、やっぱりそう上手くはいかないようで……。

「きゃあッ!?」

「どうしたのノーア!?」

急に響き渡る侍女の悲鳴に私も、まったりムードだった騎士さんたちも警戒して立ち上がる。

「あ、あの……!? ケーキを入れておいたバスケットを開けてみたら、中に……!!」

どうやらビックリしただけで怪我などはないノーア。

それで一旦はホッとした。

しかしケーキを入れておいたバスケットに何があったの? と覗き込んだら……。

「うわぁ」

これは思った以上の大惨事ね。

バスケットの中のケーキは小人……しかも数人がかりによって食い荒らされていた。

「これがもしかして……グレムリン?」

『グレムリンの森』に住むという凶悪妖精。

もっとも基本的な妖精であるピクシーは翅の生えた可愛い女の子の容姿をしているが、それに対してグレムリンは痩せぎすの悪ガキといった風情。

羽もなく、ボロボロの衣服と帽子をつけている姿は、大きさが手のひらに収まる程度ということを除けば、本当にただの子どものよう。

そんな小人らによってケーキは食い荒らされてた。

「こら! ダメでしょ!」

盗み食いは悪いこと。

悪いことをしたらまず叱ることが大事。

鋭い声を上げると小人どもが一斉に、そのクリーム塗れの顔を向けた。

『うわー、ニンゲンだー!』

『ニンゲンごときがオレらに指図するんじゃねー!』

『そだぞー! ナマイキだぞニンゲンー!』

ここで悪態を返してくるのがさすが悪妖精ね……!

基本イタズラ好きなのはすべての妖精に共通したことなんだけど大抵他種の妖精なら叱られたら素直に謝ってくるもの。

ここで『オレは悪くねぇ!!』と居直るのがグレムリンならではだわ。

「ご令嬢! おさがりください!」

まったりムードだったはずの騎士さんたちが、すぐさま仕事モードで私のことを庇い立つ。

「グレムリンは小さいながらも凶悪です! イタズラと称して人の手足に噛みつき、多少叩いたぐらいでは離れません! しかもコイツら微弱ながら毒を持っているようで、大量に噛まれた結果寝込むことにもなりかねません!!」

「知っています。一応まだ王太子妃候補ですからね。自分に課せられた試験の課題ぐらい調べていますよ」

グレムリンたちはもう私たちを無視してまだ残ったケーキをワシャワシャしていたが、もう三分の一も残っていない。

この小さな体によく入るものねと感心半分呆れ半分になりながら……。

「人の作ったものを断りなく食べてはいけません。料理には作った人の心が宿るのよ。誰か大切な人に食べてもらうために作った料理であったら、それを盗み食いすることで、作った人の心を踏みにじったことになるのよ」

『『『……』』』

グレムリンたちは案外神妙に聞いて……。

『……ちッ、悪かったよ』

『よく見たらオマエ、昨日オレたちを助けてくれたヤツらのタイショーじゃねえか。オンジンの話は聞かなきゃなー』

『ねえ、これ大事なケーキだったのか? タンジョーケーキとかってヤツ?』

意外に聞き分けがいいじゃないグレムリン。

「これは元々私の茶会のお客様に振舞うつもりだったケーキよ。アナタたちが招かれてくれるなら、特に問題はないわね」

『ケッ、だったらお呼ばれされてやるぜー。招待に応じなきゃれーぎ知らずだからなー』

何とかご機嫌を損ねずに丸く収められたわ。

グレムリンに限らず、妖精全般って安易に怒らせるとあとが怖いのよね。

「そういうわけで騎士様方、ケーキはなくなってしまいましたがクッキーはまだ残っていますの。それで満足してくださいます?」

「ああ、別に全然かまわぬが……」

さすが騎士様は大人ね。

『ええーッ! クッキー! オレらも食うーッ!!』

アナタたちはまず食べかけのケーキをかたしなさい。

こんなに汚く食い散らかしてお残しは許さないわよ。

とまあ、こんな感じで騎士様と妖精交えて奇妙なお茶会が再開した。

何やってるのかしら私たち?

「どう? ケーキは美味しいかしら?」

『おいしいー!』『デリシャス!』『シェフをよべー』

概ね気に入ってくれたようでよかったわ。

森の中ではこの妖精と騎士と令嬢が血みどろの争いを繰り広げているというのに、何でここだけまったりなのかしらね。

私がすべての元凶かしら?

『オメーなかなかいいヤツだなー』

『他のヤツらはオレらのこと、ケンテキヒッサツしてくんのになー』

『昨日もオレらのこと助けてくれて、ホントいーヤツだなー』

それはアナタたちが悪妖精などと呼ばれていることに原因があるでしょう。

アナタたちが他の妖精よりちょっぴり過激なイタズラをして人間を困らせるから、人間側も『グレムリンならブッ叩いてもいいか』って気持ちになるんじゃない。

因果は巡ってくるものよ。

それはそれとして、さっきからセリフの合間合間に出てくるけど……。

私がアナタたちを助けたってどういうこと?

『あー助けたじゃねーかー。あの頭痛くなるのからー』

『おめーらが撒いてくれたヤクのお陰で治ったぜー』

『ケンソンしてんのかー、このギゼンシャー』

なんで謙遜したぐらいで偽善者呼ばわりされないといけないのよ?

安易に偽善者のレッテル貼りするな。

それはともかくグレムリンたちの供述から推測するに……。

先日の『フェアリー・パニック』の中和剤散布をグレムリンたちも認知していたってこと?

『なんか頭痛くなってよー。目の前が真っ赤になってよー。記憶も飛んだよなー』

『オレなんか仲間に噛みつかれて大変だったぜー』

『オメーの手下が撒いてくれた霧のお陰で皆元に戻ったんだよなー、オレ知ってるぜー』

グレムリンたちが事態を理解していたのが意外ね。

さらには中和剤を散布した私たちのことまで気づいていたなんて。

でも実際アナタを助けたのは、その手で中和剤を散布したガトウの手下たちなんだから、あとでしっかり感謝を伝えておくわね。

『アンタには借りがあるからオレらも噛みつかないんだぜー』

『ホーには縛られないが、ギリに厚いのがオレたちだからなー』

『受けたオンには報いるぜー』

ああ、そうなの……。

『そしてだからこそ恨みは必ず晴らすぜー』

『オレらの頭キンキンにしたヤツ生かしておけねー』

『恨みはらさでおくべきかー』

うん……ちょっと待って?

グレムリンたちは中和剤を散布した私たちのことを見知っていた。

直接作業に参加せず指揮を執る立場だった私の顔も認識していた。

ということは元凶となる『フェアリー・パニック』を振り撒いた犯人のこともちゃんと見ていて、姿形を記憶している?

「ねえ妖精さんたち。聞きたいんだけど、アナタたちになんていうか……意地悪した人の顔は覚えてる? もう一度見たら『コイツだ』って言える?」

『なめんじゃねー、オレたちゃ一度見たモンは忘れないぜー』

あら頼もしいお返事。

そうしたら彼らの証言を元に犯人を追い詰めることができるのかしら?

『っていうか今森の中にいるよなーアイツ』

『昨日どころか今日も現れるなんていい度胸してるぜー』

『ハンニンはゲンバに戻ってくるってヤツだよなー』

……え?

グレムリンたちの言葉に私は耳を疑う。

彼らが言うには、昨日『フェアリー・パニック』を撒いた犯人が、今日もこの森の中にいるってこと?

でも昨日と違って今日は、王家主催の王太子妃選びの真っ最中。

部外者が踏み入ること自体できないはず。

それに加えて今日は念を入れて、ガトウたちに森を囲んで警戒してもらっている。

怪しい者が出入りしようとしたら彼らが気づくはずよ。

『フェアリー・パニック』を撒き散らした犯人が、今また『グレムリンの森』にいる。

だとしたら王太子妃選びのための人払いにもガトウたちの警戒にもかからずにどうやって入り込めたの?

答えは一つ。